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年上の部下を育てるって大変

アラサー世代、アラフォー世代の多くの人が、一度は経験した事のあるシチュエーションかもしれないのだけれど。
職場に新人が入ってきてくれて、それが年上で、しかも異性で、「はいじゃああなたが今日から指導係ね」って教育を一任されるような状況。

いや、スペックやカテゴライズだけで初対面の人を判断するのはよくない。
良い人かどうかに年齢や性別は関係ないし、「年上のミスを指摘する」みたいな状況では気を遣うという人も多いだろうけれど、でもそれは年上じゃなくても誰に対してでも、「他人のミスを指摘する場合は言い方に注意しよう」という気持ちが必要だと思うし。
気後れしてはいけない。自分は先輩で上司なのだから、堂々と、かつ親しみやすい雰囲気で、愛情と敬意を持ってしっかり指導しないと。変な先入観で気まずくなるのだけは避けないと。

そう意気込んで、もちろん上手くいくならそれでいいだろう。
しかし、こういったケースを何度か経験していると、稀にとんでもない地獄にぶち当たることがある。
お察しの通り、今日はその地獄パターンについての話である。一応、ところどころフェイクを入れるつもりではあるが、ほぼほぼ実話だ。

数か月前、私の職場に新しい人が中途入社してきた。
一回り以上年上の、いわゆるアラフィフ世代の男性である。

中途入社にありがちな話かもしれないが、大抵の場合、現場の人間にとってはそれは「突然降りかかったようなイベント」であることが多い。
数か月前から話が挙がっていたり、準備期間があったりというケースはほとんどない。突然、「新しい人が入ることが決まったから」という連絡を受け、一週間後にはもうその人が出勤してくるというケースも多いのではないだろうか。
今回も例に漏れずそういった具合で、その新人さんはやってきた。

連絡を受けた時点では、「身の周りにあまりいなかった年代だ!」「仕事の話はともかく、雑談とかの際に全く話が合わないのでは?」「共通の話題って何があるだろう?」「っていうか向こうも多分、若い女(当社比)が相手って気を遣うよね?」「一回り以上年下の女に教育されるって、プライド傷付きやすかったりするのかな、言い方に気を付けないと」みたいなことが頭の中をぐるぐると巡っていた。
別に友達になる必要はないので、とにかく、一通りの仕事ができるようになるまで、できれば早く仕上げることに注力しよう。中途入社だし、本部的にも即戦力を期待しているはず。

そうやって短い期間であれこれ準備をしていたのだが、初出勤の日、初対面の段階で私は自身の計画の一切を破棄することとなった。

あっ・・・!
姿勢が悪すぎる!ただの一度も目が合わない!虚空を見つめている!しかも無表情!声が小さい!っていうか相槌も返事もしてくれない!挨拶も全くない!全然動かない!ただじっとしているだけ!
これは・・・できれば早く一人前に仕上げたいとかそういうレベルじゃないぞ・・・!

ありていに言えば、「様子がおかしい」。
正直真っ先に、何故採用したという気持ちが湧きあがったが、そうは言っても入ってきてしまったものは仕方がない。
千と千尋の神隠しでいうと、それは千尋が招き入れてしまったクサレ神であったし、呪術廻戦でいうと、それは虎杖が吞み込んでしまった特級呪物であった(めちゃくちゃ失礼な表現だが、本当に)。
会社員である人は共感していただけるかもしれないが、一度入社が決まった人は、余程のことがない限り、こちらからはじき出すことができないのだ。

私は心中でカイジのように「ううっ・・・!あんまりだ・・・!」と両目をぎゅっとして涙を流しながら、それをおくびにも出さず、指導を開始した。

とりあえず、直近数日で急いで作った、シンプルな業務手順書をお渡しする。
口頭で説明するよりも、ある程度大まかな手順書が視覚的に存在して、必要だ(わからない)と思う部分を自分でメモしていく方式が、わかりやすいし覚えやすいだろうと思い準備していたものだ。
そうして、それに沿って、ゆっくり説明していく。
「ここまででわからないことはありますか?」「気になることがあったらいつでも質問してくださいね」「同じことでも何回でも聞いて大丈夫ですので、何でも言ってくださいね」そうやってにこにこしながら。

しかし、一切のリアクション、なし。
相槌がない!返事もない!目も合わない!笑顔も当然ない!
メモなんか取るはずもない!質問もない!大丈夫?大丈夫!?
大丈夫なわけねえ!!!

そういった具合で、ものすごーく簡単・単純な業務(例えばパソコンの電源を入れるだとか)ですら、2~3日経ってもできるようにはならなかった。
ましてや、うちの会社は、業種としては医療従事である。
専門知識と、接遇(コミュニケーション能力)と、正確さ、丁寧さ、スピード感が求められる仕事である。

無理!!!絶対に無理!!!!!
この人に仕事を任せたら、健康被害が出てしまう!!!!!

私はもう、「ううう・・・!」となりながら、どうにか単純作業であるところのルーティン業務だけでも覚えてもらおうと、試行錯誤しながら指導にあたった。
途中で、「この人多分、ASDなんじゃないのか・・・?もしかしてうつ病もある・・・?」と思い至ったため、ネット上で「ASDの後輩を指導する際のポイント」みたいなサイトを読み漁り、それに沿っての指導に切り替えた。

指導はとにかく具体的に。「ここに座ってください」「こちら側に立ってください」というレベルの話であっても、とにかく具体的に伝える。
そして指導は絶対に即時で。「さっきの件なんですけど」は絶対にNG。今の話をすること。「あとで〇〇しておいてください」もダメ。
あと、急かさないこと。基本的に私は指導の際に相手を急かしたりはしないけれど、「まだですか?」「さっき頼みましたよね?」みたいに圧をかけるようなことは絶対に言わない。

そうやって数日間、とにかく丁寧に、穏やかに、1つずつ、冷静に業務内容を伝えていった。
こちらが一方的に話すだけではなく、実際に(練習として)業務にあたってもらったり、ロールプレイングをしてみたり、もちろん適宜質問タイムも設けていた。
私は胃薬とストレス緩和の漢方薬が手放せなくなり、毎朝出勤前に行きたくないと駄々をこねるようになった(夫に心配された)。

そうして、けれど、新人さんはいつまで経っても何もできないままだった。
ほんの少し目を離した隙に業務をめちゃくちゃにしていたり(言わなきゃ何もしてくれないな~と思っていたら突然、何の確認もなく間違った方法で業務を進めていたりする)、ものすごく忙しいタイミングなのに座って俯いたまま石みたいになっていたり。

あと、これはもう身バレ覚悟で書くのだが、私の在籍してる店舗は、もともとワンオペ店舗だったのだ。
つまり、私と新人さんはお店にたった2人で、1日に9~10時間、2人きりでずーっと一緒に過ごすことになったということなのだ。

ただでさえ。
仲良くもないアラサー女性とアラフィフ男性が2人きりで、密室で、日中ずっと一緒にいるのはかなりしんどいものがあるというのに。
それが話しかけても何のリアクションもない、仕事も何もできない、無表情な猫背の石像のような人であったのだ。
私の心がおかしくならないはずもなく。(多分向こうも気まずかっただろうな。)

それでも私は、自身の指導法が悪い可能性を捨てなかったし、安心した環境があれば、あるいは信頼できる上司であれば、もう少し何とかなるのかもしれないという希望も捨てなかった。
もっとわかりやすくするためには?もっと居心地よくするためには?もっと心を開いてもらうためには?

そうやって頭を悩ませて、心を砕いて、うんうん唸っているうちに、新人さんはある日突然出勤しなくなってしまった。
入社して半月も経っていなかった。何の連絡もなく、飛んでしまった。
いなくなってしまった。

私は驚いて、言葉が出なくて、やがて安堵が溢れ出した。
割合で言うと、安堵が6割、喜びが2割、やるせなさと凹む気持ちが2割といった具合であった。
解放された。疲れた。やっと終わった。終わってくれた。いなくなってくれた。いやでもこれは私が退職に追い込んだ?私が至らないばかりに?いやいや。いやいや。でも、とにかく、もうあの人はここに来ないんだ。もうこないからねー。

頭の中がぐちゃぐちゃになって、けれど私は結果として、地獄から命からがら抜け出すことができた。
・・・タイトルにもした「年上の部下を育てるって大変」という主題からは、ちょっとかけ離れてしまったケースかもしれないけれど。かなり稀有なシーンかもしれないけれど。(だってこれ仮に年下だったとしてもしんどかったのでは?)
まあ、大変でした。お疲れさまでした、私。
いい経験になったと言えなくもないけれど、次に活かせる何かを得たとは言えないかもしれない。

人生何があるかわからんですね。
目の前に困難が立ちはだかることは、人生において少なくない回数、あるものだと思うけれど。
試行錯誤して、努力して、何回もチャレンジして、そうやって人は困難を乗り越えていくものだと思うのだけれど。

こういったふうに、どうにもならないことだったり、終わってからも微妙に消化不良になってしまうような出来事も、一定数はあるみたい。
そういう理不尽も・・・人生に深みを与える隠し味だから・・・。
そう思ってやっていくしかないですね。

今回はそういうお話でした。
ではでは、今回はこのへんで。

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