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『つげ義春初期短篇集』の「あとがき」に見る【貸本漫画時代の〈倫理〉】

◆『つげ義春初期短篇集』(1969年/幻燈社/限定1500部)

あとがき

_貸本マンガ時代の制作態度は、いまからみればまったく不真面目なものだった。ほとんど食うためにのみ描いていた。(本当は、そのことが不真面目かどうか疑問なのだが)そのうえ一生マンガで生活していけるとは思っていなかったからなおさらで、自分の描いた本なんか残しておかなかったし、二、三年もすると、自分で作ったストーリィまで忘れてしまう始末だった。それくらい気持が集中していなかったわけだ。_貸本マンガ界そのものも、日陰もののような存在だったから、不真面目や出鱈目だけでなく、盗作や模倣も大手を振ってまかり通っていた。誰も文句を言う者もなかった。賢明だと思う。そうでなければ狭い穴倉の中の秩序は保たれていなかったと思う。_不真面目な結果、ここに集めた作品の制作年月は不明である。~~
                                                                                 昭和四十四年八月十二日                                              つげ義春

」は省略の意味


個人的にはここのフレーズが強烈だった⇒ 《貸本マンガ界そのものも、日陰もののような存在だったから、不真面目や出鱈目だけでなく、盗作や模倣も大手を振ってまかり通っていた。誰も文句を言う者もなかった。賢明だと思う。そうでなければ狭い穴倉の中の秩序は保たれていなかったと思う。


つげ義春初期短篇集』所収の写真。本書に限らないが、つげ氏の単行本は「つげ氏が撮った風景写真」以外に「つげ氏を被写体にした写真」が多い。寡作で私小説風の作品が多いので「著者への興味」を持つ人が多いからか?

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私はずっと昔に古本屋で『つげ義春初期短篇集』を買って読みましたが、金欠でもあり高く売れるので、かなり昔にまんだらけに売却し手元には無い。

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つげ氏の貸本漫画時代は「1955年のデビューから1965年までの十年間」。

_初期作品のレベルが低いのは弁解をしてもしかたのないことだけれど、多少の言い訳をすれば、貸本業界で生活を維持するには粗製多作しか方法がなかったのは事実で、駄作が多くなるのはやむをえないことであった。_私が貸本を描いていた時期は、昭和三十年(※1955年)にデビューしてから四十年(※1965年)までの十年間だったが、私は粗製でありながら多作ができず、生活は困難をきわめ、さらに粗製になるという悪循環を招いた。


評論家の副田義也氏いわく「草創期の劇画ハングリー・アートであった」

ボクシングはハングリー・スポーツだという。飢えた若者にふさわしいスポーツなのだ。かれらは、富、名誉、安楽な生活に恵まれず、それらを手に入れたくて苛だっている。その飢え、その苛だちが、ボクサーとして大成するための原動力である。かれは、自らの拳の実力でそれらをつかもうと励み、才能と幸運に恵まれていれば成功する。_それにならっていえば、草創期の劇画はハングリー・アートであった。それは飢えた若者にふさわしいマス・カルチャーのメディアであった。この場合の飢えは、一方ではボクサーと同じように富や名声にたいするものであろうが、他方では自己表現の機会に対する飢えである。その飢えを原動力に、かれらは自らのペン=実力で望むものを手に入れようと突き進んだ。

※「太字」は引用者による「強調


私の過去の↓この投稿が収録してあったのは、『つげ義春初期短篇集』か?

暴力への陶酔】と言うと思い出すのが、漫画家のつげ義春(1937-)氏の文章に、仕事も無く赤面症?対人恐怖症?で鬱屈を抱えていた若い頃のつげ氏がある暑い夏の日の昼に歩いていると、浮浪者が自分に対して執拗に吠えてくる野良犬にブチギレて滅多打ちにする場面に遭遇し、浮浪者に感情移入して「恍惚として白昼夢のようだった」と書いていた。何かの単行本の前書き。

↓の「犯罪・空腹・宗教―貸本マンガ回想記―」か??
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単行本の書影      
※書体のデザインは赤瀬川 原平(1937-2014)氏?

細かいですが「短集」ではなく「短集」です。
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