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男はいつまで経っても厨ニなので。

又吉直樹氏の「劇場」を読んだ。

正しくは、最近加入したサブスクのAudibleで朗読を「聴いた」のだけれど。

このAudibleというサブスクリプションサービスでは、毎月一冊、無料で読めるボーナスタイトルがプレゼントされる。2021年1月度のボーナスタイトルがこの「劇場」という小説であった。

ちなみにメインコンテンツとして、毎月自由に一冊本を選んで読めるのだが、これには普段高くて買えない心理学関連の本を選んで「聴いた」。
別に知的ぶってる訳ではない。もとより僕の本棚にはいくつか心理学系の本が並んでおり、そもそもそういう分野を好む。

話が逸れた。

物語を読むのは久しぶりで、尚且こういった現代が舞台の「純文学」っぽい物を読んだのは、初めてかも知れない。なので、極めて新鮮な感覚で読めたように思う。

Amazonのレビューを覗けば、ヒロインの設定や、主人公との恋愛関係について、「こんな従順な女性はいない」とか、「女性心理をまったく無視して書いている」という割りと感情任せな感想もあり笑ってしまった。

こんな女性がいないかどうかは、読んだその人の人生経験で変わるハズだ。人との出会いが多ければ、もしかすれば、常識外れに従順な女性と知り合っていたかも知れないし。「この人の為に自分の全てを捧げたい」と思えるくらいの素晴らしいパートナーに出会っていたなら、自分自身がとても従順な人間になっていたかも知れないのである。

だからこの作品のレビューとして、言い切り型の言葉で「こんな従順な女性はいない」と投稿してしまうのは、自分の人生経験の浅さを露見させる恥ずかしい行為のように思う。

ヒロインは主人公に自分の分の夢も賭けていたのではないか、と僕はそう思う。出会った頃は二人共が同じジャンルの夢を追っていた。しかし、彼女の方はどこかなかば夢に挫折した後のような、そんな印象を僕は感じながら読んでいた。

一度は彼の誘いで、彼の作品に関わり夢を再熱させるけれど、それ以降は彼からの誘いはなく、彼女はどんどん自信を失って行き、時間とともにしょぼくれて行ったように感じた。しかし、自分の時間や稼いだ金銭で彼を支える事で、彼女の夢は補完されていたのではないか。

そんな彼女の気持ちが彼から離れて行ったのは、勿論、彼の彼女への感謝や愛情表現が足らなかったからというのもあるだろう。作中では周囲からクズと言われているがその通りで、不器用を通り越してクズ中のクズである。

それとは別に、彼と彼女が一緒にいた長い時間が、二人の間にズレを産んだように思った。

女性は初潮が始まるまでに子どもを育てる為の体の準備が始まり、男性よりも早く心と体が大人になる。ある女性のブログにそのような事が書いてありなるほどなと思った記憶がある。
比べて、男性は体は成長しても、心は中学生くらいから全く成長していない。恥ずかしながら実感がある。

友人と顔を合わせれば、一瞬で子どもの頃に返ったようにただただ馬鹿な話が出来るし、まだまだ夢を追えるような気持ちにもなれる。

本作の主人公は別段、性格が自分本位な子どもっぽい人物であるから、いつまでも変わらず夢を追い続けていたい彼と、もう夢を追い続けるよりもどこかに根を下ろして安定したい彼女との間でズレてしまったのだ。

僕自身、バンドマンをやっていたので、ヒモになった経験は無いが長らく一緒にいてくれた人に、「○○ちゃんは悪くないの。変わったのは私だから、ごめんね」と言われ、二人共に泣きながら別れた事がある。

この作品は昔の悲しい別れを、深い反省とともに思い出させてくれた。

どこまで変われたか、成長したかは判らないけれど。前述の別れ以降、僕は出来る限りの自分改革を行ったツモリだ。判定は勝手ながら、次に出会うパートナーに委ねたい。

本作の主人公は別れの後、成長しただろうか?

物語に続きがあるなら、彼のその後の成長を読んでみたい気がする。

タイトル画像:https://pixabay.com/
画像製作者:Andreas Glöckner

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