企業価値担保権、成立までの道のり_vol.2 活用場面はどこにあるのか
会社の資金調達手段は大きく「エクイティ」と「デッド」に分かれ、株式を渡すかどうかの判断を迫られる。
デッド(借入による資金調達)を選択すれば、株式の希釈化を免れる代わり、現金による毎月の支払が発生する。
月次の売上げが立つビジネスモデル(サブスクリプションや実店舗での販売)ならば返済が可能であり、また突然の資金難に備え「デッドをひく」場合、必ず出てくるのが担保や保証の問題である。
「裏付けとなる資産」に担保を設定し、「処分権」を押さえることや、経営者保証などの「人的担保」を通じて回収を図るわけだが、裏付け資産の見えにくい設立前後や、実効性の乏しい多額の個人保証など問題点も多かった。企業価値担保権はそれらの課題を解決することが出来るのか。
想定される場面と課題を金融庁のホームページ「事業全体を対象とする担保制度の検討」より、「事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会 論点整理2.0 」(令和3年11月30日開催)をもとに考察する。
一言でベンチャーと言っても、スタートアップとしてJ字カーブで売上が伸びる業態や各ステージ(シード、アーリー、ミドル、レイターなど)によって資金調達の方法は違ってくる。
日本政策金融公庫の創業融資は無担保・無保証を謳っており、信用保証協会融資も創業前の借入が可能である。
ここから事業として成立するまでの間(実証実験などに費やす期間やそのための人件費によって)資金が枯渇する場面が起こり得る。
しかし、事業全体をひとつの財産として被担保とする企業価値担保権において、会社設立登記は済んでいるものの、まだ事業として確立していない段階(シード期)での設定は難しいのではないかと思われる。
経営者保証や不動産に頼る従来型の担保設定の課題を解決できる雰囲気は現状感じられない。
特定の市場に商品・サービスが適合し、一定の顧客基盤があるフェーズ(シリーズA)において、売上を拡大するため資金需要があるが、この段階になって初めて企業価値担保権の設定が現実味を帯びてくると考えられる。
これ以降、事業を継続させる必要性が生じ、個別財産の担保設定よりも事業全体の価値を優先させる企業価値担保権の実効性が発揮される場面となるからである。
現状のベンチャーデッド(借入と新株予約権発行と経営者保証)の経営者保証の部分に替わる手段となり得そうである。
新株予約権を発行する場合、引受人は誰になるのかは今後注視して行きたい。
「創業時」と言っても事業として成立しているか(プロダクトマーケットフィットが済み、顧客層が存在する段階に至っているか)で、事業価値担保権の設定が意味を持つかどうかが決まって来るように思われる。
設立登記を行っていれば設定は当然可能であるが、実効性があるかどうかはその後の会社の成長による部分が大きい。
その部分まで踏み込んだ評価で実施するのであれば、設定者である金融機関の為すべき対応はどのようになるであろうか。
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