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埴輪紹介所

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はにこが出会った埴輪たち。埴輪との出会いの衝撃をあなたにも。これはと思う埴輪がいたら、会いに行ってみて。埴輪のいる人生が始まります。
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2020年8月の記事一覧

読み取りきれないからこそ【埴輪紹介所その122】

凛々しさと 憂い? その横顔は 衝撃的なまでに立体的。モデルの実在を想像させる。 髷の前側は欠けているものの、情報はいろいろ残っている。 後ろに垂れ下がる髷は重みが感じられるほどの立体的な厚み。 頭部以外は出土していないにもかかわらず、埴輪界では有名人の彼女。写真がさまざまな埴輪本に載っている。 その理由の一つは読み取りきれない表情を持っているからでしょう。その謎に人は引きつけられる。 もう一つあるとすれば、日本最大の古墳から出土したからか。 大阪府堺市の大仙(

片翼の愛おしさ【埴輪紹介所その121】

上部に浮かび上がるやじり。 その下には、この写真では分かりにくいですが、直弧紋が描かれています。矢入れのユギです。 背板は右が一部残っている。左と上は欠けている。 ともかく、矢は守られた。 背面の棒状の支えは展示用。たぶん。 背部の円筒がわずかに残っている。 片翼の愛おしさ。 アンデルセン『野の白鳥』を連想する。片翼では、飛ぶことも矢を射ることもできない。 大阪府羽曳野市の墓山(はかやま)古墳(応神(おうじん)天皇陵飛地(とびち)ほ号(史跡墓山古墳))出土のユギ形埴

三角の補強で迫力の通せんぼ【埴輪紹介所その120】

この迫力よ。 宮内庁のサイトによれば、現状での高さはおよそ116.5㎝。上部が欠けており、本来は150cm以上と推測されている。 そして「渡土堤をふさぐように並べられていた埴輪列のなかの一つ」。 通せんぼするにふさわしい盾である。 縦横斜めに走る線刻を確認。 背面も迫力。 後ろ側に突帯(とったい)がめぐっている。 本体は円筒埴輪、それに板をつけたということがわかる。 側面をあおると、三角が見える。 なるほど。補強してあるのね。 奈良県奈良市の佐紀陵山(さきみささぎや

きれいな丸い孔の情報【埴輪紹介所その119】

底に孔があけられているのがよくわかる、うまい展示。 きれいな丸い孔。焼く前にあけたということになる。 角度によっては底部が花のよう。 まさかこれも計算か? まさか。 口縁はくっきりとした二重口縁。 埴輪黎明期の埴輪。 奈良県桜井市の箸墓古墳(倭迹迹日百襲姫命大市墓(やまとととひももそひめのみこと おおいちのはか))出土の壺形埴輪。高さ45.0㎝、口径33.7㎝。前方部頂上に直接置かれていたらしい。 後方部からは突帯三条の壺形埴輪が出土しているようだが未見。見たい。

一文字口【埴輪紹介所その118】

頭にはちまきを巻いているらしい。髷は残念ながら一部しか残っていない。 顔の彩色もよく分からず。 くび飾りの玉はだいぶ取れてしまったらしい。埴輪のおしゃれの基本の耳環もない。 かろうじて上衣のあわせが斜めに残る。ちなみに埴輪はたいてい左前。 そんな彼女の口は一文字。 しかし同じ古墳出土の埴輪と見比べると、面白いことがわかる。 への字口の彼と姿が似ているのだ。 卵形の頭に寄り気味の目、長い腕、全体にすらりとしている。 そうなると口の違いが気になる。 栃木県下野市の甲塚

への字口【埴輪紹介所その117】

上げミズラ。おだんご形は珍しい。 すらっとしています。 しかし顔。 眉に沿って赤いライン。ほほには赤い+印。 それはいいとして、なぜおもいっきりへの字口なのか。 どうしたのさ。 かぶり物がないから? くび飾りがないから? 鍬がないから? お団子ミズラがイヤなのか? 腰に佩いた大刀がお箸みたいで気に入らないのかも。 栃木県下野市の甲塚(かぶとづか)古墳出土の男子埴輪。高さ97.1cm。 甲塚古墳出土品は一括で重要文化財に指定されています。 所蔵は下野市教育委

労働がもたらす余裕の笑顔かもしれない【埴輪紹介所その116】

ながーい帽子にくび飾り。そこそこ着飾っていると思うが、肩には鍬。 顔の左右に突き出す上げミズラ。どうやって結っているのか。 右の袖はどうなっているの? なぜ左と違うの? 彼は赤い顔でにっこりするだけである。 畑仕事のあとに一杯引っかけた、かのようだが、赤いのはたぶんメイク。 埴輪時代の労働と美と弔いの感覚はまだつかめない。 栃木県下野市の甲塚(かぶとづか)古墳出土の男子埴輪。高さ107.6cm。 甲塚古墳出土品は一括で重要文化財に指定されています。 所蔵は下野市教

トンカチくんの半笑い【埴輪紹介所その115】

赤いほほ。なぜか口が右半分しかない。 でも笑顔に見える。 半笑いというとあまりいいイメージではないが、彼の半笑いは温かみがある。 トンカチ形の下げミズラを結う。 脚部は復元。左腕は失われたまま。 右手で何を差し出してくれているのか。 栃木県下野市の甲塚(かぶとづか)古墳出土の男子埴輪。現存高さ56cm。 甲塚古墳出土品は一括で重要文化財に指定されています。 所蔵は下野市教育委員会。 撮影は『発掘された日本列島2015』(於・江戸東京博物館)にて。 またね。

コロク【埴輪紹介所その114】

青海波が刻まれた中央がふくらんでいます。入れ物です。 何を入れるか。 上のほう、二重線で何か描いてあります。 羽ですね。 矢羽根です。 この埴輪は、矢を矢羽を上にして収める「コロク」です。 矢入れといえば、鏃(やじり)を上にして矢を入れるユギが埴輪ではお馴染み。 コロク形埴輪はめずらしい。和歌山県に多し。 コロクの鏃は下を向いていることになりますが 見えません。これ以上、上からのぞき込めませんでした。 右下にくっついているバナナはなんでしょうね。というのは置

墳丘に咲くラッパ?【埴輪紹介所その113】

何に似ているかと問われたら? ラッパじゃないでしょうか。口縁反り気味なこの広がりかたは。 でもラッパがモデルの埴輪ではなく、台に乗った壺がモデルの埴輪です。朝顔形円筒埴輪と呼ばれています。 誰が名付けたのかは不明ですが、花の名はちょっと良いですね。墳丘に咲く、枯れることのない花。 ところで、朝顔形円筒埴輪にもいろいろある。 細いくびれを作ってから直線的に広がるものもあれば くびれのないトーチのようなものもある。 この埴輪は? 一応ちゃんとくびれてます。ややムチム

大刀を盾つきの鞘から抜いたらどうなるとか考えない【埴輪紹介所その112】

まず、これは大刀です。 その 大刀の鞘に 盾をつけてしまう。 なんという荒技か。 鞘から大刀を抜いたらどうなるのか。盾は盾として使えるのか。盾のサイズは。そもそも腰に履けるのか。 とか考えない。埴輪なのだから。 組み合わせ埴輪はいろいろある。冑と甲の組み合わせまでは実際に存在しただろうが… 現実に盾つきの大刀などない。少なくとも出土していない。 さすが埴輪。 ちなみに 上端開放型。U字カットあり。 柄が鹿の角でできている鹿角装(ろつかくそう)大刀がモデルと思わ

モデルはもっと細い【埴輪紹介所その111】

丸いのは鈴。 曲線を描く板は護拳帯(ごけんたい。勾金(まがりがね)ともいう)。 ところで、これは大刀です。 太いけど… 楔形柄頭(くさびがたつかがしら)の木製大刀がモデルと思われます。 埴輪はだいたいモデルより小さい。家・馬・人など。モデルより大きく太い埴輪は少ない。 他には弓形埴輪が該当する。 大刀形埴輪には、鈴に加えて「三輪玉」をつけたものもあり。 鈴の代わりに四角錐をつけた鹿角装(ろつかくそう)大刀がモデルの大刀形埴輪もあります。 大刀形埴輪のモデルは今のと

盾の裏をのぞこう【埴輪紹介所その110】

左右にちょっこり尖り。 その下の方に、ギザギザもよう。 直しは多いが、盾があったという確固たる事実がここにある。 盾に学ぶ。 他にも学べることがある。 裏側。 盾持つ人はいない。 それより天辺に孔。 孔を開けたというよりは、円筒を開放状態のままとしたのでしょう。 盾の裏にも表にも、確かに誰かがいた。 神奈川県横浜市の瀬戸ヶ谷古墳出土の盾形埴輪。 所蔵は東京国立博物館。 撮影は2016,2017年、東京国立博物館にて。 瀬戸ヶ谷古墳からは、他にも多くの埴輪が

埴輪が訴えてくる【埴輪紹介所その109】

高坏(たかつき)とは? 脚のついた器。 埴輪では その脚は短め太め。 木製漆塗りのものほど細くできないのは仕方がないが、土師器や須恵器の高坏の脚はけっこう細いのに。 高坏を円筒に乗せているが、その円筒も短く、高さ確保できず。 埴輪が何かを 訴えている… 埴輪だから仕方ないのだ、といったところか。 そうね。屋外に置きっぱなしにされることを考えるとね。丈夫がいちばん。 太い脚で支える大事な器は、大型の丸皿。基本は。 この埴輪の皿は段差がある。 二重口縁の壺の口み