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Open Access 資料の紹介       「芸術の論理」        (Auth:熊谷孝、Pub:三省堂、1973) 本文:日本語

Open Access 資料の紹介 「芸術の論理」(Auth:熊谷孝、Pub:三省堂、1973) 本文:日本語

拙い若干の解説

    

芸術認識論(パブロフの第二信号系理論)の立場による日本文学史へのアプローチを進めて いた良書である。 アメリカのデューイやランガーといった観念論哲学を批判的に摂取しつつ、彼らが優れて 観念論から逸脱している部分を評価し、熊谷孝と乾孝らが進めていたパブロフの第二信号 系理論に立脚した芸術認識論、言語認識論へ応用させるための指標的な論考といえるだろ う。 日本の学術界と出版会の閉鎖性からほとんど「なかったもの」にされそうな状況があったが、 私がかつて所属していた「文学教育研究者集団:文教研)の努力により、三省堂書店を含め た著作権処理が済み、オープンアクセス資料として公開することができた。 1970 年代初頭といえば、日本の人権・言論・学術・労働などの市民活動が大きく岐路に立 たされ、人々が分断され、民主的な機運そのものが太平洋戦争以前にまで後退させられたよ うな、そんな敗北感を味合わせるに十分な時代でもあった。 この後、カルト的な宗教団体によって政財界をはじめ人々を分断する事を進めていた。個人 主義から記号化・孤立化へとあたかもそれが本来の民主主義社会における自由であるかの ように。 社会的存在として育まれるべきプロセス(家族や社会や集団の中で育まれる自我や関係性 や行動選択の学習など)が叱られたり失敗したり権威者・権力から逸脱しない方法手段がも たらされていった。 1955 年に自由民主党が政権を取ってから(55 年体制)、「世界人権宣言」の「社会権条約」 は無期限凍結とされ、学校教育に向けては文部省(当時)へ「教育課程審議会」による「学 習指導要領」で学校教育現場は支配されるようになっていった。教科教育主導となるだけで なく特設「道徳」のカリキュラムが持ち込まれていった。 「公民」の廃止と「現代社会」の設置、という具合に教科の呼称が変更されるたびに「考察 より知識」「尊重より理解」と評価基準が変更されつづけた。 議論や社会的示威行動や組織や職域や属性を超えた連帯という視点が奪われ、それがあ たかも若者の責任であるかのように

◆三無主義
 1970 年。無気力、無関心、無責任(無感動を加えて四無主義)といわれる当時高校生の性 格を指していったことば。
◆五無主義 1980 年。かつての四無主義、無気力、無責任、無関心、無感動に、あいさつもろくにでき ない「無作法」が加わって五無となり、主義というのもおこがましいナイナイづくしの五無 生徒がふえてきた。この年1月の日教組教研集会からの報告。 という標語が掲げられ冷たく切り捨てられていった。

 さて、そのような状況の岐路に立つ 1970 年代、この本は出版されたのである。著作物は執 筆・発表された場面の条件に規定される。 21 世紀の今日、熊谷の文章はやや古風に感じられる人も多いかもしれないが、アメリカ心 理学一辺倒(プラグマチズムと記号論へ走った功利主義)だった日本の中で実はソヴィエト 科学アカデミーの成果物を批判的検証しながら日本と世界を見つめた一群の科学者たちも あったことを認め、その成果からもまなばねばならないのではないだろうか。 労働組合のナショナルセンターの分断や教職員組合の分断、日本フィルハーモニーなど芸 術団体の解体、あらゆる面で効率主義・個人分断が強化されることで国民の成果を称えあう ような空気はなくなり、天皇の名によって政府機関が表彰する、という時代に逆戻りしつつ ある。

目次は次の通り
目 次
I 芸術の原点への思索
 1 創造の担い手としての鑑賞者
 2 芸術過程と生活過程
 3 哲学と科学の間――ダイナミック・イメージ(一)
 4 ダイナミック・イメージ(二)
 5 認識と表現の間――客観的真実と主体的真実と

II 虚構・想像・典型
 1 イメージ――その実像と虚像と
 2 悪文礼賛――典型の認識(一)
 3 実践にとってイメージとは何か――典型の認識(二)
 4 戦後日本の想像力理論
 5 現実と作品の間――文学にとって主題とは何か

III 現代史としての文学史
 1 課題と方法意識――『歎異抄』と『日本の橋』と
 2 “あそび”の精神――鴎外の場合
 3 芥川文学の成立に関する若干の証言
 4 芥川文学の地下水と主題的発想

 あとがき 芥川文学 略年表

URL: https://bunkyoken.org/71kumagai/kumagaitakasidigitaltextkan/kumagaiDtextT197305.html

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