他の人の写真に写ってしまいそこから大変な事になった話

地域の交流会で餅つきをした。
我々は子供たちと遊び、共に餅つき体験をし、そのイベントを楽しんだ。

後日、カメラマンをしていた知人に呼び出された。
公民館にイベントの様子として写真を張り出さねばならないらしいが、深刻な顔をしていた。

もしかして、私が帰った後に参加者に揉め事や事故でもあったのだろうかと不安がよぎった。
カメラマンは私にアルバムを差し出した。
捲ると、凄まじい形相の人間が棒の様な物を振り下ろす様が写っていた。
恐ろしい事件かと思ったら杵を振り下ろす私であった。
ガンバの冒険のネズミ目線で見たイタチを彷彿とさせる、餅目線から見た私の恐ろしさを知った。

更にページを進めると、妖怪小豆洗いがグラビアデビューした際に表紙を飾るであろう、上目遣いで餅を啜る様が映っていた。
グラビア界に物議を醸す一枚であった。

他の写真に映る私も人ならざる表情を浮かべており、挙句の果てには髪を逆立て邪悪な笑顔でジャンプする人を殺めるタイプのピエロが現れた。
良い獲物をみつけ胸の高鳴りが抑えられない、そんな笑顔であった。

一見するとバラエティ豊かな種族が地域の餅つきに参加したように見えた。
命を狙って来るため参加をご遠慮願いたいタイプの存在であるが、安心してほしい。
全て私である。

限りなく恐怖写真に近い生身の人間の写真が陳列された。
大抵子供が集まるところに私がいる為、どうしてもいたいげな子供達の中に邪悪な存在が映り込みカメラマンは頭を抱えていた。

写真を見進める程に何故か私の邪悪さに磨きがかかっていった。その人相から察するにページを捲る毎に人を手にかけた人数が増えていっている。
このままでは穏やかな地域住民との交流の記録が、不穏な住民達の獲物の品定めの記録と化してしまう。

カメラマンはやけくそになり
「なんでどんどん邪悪になるんですか、今すぐちゃんとした顔になってください」
などと人知を超えた要求をしてきた。
餅つきを通して竹取物語で無理難題を押しつけられる帝の気持ちを知った。

後半、カメラマンは勢いを失い
「僕の撮影技術が低いために申し訳ない…」
などと声を漏らした。
私の写真写りが壊滅的な為、カメラマンの情緒に異常をきたしてきた。
必ず使える写真があるはずだと探すと、一枚だけ子供達と映り優しげな良い笑顔で手のひらで方向を示している私の写真が現れた。

しかし、手の示す先を見ると動物の糞が写っていた。
「これは狸の糞です」
と、皆に教えた記憶が蘇った。
「何でウンコの前でだけちゃんとした表情してるんですか、使えないじゃないですか!」
遂にカメラマンは発狂した。
良いカメラで撮った物がこの有様であるという、辛い現実が彼を蝕んでしまった。
何故このような試練が彼に与えられたのだろうか。

私達は一度視界を浄化する為に、数少ない張り出せそうな写真を見た。
満面の笑みで餅を頬張る子供達を撮った良い写真であった。
しかし、よく見ると写真の後方に卑屈に笑う脱皮途中の河童が映っていた。
腰をくの字に曲げ、スウェットを肘まで脱いでいる私であった。

この時ほど己の写真写りを恨んだ事はない。


【追記】
因みにピエロの写真は三段階あった。

邪悪な笑顔でジャンプするピエロから、カメラに気付きニヒルに笑いこちらに歩みを進めるピエロ、そして最後にはレンズに手を伸ばすピエロ。

物語の鍵を握る、現場に落ちていたカメラマンの遺品フィルムのようになっていた。

※こう書くとカメラ好きの人は「レンズに手を…」と、違う意味でぞっとするかもしれぬが、実際には触れていないので安心してほしい。
このピエロはそこまで無慈悲ではない。


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