9.社会不適合者でも生きていけるので新社会人の皆さん安心してください(素人小説)

菖蒲あやめ:共感覚・HSP・メンタリズム
櫻太おうた:薬中・身体能力+++・人相悪い・ヘビースモーカー
盃都はいど:甘党・ニコチン中毒・デリカシー無し男・高IQ
葉月はづき:天才ハッカー・不登校・ネット依存症
千鶴ちづる:社会不適合者たちを束ねる謎の女

赤芒橄欖あかのぎかんらん:能天気サイコパス野郎・葉月の兄・米国政府の情報屋

「マジでさいあく。」
 来訪者が登場した瞬間、葉月はつぶやいた。

「仕方がないだろう。俺はこれ以上茶番に付き合う気はない。」
 葉月同様に盃都も心底うざそうに答えた。

「はいど〜〜〜楽しんでもらえたかな♪?」
 語尾に音符がみえるテンションで盃都の近くまで移動して当然かのように盃都の隣に腰掛けて、盃都の飲みかけコーヒーを啜る。
「うわまっずあっまおえぇえええ。まだこんなん飲んでるの?糖尿病なるよ?あ、そう言えばさ
〜」

 他人の飲み物を勝手に飲んでこの態度。そしてずっと喋ってる。盃都は無心でタバコを吸い完全無視。

 呆気に取られている他のメンバーと3人のゲスト。その間も騒ぎ続けるこの男。今度は千鶴の横に移動して何やら口説き始める。

「千鶴さ〜ん!相も変わらず美しいですねぇ!今回も先に気づいてくれたのは千鶴さんだった!さすがですよ!美しくて頭もいいなんて!眉目秀麗って言葉は千鶴さんのためにあるんですね〜!やっぱり僕と結婚しましょ!」
 男はそう言って跪き、千鶴に一枚の封筒を渡す。
 千鶴はというと男の戯言に動じることなく、その封筒を受け取り中身を見るとわずかに目を見開く。その表情を見逃さなかったのは菖蒲だが、他のメンバーは気づいていない。
 千鶴は封筒を自分のカバンに入れながら、このやかましい謎の男に問う。

「で、あなた、何しに来たの?」

「何を仰いますか〜!私を呼んだのは千鶴さんでしょ?♪」

 問われたこの男は愉快だが非常に相手をイラつかせる。だがこれに動じないのが千鶴である。

「いいえ、私は呼んでいません。」

「またまた〜加聖さんから千鶴さんを助けてやれと言われて来たんですよ僕!」
 この男はニタニタと微笑みながら千鶴の手を取る。というか、その加聖とは誰なのか。今この場にいるみんなが疑問に思っている。千鶴と盃都と葉月を除いて。

 疑問が湧きすぎる目の前の男が自己紹介する気がないため、櫻太は苛立ちを隠さずついに口を開いた。
「つーか、お前誰だよ?」

 人相が悪い櫻太がイラついた声で話すと大抵の人間は怯むが、この男は全く怯む様子がない。

「え〜、僕のこと紹介してなかったの?葉月ィ〜酷いよ〜お兄ちゃん悲しいよ〜。」

「は?!お前、葉月の兄貴?!」

 男は櫻太が驚いてるところにズンズン歩いていき、顔の目の前に人差し指を出して超至近距離で櫻太の顔を指差しながら口を開く。

「そうだよ!葉月のお兄ちゃんだよ!あなたは薬漬けにされたあの超有名な軍人だね??」

 葉月の兄こと橄欖は、ニィッと音が聞こえるくらいの口角を上げた笑みを残して横を向き、櫻太の隣にいた菖蒲をロックオン。

 上体は櫻太の方を、顔だけぐるんと菖蒲の方を向いたため菖蒲は驚く。動き方がまるで人形のように不自然で。
 顔が引き攣ってる菖蒲をその耐性のまま舐めるように見回して一人で納得する橄欖。

 いつも初対面でも対面すると何かしら感じるHSP共感覚人間の菖蒲だが、橄欖からは全く感じるものが無いらしい。
 人間は何かしら感情や思いを常に発生させながら生きている。なのにこの男からはそれが感じられない。まるで、人工知能と対面しているかのような感覚だ。

 その感覚に違和感を覚えつつも、情報が流れ込んでくることが無いとわかった瞬間、なぜか安堵してしまう菖蒲。
 感情が感じ取れない得体の知れない人と対面した場合、普通の人間は人間味を感じられず不気味さを覚える。

 しかし、HSPの菖蒲にとってはこれが逆に楽なのである。
 菖蒲が緊張から一気に安心へと心理が動いたのを察知した橄欖は、また不気味な笑みを口元に浮かべる。

「ほーんとうにここにいたんだ〜八橋菖蒲くん。アイドルがここにいるなんて不思議だね♪でもそれじゃあ…ま、そうなるよね〜よかったね!本当の才能を発揮できて⭐︎」

 菖蒲は橄欖から読み取れるものはなかったが、逆に橄欖は色々と読み取ったようだ。

 メンバー全員に顔合わせして満足したのか、ウザ絡みモードがオフになったのを全員が察知する。
 橄欖はゲスト3人の元へ歩き、確認する。
「紫水晶くん、そのお母さん紫水じゃなかった如月めいさん、松永秀喜さん。あなた達には今夜死んでもらいます⭐︎」

 突然の殺人予告に3人は自然と体が後ろへ下がる。その様子を見て橄欖は笑う。

「そんな〜ビビらないでくださいよ〜!戸籍上死んでもらうんです!
 わたくしアメリカ合衆国の人間でして〜!アメリカと言えば?そう、証人保護プログラム!
 わたくしどもは常々日本のヤクザに手をこまねいておりまして〜!情報提供などでご協力いただけるのであればアメリカ合衆国が貴方達を保護します⭐︎」

 やっぱりこのおちゃらけたモードは橄欖のベースなのか。割と真剣な話の席でもこの調子だ。

 3人は橄欖の口車に乗せられて重要機密書類にサインしていく。全ての書類にサインを終えた後、橄欖は3人を自身が乗って来た車に押し込む。

 手際がまるで誘拐犯のようだが、橄欖は一応政府の人間らしい。
 葉月によると、橄欖はアメリカ生まれ。そのため成人の際に国籍を選ぶことができた。なぜ日本国籍を取らなかったのかは葉月も知らないらしい。
 頭がよく好奇心旺盛で物怖じしない性格らしい。学生の頃から情報屋の真似事をし、テレビでさえ放送されない情報を掴んで稼いでいたとのこと。
 今ではどの情報網を活かして政府の特殊な部署で特殊な仕事をしているのだとか。

 葉月はあまり喋りたがらないが、千鶴も盃都も橄欖の情報網を借りることがある。それほどの実力があるということだ。葉月は極力関わりたくないようだが、今回のようなケースはむしろ橄欖の得意分野。投げてしまった方が楽だということだ。


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