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東京で「ただいま」と言える場所をくれた人

「しんみ、おかえり!」

大きな声でそう言って、笑顔で迎え入れてくれる。
1年9ヶ月前、私に東京の居場所をくれた人。恩師でありコピーライター赤城廣治(あかぎこうじ)さんとのエピソードを聞いてほしい。


2017年10月28日〜2018年2月3日まで、私は教育講座「宣伝会議」の「コピーライター養成講座 叩き上げコース3期」でキャッチコピーの勉強をしていた。

元はと言えば「自堕落な生活習慣を改善したい」と笑われて仕方のない動機で始めたキャッチコピーの勉強。広告業界に対して高い志があったわけでもなく、時間を拘束される習い事なら何だっていいと、同年の春から初心者向けの「基礎コース」に通っていた。学ぶうちに本気になって、もっと学びたくなり「叩き上げコース」の体験講座に出向いた。

教室に入ると、凛々しい顔をした男性が登壇者席に座っていた。よく通るハスキーな明るい声で「緊張するな〜」とニコニコしながら膝で手を拭っている。屈託がなくて話しやすそうな人だと思った。この方が、後に私の尊敬する人になる赤城廣治さんだ。

体験終了後、宣伝会議のそばにある激安居酒屋「中西」で懇親会が行われた。ビールもハイボールも180円、表参道の立地としては破格のお店。宣伝会議生たちは講義の後、大抵このお店で打ち上げをする。あの日も、ずいぶん遅くまで中西で過ごした。

「俺は、お前の才能を見逃さない。叩き上げで待ってるぞ」

暖簾をくぐって外にでると、赤城さんが私の目をまっすぐ見て言った。「お前の才能を見逃さない」だなんて人生で一度も言われたことがなく、落雷のような衝撃が走った。私の可能性を信じてくれる。出会ったばかりなのに、本気で言ってくれていると伝わる。「この人の元で学んでみたい」そう思った。

年末年始を除いた毎週土曜日18時半〜20時半。20人のクラスメイトと一緒に叩き上げコースで学んだ。熱心な講師たちの講義は、ほぼ毎回、22時近くまで及び、講義後はみんな酸欠気味で中西に向かって、毎週深夜まで、時には朝まで語り明かした。

いい評価をもらえた日も、もらえなかった日も、同期の書くコピーに嫉妬した。飲み会は欠かさず出席したけど、劣等感で食事もままならず、安っぽい薄味のハイボールは悔しさで味がしなかった。成績は悪いほうではなかったけど、いつも自信がなかった。

「しんみは、青い炎だよな」

隣の席でハイボールを流し込みながら赤城さんが言う。

「普通はさ、赤い炎なんだよ。やる気がメラメラ大きく燃えてる。でも、しんみは青い炎。火は小さいけど、温度が高いし、静かに長く燃え続ける。表に感情出すタイプじゃないけど、そういう奴の気持ちってめちゃくちゃ強くて伝わるんだよ」

「自信はなくたっていい。臆病なのは、それだけ人の気持ちを考えてるってこと。しんみは感情で書くタイプ。その感性は大事にしたほうがいい」

講座に通っているあいだ、「自信がない」と漏らす私に何度もこの話をしてくれた。

赤城さんがいつも肯定してくれるから、私は伸び伸びと宿題に取り組むことができた。赤城さんの講義は全3回で、毎回キャッチコピー10本を提出する。私はいつも、人生観を込めたキャッチコピーを1本だけ忍ばせていた。


老いることはロックだ。かっこよく老いることはもっとロックだ。
(某育毛剤キャッチコピー)

この旅は、愛を除いても、いい旅だったと言えるだろう。
(某ちょっとお高めの旅行プランキャッチコピー)

ドレスを脱いでも続く人生のために、私は今日、ドレスを着る。
(結婚式をあげたくなるキャッチコピー)


このみっつのコピーを、赤城さんは「しんみ三部作」と呼んでくれた。ロック、愛、人生。それぞれに、私が大事にしたい想いが詰まっている。このコピーたちが市場にだせるレベルかはさておき、叩き上げコースを受講していた3ヶ月のあいだ、私が本気で書いた言葉たちだ。

赤城さんは、このコピーたちを好きだと言って評価してくれた。自由に、好きに、書いた言葉をほめてもらえた経験が少しだけ自信に繋がったし、私が書きたい言葉の軸を作ってくれたように思う。

赤城さんの講評レジュメはすごく分厚い。ひとりひとりに1.5〜2ページに渡ってびっしりと講評が書かれている。それを全て読み上げるから、同期が「赤城さん、自分たちで読めばわかるから全部読み上げなくても大丈夫ですよ!ノド枯れちゃう!」と伝えていたけど、後輩の4期生に聞いたら「今年も全部読み上げてます!」と言っていて赤城さんらしいなと思った。いつでも全力で向き合ってくれるから、私たちも信頼できるし、真剣になれる。

叩き上げコースに通ったことで、赤城さんに出会えたことで、私はキャッチコピーを好きになれたし、「自分らしい言葉」を突き詰める決意を固めた。ステップアップのステージとして叩き上げコースを選んでよかったと、いまでも心底思う。

卒業してからも、関係は続く。みんなでバーベキューをしたり、誕生日会を開いたり。毎年6月には温泉合宿にも行く。会えない時でも、私がnoteを更新すると感想を送ってくれたり。何かと気にかけてくれる。

そんな中、2019年の頭から、私は文章が書けないスランプに陥っていた。自分の書いた言葉をけなされ人間的な批判を食らう日々が続き、精神的に参っていた。書くことが怖くなっていた。

悩みのピークが限界に達し始めていた2019年1月末、偶然、中西で赤城さんと出会う。赤城さんは私の顔を見るなり「お前ちょっと様子おかしいな。話そう」と声をかけてくれた。

私はあまり人に悩みを話す方ではないけど、赤城さんには、なんでも話せた。うまく書けないこと、批判をされて参っていること。たくさん話を聞いてもらった。赤城さんがくれる言葉がどれも優しくて、いつのまにか大泣きしていた。

「お前の泣いてる姿、いいなぁ。それだけ本気ってことだもんな。言葉にも、人間にも。本気だから泣ける。真剣に向き合うしんみ、俺は好きだな」

まるで、言葉に抱きしめられているみたいだった。背中を押すでも、寄り添うでもない。抱きしめられていた。

赤城さんのくれた言葉のおかげで、すべては自分の気の持ちようだと前向きに物事を捉えられるようになった。気持ちに一区切りがついた時、ちゃんとまた言葉を書けるようになった。立ち直ってしばらくしてから書いた記事にでてくる「人生の大先輩」は赤城さんのこと。私の書く文章には、よく赤城さんが登場する。

私は、赤城さんが大好きだ。書き手としても、人間としても、尊敬している。影響だって受けている。私も赤城さんのように、言葉で人を抱きしめられるようになりたい。どんな生き方をすれば、あんな風になれるんだろう。まだまだ、赤城さんから学びたいことがいっぱい。

今年も10月から「宣伝会議コピーライター養成講座 叩き上げコース5期」が開講する。講義後に行われる中西での飲み会、私は今年も顔を出すと思う。

その時きっと、赤城さんは「おかえり!」って迎え入れてくれるから、私は「ただいま!」と返事して、いつものように薄味ハイボールで乾杯をする。

「しんみ。この関係、3ヶ月で終わると思うなよ。ずっと続くぞ」

講座の初日にくれた言葉。その通りになるように。これからも「おかえり」「ただいま」のやりとりができるように。赤城さんに対して恥じない私でありたい。成長の手応えを届け続けていたい。

さいごまで読んでくれてありがとう!うれしいです!🌷