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伊唐島のじゃがいもを、いつかブランドに【高橋農園 高橋進さんインタビュー】

鹿児島県の最北端に位置する島、長島町で暮らす人々の、仕事や暮らしの話を通じた生き様を伺う連載。読んでくれたあなたの、日々の活力になりますように。

伊唐島の特産『赤土バレイショ』

鹿児島県長島町を構成する島のひとつ、伊唐島。20年ほど前に伊唐大橋が開通し、車や徒歩で長島本島との往来が可能となった。それまで船で運んでいた農作物や養殖魚も九州本土まで直接運べるようになり、島民に安心と利便性をもたらした。

2021年5月現在、伊唐島には289名が暮らしている。その人々のほとんどが農業を営み、特に力を入れているのが長島地区の特産『赤土バレイショ』とよばれるじゃがいもの生産。

八代海の温暖な海に囲まれ、ミネラルがたっぷり含まれた潮風にあたり良質に育つ赤土バレイショ。しっとりとした食感と、ぎゅっと凝縮された自然なあまさが特徴。煮崩れしにくく、カレーや肉じゃがによくあう。もちろん、素材そのものの味を楽しめる素揚げのポテトフライや、じゃがバターもおすすめだ。

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(↑料理の苦手な筆者でも簡単においしくできる赤土バレイショの素揚げフライ)

4月中旬の晴れた日。伊唐島をドライブしていると、だんだん畑のいたるところで赤土バレイショの収穫に励む人々の姿が目に止まる。日よけ対策の長袖に、シャカシャカ素材のパンツ、首まですっぽり覆う形の帽子をかぶり、カゴの中に掘り起こしたばかりの赤土バレイショを放り込んでいく。その手さばきは一流だ。時折、顔をあげて笑いあっている姿が、晴天に映える。この光景は、春の伊唐島の風物詩。

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そんな活気溢れる伊唐島でじゃがいも農家を営む、『高橋農園』の高橋進さんのもとを訪れた。

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結婚を機に、妻の生まれ故郷に移住

およそ18年前、長島町へ移住した高橋さん。高校卒業までを種子島で過ごし、就職を機に鹿児島市内へ。就職先の飲食店で同僚として出会ったみゆきさんと20歳で結婚し、21歳の時に長島町に移り住んだ。伊唐島は、みゆきさんの生まれ故郷だ。

移住当初は義理の父が営む漁業と農業を手伝いながら、一次産業についての知識を得ていったと言う。

「最初は何も知らなかったの。でも、お義父さんの手伝いをしながら、いろんな人と話していると、どうやら長島はじゃがいもがいいらしいぞってわかってくるんだよね。それで、じゃがいも作りに力を入れてみようと思って」

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販路を開拓するために、『高橋農園』を立ち上げる

まるで何十年と経営をしてきた風格を感じる高橋さんだが、創業からまだ5年ほどしか経っていないと言うから驚きだ。『高橋農園』を立ち上げるまでは、生産、収穫までは自身で行い、出荷はJA (農業協同組合)に委託していたと言う。

「『高橋農園』を立ち上げたのは、売るのを人頼みするのではなく、自分でやりたいと思ったからなんだよね。選果場を作ったり、選別機を買ったりして、それなりに初期投資はかかったけど、生産から出荷まで全部自分でできるようになってやりがいをさらに感じるようになったよ」。

独立後は販路拡大に向けて、鹿児島市内まで出張し、かご市(かごしま特産市場)や、山形屋(鹿児島のデパート)で開催される『長島フェア』に出店をした。そうすればデパートで取り扱ってもらえるようになると目論んでのことだったが、「そう甘くはなかった」と高橋さん。

本格的に自分で売っていくしかないと一念発起し、ホームページを立ち上げる。このホームページの立ち上げが転機となったそうだ。

デザインにこだわり、SEO対策(検索の上位に表示されること)にしっかり取り組んだことで、ホームページに訪れる人が増え、売上に繋がった。

そこから右肩上がりに売上は伸び、現在では通販と合わせて、大手スーパーや『銀座無印』の野菜売り場にも『高橋農園』の赤土バレイショが並ぶ。

多くは語らない高橋さんだが、「おいしい長島の赤土バレイショを、たくさんの人のもとに届けたい」気持ちと、そのための根気強い努力が伝わる。

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いつかは、伊唐島の赤土バレイショをブランドに

伊唐島のじゃがいも農家の現状について尋ねると、ほとんどが出荷を外部に委託しているのがもったいないと思っていると高橋さんは視線を落とす。

「伊唐島で作っているじゃがいもを自分が選果できたら『伊唐島ブランド』として出荷することができるのになぁって思ってさ。それで全体の売り上げが1割でも上がれば、みんなに還元できるじゃん。そうすれば、みんながちょっとずつ幸せになれるはず。でも、ま、いまは現実的じゃないから夢ってことで…」。

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自分だけではなく、伊唐島で暮らす仲間のことも気にかける。仕事の展望にさえ、「みんなで一緒にしあわせになりたい」と堂々と発言できる懐の深さには頭が下がる。長島町に暮らす人々は、"なんでもみんなで分け合う文化"があるとよく耳にするが、種子島から移住した高橋さんにも、長島文化の色が脈々と受け継がれているのだ。

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今後は、空いている畑を借りて生産量を増やす予定で、そのために新しい従業員を迎え入れたそうだ。伊唐島の赤土バレイショをより多くの方に届けるために、日々奮闘する高橋さん。最後に、これからの目標について伺った。

「目標という目標はないけど、う〜ん、健康に暮らせたらそれでいいかな。嫁と出会って、何もかも恵まれてるし、やりたい仕事はなんでもやらせてもらえたし。だから、長島にきてよかったよ。このまま墓まで長島で暮らすつもり!」

終始にこやかに、それでいて一本芯の通った声色でお話をしてくださった高橋さん。一貫して、自分のことを話す際に「運がいい」と前置きされていたのが印象的だった。いつでも前向きに生きることで、いい出会いに恵まれ、いい仕事に恵まれる。気持ち次第で、人生はいいほうに転がっていくのだと気付かされたのであった。

高橋農園についての詳細はこちら↓




【編集後記】

編集後記まで読んでくださっているあなた、ありがとうございます。第一弾のインタビュー記事、楽しんでいただけましたか?

あれこれと考え、書きあぐねていたら、公開が遅くなってしましました。じゃがいもの収穫時期は終わり、今はサツマイモの植え付けがはじまっているようです。

この連載は、わたしが長島に移住した理由である「うれしくって泣いちゃいそうな、感動の多い日々を送りたい」という気持ちから派生した取り組みです。書くことを通じて、長島の方と関わりたい。そして、想いを届けるお手伝いをしたい。

移住した理由、長島への想い、仕事への姿勢。そういった個人の心情は、ただ関わるだけではなかなか知り得ないことです。それが、インタビューという体をとることで、すんなり聞けたりする。仕事を言い訳にして、誰かの人生の深いところまで入り込めることができる。それが、ライターという職業のいちばんおいしいところだと、わたしは思います。

見た景色、口にした味、出会った人々。愛しい思い出を、記憶にも、記録にも、書くことで残していきたい。そんな夢を抱きながら、マイペースにはなりますが、今後も続けていきます。

また覗きにきていただけるとうれしいです。

最後になりましたが、お忙しい時期にも関わらず、はじめての試みにお時間を割いてくださった高橋さん。ご協力、ありがとうございました!

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高橋農園のホームページ、ぜひチェックしてみてね!


さいごまで読んでくれてありがとう!うれしいです!🌷