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無敵の風呂上がり

何の予定もない日、夜7時くらいに入浴するとそこから無敵の時間が始まる。

1日にこなさなければいけないタスクのラスボスとして毎日君臨する「お風呂」。丸腰での水攻めを強いられるため勝利には高いコストを要するが、これさえ倒せば夜明けまでの平穏が得られる。

この時間帯では動画を見ようがチキン南蛮と白米で優勝しようが何をしてもいい。動きやすさだけで着る服を選んでもいい。邪魔なタスクは一時的に消滅し、勇者の体は七色に輝き出す。思う存分無敵を楽しんだら布団に入り、何もない日の素晴らしさをセーブすればいい。



思えば、大学生活は毎分毎秒が無敵の時間だった気がする。

もちろん学校に行かないと留年するしバイトしないと死ぬのだが、学校で何を学ぶかは完全に自由。何のバイトで金を稼ぐのかも完全に自由。社員ならそれなりの責任もつきまとうが、バイトなら最悪バックレても笑い話でギリなんとかなる。

寝ずに朝を迎えてもリセットさんには怒られない。

卒業が近づけば就活もしなければならなくなるが、それも自分のペースで進められる。何なら別にしなくても生きていけるらしい。

受験というお風呂から上がった人間を誰が止められようか。
「受験というお風呂ってなんだ」という疑問すら私には効かない。

課金して無敵の時間を伸ばす留年ももはや合理的に思えてくる。

内部生ならもっと無敵の時間は長い。ただこの選択はそう単純にできるものではないだろう。みんなが旅行を楽しんでる中で一人だけ「ちょっと温泉入るわ」と無敵になれる勇者はSSレアだ。結局、楽して平穏を得ることなど不可能である。




そんなことを言ったら小学生の頃はもっと無敵だった気もするが、彼らは「親」に立ち向かう装備は有していない。端っこがピンクのレシートを当たりだと思うような学の浅さなので、親からの支配に抵抗しようがない。自由に使える金もないので、草相撲くらいしか娯楽がない。

彼らは人間関係のタスクにも苦しめられているだろう。全員分のランドセルを背負わされて歩く子供を見ると、もっとデカくなったらそれ全部捨てて逃げられるようになるのになあとか思う。あと最近のランドセルは色とりどりで綺麗だなあとか思う。





さんざん大学時代が無敵の時間であると主張してきたが、風呂上がりの平穏は夜明けまでのものでしかない。

大学卒業後、僕の時間はどうなってしまうのか。



社会人にレベルアップすれば勤務時間も履修登録よりは自由が効かない。自分の行動にはバイトよりも大きな責任が伴うようになる。人生の楽しみが本当に風呂上がりしかなくなるんじゃないか。

それどころか毎日夜遅くに入浴するハメになり、風呂を上がればすぐ睡眠の時間帯になってしまうこともありえる。無敵の時間そのものが消滅してしまうかもしれない。

そんな忙しい日々の中では、何度もセーブを繰り返した輝かしいデータも脳内から削除されそうだ。

気付いたときにはへんじがないただのしかばねのようになってしまうのではないか……






まあいいや。
そんな不安すら私には効かない。


とりあえず、今日楽しんだ分をセーブしておきます。









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