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愛しの土鍋とオーブンと

ちょっと「土鍋」に恋い焦がれている。

なんの話か。まずは天気だ。今朝カーテンをあけると、外はどんよりと曇りだった。

今週は、南半球の夏空は休業中。太陽は雲隠れし、うっすら肌寒い。秋冬のニットを着て、本日の夕飯に想いを巡らす。お鍋がいい。カセットコンロの上で、くつくつ湯気をのぞかせる土鍋に会いたい。

家には夫が買ってきた、銀色のピカピカした料理人のこだわりだかなんかの両手鍋がある。耐熱性はピカイチで、これでミネストローネやポトフを作ると、味わい深いスープになる。

けれども。日本で生まれ25歳まで育った私は、最近、無性に土鍋のお料理が恋しくなる。

昆布で出汁をとって。自家製つくねと豆腐と水菜。厳選したぴかぴかの具材たちを大切に入れて。〆にはとろとろの溶き卵と白いご飯で雑炊にして。ハフハフ食べたい。もちろん、好きな具をてんこ盛りにしたキムチ鍋なんてのも大好きだ。

悲しいかな、私が住んでいる国はニュージーランド。土鍋が家にない。かろうじて、アジアンスーパーで土鍋を見かけたりするのだけど。なんだか……買う気がしない。

「はい、これ土鍋。これでいいでしょ」

みたいなクオリティで、底の作りとか粗雑な気がして、あれで具材をぐつぐつ煮ておいしくなるのか思わず不安になってしまう。

だったら日本から好きな土鍋を、と考えているのだけれど、いまのところスーツケースの重量制限に拒まれて、愛しの土鍋が海を超える計画は実現していない。

じゃあ寒い日はなんだ。何をつくるのだというと、オーブン料理だ。

3時間ぐらいオーブンをつけっぱなしにして、150度の低温で、下味をつけてアルミホイルをかぶせた塊肉を調理する。

このnoteを書いている私の後ろでは、1.5キロのスペアリブがオレガノとミックスハーブと塩と砂糖で味付けされ、アルミホイルをぴっちり被せたトレイにおさまり、4時間半ほどオーブンで熱されている。

食べる直前にケチャップをハケで塗り、180度で5分焼くと、それは美味しいポークスペアリブになる。箸で切れるほどの柔らかさ。

金曜日の静かな午後。家のなかに、豚肉のよい香りが充満する。夕飯はスペアリブと、切ったトマトときゅうりを添えて、卵とほうれん草のスープを作ろう。15分もあれば完成する。主菜がすでに整っている。それってなんて心の平穏。

うん、オーブン料理も悪くない。どんな肉の塊を入れても、ほおっておけばおいしくしてくれる。万能なオーブンに不満なんてない。

でもね。急に寒くなった日は、ふっくらした練り物や、味のしみた大根や、つるりとしたお豆腐が笑ってるような土鍋が恋しくなってしまう。

この、手の届かない憧れを恋焦がれる気持ちは、たぶんどんなに長い月日を異国で過ごしたとしても、消えないのだと思う。舌が、育った土地の味を覚えている。

昨年は秋に日本に帰り、サンマに惚れ込んだ。次の帰国はおそらく冬だろうから、土鍋料理を思う存分、愛でようと思う。

手に入れたい土鍋はもう決まっている。

noteでよくお見かけするtamamiazumaさんの土鍋。一目みたとき、ハートを撃ち抜かれたのが、おひとり様用のミニ土鍋。

 大きな土鍋と小さな土鍋の2つを手に入れ、海を越えるのが私の夢。

クリックひとつで物が手に入る時代に、いつか出会えるときを待ちわびている。そんな日々も、悪くないもの。


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