身近な人物が敷地内に無断で物を埋めていたところに遭遇した話

同じクラスの友人の庭で行われた「ジャガイモを掘る会」に参加した。

突如現れた地域のオヤジが掘り方の手本を見せてくれた後、さあやってみろというので友人と地域のオヤジが見守る中、いよいよ私は満を持してスコップを土に入れた。
すると、土中から人の顔のような不気味な巨大ジャガイモがボゴォ……と、現れた。

思っていたのと違う。
ジャガイモを掘りに来たのに、ヴォルデモート卿を掘り起こしてしまった。
その芋の顔はあまりにも酷似していた。
たった一つの芋が我々のひとときを不穏な空気で包み込んでいった。

隣にいた友人が「え……」と、声を漏らした。
まさか自分の家からヴォルデモート卿が出土するとは思わなかったのだろう。
何故か掘り当てた私が悪い雰囲気が漂った。
地域のオヤジが土のせいで顔に見えるのではないかと助け舟を出してくれたので、早速土を払った。
しかしヴォルデモート卿の顔色が良くなっただけであった。
なんなら目口と肌にメリハリがついてより事態は悪化した。
言葉を失ったまま、私の顔と芋の顔をオヤジへ向けると

「なんか、ごめんね……わるかった……」

と、オヤジは口元を緩ませながら謝罪した。
オヤジは私たちを救うには力不足であった。

友人が一旦席を外すと、友人の弟が私に近づいてきた。
先程小さな虫が土から出てきて大泣きしていた五歳児が、今度は土から人面芋が出てきたと知ればその精神にかかる負担は計り知れない。
私は努めて陽気さを保ち、友人の弟の目に触れぬよう体で隠しながら芋を再び埋める他なかった。

友人が戻ってくると、笑顔で不気味な芋を埋めている私の姿が映った。
何をしているという友人の問いかけに、「芋を埋めているだけですが」と返したが、よく考えれば目の前で人の顔をしている芋を敷地内に埋められていたら確かに何か嫌だ。
必ず持ち帰るようにとの友人のお達しが出た為、埋めた場所の目印としてそこら辺にあった石を置いた。
簡易的な墓のようになってしまい、不気味さに一層拍車が掛かってしまった。
友人は私がちゃんと芋を持ち帰るかを見張るため墓守と化した。

そのまま他の小さい子の収穫も手伝った為、私の収穫はほぼヴォルデモート卿だけになってしまった。
石を退かして掘り起こし、人間味溢れる芋をビニール袋に詰める様はさぞかし事件性を醸し出していた事だろう。
先程の地域のオヤジが肩を震わせながらこちらを見ているが、お前が救えなかった物語の結末である。

家に持ち帰り、私は台所で芋を洗った。
母にフライドポテトにしてもらうのだ。
迫力溢れるヴォルデモート卿を丁寧に洗う光景を目にした姉がそれをどうするつもりかと訊ねてきたので、揚げて食うつもりだと述べると、「正気か?」という顔をした。
そして、念の為お祓いでもした方が良いのではないかと言い出した。
それほどまでに不気味な芋であった為、そう言われると私も何もせずに食べても良いものかと段々と不安になってきた。
姉が写真に収めようとカメラを取りに行き、私が母に相談している間、祖母の手によって芋は鍋に投入されていた。

その日の晩御飯は芋の味噌汁が出た。
美味しかったが、私と姉は深刻な顔でそれを食した。

【追記 姉と芋】
乱切りにされた味噌汁の芋を見て、姉は呆然としていた。
杖をおもむろに尻に挟み、尻圧でへし折られる様を見せつけられたハリーの顔を想像して頂ければ良いだろう。

芋の味噌汁があまり好きでは無い姉は、せめてフライドポテトが良かったとその胸中を私にそっと明かした。
しかし、作ってくれた祖母の前では決して言葉に出さず、食卓に出されたものはちゃんと完食しているところは、私が姉の好きなところの1つである。 


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