変質者の被害にあった話


課題の為、友人と川の生き物の観察へ行くとTシャツにパンツ一枚という明らかに布の足りないオヤジが川の中で仁王立ちしていた。

思っていたのとは違う川の生き物と出会ってしまった。
私はあれは露出狂ではないか?と友人に申すと、友人はそうと決めるには些か早計ではないかと審議が分かれるところであった。
視線を戻すと、目を離した一瞬の隙にオヤジは尻を披露しておりオヤジの露出度は大幅にアップしていた。
私の中であのオヤジは完全に露出狂に分類を果たしたと告げると、友人は
「8割方露出狂」
と、まだ慎重に審議を重ねていた。

オヤジが手を離した拍子にパンツが足首に落ち、我々はオヤジのパンツのフリーホールという地獄のようなアトラクションを網膜に焼き付ける事となった。
しかし、オヤジもそこまでは下げる気はなかったのか、狼狽え始めた。

私はとりあえず警察に一報入れたが、通報に不慣れな為

「オヤジが尻から川を出しています」

などと、何らかの川の発祥にまつわる不気味な伝承を語るような発言となった。
正しくは「オヤジが川で尻を出している」であるが、もはや私では警察からの信頼を得られないと判断した友人によりスマホを奪われ、以降友人が対応する事となった。

手持ち無沙汰となり、部屋の隅で発見した謎の虫を見る気持ちでオヤジを観察していると、オヤジは挙動不審な動きを見せた後にバランスを崩し水飛沫を上げた。
恐らくパンツが足枷となったのだろう。

その拍子にオヤジの足首からパンツが抜け、こちらに向かい徐々に流れてきた。

桃太郎の老婆ですら無視を決め込む漂流物が今前方を通過しようとしている。
我々も出来れば全力で無視したいところであったが、ここに来る道中に川下に子供達がいるのを見かけていた為、オヤジのパンツを見逃す事は許されなかった。

近くにあった適当な折れた角材でパンツを掬い上げ、ハンカチのノリで「落としましたよ」とオヤジにパンツを渡そうと試みたが、その角材が少々巨大であった為に何かをカチ割りそうな雰囲気が漂ったのか、オヤジは上流へ走り出した。
このままオヤジを逃せば、所在を失ったオヤジのパンツを保持する未来が待っている。
私は川沿いにオヤジを追った。

ふと、私の脳裏に川に浮かべた葉を追いかけた無邪気な幼少時代が思い出された。
しかし今や同じ川辺で葉の代わりにプーさんスタイルのオヤジを追いかけている。
私の思い出に嫌な上書き保存が施された瞬間であった。

道中、釣りをしていた対岸のジジイがこちらに気が付き
「なんだぁ!?お前ら!?」
と声をあげた。
「お前ら」というところがどうにも不穏であった。
確かにずぶ濡れの半裸オヤジをパンツと角材を振り上げ追い回しているが、被害者は私の方でお間違いない。
その事を示しつつ通報が混線せぬよう「通報済み」だと述べたが
「大丈夫です、今出頭中です」
などと出頭ついでに最後に一華さかせようとしている全く大丈夫ではない変質者一味と化した。

やがてオヤジは陸に上がり力尽きた。
警官と友人は、その後オヤジにパンツを何としても押し付けようとしている私の姿を目にした。
友人が警官の隣にいなければ私も危ういところであった。


【追記】

枯れた大地に三人の兄弟の神が降り立った。
長男の神が口から息を吹きかればたちまち土壌に緑が芽生え、次男の神が足を踏み鳴らせば地から山が生まれ、三男の神が尻から水を出せば川が生まれた。
こうして、土地の三神により、緑豊かな土壌が創られた。

       〜土地の伝承•創造の地〜



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