「書くことは好きですか」の問いは
いつも答えに詰まる。
好きの隠れた部分にある、うう、と声を絞り出す時間が思い出されて語尾を濁してしまう。
恐怖と孤独
書くとき、崖っぷちに走り出すような恐怖を胃に覚える。落ちないよう覗き込むのは心のなか。形のまだない感情と対峙する。480字でバラバラにならず2000字にたどり着けたら息を吐ける。
書くことは、孤独だ。
どんなに胸の中に言葉があっても、書かない限りはじまらない。そして書き出せるのは、誰でもない自分しかいない。
読む人に恵まれようと、執筆を並走する編集者に巡り会おうと、一文字を書き終わりの読点をつける瞬間はたった一人だ。
そうやって書き切れなかった下書きの山や書き始められない思いの欠片は、「好き」の響きみたいな無敵になれる力強さとは到底似つかわしくないのだけれど、決して捨てきれない愛おしさがある。
感情に名前を
いま読んでいる本に、惹かれる一節がある。
ひとりの人間はあらゆる段階の心を、あらゆる良きものや汚いものの混沌を抱えて、自分ひとりでその重みを支えて生きてゆくのだ。まわりにいる好きな人達になるべく親切にしたいと願いながら、ひとりで。
/吉本ばなな『TUGUMI』
これは、主人公が離れて暮らしている父親を街中で見て「人生は演技だ」と悟るシーンだ。ひとりであるという事実が、例えば小さな頃、明け方に目覚めて隣に眠る母の背中に鼻先を押し付けるときのさみしさを説明してくれたような気がした。
誰かの文章が、形のなかった感情に言葉をつけてくれる。それは強烈な一言のときもあれば、美しいワンシーンのときもある。
言葉が映し出す感情は、それが反射するほど鮮明なものであれ、かすかに匂い立つものであれ、なにかを心に置いていく。誰かを想わずにいられない気持ちの名前が好きであると気づいたとき、人が恋に落ちるみたいに。
そんな文章を、書ける瞬間はいくつあるかな。
書くと、つながる
書くことは、自分とつながることだ。脳に汗をかき、心を澄まし、細い糸を手繰るように書き表したい感情にぴったりとはまる言葉を探しにいく。
そして書いた先で、誰かとつながったりする。幸運にも書いた文章が遠くに連れて行ってくれることもある。
私自身、昨年は約250本のnoteを書いた。そのなかで、育児の悩みに声をかけてくれたり、一つのテーマで遊ぶように書いたり、時間を割いて文章にフィードバックをくれたりする人たちに出会った。
書かずにいたら、いなかった場所にいま立っている。もちろん書き続ければこうなるなんて成功のルールは存在しない。
でも、書けない崖っぷちで対峙し書き切るを繰り返していると、いつか自分の書いたものを好きといってくれる声に出会う。それは、ひとりで書き続ける時間の心に、揺るぎのない光をくれる。
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書くことで自分とつながり、誰かとつながるチャンスは、noteのプラットフォームにはいくつも転がっている。
今日から始まったillyさん主催の私設賞、『#磨け感情解像度』もその一つだ。
▼テーマ・募集作品▼
#磨け感情解像度
気持ち/人への想い/葛藤/心象を、解像度の高い言葉でうまく表現した作品に賞を贈ります。これは私自身が磨きたい部分なので、皆さんのいろいろな工夫を、作品を通じて教えてください。
・作品形態は小説/エッセイ/評論/詩など、言語表現であればなんでもOKです。文字数にも制約はありません。
・ 描く「感情」の種類も、なんでもOKです。
・ 応募は「1人1作品」「無料公開」でお願いします。
▼応募期間▼
2020年6月1日(月)〜6月30日(火)23:59
(お住まいの国のTimezoneで)
※日本時間6月1日以後に投稿された作品が対象です!過去に投稿された作品は応募できませんが、投稿しなおした場合は応募できます(キナリ杯と一緒です)
▼応募方法▼
note投稿にハッシュタグ #磨け感情解像度 をつけて投稿してください。
twitterでもタグ付きで投稿してもらえると尚喜びます。
▼賞▼
・最優秀賞(1名) 賞金 1万円
・優秀賞(7名)賞金 3,000円
・佳作(若干名) 若干の賞金
※主催者(illy / 入谷 聡)よりnoteのサポート機能にてお贈りします。
私設賞の参加は、主催者(読み手)と参加者(書き手)の独特の距離感にある。
主催者の人に読んでほしいと思って投稿してみる。テーマに沿って自らの書きたい感情を研ぎ澄ます。
多彩な内容が投降される作品を読み漁るのも得るものがあるだろうし、Twitterのシェアやnoteのスキでほかの書き手との交流するのも楽しい。
参加して得られるものは、入賞のチャンスだけじゃない。
孤独で書く時間も、書いたものが手を離れていく瞬間も、何回経験しても飽き足りない。だから好きなんだと思う。
月間アクティブユーザーが4000万人を超えたnoteの街で、このコンテストが、誰かの書き切れない何かを書き出すきっかけになったらいいな。
そして緑の公開ボタンを押す、はるか先まで続く書く道を彩る一助になればいいななんて、2年前にひとり書き始めた私はひそかに思ったりしている。
※私は運営パートナーとして、投稿作品をマガジンにピックするお手伝いをしています。参加を考えている方は、ぜひ下記マガジンもフォローを!ほかの投稿作品が続々読めて6月のあいだnoteライフを楽しめます。
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