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【ショート】魔法のコトバ


それは突然だった
ワタシの足は動かなくなった
カミサマのいたずらなのか
身から出た錆びなのか
兎に角
歩くにも不自由を感じる

ワタシは踊るのが好きだった
とくにワルツが
だけどもう
若い人のようにキレイに
以前のようにしなやかに
踊れない
もう足が言うことを効かない
もうワタシ踊れない

ワルツはもう聞きたくない
聞いても意味がない
踊れない自分がもどかしい
喪失感が心と身体をみたし
みじめな気持ちにさせる
だからもう
聞かないと決めたの
もう二度と

だけど
あなたは時どき誘うでしょ
ワルツを流そうとか
ホールに聴きに行こうとか
その度
ワタシは不快な気持ちになる
どうしてそんなことが言えるの
なぜワタシの気持ちが解らないの
もうワタシは踊れないのよ
ワルツはワタシには意味ないの

それでもあなたは言うわ
僕は今のキミでいいと思うんだ
上手く踊ってほしい訳じゃない
キミに思い出して欲しいんだ
以前の踊る時の目の輝きを
感じて欲しいんだ
ワルツをキミの心と身体で

だからさ
別に踊れなくたっていい
立ってるだけでいいんだよ
座ってさえいればいい
今度は僕がリードさせてよ
キミは笑うかもしれないけど
さあ目を閉じてごらん
そう言ってあなたは
レコードをかけた

ワルツの曲が流れ始め
身体に響き満ちてゆく
やがて全身をゆさぶり
閉じていた心をもゆさぶる
ワルツの音色が
ワタシの身体と心を導いていく

ふと懐かしい記憶がよみがえる
初めてあなたと行ったホール
そこで二人で初めて踊ったの
どこか青くて甘い想い出

そんなことを思い出しながら
ふとあなたと目が合った
その瞬間に
あの時に戻れた感覚がした
そして
自然に口から出たコトバ

shall we dance ?

それは
魔法のコトバ
心踊らす不思議な詞


la la la lala la…

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