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ミュージカル『この世界の片隅に』初日

ミュージカル『この世界の片隅に』初演
日生劇場で開幕した舞台の初日を拝見してきました。
2024.05.09

作品をそのまま、自分で感じたい

実は観劇まで、原作を読んだことがなく、映画もアニメも全く観たことがありませんでした。(勿論作品の名前自体は知っていた)
というのも、凄惨なシーンの描写が酷く苦手なもので……観た後かなり長いこと引きずってしまい少々心に不調をきたすので、普段から出来る限り観ないようにしており(戦時下のお話は、はだしのゲンや火垂るの墓などを観た時の鮮烈な印象が……)、この作品も戦時下が舞台ということで、詳しく調べずに避けていたところがあります。

そんな経緯もありつつ、ある意味『無』の状態からの方が先入観なく作品を直接受け取れるのではと思い、何も情報を持たずにまっさらな状態でそのまま劇場へ。

この世界のあちこちに

冒頭プロローグ場面。プロローグではありますが、クライマックスとも言えるような演出。
主題歌的楽曲『この世界のあちこちに』に乗せて、物語の幕が開きます。「この世界の片隅に」の世界観に一気に引き込まれるプロローグでした。
完全初見だったため、どんな物語が始まるのだろうかという期待感とともに拝見。物語を知った後であのプロローグ演出を観ると、最初から視界が滲みそうです。

実力派揃いのキャスト陣

まず思ったことは……皆歌がうまい!!!ミュージカルなので当然といえば当然なのですが、やっぱり歌える方々が集まった作品は、良いですね。
お一人おひとりの話を書くと大分長くなってしまうので割愛しますが、単なる人気だけでなく実力をお持ちの安心安定のキャスト陣です。

普通に生きていた、普通の人たちの物語

(前述の事情もあり)戦時下の物語ということで少々身構えておりましたが、予想以上に『普通』でした。
勿論、空襲シーンなどもあるものの、主人公は、あの時代に『普通』に生きていた少女「すず」。普通の暮らし、普通の人間関係、普通の悩み、普通の喜び。
(少なくとも国内は)平和な時代に生まれ、平和な時代に生きてきた身として、戦時下は特殊で、当時生きていた人たちも特殊な気がしてしまうけれども、
時代や暮らし向きは違えど、普通に生きていた人たちがいた。過去に観た戦時下が舞台の作品よりも、それを強く感じる作品でした。
(※初日は夜公演でしたが、観劇後その日のうちに原作の電子書籍を購入し、一気に読みました。)

『自由の色』

何もかも失ったけれど、自分で選んだ道。不幸とは違う。自由の色。自由に。自由に決めればいい。選んだ場所が、自分の居場所だから。
すずの義姉、径子を演じる音月さんが歌う『自由の色』、圧巻でした。後半の昆さんとのデュエット部分も大変素晴らしかったです。
普段、俗にいう泣ける作品などを拝見してもあまり泣くことはないけれども、思わず涙が。
(後から原作を読み……このシーン、舞台を拝見した印象よりも大分さっぱりと書かれていてビックリしました。アンジェラさんの楽曲も、ミュージカル版の演出も、本当に素晴らしかったです。)

実は私、宝塚にいらっしゃった頃から音月さんのファンです。男役スターとしての音月さんも、退団後にヒロイン等を演じられる音月さんも、色々と拝見してきて、今回は小姑役。時代に翻弄され、多くのものを失い、それでも強く生きた女性の生き様を、鮮やかに表現されていました。
いつか音月さんのこんなお役を見てみたい!!が詰まったお役。
劇場内の空気、観客の意識、全てが集まっていくような歌声とお芝居。感無量でした。

「当たり前」に生きられる世界

「わしはどこで人間の当たり前から外されたんじゃろう」
軍人となり、ヘマもしていないのに叩かれて、手柄も立てていないのに『へいこら』されて。

直接的な戦闘や空襲等の描写ではありませんが、すずの同級生、水原が吐露したこれらの言葉が、正直この作品の中で一番『異常なあの時代』を感じたシーン。
【当たり前】に、ただ普通に生きていたはずなのに、普通の人間として当たり前の日常を送っていたはずなのに、当たり前が当たり前でなくなる世界。
「ワシが死んでも一緒くたに英霊にして拝まんでくれ
笑うてわしを思い出してくれ
それが出来んようなら忘れてくれ」
強く強く印象に残る場面でした。

美しい日生照明と舞台美術と

日生劇場で観劇する度に思うこと。照明が美しい!!!!!
本当に大好きな劇場です。
今回の公演も、照明の遣い方が綺麗かつ効果的だなと感じました。舞台美術・演出も好みです。一階席中後方センターかGC階センター辺りで観劇すると一番綺麗に見えるかも。
(今回、地方公演もあるけれど、あの舞台セットも丸ごと持っていくのかしら。照明はどんな風になるのかしら。一か所、東京以外でも拝見する予定なので、注目したいと思います)

音響バランスはやや気になる(※追記アリ)

比較的前方席だったのですが、音楽に比べて台詞や歌が全体的に聞き取りにくいなと思いました。音としては出ているのだけれど篭もっている感じ。
(皆様精鋭キャストですので、発声ではなく音響の方の問題かなと)(座席位置の影響も大きそうなので、別の位置から観ると違うかもしれません。)(そんな中でもはっきりと聞こえてくる音月氏の声。流石!)

【追記】
初日は上記のように感じましたが、2度目の観劇(ちょうど同キャスト)ではハッキリ聞こえました。(初日と、センター挟んで真反対くらいのお席)
音響バランスの調整があったのかも?

日本(世界)初演の初日

カーテンコールでは、他の皆さんの後、径子役:音月さん⇒周作役:海宝さん⇒すず役:昆さんの順でご登場でした。
(音月さん、フライヤーではお名前やお写真など下部に控えめ掲載だったので、今回の舞台でこのような重鎮枠的立ち位置であることは予想外。(『自由の色』のシーンの舞台掌握。最後から3番目も納得です。)嬉しい驚きでした。)
初日ということで、音楽担当のアンジェラ・アキさん、脚本・演出の上田一豪さんからのご挨拶も。
良き作品の日本初演(世界初演)に立ち会うことができて、幸せでした。
あと数回拝見する予定があるので、他のWキャスト陣のお芝居や歌も楽しみ。

【原作】 #こうの史代 #この世界の片隅に
【音楽】 #アンジェラアキ
【脚本・演出】 #上田一豪
浦野すず: #昆夏美 #大原櫻子
北條周作: #海宝直人 #村井良大
白木リン: #平野綾 #桜井玲香
水原哲: #小野塚勇人 #小林唯
浦野すみ: #小向なる
黒村径子: #音月桂
#日生劇場 #ミュージカル #観劇 #観劇記録

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