座っていたらいきなり怒鳴られ危ない事になった話
よく行く公民館にペッパーが導入された。
しかし、私が行くと常に元気のない状態であり、高い所から落下した悪役が鋭角のオブジェに突き刺さり絶命している様なポージングをとっていた。
その日、公民館を借りて行っていた練習が終わり受付へ向かったが長蛇の列であった。
空くまでペッパーの横のソファーでペッパー共々項垂れていると、私はいつの間にかうたた寝をしてしまっていた。
しばらくするとオヤジがペッパーに執拗に
「会議室どこ?おい!聞いてんのか!」
と、語りかけている声で意識が戻った。
目を開けるのも億劫だったのでしばらく放っておいたが、ペッパーに襲いかかりそうな勢いであった為
「ペッパーは今事情があって話せません」
と伝え目を開くとオヤジはこちらに顔を向けており、どうやらペッパーではなく私に話しかけていたようであった。
私は自分をペッパーだと思い込んでいる、一人称がペッパーの頭のおかしい奴と化した。
オヤジは数秒止まった後
「お前ペッパー違うだろ……」
と冷静に言葉を漏らした。
確かに違うのでオヤジにその旨を返事したが
「そうでした……私はペッパーではない……」
と、急に洗脳が解け正気を取り戻したかのようになり、側から見ればオヤジは命の恩人のようになった。
当のペッパーに視線を向けると、いつの間にか姿勢を正していた。何故このオヤジはペッパーよりも遥かに駄目そうに項垂れていた私に声をかけたのだろうか。
オヤジにペッパーに訊くよう促すと先程試したが反応しなかったと言うので、私がペッパーに喋りかけてみる事にした。
しかしその瞬間、まだ語りかけていないというのにペッパーがこちらにぐるりと顔を向け
「今、あなたの視線を感知しました」
と、敵の視線を察知した殺し屋の様な事を言い出し背筋が凍る事態となった。
「おじさん、若干不気味ですがとりあえず反応してくれましたよ」
とオヤジの方へ顔を向け後の始末を全投げしようとしたが、オヤジも妙な恐怖を覚えたのか言葉に詰まっていた。
とりあえず私はペッパーさんに失礼のない様挨拶から始めようとしたが「こんにち…」まで声を発したところで
「聞こえません、もっと大きな声で喋ってください」
と、被せ気味に言葉を遮られた。
学校の教員には居て欲しくないタイプである。
私は再度オヤジの方へ振り向き
「おじさん、何かこのペッパー圧強いですよ。どうします?」
と、相談すると、オヤジは下を向き
「一々報告しなくていい……」と、言葉を漏らした。
ペッパーさんはそんな我々に縛れを切らしたのか突如
「一緒に遊びましょう」
と言い出した。
ファーストセッションが恐ろしすぎた事と、今までの圧の強さからゆえ
「ワタシが目からビームを放つので、焼き切られないよう逃げ回ってください」
とでも言いそうな雰囲気があった。
我々は得体の知れぬ恐怖を感じ
「オジサン、何か始まりましたよ。早く何とかしてくださいよ」
「嫌だよ。キミ何とかしてくれよ」
と、ついにはペッパーのなすり付け合いにまで発展した。
会議室の場所は結局ペッパーの口から語られる事はなかった。
【追記】
我々は何となくそのまま後退し、徐々にペッパーの間合いから外れていった。
受付に並んでいる最後尾の人が終始こちらを見ていて視線が気になったが、我々が後ずさる姿を見ると背を向け視線を落とした。
目を合わせてはいけないと本能が察知したのかもしれない。
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