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ネット詩サイト「B-REVIEW」2017年~2023年の軌跡

※「月刊 新次元」第70号(2023年3月)に掲載された記事の再掲です
https://gshinjigen.exblog.jp/30283875/
http://geijutushinjigen.web.fc2.com/70watanabe.pdf

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前置き(という名の単なる愚痴)

詩人はIT・デジタルに弱い傾向がある。はっきり言おう、これは恥ずべきことだ。世界はweb3.0に突入しようとしているのに、多くの詩人はいまだアナログの感性に留まっている。ツールを使えていないのはもちろんのこと、意識においても周回遅れだ(しその自覚が薄い)。「現代」の字を冠さないでほしい。「前時代詩」のほうが似合っているぐらいだ。「時代に迎合しないことではじめて生まれるものもある」と宣う詩人もいるだろうが、それは現代の様式に合わせられる者があえて独自路線を進んではじめて意味を成す言葉である。

初稿ではここから怒濤の愚痴(詩誌をネット通販しない、商業雑誌さえもAmazonで買えない、組版が誰も彼も下手、など)だったが、それは流石によろしくないので本稿では割愛する。筆者・渡辺八畳はそれほどまで詩人に落胆しているとだけわかってほしい。

しかし、そのような詩の世界でも、インターネット空間での動きは一定数存在している。

B-REVIEW以前のネット詩

インターネットにおける詩の歴史は案外古い。「ネット詩の歴史」によるとパソコン通信の時代から詩のプラットフォームは存在したようだ。

2000年代に入ると詩の投稿サイトは一気に増える。「現代詩フォーラム」や「MY DEAR」など現在でもサービスが続いているサイトたちもこの時期に生まれた。また、日本最大の電子掲示板「2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)」の「詩・ポエム」板に集まった詩人たちもおり、彼らは「シバン派」と呼ばれた。角田寿星(Canopus)や蛾兆ボルカなどがシバン派として知られている。

2004年開始の「文学極道」(通称「文極」)はネット詩の歴史でとりわけ大きな存在だった。文極がどういったサイトであったかは、かつてトップページに記されてあった案内文を引用するのが最もわかりやすいだろう。

芸術としての詩を発表する場、文学極道です。
糞みたいなポエムを貼りつけて馴れ合うための場ではありません。
あまりにも低レベルな作品や荒しまがいの書き込みは問答無用で削除されたり、 「月間最低劣ポエム」 として晒し上げられたりする可能性があります。
ここは芸術家たらんとする者の修錬の場でありますので、厳しい罵倒・酷評を受ける場合があります。
罵倒耐性の無い方はご遠慮ください。
日頃より糞便垂れ流しのような下らないポエムを書いていない、高い志をもった皆さん、どうぞ気張ってご参加ください。

ネット詩の歴史「『文学極道』から『文極』へ 文学極道四代目の新体制」[文責:澤あづさ]
から引用
http://netpoetry.blog.fc2.com/blog-entry-16.html 2023年2月18日閲覧

柔和さを一切持たない、例えるなら地下格闘技場。交わされる文言も苛烈なものばかりだが、それは「忖度一切なしのガチ勝負」ということでもあり、文極には多くの実力ある詩人が集まった。その中には最果タヒや光冨郁埜、夢沢那智(无)、白鳥央堂(守り手)、田中宏輔、前田利夫(前田ふむふむ)など紙媒体でも活躍する詩人も含まれている。ちなみに、筆者も2016年~2019年に文極へ投稿しており、2018年度には文学極道エンターテインメント賞を受賞した。また、一時期文極代表を務めていたケムリも現在は借金玉名義で作家・ライター活動を展開している。

このように1990年代後半~2000年代中盤はネット上での詩の動きは活発だった。しかし文極以降は目立ったサイトが現れなくなる。前述の現代詩フォーラムやMY DEAR、文極、そして文極と同時期に開始した「メビウスリング掲示板」(2004年~2020年)の詩カテゴリなどは2010年代以降もサービスを続けてはいたが、2000年代のシステムやデザインをそのまま使っていたため、デジタル社会の潮流には乗れていなかった。もちろんこのようなサイトは基本的に個人運営であり、投入できる資金や時間が乏しいという事情はある。とはいえ文字からして角張ったビットマップフォントで、あえて露悪的な表現をすれば「見た目からして加齢臭が漂ってくる」状態では、その時点で利用者がふるいにかけられてしまう。現代詩フォーラムに至っては現在でもガラパゴスケータイに対応しているぐらいだ。

刷新が起こらず、さながら限界集落となっていたネット詩。その中へ平成末期に突如現れた新星が「B-REVIEW」(通称「ビーレビ」)であった。

B-REVIEWとは~サービス開始の経緯~

2016年9月、文極の元スタッフである天才詩人(コントラ)が「bungoku-review」※1 を立ち上げた。これは「文学極道を外からレビューする」ために作られたサイトで、コーリャ(シリュウ)、澤あづさ、百均、三浦果実、花緒が記事を寄稿した。当時はあくまで文極のサブサイトという立ち位置であったが、この bungoku-reviewが後にB-REVIEWへと発展していく。

前述の通り文学極道は独特の文化・風潮があったため、いわゆる「荒らし」が発生することが珍しくなかった。しかし文極は放任主義の態度を取り続け、体質改善に消極的なままサービスが続けられる。その背景には文極の創設者であるダーザイン(武田聡人)が「あやしいわーるど」(2ちゃんねる以前から存在したサイト群)の利用者であり、その意識がサイトに残っていたこともあるだろう。往時のインターネット空間はいわゆるアンダーグラウンド文化の範疇であり、ネチケットとは程遠い倫理観とノリで回っていた※2。もちろん文極はある程度の管理はなされていたものの、多くは利用者の自主性に任せていた。

その中、2016年末頃、とある利用者に対しての粘着行為が起こる。「いじめ」と形容できるほど目に余る行為だったらしく、花緒や三浦果実など bungoku-reviewの面々は文極の運営に異議申し立てを行ったが、その訴えは受け入れられずに終わった。

当時すでにTwitterはじめ各種SNSが一般人の間にも浸透しており、インターネットは一部の好事家だけのものではなくなっていた。その是非はともかくとして、インターネットが「ついていける人だけ使えばよい」というアングラ的感性の場ではなくなってきていたのは確かだ。文極運営に件の訴えを聞き入れてもらえなかったことを受け、「現在の文学極道は自分たちにとって耐えがたい場所であるのなら、新しく別の掲示板を立ち上げよう」という気運がbungoku-review寄稿者たちの間で高まった。彼は文極の利用者、そして件の粘着行為をはじめとした文極の現状に嫌気が差し投稿を辞めていた詩人など※3 に声をかけ新規利用者を集め、そして2017年2月、ネット詩サイト「B-REVIEW」がサービスを開始する※4

余談だが、B-REVIEWのカラーであるショッキングイエローはbungoku-review立ち上げ時にコーリャが発案したものだ。後述のB-REVIEW3.0バージョンアップ時に渡辺八畳がB-REVIEWのイメージカラーとして明確に選定し、以降継承されている。


1 bungokureview.wordpress.com 現在は閉鎖済み
2 旧2ちゃんねるがしばしば「便所の落書き」と蔑まれていたことからも、当時のインターネット緒掲示板は(あえて)倫理観に欠けていた場所であったのがわかるだろう。
3 当時の文極利用者としては右肩ヒサシ、投稿を辞めていた詩人としてはfujisaki fujisaki(B-REVIEWサービス開始してから一番初めの月間大賞受賞者)などが挙げられる。
4 bungoku-review寄稿者のうち澤あづさはB-REVIEW発足前に身を退いている。

B-REVIEWとは~初代運営から2期運営までの軌跡~

「20作品集まれば御の字だなと発起人たちは思っていた」とB-REVIEW発起人の一人であり二代目代表※5 の三浦果実はツイキャス「ビーレビの歴史を振り返る」で述べた。その予想に反し、初月の2017年2月には50作品が投稿された。さらに、3月は75作、4月は87作、そして5月は101作と、投稿数を着々と増やしていった。ちなみに文極の月別投稿数は60作前後、多くても80作ほどであったため、B-REVIEWは開始半年を待たずして文極を超えたことになる。

bungoku-reviewが下地ということもあり、最初期のB-REVIEWでは天才詩人を中心に、百均、コーリャ、花緒、まりも(青木由弥子。途中から外部委員として参画)が投稿作の選考を行っていた。2017年10月頃に初代代表の天才詩人が退任し、そのタイミングでサイト自体も畳むかどうかという話が挙がるが、三浦が代表を継ぎサイトが存続される。

B-REVIEWの運営者は全員が社会人または学生であり、サイト運営自体を生業としているわけではない。つまりボランティアであり、日常生活の合間を縫ってサイトを管理している。ゆえに生活方面の多忙を理由として運営から退く者は珍しくない。天才詩人の退任にもそのような背景があると推測される。選考とその労力のバランスはB-REVIEWにとって避けられない課題だ。代表権が三浦に移行した後、運営とは別に選考委員※6 が設けられ、運営者の負担軽減が図られた。しかし、選考システムはその半年後の2018年4月に全員キュレーター制へ変更された。この制度では運営者や選考委員だけでなくユーザー一人ひとりもキュレーターとしての権限を持つ。初月は月1作に限り推薦作を選べる「一般投稿者によるキュレーション」と運営・選考委員による大賞・優良作込みでの「公式キュレーターによるキュレーション」に分けられていた※7 が、想定以上に好評であったため、翌月の2018年5月より一般ユーザーも大賞作や優良作を選べる「フル・キュレーション」制度が導入された※8。 フル・キュレーションは対象月の投稿作すべてに目を通さなくてはいけない難易度が高い制度であったものの、導入から半年は多くのユーザーが果敢にチャレンジした。ユーザーが盛んに批評活動を展開する、という今日のB-REVIEWの特徴の礎がこの全員キュレーター制であることは疑う余地が無いだろう。

このように体制を変革していったものの、初代運営の間ではさまざまな限界が生じ続け、2018年7月前後にB-REVIEW閉鎖の話題が再び持ち上がる。三浦、百均、花緒で話し合った結果、8月で運営の3人全員※9 が一斉に退任、そこで引き継ぐ者が現れなければB-REVIEWも終了、ということが決まった。

B-REVIEW投稿者の間に衝撃が走ったのは言うまでもない。初代運営のこの大胆な施策は結果的に功を奏し、退任発表から間もなくして渡辺八畳、かるべまさひろ、stereotype2085(keisei.hhh)が2期運営となり、B-REVIEWは存続が決まった。

ちなみに、この初代から2期への引き継ぎ時のツイキャス配信は録画が残っている。

初代運営は全員が文学極道への投稿経験があり、天才詩人や百均にいたってはスタッフ・外部委員も務めていた。投稿者に関しても、文極の現役投稿者または過去に投稿していた者が多かった。サイト設立の経緯も相まって、最初期のB-REVIEWは文極のカウンターサイトという色が強かったと言えよう。一方の2期運営は、渡辺八畳こそ文極の投稿者(B-REVIEWと並行して投稿)だったが、stereotype2085は渡辺に誘われて数回投稿した程度、かるべまさひろに関しては一切投稿したことがなかった。投稿者に関しても、引き継ぎ時点ではB-REVIEW生え抜きの者が一定数存在していた。かるべは「初代が退任する時点ですでにビーレビらしさがサイトにあり、それは数多くの人々がそこへ参加することで生まれていたものだった(から、サービス終了してしまうのはもったいないと思い運営に名乗り出た)」と引き継ぎ時のツイキャスで発言しているが、その「ビーレビ色」は2期運営以降さらに強まっていく。

この頃のビーレビ色の一端を担った存在としてリアルイベントが挙げられよう。オフィシャルなイベントとしては「IN 言語」(2017年11月)、「つぎ言語」(2018年4月)、「B-REVIEW TEN」(2018年11月)の3つがある。これらは基本的にはオフライン交流会(オフ会)であり、その中で作品の展示やポエトリーリーディングのライブも行われた。イベント運営はクヮン・アイ・ユウ、武田地球、白犬※10 であり、いずれのイベントも初代・2期運営とは完全に独立した形で催された。「サイト運営者への依存度が低い」というB-REVIEWの特徴はこのイベント運営にも表れていると言えよう。ちなみに武田地球は、後述の「びーれびしろねこ社賞」の共同主催であるしろねこ社より、詩集『大阪のミャンマー』を2023年1月に上梓している。


5 2期運営以降は特定の代表者を設けていない。
6 百均・花緒・まりも・なかたつ(中川達矢)が選考委員を務めた。運営の三浦やコーリャは委員に加わっていない。
7 https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=1557 2023年2月18日閲覧
8 https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=1697 2023年2月18日閲覧
9 コーリャは2018年2月頃に退任しており、この時点ですでに運営にいなかった。
10 白犬はIN言語のみ運営参加。

B-REVIEWとは~2期運営から現運営までの軌跡~

かくして、サービス開始からわずか1年半後、2018年8月から2期運営に体制が変わった。以降B-REVIEWは短いスパンで運営が変わっていく。もちろんルールとして決まっているわけではないが、2023年2月現在で最長の在任期間が渡辺八畳の丸2年(2018年8月~2020年7月)であり、殆どの運営は1年から1年半で退任している。現在の運営(6期)もちょうど1年になったばかりだ。文極ほど荒れていないとはいえ、ネット詩投稿サイトの管理には大きなストレスがかかる。しかもボランティアだ。自身も創作しつつとなると、1年から2年が運営としての寿命なのかもしれない。

2期運営の最大の特徴は「B-REVIEW3.0への移行」だろう※11。詳しい内容は後述するが、プランナーを渡辺が、プログラマーをかるべが担当して、B-REVIEWの大改築を行った。作品ごとに個別ページ、ポイント制、動画・画像投稿、マイページなど、現在の多くの機能はこの代で作られた。スマホでの閲覧に対応したのも3.0からである。またルール面も、フルキュレーション制の廃止をはじめ多くの手が加えられた。

3.0の設計思想の根底にあったのは「詩の世界のデジタル化が遅れすぎじゃないか問題」だ。本稿の前置きで片鱗を見せたように、筆者は「現代詩のフィールド」※12 のデジタルへの意識の低さに辟易している。DX(デジタルトランスフォーメーション)を達成しろとまでは言わないが、もう少々どうにかできるだろうとは常々思っている。ならば隗より始めよで、B-REVIEWを改修した。筆者は当時まだ大学生、かるべもプログラム経験はあっても本職ではないという限られた中での3.0への改修であったため、やはりどうしても手作り感は漂っているが、それでも現代詩のフィールドでは十分なほどに現代化できたと思っている。

B-REVIEW3.0への移行が完了したのは2019年3月、その2カ月後に元号が平成から令和へと変わり、あわせて賞金付きのイベント「REIWAビーレビCUP」が開催された。その後しばらくは運営主導での選考は行われなかったが、3期運営になってから二段階選考形式が開始した※13。これはユーザーによる投票と運営+月々の選考委員による選考で大賞作品を選んでいくもので、初期のキュレーター制とその後の全員キュレーター制のハイブリッドと言えよう。選考委員は毎月最大5名、そして1名以上は必ず「先月受賞者」(最優先は大賞受賞者)を含めるとしていた。選考委員は基本的にB-REVIEWユーザーから選出したが、変化をつけるために、遠藤ヒツジや服部剛など外部の人物も招いた※14

二段階選考は2019年10月から2020年9月まで行われ、期間中は渡辺八畳と帆場蔵人が交代で選考 の進行を務めた。

B-REVIEW3.0にて実践したかったことの大部分を達成し、その結果を約半年見届けることができたため、渡辺八畳は2020年7月で丸2年間続いた運営の任を降りた。しかしB-REVIEWの進化はそこで止まるわけではなく、以降も継続して行われていく。3期・4期運営のふじりゅう(藤井龍平)と5期のmmmがプログラム知識を有していたため、2019年中盤~2021年は彼らを中心に改修や保全が進められた。

この時期の主な改修内容は、コメント数での3作品目投稿解放・縦書き投稿機能追加・匿名投稿制度である※15。特に大きな変革は匿名投稿だろう。文極では既存の投稿者が別名を名乗り他者を攻撃することが横行しており、それが場の荒廃につながっていたため、B-REVIEWではアカウント制度を導入、発言者が誰なのかを特定できるようにしていた。そのようなB-REVIEWに匿名性が導入されたのだ。

5期運営はカオティクルConverge!!貴音さん※16・mmm ・yasu.na で構成されていた。この頃になるとサイトのシステム面での改修はあらかた落ち着き、保全が主な業務になっていた。大きなトラブルもなく、牧歌的な期間であったため、貴音のアナーキーなパフォーマンス(基本的に砕けた口調・B-REVIEW公式Twitterを良い形で私物化)が遺憾なく発揮された。この3人の在任期間は短く、貴音に至っては1年未満であったものの、ユーザーには強い印象を残しただろう。メンバーが変わるごとに運営の雰囲気が大きく変わるのはB-REVIEWの大きな特徴である。

5期運営の時代には「びーれびしろねこ社賞」が行われた。これは出版社のしろねこ社とのコラボ企画で、優秀賞受賞者にはしろねこ社既刊全詩集、そして大賞受賞者には詩集の無料出版権が与えられた。審査員はしろねこ社を主宰するpainter KuroとB-REVIEW初代運営の百均。このイベントは大きな盛り上がりを見せ、160作以上もの応募があった。

結果は、大賞は向坂くじらと草野理恵子、優秀賞はよしおかさくらと眞島脈搏であった。この大賞受賞をもって出版された草野の詩集『有毒植物詩図鑑』は第73回H氏賞の候補詩集次点に選ばれている。向坂の『とても小さな理解のための』もSNS上で大きな評判を呼んだ。個々の作品は見られつつもB-REVIEW自体に注目は及んでいないことは残念ではあるが、B-REVIEWを端に発する詩集が中央詩壇にリーチした事実は特筆すべきだろう。

大会概要 https://www.breview.org/forum_blog/archives/1970
審査結果 https://www.breview.org/forum_blog/archives/2001

現運営(6期)の仁川路朱鳥と沙一は2022年2月からの就任だ。執筆時点でちょうど丸1年務めたことになる。6期もサイトの保全がメインの業務で、また5期からの緩やかな雰囲気を継承して、ツイキャスを定期的に行っている。また、現運営による特徴的な試みとしては、「運営不在月間」が挙げられよう※17。その名の通り、2022年10月の1カ月間を神無月に因んで運営不在月間とした。「選考結果関連以外の運営業務(ツイキャス、スペース、お題詩企画、荒らし対応、問い合わせ対応)の停止」とする徹底ぶりだ。これは、B-REVIEWは元々ユーザーが主体であり、運営が主導・整理せずとも場が保たれるのでは、という考えのもと行われたものだ。結果として、大きなトラブルは発生せず比較的平和に運営不在月間は過ぎていった。これに対し現運営の仁川路朱鳥は「事前に期間を言い渡されたから、受け入れられたのではないか」「サービス開始から『このサイトを利用するにあたって起こったアクシデントはユーザー間で解決してください。運営はすべての意見を聞き流します』という運用をしていた場合、B-REVIEWはここまで長続きはしなかったはず」と分析している※18

以上がB-REVIEW開始から今日までの流れだ。すでに6年の歴史を持つサイトであり、その中ではさまざまな出来事が起こってきた。ここに書ききれなかったことも多い。B-REVIEWはこれからも歴史を紡ぎ続けるだろう。


11 フルキュレーション制を2.0として、その次の改革として3.0と数えた。
12 いわゆる詩壇をはじめ、ネット詩や同人誌など、詩の世界全体のこと
13 https://www.breview.org/forum_blog/archives/480 2023年2月18日閲覧
14 https://www.breview.org/forum_blog/credit 2023年2月18日閲覧
15 この時期の改修を「B-REVIEW4.0」または「B-REVIEW3.5」と呼ぶこともあるが、企画書のもと一度に改修した3.0とは違い断続的に行われたものであるため、どの改修をどれに数えるかは定まっていない。
16 「さん」までがハンドルネーム
17 https://www.breview.org/forum_blog/archives/2407 2023年2月18日閲覧
18 https://www.breview.org/forum_blog/archives/2484 2023年2月18日閲覧

B-REVIEWの特徴とは

続いてB-REVIEWが持つ特徴を述べていく。

B-REVIEWの特徴として真っ先に挙がることが多いのは「マナー遵守」「荒れない批評空間」だが、ここではあえて取り上げない。その理由は二つある。

一つは「マナー遵守はそれ自体をアピールポイントにするものではなく、達成されてしかるべきものである」からだ。すでに述べた通りB-REVIEWは文学極道のアンチテーゼとしてスタートしたが、そもそも比較対象の文学極道が特異すぎる。2010年代後半になってもホームページ黎明期のような喧嘩上等の姿勢を維持していた文極が良くも悪くも異常であり、それと異なる形を目指したとて今日の一般的なウェブサービスと同じ水準になるだけだ。アンダーグラウンドな無法地帯だったインターネットは徐々に整備され、今では現実社会と同じぐらいのマナーが求められる。その世間一般の基準に適合しようとしているという意味ではB-REVIEWは立派なサイトであるが、他のジャンル・サービスと並ぶだけで、「特徴」とするには弱いだろう。もちろんこれは正しい流れである。例えば、世界中で戦争が行われている最中に非戦を貫く国家が存在していたら「戦争をしていない」が大きな特徴となるだろう。しかし争いが止み、すべての国が終戦を迎えた暁には、「戦争をしていない」ことは意味を成さなくなる。それを悲劇と言えるだろうか。2020年に文学極道がサービスを終了した今、ネット詩であからさまな無法地帯は無くなった。文極が無くなってしまったのは非常に悲しいことであるが、ある種の「治安」が結果的に改善されたのは事実である。その状況の中で、B-REVIEWの「マナー遵守」「荒れない批評空間」という特徴は意味が薄れつつあると言えよう。

また、単に「荒れない」だけで見ればMY DEAR※19 のほうが徹底している。ネット詩として古参のサイトであるMY DEARは「議論の禁止」「評へのお礼の徹底」「礼を伝えた後のやりとり禁止」をルールとして定めており、そもそも場の荒廃の原因となるようなユーザー間の交流を制限している。このサイトのスタンスは、投稿掲示板に入る前のページでも明確に記されている。

まず、雨音さんの言葉をお借りします。
「ここは詩を投稿する掲示板です。
 初めてやってくる方や、恐る恐るやってくる方、どきどきと思いきって書
 き込む方、いろんな方がいます。
 詩をずっと書いていた方もいれば、はじめて詩という世界に踏み出す方も
 います。
 身近な大切な人を失ったばかりの方もいらっしゃるかもしれないし、ずっ
 と病気と闘っている方もいるかもしれません。
 みんなそれぞれの事情を持っていながら、詩というひとつの世界で結ばれ 
 ています。」
詩を書く人は、それぞれにデリケートな事情と、デリケートな感性をお持ちになっています。
初めて詩を書かれる方や、おそるおそる詩を投稿し始めようかという方もおられるわけです。そうした方たちへの配慮や、どなたもが安心して詩を投稿できる環境を整えておくことが、この掲示板の使命の一つと考えております。

ネット詩誌 MY DEAR 「掲示板の投稿環境維持のための、いくつかのルール」から引用
※引用に際し筆者が改行を一部調整
http://poem-mydear.art.coocan.jp/text/bbs.htm 2023年2月18日閲覧

本稿冒頭で引用した文学極道のサイト案内とはまったくもって正反対だ。文極を極右とするならMY DEARは極左である。もちろんB-REVIEWはMY DEARと異なり「マナーを守りつつ批評も盛り上げる」ことをスタンスにしているわけだが、単にマナー遵守だけを取り上げた場合MY DEARのほうがある意味では達成されているだろう。

二つ目の理由は「『荒れないネット詩』という目標をまだ達成できていない」からだ。歴代運営は誰もがB-REVIEWという場の成立に尽力してきたが、現実としてトラブルは常に起こってしまっている。投稿作やそれへのコメントを巡りユーザー間で争いが起こるのは日常茶飯事だ。イエローカードやレッドカードなどの処罰をもって対処できるようにはルール整備しているが、カードを発行せざるを得なくなる時点でトラブルは起こっており、また運営による対処が新たなトラブルを招いてしまうことも悲しいかな珍しくない。さらに盗作や悪意のある引用も度々発生してしまっている。何十人という人々、しかも詩人というある種特殊な属性を持つ者たちが集まる中で、トラブルが生じることなく、「荒れる」ことなくその場を維持し続けることはとても難しい。6年の歳月をもってしてもまだ成し遂げられていないのだ。

ユーザーでなく運営が発端となってトラブルが生じてしまうこともある。恥ずかしながら、筆者が2期運営を務めていた際にも、限定的に「酷評OK」タグを作成して不評を買ったり、アナウンスが不足したままガイドラインからマナー重視の文言を削除したり(現在は復旧済み)、B-REVIEW3.0への模索の中でトラブルを呼んでしまった。またコメント活動を盛り上げようとして言葉が過激になり、それが抗議されたこともあった。B-REVIEWという稀有な場をさらに活発化させようとしてのこととは言え、ユーザーたちが何に重きを置いているかを見誤った施策を打ち出し強行し、この場に継承されてきた理念と違った行動を取ってしまったことについては、改めて謝罪の意を示したい。

余談だが、筆者によるトラブル時にはユーザーからの糾弾が起きた。自らが原因ではあるものの、筆者に対する責めの言葉が何千字(もしくは万の単位)も連なっているのを見て、精神的にかなり追い詰められた。正直に申せば、その時の糾弾文はいまだに読むことができない。メンタル面でのブロックがどうしても起きてしまう。本稿を書くにあたってフォーラム(詩の投稿は別に、討論や告知などを行うページ)を読み返しており、当時の糾弾文のページも開きはしたが、やはりフラッシュバックに似た状態に陥ってしまった。そのような糾弾が起きた時点で筆者の運営在任期間は1年少々であった。そこでもし辞任していたとしたら、在任期間の長さは他の運営と同じぐらいになっていた。たまたま、あの苦しみがあったとしても成し遂げたいことがまだあったため、結局は丸2年になるまで続けたが、それが無かったら糾弾時点で辞めていただろう。やはり本来ならB-REVIEW運営としての寿命は1年前後で終わる定めなのかもしれない。

ツイキャス「ビーレビの歴史を振り返る」内で三浦果実は「B-REVIEWが存続する限り永遠のテーマだと思っている。答えをあえて出さないことが大事なのではないか。」と発言した。その言葉の通り、「マナー遵守」「荒れない批評空間」が成立する日は訪れない、訪れないからこそ追求し続けるべき、なのかもしれない。このような事情から、本稿ではB-REVIEWの特徴としてマナー面はあえて取り上げないことにする。

ではそれ以外にB-REVIEWの特徴となるものは何か。それは「定期的なアップデート」「多様な選考システム」「コメントの充実」にあると筆者は考える。


19 http://poem-mydear.art.coocan.jp/

B-REVIEWの特徴①定期的なアップデート

前述の通りネット詩サイトは古くからあるサイトがいくつか存在するが、それらはシステムのアップデートが行われておらず、十数年前の姿のまま今日に至っている。当然ながら使い勝手に支障が出てしまっている部分があり、一部の詩人は「カクヨム」や「小説家になろう」、そして「note」など、本来は小説やコラムなどを投稿するサイトに流れていってしまっている。そのような状況下にありながら、B-REVIEWはアップデートを複数回行っている稀有な存在だ。

これまでにB-REVIEWで実施した大きなアップデートには「3.0」と「3.5 / 4.0」がある。3.0は2期運営のもと2019年3月に実施されたもので、「3.5 / 4.0」は3期~5期の間に行われたものだ。3.0の主導者は筆者・渡辺八畳と、同時期の運営であったかるべまさひろである。 3.5 / 4.0はふじりゅうが中心として行い、その退任後にmmmが主にサイト保全の一貫として実施した。3.5 / 4.0もふじりゅう期とmmm期で明確に分けることが可能かもしれないが、資料が散逸しておりどの改革が3.5または4.0かを確定させることができなかった。ご容赦願いたい。なお、これら主導者のうちかるべ・ふじ・mmmはプログラミング技術を有している。デジタル化が大きく遅れている詩の世界に置いてシステムエンジニアはダイヤモンドほどに貴重な存在だ。その技術者が複数人も存在したからこそ、B-REVIEWは大型アップデートを実施できた。逆を言えば、技術者不足は多くのネット詩サイトで抱えている問題だと言えよう。もし読者の中にプログラム技術を有し、さらにネット詩へ興味を持つ者がいたら、ぜひB-REVIEW運営へ参画してほしい。

3.0でのアップデートでは、まず筆者が企画書を作成し、それをもとにかるべがシステムを構築した。その企画書は以下から閲覧可能だ。

3.0での変更は大きくシステム面とルール面に分けられる。

◇システム面
 ・スマートフォンへの対応
 ・動画 / 画像投稿機能の導入
 ・「サムネイル表示」を標準化
 ・Twitterとの連動
 ・検索機能の充実
◇ルール面
 ・フルキュレーション制の廃止
 ・ポイント制の導入

システム面でのアップグレードの軸にあったのは「現在のウェブサービスの基準に近づける」だ。スマートフォンへの対応はその最もたるものだろう。3.0時点でスマートフォンは全世帯中のうち80%以上に普及しており※20、またB-REVIEWに設置していたGoogle AnalyticsでもアクセスはPCよりスマートフォンのほうが多いという結果が出ていた。「モバイルフレンドリー」への対応は至急達成すべき課題だったのだ。また「動画・画像投稿」もリーディング層の獲得が第一の目的(結果としてあまり達成できなかったが)でありつつも、文章主体の「ネット詩掲示板」からの脱却も視野に入れたものだった。詩人の中で画像・動画編集能力を有する者は限られており、B-REVIEWを契機として技能を習得してもらおうという魂胆だ。現時点でそこまでは至っていないが、もしB-REVIEWをスタートにしてTikTokやInstagramで動画・画像作品を展開し「バズる」詩人が出てきたら、相当面白いことになるだろう。

ルール面のアップデートは主にライト層の獲得を目的としていた。3.0以前、B-REVIEW2.0のフルキュレーション制は 投稿作全記事を読んだうえでユーザー自らキュレーションするもので、当然ながら難易度は高かったものの、ある時期まではその難しさゆえに良い刺激が起き盛り上がりを見せた。しかしサイトの盛り上がりにあわせて投稿数が増えると、当然ながら読まなければならない作品が増える。投稿数が160を超えるとキャパオーバーとなり、作品数・キュレーション数ともに減少してしまった。フルキュレーション制はそれ自体こそ画期的なアイデアであったものの、作品が一定数以下の時だけ成立し、サイトの隆盛に耐えられないという致命的な欠点が露呈したのだ。数値をもってこの事実を証明し、B-REVIEWのさらなる発展のためにフルキュレーション制は廃止することにした。もちろん作品数が160以上でも200以上でも300以上でも猛者なら読み通すだろうが、それはごく一部の者であり、多くのユーザーは脱落してしまう。ポイント制に関しても、コメントや批評文を書くまでに至らないライト層がそれでもB-REVIEWに参加できるようにと設けた機能だ。B-REVIEWは一部のトップ層だけのものでなく、詩のレベルに関係なく多くのユーザーが集える場所であるべきだ、というのが筆者渡辺の思想である。

3.5 / 4.0での大きなアップグレードは「縦書きの導入」「匿名投稿機能の導入」「投稿3作目の解放」だ。面白いのは、縦書きは文学極道に無かった機能で、一方の匿名投稿は(実質的に)あった機能という点だ。現代詩フォーラムには縦書き機能があったものの、システムが掲示板である文学極道は横書きのみ対応していた。3.0もこの点には触れず横書きのままであったが、ふじりゅうの代になって投稿時に縦書きか横書きかを選べるようになった。なお、ふじはツイキャス「ビーレビの歴史を振り返る」内で次のように言及している。「B-REVIEWはもはやwebアプリ的な性質を持っていて、webアプリは定期的にアップデートが入る。それが今のITとして当然の流れであり、B-REVIEWというwebアプリを運営する立場としてはその流れに沿っていかなければならない、というところから発想がスタートしている。変えていくことを前提として、ではどこが変えられるだろうかという発想でスタートしていった。」

文学極道は運営こそIPアドレスを確認できたものの、アカウント登録制度は設けておらず、投稿時にハンドルネームを自由に設定できた。またトリップ※21 も無く、結果として他者を中傷するための捨てアカウントの横行・なりすまし行為・なりすましではないかという疑心暗鬼の発生・出禁通告者の無断投稿が横行した。これらを防ぐためにB-REVIEWではアカウント制度を取り投稿者と発言者を紐付けさせていたのだが、3.5 / 4.0ではじめて匿名投稿制度を設けることになった。B-REVIEWのツイキャス内で「匿名で投稿できるようになったら実力ある詩人がしれっと投稿するのでは」という話題が挙がったのが導入のきっかけである※22。もちろんトラブル管理はしっかりと行われており、現行のシステムでは一定期間後に匿名投稿者のハンドルネームを自動開示、運営側は期間を待たずとも投稿者を確認可能、となっている。一定期間後に発言者がわかるため暴言やなりすましは行えず、また一定期間中は元のハンドルネームに影響を受けずに投稿やコメントをできるため、この機能は多くのユーザーに受け入れられた。筆者も普段の作風とは異なる作品を匿名で投稿したことがある。

3.0までのB-REVIEWでは月ごとの作品投稿は2作までであった。これは文学極道のシステムの踏襲である。投稿数を無制限にすると作品で溢れかえってしまい個々の詩が読まれなくなる、しかし1作のみだと足りないし実験作品も投稿しづらい、ということでの2作だろう。これが3.5 / 4.0では3作目まで緩和された。しかし条件があり、現行システムでは「1作目の投稿は無条件に可能。2作目の投稿権限は最低でも2作品へコメント※23 してはじめて解除される。3作目の投稿は月に20作以上の作品へコメントした際に解放される」となっており、3作目投稿はあくまで活発なコメント活動のボーナスとして位置づけられている。むしろ、いわゆる「フリーライダー」、他者の作品を読まず自作品だけ投稿したい者は3作品どころか1作品しか投稿できないのだ。コメント活動を自然な形で促す設計になっており、それは特徴③の「コメントの充実」にもつながっている。


20 総務省「令和2年通信利用動向調査の結果」から https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/210618_1.pdf  2023年2月18日閲覧
21 電子掲示板において個人識別のために使われる暗号化された文字列。トリップキーという元の文字列が一致していないと同じトリップを表示できない。
22 不確定な情報ではあるが、いわゆる「詩壇」に属する詩人たちも、実は名前を変えて密かにB-REVIEWへ現れているらしい。それが本当だとしたら、表向きの名を隠してまでネット詩を覗きに来る者が存在するということになる。興味深い話だ。
23 他者の投稿2作品へのコメントか、他者の投稿1作品へコメント&自作へのコメントへの返信で2作目投稿が解放される。

B-REVIEWの特徴②多様な選考システム

B-REVIEWの歴史は選考システム模索の歴史と言っても過言ではない。その時々の運営によってさまざまな選考システムが提案・実行されてきた。選考システムの変遷は以下の通りである。

2017.2 運営の面々が直々に投稿作をキュレーション(選考)
2017.10 選考委員制の開始
2018.4 全員キュレーター制の開始
2019.3 全員キュレーター制の中止
    (ここから約半年間、REIWAビーレビCUPを除き選考は行わず)
2019.10 二段階選考の開始
2020.6 推薦文システムの開始※24
2020.10 コメント投票制の開始※25

現在はコメント時またはピックアップ※26 送信時に対象作品は1票獲得し、最多得票だった作品を月間B-REVIEW大賞として表彰、そして推薦文が投稿されれば対象作品は5票獲得+推薦文執筆ユーザーからの個人賞授与、という形をとっている。数表から十数票の得票で大賞になれる現状において推薦文で5票獲得は多すぎではないか、という提言は度々されつつも、さまざまな理由があり現在までこのシステムが維持されている。

6年弱でここまで選考方法が変わったネット詩サイトは珍しいだろう。変更の理由は運営の負担軽減やユーザーへの訴求力低下などである。「その時々の運営が、自分たちにとって無理がない形で選考を行う」という流れが作られているため、現在の選考システムを維持できずサイトもろとも崩壊していく、という事態は回避できる。つまりB-REVIEWのこの変化の激しさは、数カ月分も選考が滞っていた文学極道末期のような状態を避けやすいのだ。

また、定期的に選考のルールが変わることはユーザーにとっても良い刺激となるだろう。筆者が決断した全員キュレーター制廃止もまさにその一環であり、新しい方式をはじめるまで約半年かかったものの、辞めたからこそ二段階選考にシフトチェンジできた。この方式は毎月の委員選出や数時間による選考など運営への負担は大きかったものの、ユーザーとしては2017年頃のようなキュレーションがまた味わえ、さらに委員に選ばれれば濃密な議論をできるとして、評判は上々だった。そして現在の投票制&推薦文システムの中でも、現運営は結果発表にあわせ雑感を毎月配信しており、ユーザーへの訴求力を維持し続けている。

すでに幾度も変化を経験しているからこそ、B-REVIEWは常に変化していける。ダーウィンのあまりに知られた名言「生き残るのは最も強い者や最も賢い者ではなく、変化に最もうまく対応できる者だ」がぴったり当てはまるだろう。頑なに状態を維持し続けてきた者はたとえ本当に変化が必要になっても、慣れないことゆえ思うように変わっていけない。しかしB-REVIEWはこなれたものだから「うまく」対応していけるだろう。B-REVIEWにとって多様な選考システムはさまざまな形で好影響を及ぼしているのだ。


24 https://www.breview.org/forum_blog/archives/925  2023年2月18日閲覧
25 https://www.breview.org/forum_blog/archives/1170  2023年2月18日閲覧
26 B-REVIEW作品画面の上部で表示される短評

B-REVIEWの特徴③コメントの充実

結論を先に述べる。「コメントの充実」これこそがB-REVIEWが持つ最も大きな特徴だ。

掲示板スタイルのサービスで、新着コメントがあればその作品がページの先頭に移るシステムであったこともあり、文学極道はコメント活動が活発であった。一つの作品に対しコメントが20件や30件つくことも珍しくない。筆者は一作品に307件のコメントがついたことがある。しかしその活発さは時として罵倒合戦に発展することもある。筆者の307コメントの作品も途中から「荒れ」の状態であり、あまりにも収拾がつかなかったので、最終的に作者自ら運営にコメント欄の凍結願いを出したほどだ。

B-REVIEWは文極の負の側面から脱却しようとしながらも、コメント(批評・評論)自体はサービス開始時から一貫して重視し続けてきた。全員キュレーター制や二段階選考、そしてコメント数に応じた投稿数上限解放などはそれの表れだろう。またB-REVIEWは「フリーライダー」、投稿だけしてコメント活動を行わない者の参加を問題視し続けており、例えば2期運営のstereotype2085は「【お知らせ】合評活動参加のお願い」を発表してユーザーにコメントを促した※27

このような経緯から、B-REVIEWは比較的新しいネット詩サイトでありながら一定以上のコメントがあり、作品を投稿してから数時間で誰かしらからコメントが入る。それへしっかりと返信すれば作品が先頭に移動するので、さらなるコメントも期待できよう。

「自分の詩を誰かに読んでもらいたい」この欲求は詩人なら誰もが抱えている。それを満たすことができるのがB-REVIEWだ。ツイキャス「ビーレビの歴史を振り返る」の中でもこの点についての話が挙がった。
「16歳の某B-REVIEWユーザーはネット検索でビーレビを知り、試しに投稿してみたところすぐにコメントが来た。さまざまな人からレスポンスが来るのがとても良い、と彼は語っていた」(三浦果実)
「Twitterで詩を発表しても反応は無い。しかしB-REVIEWだとある。反応があるのが嬉しくて続けている人はいる。SNSはまだ詩を受容する場にはなっていない。もしSNSがもっとハイテキストになっていくなら詩は絶対必要だし、その時にビーレビは歴史に残る」(mmm)

読まれたいという詩人としての根源的欲求がB-REVIEWでは満たされる。そして、他者の欲求を満たす役割を自分も担うことになる。フリーライダーはそもそも歓迎しておらず、またシステムにより月1作しか投稿できない。2作目以降も投稿したいのであれば、他者の作品へコメントしないといけない。はじめはシステム上仕方なくでよいし短くてもよい。作品を読み、その感想なり批評なりを書く。その経験を積み重ねていく中で、コメント活動そのものが楽しくなってくるはずだ。コメントを書いてもらって嬉しい、コメントを書くのが楽しい、この好循環がB-REVIEWでは高いクオリティで確立・維持されている。もちろん現代詩フォーラムやMY DEAR、あるいは日本WEB詩人会(ぽえ会)※28 にもコメント機能はあるが、恒常的かつ旺盛なコメント活動という点ではB-REVIEWが随一だろう。

「ネットであるがゆえのリアルタイム・双方向の交流」B-REVIEWに限らずネット詩全体の特徴であるだろう。ツイキャス「ビーレビの歴史を振り返る」でも三浦は「詩を書く面白さが真っ先にある一方、詩を読む面白さはなかなか追求 されない。しかしネット詩だとコメントすることで詩を読む楽しさを追求できる」と言及している。本稿において日本現代詩人会のウェブ投稿欄を取り上げなかった理由はここにある。詩人会はあくまでプラットフォームがウェブ上にあるというだけで、投稿後は選者がクローズドで審査して、しばらくしたら入選・佳作が一方的に発表される。そこにリアルタイム・双方向の交流は無く、ただ紙媒体の雑誌における投稿欄がウェブに移っただけだ。ゆえに日本現代詩人会は狭義の意味での「ネット詩」にはあたらない。

B-REVIEWはコメント数もさることながら、一つひとつの文字数も他サイトより多い傾向がある。これは形式上コメントという形を取りながらも行っているのは短めの批評であるからだろう。ユーザーが自主的に動いて千字単位でコメントを書いているのだ。そこには豊かな交流がある。


27 https://www.breview.org/forum_blog/curate  2023年2月18日閲覧
28 https://poet.jp/ 2000年代のネット詩サイト。日本現代詩人会とは異なる。2021年から第2期として活動を再開した。

B-REVIEWの価値とは

さまざまな紆余曲折がありながらも、B-REVIEWは今日まで続き、プラットフォームとして成立してきた。人が集まるための施策が定期的に打ち出され、それのおかげで実際に人が集まってくる。人が集まればコメントが書かれ、それに喜びをおぼえた人が他の作品にコメントを書き、そのコメントが新たな人を招く呼び水となる。B-REVIEWの価値とはつまり、現在進行形で「生きている」サイトであることだ。新陳代謝があり、常に変化しており、それゆえに場が膠着せず人々が流入し続けている。B-REVIEWは有機体なのだ。平成末期に始動したB-REVIEWは令和になっても動き続けている。

あとがき

2000年代初頭の現代詩手帖には「インターネット詩は衰退していく」と書いてあったらしい。しかし現実は衰退せずに今日まで残り続けている。おそらく、現代詩手帖は今日のSNS文化までは予見していなかったのだろう。インターネットの変化スピードは非常に素早く、現代のそれは20年前のインターネット空間とはまったく異なる様相を成している。そういった流れの中にB-REVIEWはある。

インターネットは強い。もはや社会はインターネット無しでは成立しないだろう。しかし弱点もある。例えば、情報量が多すぎるがゆえに人間が編纂しないとすぐインターネットの海の藻屑と化してしまう。ネット詩の歴史もそうだ。わざわざまとめようとする殊勝な人物は少ない。閉鎖してしまいもはや参照しようがないサイトがいくつもある。

わずか6年の歴史しかないB-REVIEWでさえも、数年前の記憶は薄れつつある。どれだけ時間や労力を積み重ねてきたとしても、それを語り伝える者がいなければ、最初から無かったことになってしまう。その危機意識を持つ私がしっかりとB-REVIEWの歴史をまとめなくてはと思いつつも、なかなか実行へ移せずにいた。だから、今回の原稿依頼はまたとないチャンスなのである。誰かから頼まれでもしない限り、この長い歴史をまとめるのは難しい。ご依頼をくださった平居謙先生には心から感謝している。

これがB-REVIEWの正史になることを目指して本稿を執筆した。そのせいか、平居先生からは数千字と連絡がありながら約2万字の長論になってしまった。ウェブ掲載なので文字数超過自体は大丈夫であるが、それにしても加減しなさすぎだなとは自分でも思う。

本稿はあくまで2017年~2023年2月の情報であり、B-REVIEWは今後もその歴史を紡ぎ続けていく。次は誰かが2023年以降の歴史をまとめ、そしてB-REVIEW自体がそうであるように、数多の人の手によってその連鎖が続いていってほしいと、私は願っている。

資料など

B-REVIEW
https://www.breview.org/

☆☆スペシャルサンクス☆☆

2023年1月22日のB-REVIEW公式ツイキャス
「ビーレビの歴史を振り返る」で
コラボ(スピーカーとして参加)してくださった方々

三浦果実 ----------- 初代運営
かるべまさひろ ---------- 2期運営
ふじりゅう(藤井龍平)---------- 3・4期運営
帆場蔵人---------- 3・4期運営
mmm ---------- 5期運営
仁川路朱鳥(仁川路 永扇)---------- 現運営(6期)
沙一 ---------- 現運営(6期)

ツイキャス「ビーレビの歴史を振り返る」の録画動画は以下で視聴できます

参考

B-REVIEWの碑
https://www.breview.org/forum_blog/credit   2023年2月19日閲覧

ネット詩の歴史
https://web.archive.org/web/20200802213023/https://matome.naver.jp/odai/2143806400877209701   2023年2月19日閲覧

詩板コテハン大辞典
https://web.archive.org/web/20191117184452/http://umaa.s19.xrea.com/   2023年2月19日閲覧

ネット詩爆撃プロジェクト
http://web.archive.org/web/20021012121714/http://po-m.com/bomb/index2.htm   2023年2月19日閲覧

澤あづさ「酷評の理想 文学極道とB-REVIEW」(『詩と思想』2017年11月号)

おまけ① B-REVIEW3.0へ移行する前のB-REVIEW魚拓

トップページ  https://archive.li/VXAd3
掲示板  https://archive.fo/RVpYU
ガイドライン  https://archive.fo/6wF8C
アーカイブ  https://archive.fo/PeDOO
アーカイブ(月別)  https://archive.fo/0HUWr
フォーラム  https://archive.fo/oZRgK
フォーラム(記事)  https://archive.fo/Z6sNJ

おまけ② ほかの方々によるB-REVIEWへの言及

ユーカリ(芦野夕狩)氏《文学極道とB-REVIEW》
渡辺八畳が「あえて」書かなかったビーレビの側面です。

夢沢那智氏《「文学極道」最後の日々》
文学極道の晩年にスタッフを務めていた夢沢氏による手記。
一人のユーザーとしてこの顛末を目撃していました。歴史あるサイトがこのような終焉を迎えることに対して残念な気持ちを抱かずにはいられなかった。


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