許されないにわか
僕はにわか○○と呼ばれる人にはあまり嫌悪感を抱かないタイプだ。
誰しもにわかの時期があるのに、それを否定するのは良くないと思う。
ただ、「にわかコミュ障」だけはマジで許せない。
大学の少人数授業の初日、ちょっとオタクっぽい若い女性の教授が「わたしコミュ障なんですよ~」みたいなことを言っていた。
これは好感がもてるぞと思って普通に授業を受けていたら、教授は突然、こんなことを言い出した。
「今日は、アイスブレイクのためにお菓子パーティーをします!」
アイスブレイク………???
本当にコミュ障ならそんな言葉は使わないはずだが、まあ大学教授ともなると違ってくるのかなと思ってスルーした。
いや待てよ。
お菓子パーティー……???
本当にコミュ障ならそんなイベントは催さないはずだ。
コミュ障がお菓子パーティーに参加したところで、誰とも話せず手持無沙汰になるだけなのに。
ただただクッキーとかポテチを食いまくって口の中が砂漠になるだけなのに。
僕の教授に対する信頼は少しづつ揺らぎ始めた。
お菓子パーティーが始まった。
周りは韓国とスポーツの話しかしないので、僕はもちろんフードファイターのごとくもそもそお菓子を食べていた。おかげで飯代が浮いた。
そのころ教授は、「私コミュ障なんで仲良くしてください…」と色んな人に言って回っていた。
僕はどんな顔をしてればよかったのだろうか。
この教室の中で一番コミュ障なのは絶対に僕である。
お菓子パーティーで飯代浮くぐらいお菓子食べる奴なんか社会不適合者に決まっている。
なのになんとなくコミュ障に足突っ込んでるみたいな大人がコミュ障自虐を連発していたら、僕の立ち位置はどうなるんだ。
僕は体がどんどん半透明になっていく気がした。
すると、教授が話しかけてきた。
「………どうっすか?」
怖。
何?「どうっすか」って…
僕は思わず、「どうっすかって何ですか?」と返してしまった。
「エヘヘ…」
教授は笑った。
そのあと、何も続かなかった。
僕は完全に察知した。
この人は完全に「にわかコミュ障」だ。
「にわか○○」はたくさんあるが、その中でも批判されるのは「人に迷惑をかける人」のことだろう。
例えばオフサイドも知らないにわかサッカーファンが盛り上がりすぎて全裸になって捕まったら、それは怒られても仕方ない。
ホンモノのサッカーファンのイメージ低下にもつながってしまう。
そして、「にわかコミュ障」も、よく人に迷惑をかける。
ホンモノのコミュ障の目の前でコミュ障自虐を始めてしまうのもその一例だ。
さらに、にわかコミュ障は、まだ完全にコミュ障になりきれていない部分があるので、コミュニケーション能力がないくせに人に話しかけようとする。
「話しかけた人」には「話を広げる義務」があると思う。
先ほどの「どうっすか?」の件も、「どうっすかって何ですか」に対するアンサーは絶対用意してないといけないはずだ。
こんなにもノープランで会話をふっかけてくるのは、ママチャリで高速道路を走ろうとしているようなものである。
案の定、「エヘヘ…」の後は地獄みたいな空気になった。大事故だ。
僕は自分のコミュニケーション能力のなさをちゃんと自覚しているので、むやみやたらと人に話しかけることはしない。
ちゃんと話を広げるための展開を思いついてから話しかける。
ただそんなことは滅多にないので基本自分からは話しかけない。
人に気を使わせといてなんてこと言うんだと思うかもしれないが、気を使うほどの余裕がないなら無理して助けてくれなくていい。
その後、教授はどっかのパリピに「教授のこと、(下の名前)ちゃんって読んでもいいですかア~??」という感じであだ名をつけられ、いじられキャラみたいな立ち位置を獲得していた。初めからそういう計画だったのかもしれない。
教室の隅でひとりオレオを食べまくり、歯がダルメシアンみたいになった僕の背後で、こんな会話が聞こえてきた。
「先生って全然コミュ障じゃないじゃーん!!」
「いやいや…お昼とか、いつもぼっち飯なんで…」
「エッ!?ぼっちなら俺と食べればいいじゃーん!!!」
「アハハッ。じゃあ今度行きますかー」
「いややっぱお断りしますわー!!」
一同爆笑。
僕の体は完全な透明になった。
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