見出し画像

茜空に漂う人魚

幼い頃の記憶・・・

すごく暑い夏の日、大人と子供が集まるナニカのイベントに参加していた。どこかの宿泊施設に泊まっていて海水浴をしたりバーベキューをしたり、夏を満喫している、という感じだった。

もう記憶自体は曖昧なのだけどそこに真っ黒に日焼けした同い年の女の子がいた。顔立ちも名前も覚えていないけれど、なかなか知らない女の子と話が出来なかった私の手を引いて二人で泳ごうと誘ってくれた。

石で積み上げられた突堤をはさみ他の人たちには見えない所でボール遊びをしていたのだが、海側にいた私は彼女の投げたボールを取り損なってしまい、少し沖の方へと流れていってしまったのだ。

私は水泳を含む運動全般が得意ではない。あたふたしていると彼女が海に飛び込み、うつくしい泳ぎを披露し難なくボールを取って来てくれた。すごくまぶしかった。顔立ちも名前も覚えていない
けれど、彼女の日に焼けたすらりとのびた手足と鮮やかな緑色の水着が脳裏に焼き付いている・・・・夕暮れ時、二人で部屋に戻ってトランプをしていた時、何となく窓の外を見ると、美しい茜色の夕空がひろがっていた。

人魚2

妄想・・・

ふと散歩に出かけた夕暮れ時、空の色は茜色に染まっていた。

漂っている・・・ フワフワと・・・大小さまざまな大きさの身体の色素が薄そうな魚類のような化け物たちと 巨大に光る無数の目を持つクジラのような化け物たち。それらを従えるように漂う・・・あれは人魚・・・なのか。

幼い頃の彼女の記憶とリンクする・・・鮮やかな緑色の水着の・・・記憶と妄想が脳内で入り乱れる。

人はよく記憶を改ざんする。もしかしたらあの少女も私の作った記憶なのではないかと勘ぐってしまう・・・私はなんとなくその人魚の群れに向かって手を伸ばした。その人魚の長い髪で私の事を絡めとり、人魚たちが向かうであろうその先の場所に連れて行ってほしいと願ったのだ。
人魚は私の方を見て微笑んだ気がした・・・気のせいかもしれない、でも私は少し嬉しくなってしまった。あの人魚はあの幼い頃に出会った少女に違いないと思った。
沈もうとする太陽の方に向かってその群れは消えていった・・・・・

気がつくと暗くなっていて、反対側の空には月があがっていた。
その月は冷たい光で私をやさしく包み込んでくれているようだった。

私の妄想はここで終わった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?