小説「クリス・ヴァン・ヘルシングの吸血三昧」20話

この坊主、存外にやる。

ネネは舌打ち。和尚は身の丈ほどの錫杖を巧みに操り、ネネの攻撃をいなすように遮ってくる。防御に特化したその動きに合わせて、翅音が四方八方から秋桜ネネを襲った。殺人蜂だ。

ネネは刀を振って片っ端からそれを遠ざける。霧になりたいところだが、身体の端の方の反応が鈍い事に不安が残る。どうやら先程のあのサソリにはよほど厄介な毒を盛られたらしい。この蜂の毒もどれほどのものが仕込まれているのやら。

「厄介。」

大きなため息と共に、反射的に黒い翼で羽ばたき宙に舞う。しまった。と思ったが矢先、翼を撃ち抜く砲弾のような投石。

芥ニニが常にネネを狙っている。まるでライフル銃のようなその投石はネネの翼を貫いてなお足りず、寺院の客間をも破壊して壁面に穴を穿った。

後から遅れて押し寄せる痛みに、ネネは撃墜されながら怒りの叫びをあげる。

「なんたる野蛮!魔術も戦略も何もなく、ただただその増強筋肉のみで石を投げるなんて!」

屈辱的に地面に足をつきながら、畳み掛ける杖の殴打を刀で受け止める。この私が押されている。しかし真の屈辱はこの坊主の一撃からはネネに対する殺意を感じないこと。ただただ"受け止めさせ"てネネの手を塞ぐのが目的の、防御の為の攻撃だ。

そんなにあのガキが大事か。

ネネは焦りながらも、出来るだけ冷静に頭を巡らせようと思考する。

即席の割によく考えられている役割分担。妙に強いガキの腕力を活かした投石で私の羽の展開を抑制しつつ、坊主が密着して防御に集中した立ち回り。無理な一撃は決して狙わずに、毒虫で弱体化を狙う。おそらくファイナルブロウはガキの一撃を想定しているんだろう。

ガキを狙いたいが奴の杖は長い。リーチコントロールは奴に分がある。先ほどから投石しやすい角度に巧みに調整されているのがその証拠。おそらく、ガキに目を取られた隙に後頭部を殴られる。

「は〜もうめんどくさ。」

そう言うとネネは刀を一閃。しかしその角度は杖で弾くまでも無い。和尚はヒラリと身を躱す。

「かかったね。"投げる"のが自分の専門だなんて思わない事。」

振り向く頃にはもう遅い。一拍の間を置いてネネの手を離れた刀が芥ニニの肩に深々と突き刺さる。赤い鮮血が傷口から迸った。

ゲームセット。
奴の肩がこのチームの生命線だ。


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