【日本株】寿スピリッツ(2222)というスーパー・スイーツ・カンパニー!
以前から、「この会社はすごいなぁ~!」と思っているお菓子メーカーがあるので、その会社について書いてみようと思います。
会社名は、寿スピリッツ(2222)。
創業71年の老舗企業で、本社は鳥取県米子市。一見、「どこにでもありそうな地方のお菓子メーカー(失礼!)」なのですが、実際の中身はビジネスモデルを大きく変革したスーパー・スイーツ・カンパニーです。
早速、ポイントを。
過去10年間で、株価が20倍になった「すごい会社」です!
その快進撃の背景には、以下の4つがありました
プレミアム・ギフトという市場へのフォーカス
製造小売りへとビジネスモデルを転換したこと
現場の従業員の方々の能力とやる気が非常に高いこと(現場力)
上記を構想し、決断し、実行した2代目社長がすごいこと
それでは、少し詳しく見ていきましょう。
どんな会社なの?
同社は(前述の通り)、お菓子(スイーツ)の製造小売りをするスイーツ・メーカーです。プレミアム・ギフトと呼ばれる「大切な人・特別な人へのちょっと高級な贈り物・お手産」の市場に特化し、独自商品を開発・製造し、自社で販売(小売り)している会社です。
東京、北海道、中国、山陰、九州などそれぞれの地域に子会社を持ち、各子会社がそれぞれの地域の特産品やその地域の歴史・文化を取り入れたその地域ならではのスイーツを開発・製造・販売している点が特長です。
「どんなお菓子を作っているの?」というイメージを持っていただくために、同社の決算説明会資料にあった「お菓子の画像」を貼っておきます。
販売は、東京駅や新宿駅などの交通の要所、小樽や山陰など全国の観光地に自社の店舗を持ち、直接消費者に販売しています。
同社の終わった期(2023年3月期)の業績は、売上げ501億円、営業利益99億円、当期利益70億円となっており、売上げベースで日本において第8位のお菓子メーカーになります。そして、同社の業績を象徴するのは、営業利益率19.7%、当期利益率14.0%、ROE29.6%(2023年3月期の実績)という高収益体質です。
以下は、過去10年間の同社の株価の推移です。(前述のように)株価は、過去10年間で20倍になっています。
ざくっとご紹介しましたが、これらが同社の概略になります。
過去の業績を振り返ってみた!
同社の過去10年間の業績推移をざくっと振り返ってみます。
まずは、売上げから(単位は百万円です)。
途中、コロナ禍がありましたので、成長率がやや歪むカタチになるかもしれませんが、2014/3期 → 2023/3期の伸びを年率に均すと9.5%になります。
こちらは、当期利益の推移です(単位は百万円)。
コロナ禍に大きく落ち込みましたが、全体としては利益が順調に拡大しています。
こちらは、当期利益率の推移です。
2013/4期には5.6%だった利益率が、2023/3期には14.0%にまで拡大しています。売上げを年率9.5%で成長させている上に、利益率も大きく拡大させていることから、同社の「成長する力」「稼ぐ力」の強さを感じます。
他のお菓子メーカーと比べてみた!
同社の大きな特長のひとつが、「株価のバリュエーションが非常に高い(=時価総額が大きい)」という点です。
売上げトップ10のお菓子メーカーと比べてみると、バリュエーションの高さが際立ちます(業績はいずれも2022年度。株価は直近(2023年11月10日)です)。
まず、売上げから(単位は百万円)。
トップは明治ホールディングスで1兆621億円。2位は江崎グリコで3,039億円・・・といった順位です。寿スピリッツは第8位ですが、売上げは501億円と上位企業に比べるとかなり小粒になります。
こちらは、当期利益です(単位は百万円)。
そして、こちらがトップ10企業の時価総額になります(単位は百万円)。
売上げで第8位の寿スピリッツが、時価総額では第4位に入っています(しかも、僅差の4位)。同社に比べて、売上げで5倍、当期利益で2倍あるカルビーとほぼ同じ時価総額になっています。
こちらは、当期利益率です。
寿スピリッツの当期利益率は、断トツで高くなっています。
こちらは、PERの比較です。
寿スピリッツのPERは37.7倍であり、2番目に高いのですが、時価総額の(相対的な)大きさを十分に説明するほどの違いはないように思います。
そして、こちらは、PBRとROEをグラフ化したものです(縦軸=PBR、横軸=ROE)。グラフ右上の黄色いドットが寿スピリッツになります(直近において、PBR12.5倍、ROE33.2%となっています)。寿スピリッツのバリュエーションの高さを表しています。
同社の「凄さ」とは?
前述のように、同社は非常に高い利益率とバリュエーションが特長なのですが、その背景について考えてみたいと思います。個人的には、以下の4つがそれらを担保しているのではないか? と考えています。
1.プレミアム・ギフトという市場の選択
同社は、「プレミアム・ギフト」と呼ばれる市場で戦っているのですが、この市場が(同社にとって)十分な規模があること。そして、高い価格を設定しやすい場所であることが大きいと考えます(市場の選択が正しい)。
プレミアム・ギフトという市場に関する正確な統計はないのですが、「食品ギフト」という統計があり、2021年の市場規模は4兆1,300億円と推計されています(矢野経済研究所)。
また、お菓子の市場が3兆4,361億円(2022年)あること。ギフト市場の規模が10兆1,165億円(2021年)であること。それらが重なる部分が「ギフトにスイーツを贈る」市場になり、そもそも「(多くの場合)贈り物にはちょっと高級な商品を選ぶ」ことを考えると、「少なくとも、3,000~4,000億円以上の市場規模はあるのではないか?」と推測します。
売上げ500億円の同社にとっては、成長を狙える十分に大きな市場ではないかと考えます。
2.「製造小売り」というビジネスモデルへの転換
同社はもともと「製造したお菓子を、問屋さんへ卸す」という旧来型のスタイルでしたが、それを「自社で直接、小売りする」という製造小売り型へとシフトしました。
それにより、「利益を出しやすい構造になった」こと。ビジネスにおいて大切な「情報」がきちんと入ってくる環境になったことが大きなポイントではないかと考えます。
どういうこと?
「製造したお菓子を、問屋さんへ卸す」という流通チャネルは、その構造の中に定着してしまった商習慣や利益構造によって「利益を非常に出しにくい場所になっている」と考えています(多くのメーカーさんの事例を見る中で出会った多くのケースから)。
また、その流通チャネルでは、最終顧客である一般消費者の嗜好や反応がメーカー側の商品開発や製造のところまで的確にフィードバックされることは稀です(少なくとも、多くの情報が、迅速に、継続的にフィードバックされているケースは稀)。
要は、旧来の流通チャネルは「儲けを出しにくい場所」になっていると。
そこから抜け出し、多くのことを自社でコントロールできる直販にシフトしたこと。お客様の嗜好や反応というクリティカルな情報をダイレクトに入手できる立ち位置に移動したこと。
そして、前述したプレミアム・ギフトという「儲けるための条件が整った市場」にフォーカスし、「儲けを出しやすい環境」の中で事業を展開してきたことが、同社の躍進の重要な肝ではないかと考えます。
3.他社が真似できない「現場力」
とは言っても、高品質で個性豊かなスイーツが並ぶプレミアム・ギフト市場で戦うことはかなり大変だと思います。
また、「問屋に卸す」から「自社で直接小売りする」へシフトするのは、かなり難易度の高い作業だと考えます。多くのメーカーには不可能かもしれません。
同社がそれらを成功させているのは、同社の「現場力が非常に高い」ためだろうと推測します。
なぜ、現場力が高いのだろうか?
「アメーバ経営」的なマネジメントを実践されているのだろうと考えます。
同社の社長さんは、以前、京セラの創業者である稲盛和夫氏の経営塾に入っておられたそうです。
また、会社説明会において同社のマネジメント・スタイルを「大きな方針や方向性は経営が示す。それを具体的なカタチにしていくのは現場の創意工夫だ」といったことをおっしゃっています。
また、現場を「数人~十数人のチームに分けて、そこに予算と目標を持たせて、自らの創意工夫で仕事をしてもらっている」といったこともおっしゃっています。
それらはアメーバ経営の特長(だと思っている)なので、そうしたマネジメントを行っておられるのだろうと推測しています。
そして、そのマネジメントが効果を発揮し、高い現場力を生み出し、ビジネスモデルの転換を成功させ、同社の競争力の源泉となっているのだろうと考えています。
4.上記3点を構想し、決断し、実行した2代目社長!
上記3点はいずれも「今の社長さんの決断」によるものです。
プレミアム・ギフトという市場や製造小売りというビジネスモデルを構想し、そちらへのシフトを決断し、アメーバ経営をベースに現場を動かし、構想を実現してきた社長さんのリーダーシップやマネジメント力は本当に凄い! と思います。
同社の真の競争力は「2代目社長さん」かもしれません。
今後、どうなるのか?
同社が発表している今期(24/3期)の業績予想は、売上げ604億円、営業利益141億円、当期利益95億円です。
売上げで20.5%、営業利益と当期利益でそれぞれ23.5%、36.2%の(対前年比)伸びを予想しています。相変わらず、高い成長力です。
その予想をベースにすると、同社の時価総額は3,800億円(株価2,500円)くらいになるのかなという印象です。PERで40倍、PBRで11倍+αといったバリュエーションです(結構、高いバリュエーションです)。
しかし、現状の株価(2,320.5円@11/10 終値)は、既に上記の業績を織り込んでいるので、リターン的にはそれほど大きなアップサイドではありません。
大きなアップサイドは、「来期以降も、同じように高い成長が続く!」と確信が広がったり、具体的な数字が明確になったりする頃ではないかと思います(来期以降の数字にフォーカスが移る来年3月以降か?)。
基本的に「強い会社」だと思っているので、同社についてはポジティブなのですが、いくつか「心配するポイント」もありますので、最後にそれらについて触れておきます。
1.高いバリュエーションを正当化するだけの成長率を維持することができるのか?
前述のように、同社のバリュエーションは非常に高いのですが、それを正当化しているのは「高い売上げ成長率」と「利益率が拡大していること」だろうと思います。
その合わせ技が、高いバリュエーションを生み出しているのだろうと考えます。
すると、「それらは、今後も続くのか?」という点が次の疑問になります。
まず、利益率。
同社の2024/3期 上半期の当期利益率は15.4%でした。通期の会社予想は15.8%です。
非常に高い利益率なのですが、利益率の拡大はどこかで限界が来ます。
すると、「売上げの成長率」が唯一のエンジンになります。そして、高いバリュエーションを維持するには、どれくらいの売上げ成長率が求められるのか? という点が心配になります。
そして、高い成長率を維持することと、高いブランド力を培うことを両立できるのか? という次のポイントが心配になります。
2.同社は、高いブランド力を培い、維持することができるのか?
(上記の続きになるのですが)高い売上げ成長率と利益率の拡大を同時に実現するには、高いブランド力が必要になります。
そして、高いブランド力は往々にして「大量出店」と相性が悪くなります。
成長を追っかけることが、中長期的にはブランドを棄損することになったり、段々とブランド力が磨り減っていったりする「トレードオフの関係」になったりしないか? という心配です。
同社は今、東京(および首都圏)を中心に出店を加速しています。東京駅、百貨店、ショッピングセンターなど人が集まる場所にハイペースで出店されています。
そうした大量出店が、同社の「特別感」を薄めてしまわないか? という心配があります。
特に、(上記のポイントとあわせて)高い売上げ成長率を期待されているだけに、気になるポイントです。
一応、対抗策としては「新たなブランドを開発する」なのだろうと推測しています。
同社は、新しいスイーツ・ブランドを継続的に開発しています。最近だと、バニラをテーマにした新ブランド『VANI(バニ)』をローンチされています。
新しいブランドを継続的に開発し、ローンチすることで、「ブランドの磨り減り」的なことを予防されているのだろうと推測しています。
心配事はあるものの、しっかり対応策も行っておられるといった感じでしょうか。
こんな感じです。
ちょっと長くなってしまいましたが、寿スピリッツという地方発のスーパー・スイーツ・カンパニーに関するnoteです。
最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。
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