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埴輪紹介所

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はにこが出会った埴輪たち。埴輪との出会いの衝撃をあなたにも。これはと思う埴輪がいたら、会いに行ってみて。埴輪のいる人生が始まります。
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#大阪

こまりんぼ【埴輪紹介所その1】

埴輪紹介所はじめました。 初回はこまりんぼ。 埴輪ならではのプロポーション。 上着の下のトリック。 横から見ると、とっても細い。 クツは平べったい。 でも鼻は高く、立派なミズラを結っています。 弓もユギもないけど、鞆を腰に下げる。大刀も。 肩甲(かたよろい)と籠手(こて)で腕はがっちりガードも、胴体はのっぺりで甲っぽくない。大丈夫か。 冑は謎多し。 いつもこまり顔。ため息が聞こえる。 そんな彼がわたしは大好き。 群馬県藤岡市白石字滝出土の男子埴輪。 所蔵はトーハ

パニエなカサ【埴輪紹介所その178】

スカートみたい。 パニエをつけてふくらませたスカート。二段切り替え。 しかし実はカサです。キヌガサ形埴輪です。 キュッと締まったウエストに見える円筒部に、差し込まれるはずの部分があるはずなのです。しかしその部分「立ち飾り」は出土していない。残念。 カサ本体より立ち飾りが目立つ埴輪。 立ち飾りがないと、広がったスカートになってしまう埴輪。 大阪府羽曳野市・藤井寺市の古市古墳群の誉田御廟山古墳(こんだごびょうやまこふん。別名、恵我藻伏崗陵(えがのもふしのおかのみささぎ))

ピエロの襟【埴輪紹介所その170】

鶏とは美しい鳥 だから埴輪になったのか? いや 戦う鳥だから? 尾はアーチ状(筒尾)、脚は止まり木をつかむ。 首のぐるりの輪っかは何だろう。 ピエロ服の襟みたい。 『よみがえる大王墓・今城塚古墳「遺跡を学ぶ」077』のグラビアのキャプションには「頸羽を逆立てて鳴きだす瞬間」とある。 読みは「けいう」らしい。 ピエロは興奮状態ということらしい。 鳴き声が無視できない鳥だから埴輪になったのかもしれない。 埴輪の鶏は静かだが。 大阪府高槻市今城塚古墳出土の鶏形埴輪

訳あって太い脚にもアンクレット【埴輪紹介所その165】

はっきり申せば脚が太い。 しかたない。 粘土を輪積みして中空にする、という埴輪のつくりの都合上、そんなに細くはできない。男子埴輪は袴が太いが女子埴輪は脚自体が太くなってしまう。 座る埴輪みたいに中実なら話は別だけど。別というか、逆に細くなる。 ところで、裸足なのね。 指があるからそれがわかる。 足首の二重のアンクレットを始め、衣装が華やか。 左右非対称の布とか、リボンとか、線刻とか。 いいなあ。 ところで、ちゃんと顔がある。 2009年に群馬の大埴輪展で見たと

スタッズ付きブレスレット力士【埴輪紹介所その143】

こんなに大きいスタッズはないか。 鈴か玉かな。 それを両手首につける。鈴ならかなりうるさいが。 当時の相撲は命がけで蹴り合ったらしい。 だが戦い方以外の点で、ブレスレットをはじめ、この埴輪は引っかかることが多い。 まず、太ももに孔! しかも前後に孔! なぜだ。通気のためだとしても、後ろだけでよくないか? 前後に孔をあけたらもろくなってしまうのでは? そして、裸足なのに、なぜ脚結(あゆい)をつけているのか? たくし上げる袴をはいていないなら、不要では? おしゃれなのか

80%子馬【埴輪紹介所その141】

かつて犬形埴輪とみなされていた。 しかし子馬形埴輪に訂正された。 決め手は足元です。蹄です。 しかしこれだけでは犬ではないと言い切れない、とはにこは思う。 安定のために足の下端を広げただけかもしれない。吉備器台のように。 そして決定的な部分がない。 しっぽがない。 しっぽが巻いていなければ犬の可能性を完全に否定できるのだが。 ただ、しっぽがあったと思われるお尻の上側の孔の大きさからいって、根本はかなり太い。 犬形埴輪のしっぽは細く、お尻の上にちょろっと巻いて乗ってい

鳴き声を失った馬【埴輪紹介所その140】

蹄がちゃんとある馬。 馬具つきの馬。 しかし 口のない馬。 ない、というかぼやけているので表情があいまいなのが惜しい。 そのぶん、まぶたで語る。 巻き上げられたしっぽ。 実際の馬では見たことがない。 上向く尾は馬形埴輪の最大の特徴でしょう。 大阪府四條畷市の南山下遺跡(みなみさげいせき)出土の馬形埴輪。高さ54㎝、鼻からしっぽまで86.5㎝。 所蔵は四條畷市立歴史民俗資料館。 撮影は2020年『「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展』銀座メゾンエル

読み取りきれないからこそ【埴輪紹介所その122】

凛々しさと 憂い? その横顔は 衝撃的なまでに立体的。モデルの実在を想像させる。 髷の前側は欠けているものの、情報はいろいろ残っている。 後ろに垂れ下がる髷は重みが感じられるほどの立体的な厚み。 頭部以外は出土していないにもかかわらず、埴輪界では有名人の彼女。写真がさまざまな埴輪本に載っている。 その理由の一つは読み取りきれない表情を持っているからでしょう。その謎に人は引きつけられる。 もう一つあるとすれば、日本最大の古墳から出土したからか。 大阪府堺市の大仙(

片翼の愛おしさ【埴輪紹介所その121】

上部に浮かび上がるやじり。 その下には、この写真では分かりにくいですが、直弧紋が描かれています。矢入れのユギです。 背板は右が一部残っている。左と上は欠けている。 ともかく、矢は守られた。 背面の棒状の支えは展示用。たぶん。 背部の円筒がわずかに残っている。 片翼の愛おしさ。 アンデルセン『野の白鳥』を連想する。片翼では、飛ぶことも矢を射ることもできない。 大阪府羽曳野市の墓山(はかやま)古墳(応神(おうじん)天皇陵飛地(とびち)ほ号(史跡墓山古墳))出土のユギ形埴

大刀を盾つきの鞘から抜いたらどうなるとか考えない【埴輪紹介所その112】

まず、これは大刀です。 その 大刀の鞘に 盾をつけてしまう。 なんという荒技か。 鞘から大刀を抜いたらどうなるのか。盾は盾として使えるのか。盾のサイズは。そもそも腰に履けるのか。 とか考えない。埴輪なのだから。 組み合わせ埴輪はいろいろある。冑と甲の組み合わせまでは実際に存在しただろうが… 現実に盾つきの大刀などない。少なくとも出土していない。 さすが埴輪。 ちなみに 上端開放型。U字カットあり。 柄が鹿の角でできている鹿角装(ろつかくそう)大刀がモデルと思わ

ちびっこ円筒埴輪【埴輪紹介所その89】

円筒埴輪としては、かなり小さいほう。高さ35㎝。 バリエーション豊かな展示室では、残念ながら、いちばん目を引かないこと請け合い。 でも見ましょう。円筒埴輪は謎の尽きない埴輪時代の大事な手がかり。 プロポーションは下総型円筒埴輪に近い。 下総型円筒埴輪は、だいたい、口径:底径:器高の比率が2:1:4程度、突帯 (とったい)3 条(つまり4段構成)、透孔(すかしあな)円形、とのこと。 「下総」と呼ばれていることからわかるように、下総型円筒埴輪は千葉を中心とする利根川流域か

乙姫に捧げる竜宮城【埴輪紹介所その88】

屋根の縁に 魚が泳ぐ。 この埴輪は竜宮城かもしれない。 そう思えば水の中に置きたくなる。 鯛やヒラメが出たり入ったり泳ぎ回る家。 屋根のトゲトゲはハリセンボンっぽい。 横木が渡されていたり、入口が波打ってたり、細かい線刻があったりと、手が込んでいる。 乙姫に捧げる家形埴輪。 しかし、屋根の縁で泳ぐ魚、よく見ると1匹は鳥にくわえられている。 海から陸へ。浦島太郎の帰還。 大阪府高槻市今城塚古墳出土の家形埴輪。高さ132cm。 同古墳からは牛形埴輪も出土しています。

にがにがしい顔でにらまれているのに【埴輪紹介所その87】

牛よ。 にらまないで。 角で突かれそうだ。 太い首に盛り上がった腰、確かに牛のプロポーション。 よく見えないが垂れた尾も。 しかしなにより、前に突き出すツノである。牛である。 ところで鼻づらに穴が4つある。なぜ? にがにがしい顔と関係ある? ない? にらまれているのに、つい寄っていってしまう。 大阪府高槻市の今城塚古墳出土の牛形埴輪。高さ59.5cm。 同古墳からは家形埴輪も出土しています。 所蔵は高槻市教育委員会。 撮影は『発掘された日本列島2014』江戸東京

芸術家の線【埴輪紹介所その81】

思い切りのよい線刻がアーティスティック。 見惚れる。 埴輪の魅力は中空であるという構造によるところが大きいと思うので、これほど線刻に目が行く埴輪はめずらしい。 この線刻は実際の鶏の羽とは違うだろう。 写実的でなくてもリアリティは生まれるという実例。 顔が欠けているのが惜しいといえば惜しい。特にくちばしが欠けているのが残念だ。 ただ、とさかは残った。 目の左右に耳朶(じだ)らしき円板もついている。 大阪府大阪市の長原古墳群の長原87号墳出土の鶏形埴輪。高さ32.3㎝。