“縄文銀座”と呼ばれる地で、今だからできる縄文体験を。縄文文化ツアー対談|山本×坂本
2022年秋、“縄文文化”をテーマに諏訪エリアの自然・食・文化を楽しむモニターツアーが白樺湖で開催された。今回の仕掛け人である2名に、ツアー造成の経緯やこのエリアと縄文文化のつながり、今後伝えていきたい思いなどを聞いた。
自分の体で文化を感じる
−改めて、今回のツアーの概要から教えてください。
育也:カヤックで白樺湖に浮かぶ無人島・中之島へ行き、カヤックに乗ったまま麻琴さんが打つ御諏訪太鼓の演奏を聴き、実際に太鼓を打つ体験もしてもらい、僕が作ったジビエランチを食べていただくという内容でした。
−お二人がタッグを組まれた経緯は?
麻琴:それぞれに背景や得意分野があるので、融合させたら面白いんじゃないかというような流れでしたよね?
育也:そうですね。さらに“縄文文化”っていうテーマで括ることで、よりうまく融合できたんじゃないかと思います。
−なぜ“縄文文化”だったのでしょうか?
育也:八ヶ岳山麓では膨大な量の遺跡が発掘されていて、縄文時代に最も栄えた地域の一つとされているんですよ。特に諏訪地域は“縄文銀座”と呼ばれているほどです。
−そんな呼び名があるとは知りませんでした!
麻琴:このツアーを通して、縄文時代に生きた人々とのつながりを感じてもらえたらいいなと思いました。内容に関しては、カヤックを軸にしつつ、どんなオプションが生み出せるかを育也さんと考えながら組み立てていったのですが、白樺湖や中之島という自然豊かなロケーションが、私たちをつなぐ接着剤的な働きもしてくれましたね。
−縄文時代と御諏訪太鼓の関係性とは?
麻琴:日本で太鼓が誕生したのは縄文時代だと言われています。太鼓は現代では「楽器」に位置づけられていますが、もともとは狩猟や情報伝達のための「道具」としての役割の方が大きかった。
だから縄文という一つの時代にも太鼓はあったし、弥生時代にも飛鳥時代にもあったし、戦国時代ではそれが軍楽となって、地域の人々が厄払いや神事をする際の神楽太鼓となって、お経を唱える際の法楽太鼓となって、私が継承した御諏訪太鼓も、その形は一度途絶えたかもしれないけど、祖父の小口大八が昭和の時代に復興させて、今こうしてみなさんに聴いてもらえる。色々と形を変えながらも、縄文時代からずっと続いてきた文化なんですよね。
−太鼓に触れることが、縄文時代の追体験にもつながりますね。
麻琴:それに、私たちはみんな自分の太鼓を一つ持っているんですよ。何のことだと思いますか?
−自分の太鼓…。何でしょうか?
麻琴:ここ、心臓です。「鼓動」って言うでしょう?
−なるほど!
麻琴:みんなお母さんからもらった太鼓を一つ持っていて、生きている間中はずっとその太鼓が鳴っている。太鼓の音を聴いた時に気持ちが高ぶったり、逆に眠くなったりするのは、私たちの心臓と太鼓の音が共鳴しているからなんです。縄文時代でも現代でも、心臓を持っている生き物はみんな同じように感じると思います。
育也:素敵ですね。
麻琴:あと、中之島というロケーションもポイントでした。縄文時代を見ることはできないし、想像しても違うのかもしれないけど、太鼓を打っていたのが外だったというのは間違いないはず。自然の中で私が思いっきり演奏して、それをみなさんにも体験してもらえるというのは、太鼓としての本来あるべき姿だと思います。
育也:室内で聴く音とはまた違った迫力がありますよね。
麻琴:そうなんです。テクノロジーが進化して、家にいても色んなことができる時代になりましたが、あえて今、外でやることに意味があると思います。料理の味や匂いもそうだし、太鼓の音やそこから伝わる振動も、舌と耳だけではなく自分の体で感じることが大事ですよね。さらに“縄文銀座”と呼ばれる地でそれをやることによって、いにしえの人とも一体になれるような気がします。太鼓は神さまやご先祖さまの魂も呼べますからね。
土地の資源をありがたくいただく
−では次に、ジビエと縄文時代との関係性について教えてください。
育也:縄文時代の人々の食は狩猟・採集・漁ろうが中心で、信州ではその頃から鹿肉が食べられていたそうです。諏訪大社の「鹿食免(かじきめん)」ってご存知ですか?
−知らないです…。教えてください!
育也:肉食や狩猟などの殺生がタブーだった時代に、諏訪大社で鹿食免っていうお札が発行されていたんです。これを持っていれば、鹿や猪を獲って食べても罰せられないという免罪符ですね。そうした風習もあって、自然の恵みに感謝して尊い命を美味しくいただこうという考えが、この地域には古くから根づいています。
−縄文、ジビエ、地域の風習が一つにつながりますね。
育也:鹿食免にちなんで、地元の猟師さんが捕獲した鹿をジビエ料理として活かそうという取り組みも始まりました。その一環で、僕も10年以上前に初めて鹿肉のソーセージを作ったんですけど、あまり美味しくなくて。
麻琴:どんな味だったんですか?
育也:食べられはするんですけど、どうしても獣臭さが気になって、これ食べるんだったら豚の方がいいなあって(笑)。それだと意味がないってことで、一旦ジビエからは離れちゃったんですけど、「信州富士見高原ファーム」代表の戸井口さんと知り合って、またチャレンジすることにしました。
−「信州富士見高原ファーム」とは?
育也:猟友会員の有志によって設立された会社で、地元で獲れた鹿や猪を商品にして販売しています。戸井口さんや加工場の方々に話を聞いてみると、硬いとか、獣臭いとか、毛がついているとか、地元ですら多くの人が鹿肉にネガティブなイメージを持っていることがわかったんです。そうなると食材として流通しないから、駆除のために獲っても結局捨てなきゃいけない。
麻琴:本末転倒ですね。
育也:そうなんです。そもそもなぜ鹿肉が獣臭いかというと、仕留めてから加工するまでに時間がかかるからなんですよ。山奥で仕留めたら、そこから引きずって運んだり、川のあるところまで行って血抜きをしないといけない。だから全部罠で捕らえて、素早く血抜きをして加工場に持っていけばいいんです。
−適切に扱えば、美味しい肉として流通させることができるんですね。
育也:戸井口さんに勧められた鹿肉を使ってみたら、もう全然違うんですよ。袋を開けて肉を取り出した瞬間に、あ、臭くないって。もともと臭みのあるものは、どう調理して味をごまかしてもどこかに残っちゃうんですけど、この鹿を使えば美味しくなるという確信が持てました。
それからどんどんジビエに興味が湧いてきて、ジャーキーにしてみようとか、ソーセージはどうかな?とか、色々な調理法を試すようになりましたね。今回のメニューは、子どもでも食べられるようなクセの少ないものを意識しました。新鮮なレバーも提供できてよかったです。
麻琴:鹿のレバーペースト、美味しかったです。
育也:ありがとうございます。内臓には基本、獣臭さが入らないんです。ただ鮮度が命なので、鹿が獲れる土地ならではの食材ですよね。豚よりも赤みが強くて、鉄分やビタミンAなどの栄養も豊富なので、女性には特におすすめです。
時代に合わせた変化が必要
−ツアーを終えてみての感想はいかがですか?
麻琴:モニターツアーとはいえ、かなり実践に近い形で開催したので、まずは参加してくださった方の意見が聞きたいですね。できればマイナスな意見をいただけると、どういうものが求められているのか、何を変えればいいのかなど、改善点が見えてくると思います。
育也:僕はさらにジビエを追求していきたいと思いました。鹿のタンをソーセージに練り込んだり、鹿の骨で出汁をとったり、色々な手法を模索していくつもりです。
麻琴:いいですね。あと今回、私が一つこだわりとして持っていたことは、古い時代の文化をそのまま伝えようとするのではなく、現代に合った形に落とし込むこと。太鼓の歴史からもわかるように、時代の流れに沿った変化があるからこそ、その文化は長く続いていくと思うんです。
−麻琴さんの太鼓の音色にも、ジャズのようなリズムが含まれていますよね。
麻琴:気づかれましたか?実はうちの祖父がジャズドラマーをしていた時に、御諏訪太鼓の古い譜面の解読依頼が舞い込み、復元していく中でジャズ要素も加えたんです。ただ解読するだけではなく、その時代らしい変化を取り入れたことで、よりみんなに親しんでもらえる楽器になったのではないかと思います。
育也:僕もそう思います。今回の料理に関しても、例えば鹿をそのまま直火で焼いて塩だけで食べる方が縄文時代らしいのかもしれないけど、それだと僕がこのツアーをやる意義が生まれない。昔と違って、今はモノがあふれているじゃないですか。幸せの価値観が違うから、そのままを味わってもらうよりも、現代風にアレンジした料理で美味しさを感じてもらった方がいいと思ったんですよね。
−変わるものと変わらないもの、両者のバランスをとりながら伝えていくことが大切ですね。
育也:そうですね。いくら時代は変わっても、空とか自然は変わらないし、そういう感覚をみんなで共有しながら、今だからできる体験を通して、この地域ならではの魅力を発信できればと思っています。
参考動画
縄文ジビエ
御諏訪太鼓