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三人の評者による〈通俗ハードボイルド〉映画『探偵マイク・ハマー 俺が掟だ!』(1982)評。

◆『探偵マイク・ハマー 俺が掟だ!』(1982/米/I, the Jury)

一般的に我々がイメージする「ハードボイルド」、小説は読んだことがないが、ダシール・ハメット、レイモンド・チャンドラー、ロス・マクドナルドなどの大家の映画化作品とはかなり毛色の異なる「ハードボイルド」映画。〈エロ(SEX)〉とサディスティックな〈暴力(バイオレンス)〉に満ちた「B級アクション映画」が的確な表現でしょうか。このようなハードボイルドは、煽情的で通常より劣る?ので「通俗ハードボイルド」と呼ばれるらしい。私の評価は◎傑作。原作小説も似た内容?で、第二次大戦後の米国で支持されてベストセラーに。この無駄な「エロと暴力」で、私は「1970年代の永井豪の漫画」を連想。日本で銃が解禁された設定の『無頼・ザ・キッド』など。

ちなみに、本作『探偵マイク・ハマー 俺が掟だ!』で主人公のマイク・ハマーを演じるアーマンド・アサンテ(1949-)は、『噂の刑事トミーとマツ』の松崎しげる(1949-)や、『その男、凶暴につき』のビートたけし(1947-)のように「ガニ股でドタドタ走る」走り方で、役柄は暴力的だが愛嬌がある
アサンテはニューヨーク、しげるたけしは東京の下町出身だろう(適当)。



海外の評価は低い。
下品(性差別的?)で暴力的(自警主義?)で作者は「反共」?


オリジナル予告篇

ビル・コンティ(1942-)によるテーマ曲が流れるオープニングクレジット


原作の作者はミッキー・スピレイン(1918-2006)。私は一冊も読んでない。


LDのジャケット写真

https://page.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/j1123025272
https://page.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/j1123025272


VHSビデオのジャケット写真

https://aucview.com/yahoo/o446823532/


DVDのジャケット写真

日本版DVDは一度だけ販売されたが諸事情?で廃盤のようです(私はビデオでの鑑賞)
https://www.amazon.co.jp/dp/B01CU3AH16


アメリカ版DVDのジャケ写


日本版VHSのジャケ写に掲載の解説文

https://aucview.com/yahoo/o446823532/


映画に登場する「SEXクリニック」の場面。「1970年代の永井豪」っぽい画

https://www.blu-ray.com/movies/I-the-Jury-Blu-ray/156313/


三人の評者による映画評




●鬼塚大輔 『活劇帝王70’s マグナム・アクション映画列伝』


《ズバリ、タイトルの示す通り、ミッキー・スピレーンの傑作ハードボイルド小説『裁くのは俺だ』の映画化。ところがシナリオを書いたのがハリウッドの異才ラリー・コーエンだからただでは済まない。[]大陰謀映画を撮るつもりだったらしい。[]しかしながら幸いにも(?)コーエンは撮影開始直後に解雇され、代わりに雇われたのが政治色ゼロ、娯楽映画をきっちり撮るのが身上の職人リチャード・T・ヘフロンだったのが、この作品の運命を決定づけた。出来上がったのは、ストーリーの辻褄は全く合っていないものの、しかし一つ一つのアクション・シーンのテンションだけは異常に高いという、いわば活劇カーニバルなのだ。~~とはいえ、この作品の魅力はなんといってもアクション・シークェンスの数々だ。これにはヘフロン監督のみならず、第二班監督を務めたスタントの職人ドン・パイクの功績も大きいはず。~~こういったイキのよすぎるアクション・シークェンスの数々を彩るのがビル・コンティによるスコアだ。これほどアクション・シーンを際立たせる音楽というのは滅多にない。ジャジーでスピーディー、そしていささかお下劣な(ホメ言葉)メロディーが活劇場面にピタリと寄り添って効果を高めているのだ。スピレーン原作なのにハードボイルドにはならず、コーエンがクビになったので陰謀映画にもなりきれず、もう一歩行けば完全にポルノ映画()になる一歩手前で踏みとどまり、なんだかわけの分からない作品となってしまったのが『探偵マイク・ハマー/俺が掟だ!』だ! この作品に残されているのはやけっぱちのエネルギーのみ。結果として、世にも珍しい純粋活劇になぜだかなってしまった掟破りの作品。》 P.204-205


確かにラリー・コーエン(1936-2019)らしい「気味悪さ」とか「陰謀論のクサみ」がある。脚本を書いた『フォーン・ブース』(2002/米)にも感じた。



●渥美夏樹 『このビデオを見ろ! 第2集 アクション篇』


この映画はいわずと知れたミッキー・スピレーンの『探偵マイク・ハマー』シリーズのデビュー作の現代風アレンジ版である。マイク・ハマーといえばアメリカではタフでハードな男の代名詞、[]。ハードボイルド小説の映画化の場合その作品はなにかと情緒的になりがちである。だが、マイク・ハマーは、チャンドラーやハメットの探偵たちとはあきらかに違う。M・スピレーンの世界。そういう意味ではストーリーのアレンジや、時代設定はハチャメチャだが、数あるマイク・ハマーもののなかでも情緒もへったくれもなく、ただただタフでハードでエッチというところが、いちばんM・スピレーンの世界に忠実といえるのではないかと思えてしまう。それくらいこの作品のマイク・ハマーは下品でタフなのだ。》 P.137



●利重 剛 『愛のカタチを極めるビデオBEST100』


《_「ロンググッバイ」に並んでハードボイルド原作ものの傑作だと思っとります。「ロンググッバイ」はチャンドラー原作、マイク・ハマーはスピレーン。両方とも時代や主人公の外見、イメージも大きく変えてるんだけど、一番芯の部分はきっちりつかんでる気がして、俺は好きだなあ。_純粋な小説ファンから思い切り「ミスキャストだ!」と言われそうな主演は、アーマンド・アサンテ。こいつ、髭が濃くてやたら精力が強そうで、なんつーか、いかにも「イタ公!」といった感じでヨイわけ。背も格別大きくないところ
も味があってよろしい。ちょっとブルース・スプリングスティーンにも似てる。ヤツも「労働者階級!」って顔してるもんね。好きであります。_で、こいつ、まず、女グセが悪い。やっぱりハードボイルドの主人公はどっか崩れてないとね。で、いつもとぼけた憎まれ口を叩いてるのがいい。ハードボイルドって、たまにバイオレンスと間違われたり、かと思えば、「バーのカウンターで一人グラスを傾けながら煙草をくゆらす」みたいなスタイルだけがハードボイルドだと思われがちだけど、そうじゃないと思うんだな。物の見方とか行動とか、自分の中のルールをはっきりさせていることがハードボイルドの基本精神だと思うわけ。だから「俺は絶対に喧嘩しない」というハードボイルドだって成り立つわけ。と、いきなりハードボイルド論をぶったりしてますが、このハマーの場合、自分が許せないと思った奴は法律がどうであれ、平気で撃っちゃう。もう、相手がCIAであれなんであれ、歯向かっちゃう。本当に「俺が掟だ!」状態になっちゃうんだな。金魚飼ってるくせに変なヤツ。_で、今回はベトナム時代の友人を殺した犯人を追ってハデなアクションをしてくれちゃう。いいねー。理由が「友達だから」だけってとこがさ。同じくベトナムの戦友の刑事に「今日はあんまり人殺すなよ」なんて心配そうに言われるのがおかしい。脇役も、色っぽい助手とか変態の殺し屋とかセックス療法の女医さんとか、変な奴等。まあ、なにしろ単純に面白いから一度観てみて。快調なテンポにビル・コンティの音楽が乗って、とってもタイトな感じの仕上がりになってるからさ。》 P.39


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#ハードボイルド #ハードボイルド映画 #アメリカ映画 #外国映画 #洋画

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