ジローの節電

流石、大きな町は違う。100円ショップが、デカすぎる。
雰囲気からして、ピカピカだ。店員さんも客達も、お洒落を纏って歩いている。軽く30人は、いろだろう。
そんな中に、ジロー。もっさい髯面(ひげづら)男一人。何やらブツクサ言いながら、懐中電灯ばかりを買う。
「取りあえず、10個もあれば。いや、8個でいいか」
連れ。わたしの連れだ。
今春から大学院生になり、わたしの家の近くに引っ越して来た。
「諸々取り揃えたいから、案内してくれる?出来ればデカい所がいい」
言うので案内したが、実はわたしもココへは今日が2度目の来店。故に慣れずに、デカさに眩暈すら覚えている。

「諸々」=「様々」だと解釈するが、どうも弟。ジローの中では違うようだ。懐中電灯の種類=「諸々」なんだろうか?
「よっしゃ」レジに向かうのを頃合いとして、聞いてみる。
「他にも色々、買わなくていいの?お皿とか。懐中電灯ばっかりそんな買って、どうするのよ?」
「節電」
「はっ?節電」
「うん、だって夜にもパソコン使うじゃん。これから俺は人一倍」
「まぁ。リポートとか論文とかが多いからねぇ、院生は」
お洒落なママに手を引かれた、お洒落な子供がわたし達をチラと見た。
「だから節電したいんだよ。それにはコイツが必要な訳」
「えっ?」
レジの順番が少しだけ、進んだ。
「たくさん買って、パソコンの周囲に置けば、照明になるじゃん。停電の時みたいに」
簡単にイメージが出来る。
「台座は一寸厚い本にすれば、完璧だし」
考えそうな事だ。順番待ちの老夫婦が、小さな欠伸を連発した。
「で、電池は?電池は買った?ソレ全部、電池別売りよ。袋に書いてある」
「えっ?」瞬間、業額。
直ぐにレジが廻って来る。
「お願いしますよ、お姉様。予算ギリギリなもんで」
「しょーがないわね」商品棚から単3、単4を1パックずつ。10本灰って1パックだ。
「序でに、ご飯も奢って貰えると嬉しいんだけどなぁ~っ」
「しょーがないわね」
言いつつ最初から、予定していたのを思い出した。引っ越し祝いを兼ねた宴(うたげ)だ。

<了>

#創作大賞2023


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