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「広島原爆の日」を前に考える「核兵器禁止条約」と日本の関係

■SDGsがスルーした「核兵器のない世界」

SDGsのゴール16「平和と公正をすべての人に」は、すべての人が暴力から解放され、平和、人権、公正な司法へのアクセスが保証された未来を目標しています。

一人ひとりの人権が守られ、安心して暮らせる環境なしに持続可能な社会は実現できません。こうした意味から、ゴール16はSDGs全体を支える重要なゴールであり、暴力の根絶や武器の流通を減らす目標が掲げられています。

しかし「戦争のない世界」や「核兵器をはじめとする大量破壊兵器の根絶」については触れられていません。SDGsは時折、こうした重要なトピックがサラリと抜け落ちていることがあります。

兵器産業が強いアメリカのような国もあるので、国連に加盟する193ヵ国すべての合意を取り付けるには妥協も必要なのかもしれません。従ってSDGsは不完全という認識を持ち、“何が欠けているのか?”という視点でチェックすることも大切です。

その一方で、核兵器のない未来に向けた取り組みが始まっています。今年1月22日には、国連で「核兵器禁止条約」が発効しました。これは人類史上はじめて、核兵器の全面禁止を目標に掲げた条約です。

7月末現在、この条約を批准(ひじゅん=承認すること)したのは55ヵ国。以下に国名を紹介します。

■「核兵器禁止条約」を批准した国(55ヵ国)

〈アジア〉
タイ、ベトナム、ラオス、モルディブ、バングラデシュ、マレーシア、カンボジア、フィリピン

〈大洋州〉
パラオ、ニュージーランド、クック諸島、サモア、バヌアツ、キリバス、フィジー、ニウエ、ツバル、ナウル、コモロ

〈中東・北アフリカ〉
パレスチナ

〈アフリカ〉
ガンビア、南アフリカ、ナミビア、レソト、ボツワナ、ナイジェリア、ベナン、セーシェル

〈中南米・カリブ海〉
ガイアナ、メキシコ、キューバ、ベネズエラ、コスタリカ、ニカラグア、ウルグアイ、セントルシア、エルサルバドル、パナマ、セントビンセント・グレナディーン、ボリビア、エクアドル、トリニーダド・トバゴ、ドミニカ、アンティグア・バーブーダ、パラグアイ、ベリーズ、セントクリストファー・ネビス、ジャマイカ、ホンジュラス

〈欧州〉
バチカン、オーストリア、サンマリノ、アイルランド、マルタ

〈中央アジア〉
カザフスタン

以上です。アフリカや南太平洋、中南米の小さな国々が名を連ねており、大変失礼ながら私が知らない国も少なくありません。

ちなみに現在、核兵器を保有しているのは以下の9ヵ国です。

アメリカ、イギリス、イスラエル、インド、北朝鮮、中国、パキスタン、フランス、ロシア

ご覧のとおり、核保有国で「核兵器禁止条約」を批准した国は一つもありません。

■「核兵器禁止条約」を批准した先進国は?

では先進国における批准の状況はどうなっているのでしょうか? 「先進国」の一つの目安として、OECD(経済協力開発機構)に加盟している38ヵ国で調べてみました。太字が「核兵器禁止条約」を批准している国です。

〈OECD加盟国〉
アイスランド、アイルランド、アメリカ、イギリス、イスラエル、イタリア、エストニア、オランダ、オーストラリア、オーストリア、カナダ、ギリシャ、コスタリカ、コロンビア、スイス、スウェーデン、スペイン、スロバキア、チェコ、チリ、デンマーク、トルコ、ドイツ、ニュージーランド、ノルウェー、ハンガリー、フィンランド、フランス、ベルギー、ポルトガル、ポーランド、メキシコ、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、日本、韓国

さらに「先進国」の中でも、とくに裕福とされる「G7(先進7ヵ国)」および「G20」の状況もチェックしてみました。同じく条約を批准した国を太字にしています。

〈G7〉
日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ

〈G 20〉上記7ヵ国に加えて、
アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、韓国、メキシコ、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ、欧州連合

ご覧のとおり、批准しているのはわずか5ヵ国。先進国って一体なんだ…というのが私の正直な感想です。

■日本が「核兵器禁止条約」を批准しない理由

「核兵器禁止条約」が国連で採択されたのは、2017年。それから4年を経て発効となったわけですが、日本はまったく批准の姿勢を見せていません。

言うまでもなく、日本は世界で唯一の核兵器による被害を受けた国です。真っ先に批准すべき立場にあると思うのですが、そうはなっていません。批准しない理由を、外務省は以下のように説明しています。同省のホームページから、一部を引用します(太字は私が気になったヵ所)。

日本は唯一の戦争被爆国であり、政府は、核兵器禁止条約が目指す核兵器廃絶という目標を共有しています。一方、北朝鮮の核・ミサイル開発は、日本及び国際社会の平和と安定に対するこれまでにない、重大かつ差し迫った脅威です。北朝鮮のように核兵器の使用をほのめかす相手に対しては通常兵器だけでは抑止を効かせることは困難であるため、日米同盟の下で核兵器を有する米国の抑止力を維持することが必要です。
核軍縮に取り組む上では、この人道と安全保障の二つの観点を考慮することが重要ですが、核兵器禁止条約では、安全保障の観点が踏まえられていません。核兵器を直ちに違法化する条約に参加すれば、米国による核抑止力の正当性を損ない、国民の生命・財産を危険に晒(さら)すことを容認することになりかねず、日本の安全保障にとっての問題を惹起(じゃっき)します。また、核兵器禁止条約は、現実に核兵器を保有する核兵器国のみならず、日本と同様に核の脅威に晒(さら)されている非核兵器国からも支持を得られておらず、核軍縮に取り組む国際社会に分断をもたらしている点も懸念されます。

(引用元)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/dns/ac_d/page23_002807.html

読んでいて、これが本当に外務省の見解なのか?と、一瞬目を疑いました。

右派言論人と呼ばれる人たちの一部は「北朝鮮や中国と闘えるよう日本も核武装しろ!」と、勇ましいことを口走っていますが、それと大差ありません。

前回に続いて批判的な投稿になってしまいましたが、やはりこれは大問題です。まずは日本が「核兵器禁止条約」を批准するよう、声をあげなければなりません。

2021年8月、広島、長崎の原爆投下から76年。

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