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完全なる人間

私は幼少より病弱で、成績も悪くスポーツも得意ではなかった。何一つ長所と言えるものはなく、当然だが女の子にも全くモテなかった。そこで、私は自分の子供だけは完全な人間にしようと考えた。

精子バンクと卵子バンクから特に優秀な精子と卵子を選び、さらにゲノム編集という遺伝子操作技術によって、IQや身体能力を伸ばし、あらゆる病気に対する抵抗性を高めた究極の人間。

人工子宮から生まれた私の子供は、まさに天才だった。
当時からすでにデザイナー・ベビーと呼ばれる、遺伝子操作による天才児は大勢生まれていたが、私の子供は別格だった。

次々と重要な科学的発見をして、13歳で最年少ノーベル賞受賞という驚異的な天才。次は一体どんなものを作って世間をあっと言わせるのか。どんな素晴らしい業績を残すのだろうか。親の私が一つも得られなかった世間の称賛を浴びる息子がとても誇らしい。
同時に、少し憎らしいような気もしていた。


遂に完成した。
異次元空間転移装置。
家の側にある実験用のガレージで、僕はまた科学史に残る偉大なものを一人で作り上げてしまった。
巨大な電子レンジのような装置で、中に入れた固体を異次元空間へと転移させてしまう。後にはまったく何も残らない。

研究は基本的に政府が提供する施設で行っていたが、久しぶりの休暇を貰ったので自宅で過ごしていたら、あまりにも暇だったのでこんなものを作ってしまったのだ。

物心ついた時、と言っても僕の場合はほぼ出産時に等しいが、僕は父が嫌いだった。頭が悪く、そのくせ欲望だけは肥大化しており、幼児性が強く利己的。一つも長所は見当たらない。
なぜ僕の父だけがこんなに間抜けなのかと思っていたが、これが人間の平均値だと知って愕然としたものだ。こんな奴らには生きている価値はない。

僕はすぐにあるウェブサイトを立ち上げた。
デザイナー・ベビーと呼ばれる天才少年だけがアクセスできるサイトだ。
既に世界中から続々と登録者が増えている。
そこで知り合った多くの天才少年達が、僕と同じ意見だった。
つまり『旧人類』である親達は有害でしかなく、人類の未来と世界のために速やかに処理するべきだと。

手始めに僕は家の中にいるゴキブリを始末する事にした。
そういえば彼の誕生日は明日ではなかったか。
サプライズだとでも言って、この装置の中に入れてスイッチを押せばー

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