短編「これは希望のお話」
子供の頃、大人に強く憧れた。
あの大きな背中に憧れ、自立してお金を稼ぐ姿に憧れて、自分が小さいとすら感じた。
でも大人になると、子供に戻りたいと強く思っている自分がいる。
今だって、わりと他人から見たら、充実してる人生なんだと思う。
それでも子供の頃は楽しいことをしていれば、それだけで人生勝っていた。
今は耐えたものが勝者になる。
逃げたものが敗者になる。
ゴールがなくても、永遠に耐え続けなければならない。その期間は勝者でいられる。
耐えた期間が長くても、一瞬でも逃げたら、耐えた時間はあっという間に意味を無くし、敗者になるんだ。
声にならない叫びを
声にしない叫びを
心でずっと、出し続け、勝ち続けなければならない。
叫んでも、誰も気づかないと気づき
一人泣く
それでも勝者でいなければならない。
生きてるまでずっと、勝者でいなければならない。
長く暗いトンネルから、いつか出れることを信じて、ただ信じるしかない日々に怯えながら、でも後ろを振り返らずに、前に倒れるしかないんだ。
ずっとずっと、そう考えてきた。
でもトンネルで少し足を止めてしまい、気づくと、その時の強い気持ちが失っていたことに気づく。
モヤのかかったものが頭に広がった。
現実、大人になったこの身は、お金と食物と、水でできていて、感情という薄い膜がそれらを覆っていて、
そのぶよぶよの膜を麻痺させて伸ばすために、酒と煙草を入れる。
ただ、その中には本当の"自由"というものは一切なく、ただただ生きるためにお金、食物、水、そして酒と煙草を蓄え、働き、生きている。
働き、生きている。
働き、生きている。
生きるために、生きている。
自由もなく
生きるために、生きている。
一体、それは生きていると言えるのだろうか。一体毎日何をしているのだろうか。日々頑張って、何か変わるのだろうか。
弾力がなくなり、汚れた人形のようになる。
いつのまにか、お金も、食物も、水もいらなくなる。
働いて、酒と煙草だけは体に入れ
膜を伸ばし、伸ばし、はち切れる寸前になる。
そして時間だけは過ぎていく。
トンネルの中は暗い。気づく間も無く朝になり、気づく間も無く夜になる。
誰も気づかない。
誰も自分がここにいると気づかない。
僕はここにいる。
ここにいる。
それだけを主張して、働く働く働く。
そして、張り詰めたその感情がプチンと切れる。
どうすれば良い。
答えがわからない。
感情がわからない。
トンネルの出口もわからない。
このまま死んでいく。
このまま朽ち果てる。
それを待つしかない。
そう思うと、神様は意地悪で、トンネルの上に小さな穴があいており、そこでほんの少しばかりの光が溢れていたのに気づく。
まだ希望はある。
失った力がまた漲ってくる。
損傷した感情が回復していく。
そしてまた働き、生きる。
お金、食物、水、そして酒と煙草を蓄え、働き、生きるために、生きる。
勝者でいるためにまた歩き出す。そうやって、未来へ進んでいく。
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