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REIWA詩人パーフェクトFile①カオティクルConverge!!貴音さん

※「月刊 新次元」第31号(2019年12月)に掲載された記事の再掲です
再掲の際に一部を修正していることがあります
https://gshinjigen.exblog.jp/28776519/
http://geijutushinjigen.web.fc2.com/31watanabe.pdf

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起きて半畳寝て一畳、渡辺八畳ですどうもどうも。
どの業界も一定の人が同じ立ち位置に居続けるということはなく、常に新人が下から突き上げてきます。これは現代詩とて例外ではないです。
とはいえ、詩の業界が抱えている問題の一つとして新規参入のしにくさがあります。令和へと元号が変わった現在も新人は現れ続けており、その中には注目するに値する方もいらっしゃるものの、彼らを紹介するとして詩誌はあまりにもスペースが無く、そして反応が遅い!

そういうわけでして、2018年度『詩と思想』現代詩の新鋭に選ばれ、令和元年に私家版で詩集を出した、まさに「令和詩人」である渡辺八畳自身が、これから台頭してくるであろうホープを独断と偏見で紹介していこうというのが、本企画の趣旨でございます。しばしお付き合いいただけたらありがたいことです。

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さて、記念すべき第一回目として、ものすごいペンネームの方を持ってきてみました。その名も「カオティクルConverge!!貴音さん」。「 さん」までが名前です。vaporwaveじみた名前を持つ貴音さんとは、私が運営に参加している現代詩投稿サイト「B-REVIEW」に彼女が投稿したときが最初の出会いでした。名前からもにじみ出るキャラの濃さと名前負けしない詩力にて、彼女は瞬く間にサイト内の有名人となっていきました。

ちなみに名前の由来は

  • カオティクル→「カオティック」と「ミラクル」の造語

  • Converge!!→氏がファンであるカオティックハードコアバンド「Converge」から

  • 貴音さん→ゲーム「アイドルマスター」のキャラクター「四条貴音」から

らしいです。音楽やゲームなどを柔軟に自作(彼女の場合はペンネームだが)に取り込んでいく、ある種の二次創作性は令和詩人の大きな特徴ですが、それについては以降の回にて触れていきます。
名前だけの一発屋でないことを知っていただくべく、彼女が一番最初にB-REVIEWへ投稿した詩を引用しましょう。

   背中の樹

生まれた時には何も無い綺麗な背中だった
僕もまたそうだった
一歳を過ぎた頃、僕の背中には小さな芽が生えた
家族は僕の背中の芽を写真に収めてる
僕の背中の樹は上へと真っ直ぐと伸びている
それは皆もそうで、細い樹がお遊戯で揺れてる
僕等はいつも元気に外を遊び回る
何処に居ても木漏れ日の下だった
(中略)
お爺ちゃんの背中の樹は88°だった
お爺ちゃんは口癖に言う
「もう直俺は死ぬかもしれんな」と
僕はそれが嫌だとお爺ちゃんに抱き付いてた
だけど、お爺ちゃんは死んだ
背中の樹は90°だった
背中から真横に真っ直ぐと生えていた
葬儀屋は丁寧な穴を掘る
お爺ちゃんを蹲る姿勢にして埋める
お父さんの裾を僕はギュッと握っていた
「お爺ちゃんはこれからは樹として生きるんだ何百年もな」
そんなお父さんの背中の樹は36°だった
背中の樹の角度を見る度に、僕は少し不安だった
まだ1°まだ1°そう言い聞かせてた

B-REVIEWより

視覚化された死期。しかしそれがただ視覚的なギミックで終わらず、世界観とそこからにじみ出る詩情を構築させています。背中の樹が比喩ではなく、詩中世界では確かに在るものだとわかるのは「『お爺ちゃんはこれからは樹として生きるんだ何百年もな』」のセリフから。死へ刻一刻と近づいている様が視認できたら正気じゃいられないでしょう。しかしこの詩中世界ではそれが普通であり、「お爺ちゃん」は気が触れることなく人生を全うしました。ひとつの場が異常かどうかは、外からの視点を持って初めて判断できます。その意味では、詩中主体「僕」は読者と近しい存在であり、すなわち「僕」=読者となり、この異常な詩中主体で生きていかなくてはならない恐怖が読者にも降りかかります。いやはや、恐ろしい。

彼女は他にも多数の作品を B-REVIEW に投稿しているので、ぜひ読んでみてほしいです。たとえば2018年10月にB-REVIEW大賞を受賞した「羽の日」、八十八の掌編で構成されている「詩国お遍路(1/2)」「 詩国お遍路(2/2)」などがあります。

貴音さんは名前負けしない、しっかりとした詩力を持つ詩人です。実際、彼女はB-REVIEWの登場こそ2017年10月ですが、それ以前は長らく「詩学ハードコア」や「詩々16番街」といったネット詩の企画に参加していたらしいので、詩歴は相当あります。ネットで詩を展開してきた、ってのも現代だよねってことで第 1 回目に選んだってところもありまして。もはや紙媒体でしか活動しない詩人は遅れているどころか嘲笑の対象です。 貴音さんは現在、詩誌(ユリイカ)の投稿に挑戦されています。ペンネームは流石に「カオティクルConverge!!貴音さん」ではなく毎回変えているらしいですが、どの名義にせよ「貴音」は入るそうです。見かけたらぜひ応援してください。

ただ、一つ心配なことがありまして。実は2019年の1月終わりごろ、彼女は一時期昏睡状態に陥り、親族がTwitterにその旨を代理投稿するという事件が起きました。なんとも、階段から転げ落ちて後頭部を強打→その時は大丈夫だったから外で煙草を吸っていたら瓦が落ちてきて気絶 という悪魔みたいなコンボを喰らったらしく、それで脳内の血腫が悪化して昏睡したとか。
貴音さん、その少し前に「鈴の音」を聞いたらしくて。貴音さんは宮城県石巻在住なのですが、彼女が住む地域では「死期を知らせる神様が鈴を鳴らして近づいてくる」という伝承があるらしい。貴音さんが聞いた鈴の音は遠くで鳴っていたからか今回は生き永らえましたが、耳元でしゃんしゃん鳴っているのを聞いていた近所のおじいさんは実際に間も無く亡くなってしまったとか。
貴音さんは幼少期、近所の山で遊んでいたら祠を見つけて、そこに置いてあった壺を壊してしまい、途端目の前が光に包まれるという経験をしたらしいです。その筋の方曰く壺は山の邪気を吸ってくれている神様の依り代で、しかし壊されてしまったため代わりに貴音さんに乗り移ったとか。それ以降、やはり怪異なるものとの親和性が高くなってしまったらしいです。
鈴の音は悪霊ではなく、あくまで「死期を知らせる神様」(山の神とはおそらく別)であるため祓うことはできず、仮に祓えたとしても意味はないらしい。禍福を超えた、まさに人とは異なるものを携えなくてはいけないという、なんとも奇怪な星の元に生まれてしまった彼女が今後も活動できるかどうか、それを含めて「令和詩人」として注目しています。

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