それは、朝のさりげない会話で
子どもというのは、なんでも遊びに結びつける。生活があり遊びが付属しているのではなく、遊ぶために生きているといっても過言ではない。
パジャマを着ながら「頭がでません~」と遊び、道をあるけば落ち葉を拾い「うちわでーす」と遊ぶ。
食事は、娘にとって遊びのチャンスだ。もとより小食な娘。だまってもくもく食べ物を口に運ぶという習慣がない。大人からみれば「遊び食べ」を連発する。
だからこそ、子どもと違う世界で生きている大人は、だいたいは疲れて、ときには愛おしく思うのだけど。
*
今朝もそうだった。食べかけのハッシュポテトをまじまじと見つめ、「これ、何の形に見える?」と娘は唐突にナゾナゾを出してくる。
手に握られているのは、いびつな「M」の字のようなかじられたハッシュポテトだ。青虫のようにも見える。
「カァモォだよねえ」
ナゾナゾではなかったらしく、母の答えを待たずに正解を教えてくれる娘。
でも、カァモォってなんだ? わからない。頭の中で、該当しそうな日本語と英単語をぐるっと探してみるが、コレというものが見つからない。
カモメかなと思ったが、娘が発した単語は英語だ。英語を母国語とし、家庭内では日本語を使う娘が、英単語を会話に挟むことは珍しくない。
使用される英単語のレベルは日に日に難しくなり、英語非ネイティブの私たちが、単語を聞き取れないこともしばしばある。
「カァモォってなに?」
「デザートにいて、ビッファットバッで、ピィッミッがあるところでー」
私が聞き取った娘の言葉を、忠実に文字に起こすとこんな感じである。
デザートは、砂漠だ。これはわかりやすい。
次のビッファットバッは、わからない。なんだろうそれ。
ピィッミッは0.05秒考えたけど、砂漠からの連想でひらめいた。ピラミッドだ。
砂漠で、ピラミッドでにいる生き物。スフィンクス……?じゃないよな。カァモォ……カ……Ca……あ、Camelだ!!ラクダのことか!!
「ラクダでしょ?」と日本語で返したら、「そう!」と娘はにっこりした。ビッファットバッは、もう一度聴いたらBig Fat Butt(大きな太ったお尻)のことだった。ラクダのコブを指してたのかな。
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娘のように二言語を扱う人を「バイリンガル」と呼ぶわけだけれど、その実態は多様だ。二つの言語をどのように扱うのか、人によって大きく異なる。『英語圏で育つ日本人家庭の子』といっても、その日本語習熟度合いは、一人として同じではないだろう。
今日の娘のような、英語交じりの会話は「ルー語」とか、タレントの芸風もあって日本語シーンで揶揄されちゃうこともあるのだろうけど。そういうの、笑われないようになるといいなあと思う。
知らない日本語を英語で埋めるのは、娘にとっては至極自然なことだ。聞き手としては「???」になることもあるのだけれど、沈黙よりはずっといい。そこに、伝えたいという会話があるのだから。
娘は、「おかあさん、なんですぐにわからないの?」と思ってたのかもしれないけど。
私は、ナゾナゾを解くみたいでたのしかったよ。そんな朝の、さりげない会話。
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