新幹線で座っていたら予測の付かない事態になり悔しい思いをした話

友人と二人で新幹線に乗ったが座席が前後に分かれてしまった。
私は通路側に座り隣は知らぬおじさんの二人組であり、後ろに友人と幼児と母親が座っていたが幼児が愚図り母親が困っていた。

心配になり後ろを向いたところ、友人が先に母親に大丈夫ですよと声をかけた。そのまま子供に「前の席からディズニーのキャラクターが出てくるよ」と言い、私に目配せをした。
幼児は少し興味を持ったのか「アナ?オラフ?」と予想を口にした。
急で狼狽えつつも私は友人の意図を察し、一度座席に隠れ、準備を整えた。

数秒後、母子と友人の前に、額を露出させ英字の「C」の様な形の首に挟むクッションをカチューシャのように頭に装着した生き物が
「ミッキー」
と言いながら背もたれから姿を覗かせた。
アナやオラフどころか、もはやミッキーかどうかも危うい存在となった。

事前に知っていればより高度なミッキーに仕上げられたのにと少々悔しい思いをした。
そのままだとドラえもんのようなフォルムになる為、クッションの真ん中を手で押さえミッキーの耳を表現したが、サルの様なコミカルなポージングとなってしまった。
プロポーズなどの誠実さを問われるシーンに横に現れたら思わず殴りたくなるような風貌であった。

友人は後に「カバンに付けていたミッキーのストラップを見せろという意味で言った。お前がなるとは思わなかった」と、語った。
友人の言葉が足らなかった為に、海外の非合法なお土産よりもクオリティの低いミッキーが生まれた。

子供の笑顔を見るために行った筈なのに、肝心の子供は停止していた。
むしろ子供よりも母親とその周辺の大人達に妙な効き方をしている。
ふと、視線を感じて横を見ると座席の真ん中のオヤジと目が合った。

ちゃんとミッキーに見えるだろうかと不安になり、目が合ったついでに「ミッキーに見えますかね?」とオヤジに問う事にした。
しかし、実際出た言葉は恐ろしく短縮化された
「ミッキー?」
であった為、鳴き声が「ミッキー」という謎の生命体と化した。
オヤジは「俺に訊くな。あとお前はミッキーではない」と思った事だろう。

すると、真ん中のオヤジの隣の窓際のオヤジが突如幼児に向かい
「日の出」
と言いながら一度沈み、その後自分の禿頭をゆっくりと背もたれから出現させた。
ここから我々の真の苦行の時間が始まった。

オヤジの太陽はそこに留まらず周辺をも照らし我々に直撃した。
子供に笑顔は戻ったが、母親の方は笑顔を通り越し重症となった。
友人はもう人の言語を喋れなくなっていた。
しかし、一番辛いのは真ん中のオヤジであった。 
気を紛らわせようと窓の方を見ればオヤジの日の出が、反対側にはミッキーの類いがオヤジを待ち受けている。
真ん中のオヤジは一度席を外そうと思ったのかこちらを向いて少し腰を浮かせた。
しかし、その瞬間オヤジの視界には吹き出さぬよう必死に耐えている凄まじい形相の人のミッキーが映った。
オヤジは己の運命を受け入れた。
静かに腰を落とし、ただただ声を漏らしながら耐え忍んでいた。

私たちの目はもう日の出のオヤジに釘付けであった。
すると、日の出のオヤジは
「日の入り」
と呟き再び背もたれに沈んでいった。
何故トドメを刺しに来たのだろうか。
我々は限界を迎えた。

【追記】
そして、その後発覚する事だが、この時頭に使っていたのは赤ちゃん用のネックピローであった。
通りで少々大きいと思った。


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