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宝塚花組『アルカンシェル』観劇_ナチス描写について

宝塚歌劇花組公演 ミュージカル『アルカンシェル』~パリに架かる虹~
(作・演出/小池 修一郎)

アルカンシェルを観てきました。
観劇前から、SNS等で議論になっているのを見かけたり、初日映像を観て気になったりしていた、ナチス描写について思った事を。
(※演者個々人に対してでなく、作品全体の話です。)

あの時代・あの組織を物語の中に描くことについて、勿論意識されており、公演プログラムの言葉からもそれは伝わってきます。
ナチス親衛隊(SS)の人物はあくまで『悪』として描かれており、少なくとも賛美するような意図は全くなさそうです。

ただ、作品全体として、気になる点が全くないかというと……

ハーケンクロイツの多用

ナチズムやファシズムの象徴とみなされ、ヨーロッパの多くの国々では、公共の場における掲揚が禁止されている『ハーケンクロイツ旗』。
日本国内では、少しこういった認識・配慮意識が不足しており、(ある意味それによって)ファッションブランドのハーケンクロイツを模した商品や、アイドルのナチス風衣裳など、度々問題になっています。

本作、舞台美術へのハーケンクロイツの用い方について、やや気になる点がありました。
占領により、舞台両サイドのフランス国旗・Fluctuat nec mergiturが刻まれたパリの紋章がおろされ、 ハーケンクロイツが掲げられる。
このシーンは確かに印象的で、このシーンに用いるためにハーケンクロイツの旗を使用するのは理解できます。
ただ、舞台上に常に掲げておく必要はあったのか。 それ以外のシーンでも、ハーケンクロイツが”不用意に”多用されているように感じました。

"分かりやすさ"が優先で良いのか

宝塚では、”分かりやすい”ストーリー、”分かりやすい”演出が比較的好まれがちな傾向があると思っており、(本作に限らず)説明過剰だと感じることも少なくありませんが、今回は特に、至極慎重な配慮を要するシンボル。
本当にこのシーンに必要なのか、このサイズで掲げる必要があるのか等々、検討の余地はあったのではないかと感じる点はありました。
(あの時代、街中にハーケンクロイツが溢れていたとしても、舞台作品では全てを再現する必要はないと思うので。(映画など映像作品だとまた別))

1年以上前になりますが、新国立劇場で上演された、トム・ストッパードの戯曲『レオポルトシュタット』の舞台を拝見しました。そしてロンドン公演を収録したNTLive版も。
(オーストリア系ユダヤ人の一家の、世紀末から第二次世界大戦までの50年間を描いた物語です。)
かなり凄惨なシーンも、過激な台詞もあるのですが、その舞台で目にしたハーケンクロイツは、確か腕章程度だったと記憶しています。それでも、あの惨憺たる時代の有様をまざまざと思い知らされるような、強烈な印象を受けた作品でした。
ストプレと、華やかな宝塚の舞台。規模も表現技法も異なるため、直接比較するべきではありませんが、同じ舞台芸術作品として、少々思うところはありました。

"宝塚の男役"がナチス・ドイツの人物を演じることの危うさ

脚本上、『悪』として描かれているSSですが、演じているのは宝塚の男役。
軍服を着た、タカラジェンヌ。それは勿論、見目麗しく格好いい。
ストプレではなく、ミュージカル調であることから、作中にてSSを演じる生徒たちが踊る場面もあります。(物語の上で踊っているのではなく)
公演での男役群舞は、宝塚の醍醐味でもあり、人気シーンの一つです。
どんな悪役であろうと、宝塚のスター陣が演じる性質上、格好良さから切り離すことはできないでしょう。
特定の生徒を熱心に応援するファンも多いですし、その生徒のファンであれば猶更ではないでしょうか。  

尚、メインキャストである「フリードリッヒ」などもナチス・ドイツの文化統制官ですが、"ドイツ国防軍側であり、SSとは異なる"との説明が作中でもあります。
(議論が色々と分かれているのは、この辺りをどこまでどう捉えるか、も関係していそうです。)

芝居やミュージカルでナチス・ドイツを扱ってはいけないというわけではなく、 宝塚・男役というものとの相性があまり良くないのではないかな、と改めて思いました。

鍵十字の腕章付きの軍服を身にまとい華麗に踊る姿……
ナチス式敬礼を模した振付……
かつて、洗練されたビジュアルによっても注目を集め、多くの者たちが心酔し、支持を拡大していったナチス。
もしや、全てを含めた”皮肉”なのでしょうか。
オリジナル作品である本作、真意が気になるところです。


こちらの公演、出演者複数名の新型コロナ陽性により、現在公演中止中。8日から公演再開と発表がありましたが、心配です。

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