『冷やし中華いななき』を終えて

2023/3/17、18に座・高円寺1にて上演しました、
視点『SHARE’S』参加作品『冷やし中華いななき』、無事に終演いたしました。本当に沢山のご来場、また気にかけていただき、ありがとうございました。

いつもは稽古期間中に稽古日誌を書くんですけど、今回余裕がなくてじっくり稽古日誌を書く時間がなかったので、noteに終演後の振り返りを残しておこうと思います。

この『冷やし中華いななき』という作品は、もともと2021年1月に劇作家協会の月いちリーディングに選出していただいた30分の作品でした。
いつか上演したいなとうっすら思ってはいて(思ったきっかけは後述しますね)機会を窺っていたんですが、そしたらこの視点『SHARE’S』の企画をTwitterで知り。
8団体合同のショーケース公演で、ほか参加団体は東京にこにこちゃん、elePHANTMoon、Antikame?、やみ・あがりシアター、劇団肋骨蜜柑同好会、MU、アガリスクエンターテイメント、の皆さんでした。
企画プロデュースはMUのハセガワアユムさん、Antikame?の吉田康一さん。

残り1団体を公募するとのことで、しかも会場が座・高円寺1と来たもので。
座・高円寺1は、私が2019年4月、舞台芸術集団地下空港のミュージカル『花園 HANAZONO』に出演した時に立たせていただいた舞台でして、俳優活動を本格的にやるぞ!と思って一発目に立った思い出深い劇場なのでした。
というのもあって、更にこの企画は劇作家協会と座・高円寺が提携して行うプログラムだったので、あれ、これは『冷やし中華いななき』をやれってことでは?その時がついに来たのでは?と思って、即応募。zoomでの面談などを経て、沢山の団体応募の中から選んでいただけた…という、導かれに導かれた流れでの上演決定でした。

そして、キャスティングについて。
今回ご出演いただいたのは、松本みゆきさん(マチルダアパルトマン)、江原パジャマさん(パ萬)、岩本えりさん、岡本篤さん(劇団チョコレートケーキ)、波世側まるさんの5人。

月いちリーディングの時は劇作家協会の皆さんが俳優の皆様を呼んでくださっていたのですが、その中にいらっしゃったのが岡本篤さんでした。
俳優のみなさん、それぞれ素晴らしかったのはもちろんのこと、リーディングが終わって最後、お一人ずつコメントをいただいたのですが、その時に岡本さんが「とても面白かったです。あなたの作品のファンになりました」と言ってくださったんです。
すごくびっくりして、こんななんの変哲もないぺーぺーの小娘に、そんな言葉をかけてくださるなんて!と感激したことを今でも忘れない。
その時に、「いつか『冷やし中華〜』を上演する時が来たら、その時は絶対に岡本さんに出演をお願いしよう」と心に決めたのでした。
その時に掛けていただいた言葉は、その後作品を創る時に何度も何度も私の頭にこだまして、辛い時に多大な推進力になっていました。
だから、上演が決まった時は嬉しかったし、もう本当にご縁だしお導きじゃないか!って感じでした。
だから、岡本さんのその言葉がなかったら、いつか上演したいという具体的な気持ちは生まれなかったわけなので、本当にありがたかったです。

食む派は毎回、この役に合うのはこの人だろう、でキャスティングしているので、ほとんどが初めましての方ばかりになります。
でも、いつも本当に素敵な方にお集まりいただけるので、恵まれているなあと。


松本みゆきさん。(女・定食屋の女)
マチルダアパルトマン所属。
2021年に三鷹星のホールで上演された劇団普通『病室』(再演)での演技が本当に素晴らしく、ぜひこの役に、と思ってお声がけしたみゆきさん。
(終演後にもみんなに話したけど、『東京物語』の笠智衆なんですよ、まさに!)
柔らかな雰囲気の中に、寂しさや切なさが滲む、なんとも言えない絶妙な表情や声のできる方で、今回もその魅力をいかんなく発揮してくれました。
この役が背負うものの大きさを、すごく大切に体現してくれた。
みゆきさんに「はぎさん」って言われるのすごく嬉しかった。
私が演出でオーダーを出す時に、うんうん、と頷いてくれると、すごく嬉しいし安心していました。
作品についての話を伝えるたびに、すごく感情移入してくれているのがわかって、それも嬉しかったなあ。
食む派の作品で「女」(主役的な役)の役柄をお任せする人には、特に佇まいとか声とか、とにかく色んなものを求めることになるので、大変だっただろうなと思います。そんな中で、芯をしっかり持って、果敢に最後まで挑んでくれたみゆきさんの姿。美しかった。
みゆきさんが色んな劇で求められる理由が本当によくわかる。
お人柄も、なんだか側にいるだけで喋り掛けたくなってしまうんですよね。
たまに、みゆきさんの雰囲気の優しさにかまけてちょっとタメ口になっちゃったりしてたんだけど、それを嬉しいって言ってくれて、みゆきさんも基本的に私に敬語なんだけどたまにタメ口になる時があって、それも嬉しかった。
こんなこと言ったら、みゆきさん、嫌かもしれないけど、なんだか私たちの不器用さみたいなものはちょっと似ている気がしていて、稽古中、お互いがお互いを片想いみたいになってるのが面白かった。でも、私たちお互いのこと、好きなんですよねって私は思ってて。完全に奢りかもしれないけど!

江原パジャマさん。(男・定食屋の男)
パ萬所属。
江原さんは元々2021年の宇宙論☆講座の公演でお見かけしていて、共通の知り合いがいることもあり、うっすら挨拶して面識があるな、というようなお方でした。
(江原さんには「なぜ自分をオファーしたんですか?」と聞かれて、実際に演技を観たのが宇宙論☆講座しかなかったので、困惑するのも分かるなと思ってフフフと笑ってしまう。もちろん公演は面白かったし、江原さんはとっても素敵だったんですけど、なにぶんボーボボ風に言うととんでもなくハジけた作品だったので、そう言いたくなるのもわかるなあと。)
その後、Pitymanやアンカル、広島ジャンゴの公演など様々なご活躍を見ていて、実際にご挨拶した時の雰囲気とか、お写真の感じとかで、今回のこの役、絶対に江原さんだな。と一発で思い当たったのでした。
特に、ラストシーンの江原さんを見てると、毎回、本当にこの役はこの人だなあ、お願いしてよかったなってとにかく思わされていた。
穏やかで、優しくて、でもやりきれなさとか、寂しさがきちんとあって。
稽古中、演出を真剣に受け入れて、何度もトライ、提案をしてくれて、ありがたかったな。
実は同い年なんだけど、本番終わるまでは最後まで江原さん、はぎわらさん、で敬語だったけど、(でも私は、江原さんの、その仕事への臨み方の姿勢がすごくわかる気がして、私も最後まで「江原さん」って言おう!と思ってた)終演後に忘れ物の受け渡しをして、メガネなくしたって言った私に、「大丈夫?きっとどこかにあるよ」と笑いながらフランクに話してくれたの嬉しかった。公演が終わって、そこからのその気持ち、すごく私もわかる!と思って。
余談だけど、食む派の作品で「男」役を任される方(「女」役の相手になる方)は、みんななんだか共通点があるというか、私が書く「男」像が毎回おんなじなんだけど、とにかく人が好くて、不器用で、優しくて。みたいな。
ここまでの作品にご出演いただいた鳥島明さん(はえぎわ)、佐藤昼寝くん(元・中野坂上デーモンズ/昼寝企画)も、まさにそういう感じがある人たちで。
なんだか自分の嗜好とかが垣間見えてる気がして、ちょっと気恥ずかしい。
毎回、演出の度に、「この男っていう役は、とっても優しくていい奴なんですよ」って言ってる気がする。今回も言ってました。

岩本えりさん。(妻・定食屋に来た女)
岩本さんは2021年の城山羊の会の公演に出演されていた時、あんまりにも艶やかでそれなのにあっけらかんとしていて、一発で大好きになってしまって。
同じ回を観に行った知り合いの方にも、「岩本さん本当によかったですね!!」って話して。
今回の話は、若い夫婦と、それより年上の夫婦、という二組が必要だったので、そんな時、あ、岩本さん。と思い至ったのでした。
岩本さんは、お渡ししたこの本がすごく好き、面白いって思ってくださったことで出演を決めてくださったらしくって、なんて嬉しいんだろう、という気持ち。こんな、何をやっているかもよくわからない私や団体なのに、快く出演のお話を受けてくださったのでした。
岩本さんは本格的に稽古に合流するまで少し期間があったのですが、それもなんのその、ぐんぐんぐんぐん、演出を吸収して、トライして、身体や言葉を馴染ませて、をとにかく妥協せず何度も何度も挑んでくださって。
岩本さんが、どんどんこの作品や座組を好きで好きでたまらないって気持ちでいてくださっているのがありありと分かって、私はとてもとても幸せでした。
普段の雑談も、真剣な話をしているときも、明るく笑顔で、笑い飛ばすように軽快に話をしてくださっていて、みんな、その雰囲気に救われていました。
素敵な方です。
妻という役は飄々さとかでもその中に信念や実直さがしっかりあったりとか、すごく難しいバランスでいてもらうことが必要だったのですが、岩本さんにぴったりな役だったなあと思います。特にラストシーンの女とのやりとり。
岩本さんに「ねっ」て言われると、なんだかそんな気がしちゃうから。

岡本篤さん。(夫・定食屋に来た男)
劇団チョコレートケーキ所属。
先述しましたが、月いちリーディングでの披露のときのキャスティングを経てお声がけさせていただいた岡本さん。
最初は、お話受けていただけるんだろうか?でも私的には、絶対絶対岡本さんに出て欲しいし、岡本さんが出てくれないなら、やる意味がない!と思って、そもそもスケジュールとかが無理だったらどうしよう…と不安だったのですが、ありがたいことに、快諾していただけたのでした。
劇団チョコレートケーキの『帰還不能点』での岡本さんの声や佇まいは本当にすごくて素晴らしくて、年上の男性に対して演出としてご一緒することもあんまりないものだから、私が思ってる以上に、厳格な方だったりするのかな…なんて勝手に思ったりしていたのですが。
稽古が進むにつれ、おちゃめで冗談好き、しかももらい笑いもしやすかったり、人一倍親しみやすいお人柄がどんどん見えてきて、私はびっくりすると共にすごく嬉しくて、安心して、すごく可愛らしい方だなあと。
みんなに愛されていた素敵なお人でした。
稽古当初から、びっちりと脚本がメモに塗れていて、稽古が終盤になっても、空いてる時間、脚本をずっと眺めて考えてくれていて。(勿論ほかのみなさんも全員、空いている時間も本に目を通してくれたり、台詞を確認したりしてくださっていたけれども)岡本さんの、演技への妥協しなさ、最後まで本に敬意を払ってまっすぐいてくださる姿勢に、本当に感服するし、私も背筋が伸びる思いでした。
言葉ひとつひとつに凄みや説得力があって。おふざけのあるシーンであっても、きちんと芯を持ってふざけてくれていて。岡本さんが発すると、書いた台詞が何倍もよく聞こえて、感激しきりでした。
本当に、ご一緒できてよかったなあ。

波世側まるさん。(町内会の婦人)
はせさんは、この中で唯一元から深い関わりのある人。
2020年の排気口の公演で初対面、共演して、「こんなに面白い人初めて見た!!」ってくらい、読み合わせで笑ってしまって。
その後の2021年の菊地穂波さんの企画公演でもご一緒したんですが、
私、稽古や本番中、面白いシーン中でも絶対笑わないタイプだったのに、はせさんと一緒にシーンに出ると、本番中でも本当に危なくて。それくらい破壊力のある面白い人で。
人柄もすごく優しくてなんでも笑って話してくれて、一緒にいるとずっと笑いが止まらなくて。色んなワークショップや観劇の場でたまたま居合わせることも多くて、縁のある友人なのでした。
そんな爆発的に面白いはせさんだけど、静謐な、繊細なお芝居もすごく上手で素敵だってことを間近で見ていて何度も感じていて。オファーをする時に、それがすごく決定的な要素でした。
この「町内会の婦人」という役は、元々私がやろうと思っていた役だったんですよね。でも、いざ書いてみたら、私がやる分量じゃないし、迷惑かけそうだなと思って。やっぱり他の方にお願いしようと思って。
でもぴったりな方、いるかな…と迷っていた時に、あ、はせさんどうかな、と頭に思い浮かんで。
私はあまり、友人だからとか、もともとの関係があるから、を理由にキャスティングを絶対にしないので、逆に、友人であるはせさんと、きちんと仕事として、演出対俳優として接することができるだろうか?と不安だったので、はせさんに電話して、お時間もらって、婦人の台詞を読んでもらって、演出をつけさせてもらって。
その時のやりとりとか、はせさんの声とかを聞かせてもらって、あ、私ちゃんと、演出として接することができるな。と思って、ぜひ!とお願いしたのでした。
後から聞いたら、私が電話する1日前、今後俳優を続けることについて、はせさんはどうしようかとちょうど思っていたらしくて。あ、やっぱりお声がけしてよかった!と思ったのでした。
婦人という役、作品にとってのスパイス的な大事な役割で、本当に身体とか、声とか、一番細かく要求させてもらった役だし、本当に絶妙な塩梅で存在してもらうような役だったので、本っ当に沢山、数え切れないほどオーダーを細かく出させてもらいました。そんな中で、諦めず、楽しんで、かつ素晴らしい「婦人」を体現してくださったはせさん、本当にすごいです。
はせさんは本番は絶対に絶対に決めてくれる!とオファーの時から確信があったけど、舞台上に立つはせさんはあまりにも堂々と、婦人以外の何者でもなくて、かっこよくて美しくて。痺れた!もし私がこの役を任されていたら、こんなふうには絶対にできない!
稽古中もずーっと朗らかに、私のくだらない冗談にもいちいち反応してくれて。ありがたかった。

以上、語り尽くせないけれど、素敵な出演者の皆さんについて。
脚本を書いていると、最初は全部私の声や音で再生されるんだけど、いつも、本番が近づくにつれ出てくれる皆さんの声でしか再生できなくなるんですよね。私はそれがすごく嬉しくて、豊かだなと思うし、もう、この作品が皆さんのものにならんとしている証拠だなと思って。
本当に稽古の行くのが毎日楽しみで、こんな風に思わせていただいたのは皆さんのおかげ。幸せな気持ちでいさせてくれて、本当にありがとうございました。

今回の作品は、過去作の改稿だったのもあり、これまでの食む派とは少し違う、でもしっかり食む派の作品になったなと感じられる、特別な公演になりました。
終わって一週間が経つけれど、今でも稽古や本番の日々を思い出して、わくわく素敵な気持ちになる。

今まで小規模な劇場で公演をしてきたから、座・高円寺の大きさに本番直前までどきどきしていたけど、でも、食む派らしさとか、やりたいこととも妥協せずうまくバランスを取らなきゃとか。そんな中でものびのびと、思い切りよくやることができてよかったな。もちろん、その点において反省点や学んだこともあるのですが!

ご観劇いただいたお客さまが、冷やし中華食べたいなって言ってくれたり、ラーメン食べてくれたり、そこに玉子をつけてくれたりしていて。
そんなふうに、この作品が、皆さんの生活にひょいっと顔を出すことができたなら、こんなに嬉しいことはないです。
いただいたご感想を、今後の励みや反省に活かすべく、大切に読ませていただいています。ありがとうございます。

作品の内容についての詳しい裏話などは、また後日公開予定の解説付き台本をぜひご覧ください。
今回も販売予定なので、しばしお待ちいただけたら幸いです。

本当に、書き切れないけれど。
改めて、沢山の方に感謝を!
これからの食む派の作品も、楽しんでいただけるよう、精進いたします。
ありがとうございました。


はぎわら水雨子


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