クイズ!コミュニケーション


会話にはクイズのような側面があると思う。

話しかけた人が出題者、それに応じる人が解答者だ。


就活をしていると知らない学生と話す機会が急増し、その分多くのクイズを解いていくことになる。

議題が設定されているグループディスカッションなどならまだやりやすいが、いちばん高難度なのは休憩時間である。
何の話をしたらいいのかわからないのに、何か話さなければいけない。

あるインターンシップでは昼休憩の時間にお弁当が振舞われた。

鮭弁当か鰆弁当のどちらかを学生が選ぶというシステムだった。


僕が何の気なしに鮭弁当を選び、席に戻ると…


「鮭と鰆、どっちにした?」


来た。

同じグループの人が突如2択クイズを出題してきた。

「デデン!!!」のSEが脳内に鳴り響く。

ただ、やはり1問目なだけあって答えは簡単。
シンプルに自分が選んだ弁当を答えればいい。


「サッ…鮭弁当…」


東大王みたいにもっと自信満々に答えたかったのだが、突然出題されたことの驚きで甘噛みしてしまった。

すると、間髪入れずに次の問題が出題された。


やっぱ鮭っすよねw


疑問文ではないが、「ね」という終助詞と最後の笑いが明らかに僕の答えを求めている。

しかし僕の脳内はまだ1問目の余韻から抜け出せていない。
早く頭を切り替えてタイムショック並みの出題スピードに追いつかなければ。

ただ、答えが何も思いつかない。

僕は別に明確な意識を持って鮭弁当を選んだわけではなかった。

しかし、恐らく出題者は何らかの強い意志を持って鮭弁当をチョイスしており、その共感を僕に求めている。

ここで「いやどっちでもよかったんすケド。」なんて上地雄輔のアルバムのような濁し方をするのは確実に不正解だ。

脳みそをトルネードスピンさせた結果、僕が導き出した答えはこれだった。



「この2択で鰆選ぶ人いないッスよねw」



相手の強い意志を尊重し、もう一方の選択肢を腐すというユーモア。
モチーフにしたのはきのこたけのこ論争である。
どうでもいい2択を誇張して盛り上げるという手段は昔からあるので、この答えで不正解はありえないだろう。

出題者のリアクションを伺う。



………



え?


まさか、”ためて”いるのか?

ミリオネアのみのもんたみたいな感じで、解答者の不安を煽っているのか?



………




違う、


これは”無視”だ



僕は不正解だったのである。



罰として、僕は次の問題の解答権を失った。

グループの全員が席に着き、またたわいもない会話が始まる。

お手つき中の僕はただクイズの様子を静観していた。


私就職してお金溜まったら、整形したいんですよね~


一人の女性がなんともトリッキーな出題をしてきた。

解答権はないが、僕も答えを考えてみる。

「そんな必要ないよ!」くらいが普通なのだろう。
いやでもこれは僕が言うにはキザすぎる。
かといって「ああ~エラ削って鼻高くしたほうがいいよね」などと言ったらぶん殴られるだろう。

「いやどういう願望w」くらいで濁すのが正解か。

すると、一人の男性が意気揚々と答えた。



何で俺の目見て言うねん!!!
「お前も整形しろ」ってことか!!



なるほど。

これは”ですが”問題だ。

「私の願望は整形…ですが、その話をあなたの目を見て話すのはどういう意味でしょう?」という問題だったのだ。

早とちりして「整形願望」だけを受け取った答えをしてしまってはいけない。

しかもこの答え、下手したら相手を傷つけかねない話題を無理矢理自虐のテリトリーに持ち込むことで完璧に笑いに昇華している。

さらに、「今あなたは私の目を見ていた」という事実を言語化して共有することで相手との距離も縮められる。こんな100点の答えがあったのか。
スッキリフラワーの乱立が止まらない。



突如現れたコミュニケーションカズレーザーのおかげで場は盛り上がり、次の問題が出題された。
空気がリセットされたおかげで僕の解答権も復活した。


みんなマスクしてないけど、コロナウイルス怖くないですか?



時事問題だ。

コロナウイルスに関する知識はいくつかあったが、どの話につなげようか…
そう考えていると、また別の女性が口を開いた。



でもなんか、くちばしみたいなマスクしてる人多くないですか?



くちばしみたいなマスク……?

僕は気づいた。

これは問題に対する解答でありながら、次の問題でもあるのだ。

「ですか?」で終わってるのだから、「多い」か「少ない」かを答えるのだ。

しかし、「くちばしみたいなマスク」ってなんだ。
そんなもの見たこと無いんですケド。

しばらく思考を巡らせて、僕はひらめいた。




黒死病だ。



画像1



これしかありえない。

くちばしみたいなマスクといえば黒死病だし、「なぜ山」ときたらマロリーだし、貴腐ワインときたらトロッケンベーレンアウスレーゼしかない。


僕は満を持して答えた。



「いやそれは黒死病のマスクでしょw」















長い静寂だった。

クイズ番組ならここで炭酸ガスプシューからの大爆笑になるはずなのに。

会話はクイズなんかではない。

会話は、会話だ。





大量のモヤッとボールを抱えながら、僕は誰よりも早く帰宅した。









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