七四季ナコ

ななしきなこです。小説を書きます。

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最近の記事

小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」20話

この坊主、存外にやる。 ネネは舌打ち。和尚は身の丈ほどの錫杖を巧みに操り、ネネの攻撃をいなすように遮ってくる。防御に特化したその動きに合わせて、翅音が四方八方から秋桜ネネを襲った。殺人蜂だ。 ネネは刀を振って片っ端からそれを遠ざける。霧になりたいところだが、身体の端の方の反応が鈍い事に不安が残る。どうやら先程のあのサソリにはよほど厄介な毒を盛られたらしい。この蜂の毒もどれほどのものが仕込まれているのやら。 「厄介。」 大きなため息と共に、反射的に黒い翼で羽ばたき宙に舞

    • 小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」19

      「カウボーイ・・・?」 曇天の夜に黒い翼をはためかせるその少女は、いかにも機嫌が悪そうに目を細める。どうやらその名はお気に召さないらしい。 赤色のショートカットの髪に赤いドレスが風に靡いている。月のないこんな夜は、赤く光るその瞳がより一層不気味に映る。彼女は手に持った日本刀でニニと和尚を指し示した。 「私はさぁ、芥ニニって子を探すように言われてるのよ。」 そう言うと、一瞬で霧となり視界から消え失せた。霧散したそれを目で追う事もできず、途端に背後から声が聞こえる。 「

      • 小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」18話

        「ふむ。今日は来客の多い日だ。」 和尚は立ち上がると、中庭につながる雨戸に隙間を作り目を細める。枯山水の上空には一つの影。月のないこの夜に奇襲とは、実に面白みのない。 手をこまねかれ、芥ニニも畳を這いずって和尚の足元から空を盗み見た。黒い霧の翼、ヴァンパイア。手には一振りの日本刀が見える。ニニは昨夜のことを思い出していた。 そう、まさしくあれはクリスの刀なのではないだろうか。遠目には詳細が視認できないが、つい昨晩自分に突き刺さりそうになったその刀だ。芥ニニは根拠もないく

        • 小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」17話

          月も、星もない不気味な夜。地上の街の明かりだけが燦々と輝き、どんよりと立ち込める厚い雲を照らしている。 テールランプの残光が行き交う首都高速では、その灰色コンクリートの橋の上を一台の黒い高級車が疾走していく。どこまでも広く低い畳のような車高をもつ、アメリカンローライダー。 その磨き抜かれた車体がビルの灯りを反射して煌めく。その時だ。ビルの合間を縫って現れた黒い影が急速で車体に接近すると、腕を伸ばして一撃。車体を大きく跳ね上げた。 貫かれた車体は無惨にも金属の破片を散らし

        小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」20話

          小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」16

          「黒霧は吸血鬼の基礎的な能力です。瞬間移動、壁抜け、分身、変身。それらの特殊な業は全て霧になるところから始まる。」 そう言って和尚は机の上に置いた右手の手のひらをニニに見せた。 「まずは自分と世界を正しく認識するのです。そうすれば後は境界を"ぼやかせ"ば良いだけ。」 その指先から、まるでドライアイスを溶かすかのように黒い霧になっていく。和尚はピタリと動きを止めた。その手首までが黒い霧となって蠢いている。 「霧にできれば、その境界を動かせば良い。」 黒い霧は、たちまち

          小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」16

          小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」15

          「私はここでは"和尚"と呼ばれております。」 長い廊下を歩きながらそのヴァンパイアの青年は率先して口を開いた。右も左もわからない芥ニニを気遣っての事だ。 「僕は芥・・・」 「おっと。」 その禿頭の僧侶は言葉を遮りながら振り向き、言葉を制する。切長の目は鋭い眼光を煌めかせた。 「人間だった時の名は忌み名です。そうそう口になされないよう。」 「そういう、ものですか。」 静かな表情から放たれる独特の迫力に、思わずニニは唾を飲む。 「ええ。例えば、あなたの人間だった時の名

          小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」15

          小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」14

          「それじゃぁ、ここでお別れだ。」 夕暮れが2人を照らす中、郊外のとある寺の前に車を止めると、クリスはそう言い放って芥ニニを助手席から追い出した。 「ちょ、ちょっと待て。僕は大切な囮じゃなかったのか?」 「もちろん。しかし下僕ぅ、きみはまだまだ未熟。まずはここで奴にいろいろ教えてもらいな。吸血鬼でしか教えてやれないこともあるからな。」 芥ニニはドアを開けて強引に車に乗り込むと、運転席のクリスに詰め寄る。 「いやだ。僕を逃がさないんじゃなかったのか。」 そう言いながら、

          小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」14

          小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」13

          クリスの運転する車が高速道路の橋に上がると、一瞬の眩しさの後に見渡す限り一面の白い景色。帝都のビル群の無機質で無慈悲な横顔は、2人にまるで興味など無いかのように凛と立ち尽くす。 加速する車はどこへ向かうのか。わからないままニニはただその帝都の姿を目に焼き付ける。 黒塗りの車の窓ガラスには空と雲、見下ろすビルが映し出されている。看板や追い越すビルを見ても芥ニニにはあまり実感がわかない。既にどこか他人事の見知らぬ街と見知らぬ道。 ニニが居なくても回る世界。だけど何故か不思議

          小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」13

          小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」12

          「定刻通りだな。」 上機嫌のクリス・ヴァン・ヘルシングは傍に止まったクラシックカーの低い車高を見下してニヤリと笑う。サラリと流れる金髪に、不敵に噛み合うギザギザの歯。 「まったく、人使いが荒いんだから。クリスちゃんは。」 中から降りてきたのは黒髪。短髪。低身長。どれをとってもクリスとは正反対の少女だ。こちらを見るとニコリと笑う。歯並びも良い。 「あら、これが噂の下僕さんね。こんにちわ。」 たった一晩で一体どう言う噂をしているのだか。彼女は助手席から灰色のスーツの上着

          小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」12

          小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」11

          正直、困っていた。芥ニニは気づかないフリをしていたが、ついにたまりかねて隣を見る。女子高生に大学生っぽいオニイちゃん。ニニが入店待ちだと勘違いした客たちの小さな行列ができていたのである。 これはまずい。しかし事情を話すのも気が引ける。だがこのままではたくさんの人に迷惑をかけてしまうだろう。ならば致し方あるまい。 ニニは意を決して口を開いた。 「あ、あの、僕は吸血鬼でして。あ、管理されてる方の。並んでるわけでは無いのですが。。」 隣の女子高生がギョッとする。無理もない。

          小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」11

          小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」10

          中途半端な午後3時という事もあり、店内は空いている。クリスはカウンターの一角に腰掛けると、無邪気に大声で注文する。 「親父、特盛コッテリラーメン肉マシで。」 いかにも慣れた様子で注文するが、店主はそれを聞いて渋い顔だ。 「全く、食券買えって何回言ったらわかるんだ。」 「あ、そうだった。」 急いで立ち上がると、券売機でチケットを買い店員に渡す。ちょうどその時、彼女のスマートフォンが鳴った。彼女はカウンターに座りながら電話に出る。 「ミコト?今ラーメン食べるとこなんだけ

          小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」10

          小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」9

          「そうだ、ちょうど腹が減ったな。」 犬の散歩のように芥ニニを引っ張りながら、クリス・ヴァン・ヘルシングは振り向いた。 「ラーメンは好きか?」 「おぉ、す、好きだよ!」 「それは良かった。」 はじめてヘルシングの口から出たポジティブなワードにニニは目を輝かせる。ついた先は人気ラーメン店“サイクロプス軒"だ。 「おお、サイクロプス軒!一回食べてみたかったんだよね!」 テンションを上げるニニを見つめながら、クリスはニコニコと首輪のハーネスを道端の手すりにくくりつける。みる

          小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」9

          小説「クリスヴァンヘルシングの吸血三昧」8

          60年前、大きな戦争があった。僕のおばあちゃんは当時まだ子どもで、その戦争の話をたまにしてくれた。空を埋め尽くすヴァンパイアの大群に世界中の人が恐怖した。 事態を打開したのはヘルシング。彼らは1000年研いだその牙を存分に振るい、6年の激闘の末に世界を救った。再びこのような平和が訪れるなど、戦時中は夢にも思わなかったとおばあちゃんは言う。 時は流れて現代。ヴァンパイアは迫害されながらも人類と共存している。生き残ったヴァンパイアはそう多くはない。昨年の国勢調査では人類との比

          小説「クリスヴァンヘルシングの吸血三昧」8

          小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」7

          「ヘルシング!?なぜここに!」 地下街の1番奥。誰からも忘れ去られたような薄暗い区画にその店は存在していた。老いた身なりの店の主人はクリスを目にして大声を出しながら、タジタジと後退りをする。 「べーつにとって食おうってんじゃないさ。そう怖がらないでも。」 クリスはうんざりと言うようにため息をつき、店の中を見渡した。赤いドレスに黒いスーツ。子ども用のジャボットから誰が着るのかメイド服まで。どうやら品揃えは良いようだ。 その様子をおっかなびっくり眺めていた店主の目が赤く光

          小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」7

          小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」6

          街灯が公園のベンチを照らしている。まだ夜明けまでは幾ばくかの時間があるはずだ。 「もうだいぶ回復したか?」 クリスは凛とした声で告げると、ぶっきらぼうに芥ニニをベンチに下す。夜とはいえこうした都会の大きな公園には大抵は人影があり、しかしお互いに遠巻きに距離を保ちながらうろうろと彷徨うのが見える。 「あの人たちは、吸血鬼か。」 彼らの腕章を見てニニは察する。クリスは少し驚いた。心身困憊にあっても周りを眺める事をやめてはいない。自分の事だけでいっぱいいっぱいにならない人間

          小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」6

          小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」5

          「ラ・・・ラ?」 ためらいがちにその名を呼ぶ。しかしそれは口に当てられた彼女の細い人差し指に阻まれた。 「"様"をつけなさい、おチビちゃん。」 そう甘く囁きながら、今度は足蹴にニニの身体を吹き飛ばす。振り向き様に奪った日本刀を突き出すと、それは即座に細身の短剣と衝突する。 大きな舌打ちを打ったのは背後から不意打ちしたクリス・ヴァン・ヘルシング。手には自害用の短剣、ミゼリコルデ。気迫を押し付けるかのようにギリギリと鍔を押し込む。 「随分とそいつが大事と見える!」 「貴

          小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」5