人形からっぽ(掌編小説)
日曜日の公園は、フリーマーケットで賑わっていた。クオリティの高いクラフト作品を出展している人もいる。
ぼくは、ふと、古そうなものが置いてある、ブースが気になった。
──こんな、無くても良いような、手にしたら、部屋に飾りでもしたら、呪われそうな品々を高額で売りつけている心理がわからない。はっきり言ってゴミだし、病んでるよなあ。でも、古いものを見るのは、嫌いじゃないんだよね。
そこには、洋書や宗教関連のオブジェ、ガラスの瓶などが、置いてあった。古い人形も少しあったが、中でも、気になったものが、じっさいの大きさと思われる、少女の人形だった。というより、さっき眠ったばかりの、新鮮な遺体そのものに見えた。
ぼくだけでなく、やはり、誰が見ても、惹かれるものがあるようで、代わる代わる、人の動きがあった。
「これ、な。高いわ、百均で、売ってるの、見たわ」説教くさい、おじいさん。
「500エン、ナランカ、ナラナイカ」横暴な口調、たぶん、外国人。
一瞬みて、視線をそらし、通りすぎていく、冷たい顔をしたキャリアウーマン風の女性。
自身の人生をかけても、理解できないかのように、首を傾げ、もう一度見て、舌打ちをして、去っていく、おじいさん。
興味ありげに、近づいてくるが、値札を見て、去っていく女性。
身体の中に、油を塗るかのように、まじまじと見ている、おじさん。
「あら、かわいい、お人形さんね、いやだ、わたし、買えないわ」ウィリアム・モリスのバッグを持った年齢不詳のおばさん。
何しに来ているのか、自分がなんで生きているのか、わかっていないような、人々。それに、虚ろで、空虚で、虚ろ。といえば、まだ聞こえはいいか。みんな、同じように考え、同じような行動を取る。誰も買わない大量生産されたキーホルダーみたいに。存在のあやうい不安感。
ぼくは、人形に、心で話しかけてみた。
──でも、どうして、こんなところに、いるのかな?
──肉体があるから、なんとなく入っていただけ。
少女は答えた。
──いろんな、ところへ、行ったの?
ぼくは、もう一度、問いかけた。
──どこへ、行っても、同じだったわ······
強めの風がふいた。
少女は、七月のブラウスを脱ぐように、肉体を捨て、美しく宙を舞うビニール袋のように、どこかへ消えた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?