見出し画像

組織の営業力を強化するには、「営業プロセス」を改良するのが効果的。

営業の強化は、多くの企業にとって重要な課題です。

営業力に課題がある場合、「営業マンの営業スキル不足」や「営業マンのがんばり不足」といった具合に「営業マンの問題」と考えるのが一般的です。

しかし、(もちろん、営業マン個人の問題もあるのですが)多くの場合、営業活動における「営業プロセス」の中にたくさんの非効率や機会損失の原因があり、それらがボトルネックとなって営業成果を制限しているケースが意外と多く存在します。(営業マンのスキルアップに比べて)営業プロセスの見直しは、時間とコストがかからないため、組織としての営業力を強化する上で、とても効果的な選択肢になります。

以下では、営業プロセスが営業成果のボトルネックになっている典型的なケースを、3つご紹介します。

リード(見込み客)獲得が、営業マンに委ねられている

BtoBでも、BtoCでも、顧客の新規開拓をする場合、リードの獲得が第一歩になります。そのリード獲得を各営業マンの努力に委ねている企業は、案外多く存在します。

その場合、テレアポや飛び込み営業が主流になるわけですが、それらは非効率な上に、営業マンをとても疲弊させます。そして、組織全体として営業のパワーを著しく削いでいるケースが多くあります。

例えば、私が参画したあるコンサル・プロジェクトの事例です。

そのプロジェクトは、金融機関向けに分析システムを開発しているあるIT企業がクライアントでした。その企業では、新規開拓は営業マンによるテレアポが中心だったのですが、その企業の組織文化が「イケイケ営業タイプ」ではなかったこともあり、テレアポを通じた新規開拓はほとんど機能していませんでした。そのため、売上げを既存顧客からの受注に依存する構図になっており、それが売上げの伸び悩みにつながっていました。

リード獲得は、個々の営業マンの努力に依存するよりも、組織として「リード獲得の仕組み」を構築し、組織的・専門的に取り組む方が遥かに高い効果を実現できると考えます。そして、営業マンの方々には、獲得したリードに対する営業を担ってもらう方が、全体の営業成果は格段に高くなると考えます。

この企業では、プロジェクトを通してリード獲得を仕組み化しました。具体的には、HPをバージョンアップし、ホワイトペーパーやシステムのデモ版を設置。その上で、ターゲットする金融機関の担当部署へ小冊子やレポートをDMとして定期的に郵送することで、そのHPへ誘導するというシンプルな仕組みです。その取り組み開始から3か月ほどすると反応が現れ始め、徐々に問い合わせが入るようになりました。今では毎月、新規の問い合わせがコンスタントに入って来ています。その問い合わせが新規顧客の獲得へとつながり、売上げの継続的な増加というカタチで実現されています。

営業の知見やノウハウを、社内で蓄積・共有する仕組みがない

これは、案外、多くの企業に存在することです。それぞれの営業マンが持っている知見やノウハウ、または日々の営業活動の中で収集する情報などを、営業部門に蓄積し、部門全体で共有する習慣や仕組みがない企業は結構、多く存在します。

仲の良い先輩・後輩で共有したり、席の近い営業マン同士で情報交換したりすることはあっても、営業部門として正式に知見・ノウハウを蓄積・共有する仕組みを持っているところは案外、少ないのが現状です。

これには、(個人的な印象ですが)2つ原因があるように思います。

ひとつは、営業の知見やノウハウは営業マンの個人的な財産であり、他の営業マンには公開したくない、という心理が働いていること。

もうひとつは、営業の知見やノウハウを組織的に活かすことのインパクトが過少評価されていることです。

特に、2つ目の理由は重大で、多くの商機を見逃す原因になることがあります。私が参画したある金融機関のコンサル・プロジェクトの事例をご紹介します。

その金融機関では、富裕層向け資産運用ビジネスを強化するため、専門の営業部門を新設し、富裕層向けの営業を始めていました。営業担当者は、全国の支店から選抜された成績優秀な営業マン達です。

リード獲得は、本部のマーケティング・チームが担当し、獲得したリードは富裕層部門の部長へ渡され、その部長が各営業マンに分配する仕組みです。営業マンは分配されたリードにコンタクトをするところから営業を始め、口座開設をして、取引を拡大していくことがミッションとなっていました。

その富裕層部門の中には、営業の知見やノウハウを部門内で共有する文化も仕組みもありませんでした。また、日々の営業活動の中から得た情報や気づきを蓄積・共有する習慣もありません。それぞれの出身支店において、そうした習慣がなかったことや、富裕層部門の部長がそうした取り組みの重要性を理解していなかったことが原因です。

このデメリットは意外に大きく、具体的には以下のようなものになります。

まず、とても大きな機会損失が生まれること。

例えば、富裕層顧客が求める金融サービスは多様で、専門性も高くなるのですが、すべての営業マンがすべてのニーズに対して完璧に対応できるわけではありません。各営業マンには、得意の分野と不得意の分野があり、(当然ですが)よく知っている分野とあまり知らない分野があります。

部長から振り分けられた見込み客が、どのような金融サービスを求めているかは事前にわからないため、時には顧客ニーズと営業マンの得意分野の相性が悪いことが起こります。その場合、その見込み客との取引は行き詰まってしまい、ビジネスが拡大しないことになります。担当する営業マンが、その分野に精通していれば得られたであろうビジネスが、消失してしまうことになります。

こうした機会損失を予防するのが、営業部門内での知見やノウハウの蓄積・共有です。顧客のニーズに関して日々、情報共有することで、ニーズの強い領域がどこであるのかを把握できます。その上で、知見やノウハウを共有すれば、すべての営業担当者が顧客ニーズに対して効果的に準備をすることができます。

上記をもう一歩進めて、「全体戦略が見えない」という点もあります。

「富裕層顧客が求める金融サービスは多様だ」と書きましたが、実は共通する要素もたくさんあり、その共通項を押さえることで顧客対応が非常に効果的になることがあります。具体的には、(これは、のちに分析した結果、明らかになったことなのですが)来店する富裕層顧客の取引ニーズはいくつかのグループに括ることができました。そして、上位3つのニーズ・グループが全体の約65%を。上位5つのニーズ・グループだと、全体の約90%を占めていることがわかりました。と、いうことは、上位5つのニーズ・グループに対して事前にしっかり準備をしておけば、顧客の期待に高いレベルで応えることができ、取引拡大もスムーズに進めることができることになります。また、営業マンによっても「何を準備しておくべきか?」の優先順位が明確になります。

しかし、この「顧客全体の傾向」はずっと分析されないままになっていました。原因は、「顧客全体の傾向を分析し、把握する」という発想がなかったことと、「営業マンが日々収集する情報を吸い上げて、戦略に活かす」という発想もなかったためです。結果、顧客ニーズに対して準備不足の営業マンが存在し、それが機会損失へとつながっていました。

ご参考までに、「ニーズ・グループ」のイメージが沸きやすいように、第1位のニーズ・グループをご紹介しておきます。

第1位は、「成長するアジア市場で運用したい」というニーズです。そのための投資戦略や具体的な投資商品を求めて、来店されるお客様が一番多くいらっしゃいました。

すると、アジアの市場や投資商品に精通していること、顧客の期待する利回りやリスク許容度に応じて投資戦略を組み立てることが求められ、それらをしっかり準備しておくことが顧客の期待に応えることになります。また、そうした顧客のニーズを聞き出すための質問の展開を事前に準備しておくことで、取引をスムーズに進めていくことが可能になります。

組織としてより重要なのは、こうした傾向を組織全体で共有し、組織としてそれに備えるという点です。それにより、「商機を逃す」ことを出来るだけ回避できます。実際には、こうした傾向を独自に掴むことのできる「優秀な営業マン」は存在しますが、すべての営業マンがそれを出来るとは限りません。すると、それが出来ない営業マンは商機を逃し続けることになり、組織としての機会損失が非常に大きくなります。

提案資料などの作成を、個々の営業マンがそれぞれ行っている

これは非常に単純な業務上の問題なのですが、意外にたくさんの企業がこの問題を抱えており、多くの営業マンが同じような資料を同時に作成している、という笑えない現状になっていることがよくあります。

これは、資料作成の専任担当者をアサインするのが最良の方法だと考えていますが、それが難しい場合には、営業マンが作成した資料を、部署全体で共有する習慣や仕組みをつくることがおススメです。

専任担当者を置く場合でも、あるいは資料を部署全体で共有する場合でも、「資料作成のための会議」を定期的に開催することがとてもパワフルな取り組みになります。あるいは、通常の営業会議(週次や月次)のひとコマに「資料作成に関するディスカッション」を加えるのでもいいと思います。

提案資料は、(当然ですが)営業マンにとってとても重要な営業ツールです。そして、そこには顧客のニーズと、それに対する自分の提案をなるべく鮮明に表現したいという大きな希望が反映されます。すると、提案資料の具体的な内容を話し合うということは、顧客ニーズとそれに対する提案、その提案がいかに有益なものであるかといったロジックを、営業マンが真剣に出し合う機会になります。これこそが、営業の戦略会議そのものになるわけです。部署として共有する提案資料を作成するという機会は、そのまま部署としての営業戦略と具体的な提案内容の組み立てを行う場になり、それらを部署全体で共有する場にもなるわけです。

まとめ

営業の成果を上げるために、営業プロセスの改良がとても有益であるという点をご説明してきました。その中で、3つの改良ポイントを事例として挙げてみました。

もちろん、改良ポイントはそれら以外にも存在しますし、その組織特有の改良ポイントがあることも多いです。

ここでお伝えしたかったポイントは2つです。

ひとつは、営業プロセスを改良することで、かなり大きな営業成果の向上につながるという点。これは、営業強化というと営業スキルの向上という発想が一般的で、営業研修やロールプレイなど営業マン個人の能力向上を目指す方法が取られがちです(もちろん、それらも大切ですが)。しかし、営業プロセスという「営業マンの外側にある部分」にも大きな改良余地があり、そこに大きなポテンシャルがあるという点がお伝えしたかったポイントです。

もうひとつは、(上記とやや重なりますが)営業プロセスについてはあまり精査されていないという点です。工場の生産工程は深く分析・検証される対象となってきました。多くのメーカー企業は、長い時間と大きなコストをかけて、生産工程の改善・改良をしてこられたと思います。

しかし、営業プロセスについてはあまり分析・検証されて来なかったのが多くの企業のケースではないかと思います。そのため、非効率や機会損失を生み出すプロセスがそのまま残ってしまい、営業成果のボトルネックとなっていることが多いと考えます。

「営業」という活動を、「組織の活動」という視点から見直すことで、たくさんのボトルネックが見つかり、パフォーマンスの改善につながるケースが多く存在すると考えます。


以上になります。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

もし、少しでもご参考になる部分があれば幸いです。

また、良ければスキを押していただければうれしいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?