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”運転席”に座るべきはマネージャー、それとも現場担当者?

会社における部門・部署を自動車に例えた場合、「運転席」に座るべきなのは誰なのでしょうか?

2つの考え方があると思います。

ひとつは、運転席に座るのは、部門・部署を指揮するマネージャーである(=マネージャー型)という考え方。

もうひとつは、現場の最前線で仕事をしている現場の担当者一人ひとりだ(=現場担当者型)という考え方です。

この考え方の違いは、組織パフォーマンスにかなり大きなインパクトを持つと思いますので、この2つの考え方について、自分なりの考え方や経験を書いてみたいと思います。

考え方とその背景にあるもの

マネージャー型の企業の場合、その土台には、マネージャーが戦略や計画を立て、部下に指示を出し、部下がその指示を実行する。そして、マネージャーは、部下が指示通りに動いているか、業務が計画通りに進んでいるかを管理する、といった考え方があります。なので、運転席に座って、すべてをコントロールするべきはマネージャーである、と。多くの企業は、こうした考え方なのではないかと思います。

一方、現場担当者型の企業の場合、その土台には、方向性を示すのはマネージャーの仕事だが、その方向性に従って実際に自動車を走らせる(=業務を遂行する)のはそれぞれの現場担当者である。現場担当者が、自らの考えや判断に基づいて業務を実行する。マネージャーは、現場担当者の業務実行がより高いレベルになるように現場担当者をサポートすることが役割だ、といった考え方があります。外資系やスタートアップにはこうした考え方の企業が多くあるのではないかと思いますが、伝統的な日本企業では少数派の考え方かもしれません。

ちなみに、「権限を(部下に)委譲する」ということがよく言われますが、(”運転席”に例えるなら)これは「マネージャーが運転席に座っている」ことを前提に、「一部の意思決定を、部下に任せる」という状態だと受け取っています。あくまでも、業務全体をコントロールしているのは「マネージャー」である、と。

2つの考え方が組織パフォーマンスにもたらす違い

マネージャー型か、それとも現場担当者型かが重要な意味を持つのは、組織パフォーマンスにかなり大きなインパクトを与えるためです。

マネージャー型の組織では、(言葉の通り、マネージャーが統率・管理するため)判断や意思決定が集中でき、部門・部署の足並みが揃いやすく、業務の統一性や再現性が担保されやすくなります。また、リスク管理もやりやすくなります。そのため、現場担当者が特別に優秀でなくとも業務を回すことができますし、経営層から見れば会社全体をコントロールしやすくなります。

その反面、スピードや機動力は低下しやすくなります。判断や意思決定をするために、情報を現場から上げていく必要があることや、マネージャーが他の現場担当者や時には、他部門・他部署との調整を考慮する必要が出てくるなど、どうしても余分な手間と時間がかかってしまいます。

もうひとつ低下する可能性が高いのが、創造性です。情報の直接的な入手者ではない(言わば、二次的な入手者である)マネージャーが意思決定をすること。加えて、他の現場担当者などとの調整を考慮する必要があることなどから、判断・意思決定が中和されてしまい、もともと備わっていた良い意味の「尖り」を失ってしまう可能性が高まります。加えて、現場担当者にとっては「判断や意思決定の権限が自分にはない」という現実は、仕事における創造性を減退させる大きな要因になります(モチベーションが下がるので、それに伴い創造性も低下する)。

これが、マネージャー型の考え方がもたらす組織パフォーマンスへの影響です。

一方、現場担当者型の組織の場合には、メリット/デメリットがちょうど正反対になります。スピード、機動力、創造性は高まりますが、反対に統一感、再現性、リスク管理能力は低下する可能性があります。また、(現場担当者型の下)業務を滞りなく遂行するためには、現場担当者にはある程度以上の「優秀さ」が求められます。「優秀さ」が不足している組織が現場担当者型の組織運営をした場合、業務が大混乱したり、大きな失敗が発生したりする可能性が高まります。

結局、どちらのタイプが良いのかは、その企業が行っているビジネスやその市場の競争要因が何かということに依存します。安全第一でミスが許されない業種では、統一感や再現性を重視し、リスク管理が徹底しやすいマネージャー型が。反対に、スピード、機動力、創造性といった要素がビジネスの要諦になる業種では、現場担当者型の組織が適していると思います。

ちなみに、今、多くの企業が直面している問題は、スピード、機動力、創造性が生命線であるビジネスに身を置いているにも関わらず、組織がマネージャー型の意思決定システムとなっているため、スピード感がなく、機動力にも乏しい。現場に意思決定権がないため、現場担当者のモチベーションは上がらず、彼ら/彼女らの(創造力も含めた)能力を十分に引き出すこともできていない、といった状況ではないでしょうか。

多くの企業にとって、「意思決定をするのはマネージャー」という発想はあたり前過ぎて、何の疑問も抱かないままマネージャー型の組織設計・組織運営をしているのが現実ではないかと考えます。

「常識を疑ってみる」ことも、大切なように思います。

”現場担当者型”で働いた個人的な経験

最後に、私の個人的な経験を少しご紹介しながら、前述した2つの組織スタイルの功罪をご紹介したいと思います。

私が勤めていた外資系証券(私が勤務していた部門)は、典型的な現場担当者型の組織運営でした。

具体的には、「この1年で、どれだけの利益を上げる必要があるか?」という目標は直属のボスから設定されます。しかし、それをどのように実現するかは、それぞれの現場担当者に任されます。なので、私が現場担当者の時には、自分で考えて、自分が良いと思う方法を実行していました。

また、仕事を進める中で、クライアントの新しいニーズを見出したり、新しい事業機会を発見したりするなど、これまでの業務とは非連続な場面に遭遇することがあります。そうした場合、そのニーズや事業機会が、自分の業務範囲である限り、自分の判断でビジネスを進めることが可能でした。もちろん、事前に上司に相談したり、必要なリソースを引っ張ってもらったりするのですが、「そのニーズや事業機会を追うかどうか?」「追うのであれば、どのような戦略・戦術にするのか?」といった根幹の意思決定をするのは、その事業機会に直接対峙している「自分」でした(なので、”現場担当者が運転席に座っている”という表現になります。そして、マネージャーは、F1レースのピットクルーのようにドライバーをサポートする役割を担っています)。

そこで疑問が生まれます。

現場担当者が、自分流のやり方で仕事をしたり、”勝手に”新しい業務を始めたりすると、部門としての統一感がなくなり、組織としての統制もとれなくなるのではないか?

しかし、そこには「部門の誰もが、より高次にある目的と目標を共有している」という大前提があるため、部門としての統一感は崩れません。「より高次にある目的と目標」がチームメンバー全員をつなぎ、足並みを揃えるための指針になっているためです。

一方で、現場担当者型だと現場の担当者がクライアントに最も近いところで、クライアントのニーズや課題の解決を、クライアントの反応を直に体感しながら進めることになります。それが、”痒いところに手が届く”柔軟で創造力の豊かなプロダクトを生み出しやすい環境になっています。また、現場が自らの判断で動くため、スピードや機動力は非常に高くなります。その外資系証券が、他社に先駆けて新しいビジネスやプロダクトをどんどん創造し、業界をけん引する立ち位置に居続けることができるのは、この「現場担当者が、ビジネスの意思決定をしている」ことが非常に大きな要因だと感じています。

一方、私がそれ以前に勤務していた金融機関も含め、日本の銀行や証券会社は、マネージャー型が一般的です。

例えば、営業部門の場合、目標数字と共に「今月は、どの商品をいくら販売するか?」といった具合に「商品」と「販売目標(金額)」が明確に設定されて、それぞれの現場担当者に降りてきます。営業方法についても、基本的なやり方が共有されており、そこから逸脱しないように管理されています。

前述したような「現場担当者が、新しい顧客ニーズや事業機会を見つけた」ことで、その担当者が独自にその事業機会を追っかけるなどということは、決してないはずです。

そうした管理によって、部門全体に統一感があり、全国津々浦々の支店まで再現性の高い業務運営が実現されています。

しかしその反面、顧客ニーズを満たした商品・サービスがスピーディーに、機動的に提供されることは少なくなります。また、(商品・サービスは本部で企画・開発されるため)あまり尖った商品・サービスが開発されることはなく、”切れ味の悪さ”が目立つことも多くなります。

これは、あくまでも私の個人的な感想ですが、もし、日本の金融機関が判断や意思決定の場所を現場レベルまで降ろしてくれば、商品・サービスのクオリティーは格段に高まり、それに伴って収益性はかなり大きく改善されるのではないかと思います。何よりも、新しいビジネス、新しい商品・サービスがどんどん生まれ、「我々が知っている、今の銀行や証券会社」の殻を打ち破るまったく新しい概念が生まれてくるかもしれません。特に、日本の金融機関には優秀な人材がたくさん集まっているため、そのポテンシャルは極めて高いと思います。

別の言い方をすれば、「要は、マネジメント次第だ」ということになります。マネジメントが「良い」とか「悪い」という前段階で、「そもそも、どのような考え方でマネジメントをするのか?」の部分が、企業のパフォーマンスを大きく左右すると考えます。


今日はここまでです。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

「組織における意思決定の場所が異なると、組織のパフォーマンスも異なる」という件を書いてみました。

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