7.社会不適合者でも生きていけるので新社会人の皆さん安心してください(素人小説)

菖蒲あやめ:共感覚・HSP・メンタリズム
櫻太おうた:薬中筋肉馬鹿・ヤリチン・元軍人・人相悪い
盃都はいど:甘党ニコチン中・元医者・デリカシー無し男・神経質
葉月はづき:天才ハッカー・不登校・スマホ依存症
千鶴ちづる:社会不適合者たちを束ねる謎の女


 部屋へ通してもらった櫻太と菖蒲は、本人に話を聞いて事実確認をするために菖蒲が優しく声をかける。
紫水晶しすいあきらくん、だよね?今回、君が失踪したことになって一時行方不明届を出されていたことはわかる?」

 菖蒲の問いに晶はうなずく。

「俺たちは警察じゃないし、お父さんの仲間でもない。国に仕えてる人間でもない。俺は別で芸能人やってるけど、今はただの何でも屋の一般人。今回は君のお母さんが警察に頼れなくて、俺たちを頼ってきたからこうして動いてるんだけど、先に一つ聞いていい?」
 母親から依頼があったなんてのは真っ赤なウソとまではいかないが、依頼が入る前からこのケースに着目して動いていたなんて言うとたいていの人間は混乱する。

 千鶴はいつも事件が起きる前にその事件を事前に食い止めるように働きかける。このメンバーで行う仕事はたいていが事件化する前の初動対処だ。たまに事件化してから回ってくるケースもあるが、そういうのは警察に目を付けられたりメンバーに視線が集まりやすく動きにくい。そのため、なるべく事件化する前や事件化しにくい問題が転がり込んでくることが多い。

 今回はまさに事件化しにくい&事件化を未然に防ぐための案件だ。
 依頼主は不明。今回だけでなくたいていが依頼主不明。
 なぜなら、千鶴がどこからか勝手に請け負ってくるからだ。千鶴に聞けば依頼主がわかるのだろうが、事件解決に必要なキーである場合を除いて依頼主は伏せられている。このメンバーなら依頼主が誰であろうが問題の最適解を導き出せるため、誰も依頼主を知りたがらないというのが実情だ。

 今回のケースに話を戻すと、まず渦中の人物に話を聞くのが手っ取り早い。
「なんで、お父さんに黙っていなくなったの?」
 菖蒲のこの問いの答えが、今回の騒動の根底である。ここをはっきりさせなければ晶をどう保護すればいいのかわからない。

 櫻太は腕組みをして窓際に腰かけて、菖蒲はベッドの横に椅子を持ってきて晶と斜めに向かい合うように座る。まともに対面しないのは心理的緊張を避けるための初歩的なルールだ。
 その配慮あってか、躊躇しながらもベッドサイドに座ってポツリぽつりと話し始める晶。それを二人は黙って聞く。

「僕の父さん、厳しい人なんだ。僕を将来、議員にさせようとしてる。僕は嫌だけど、それが紫水家の人間として生まれてきた務めだって。僕の家は戦前から政治家一家で。僕、ひとりっこだから、たぶん政治家にならなきゃいけない。クラスのみんなのみたいに自由に仕事を選べない。それはわかった。

でも今は自由でいたいんだ。僕はアイドルが好きで、でも父さんはそういうのが大嫌いだから、僕がこっそり集めてたグッズは捨てられてた。怒鳴られるし、アイドルが好きだと言ったらまた蹴られる。だからLIVEに行くなんてぜった言えない。でも行きたかったんだ。だから、松永さんと母さんに頼んで、僕がLIVEに行けるようにしてもらった。

そしたら僕、失踪したみたいになっちゃって。このままだと、松永さんと母さん、逮捕されちゃうの?僕がお願いしたせいで?」

晶の切実な思いがひしひしと伝わる。菖蒲は特に感じ取っているだろう、晶のつらさを。そこを耐えて、もう少し踏み込んで聞いてみる菖蒲。

「お父さんの秘書を、どうやって味方につけたの?」

「味方につけたというより、もともと見方だったよ。SNSでファン同士よく交流してて、そこでたまたま父さんの秘書の松永さんとつながったんだ。最初は父さんの罠だと思ってたけど、話してるうちに松永さんはただアイドルが好きなおじさんだってわかった。おじさんの親戚の子がそのグループにいて、応援してるうちにファンになったって。」

 母親を狙うというより、秘書が晶に近づいたのは偶然が重なったか。菖蒲と晶のやり取りをインカムで聞いていた葉月が裏を取ったデータが櫻太のホログラムで映し出される。
 松永の親戚がアイドルグループのメンバーにいるのは間違いなさそうだ。

 データを確認している櫻太と菖蒲に言いづらそうに話し始める晶。

「松永さん、うちの母さんと不倫してて。父さんと離婚する前から。
 でも松永さんを嫌いにはなれない。むしろ感謝してる。

 母さんは僕のことをいつでも守ってくれて。そんな母さんを父さんは罵倒して殴って蹴るんだ。だから離婚してって僕が母さんに頼んだ。暴力振るわれる母さんを見たくないから。松永さんと一緒なら、母さんは暴力を振るわれないし、父さんといるより幸せそうで。

でも二人が付き合ってることがバレたら、きっと松永さん殺されちゃう。たぶん、母さんのことも殺すと思う。父さんなら。

だから、今回母さんと松永さんに僕がお願いして協力してもらったこと、父さんには話さないでほしい!父さんが気づいちゃう!」

 ”殺される”そんな恐ろしいワードが出てきて驚いている菖蒲。
 櫻太はうざそうな顔をしてつい悪態をついてしまう。

「そんな大げさな。」

「大げさじゃない!」
 櫻太におどおどしていた晶が力強く否定した。
 菖蒲は父親が日常的に母子に暴力を振るっていること以外に、何か恐れるものがあると察知して、晶が自分から話し始めるのを黙って聞いていた。

「うちの家、たぶんヤクザとつながってる。お爺さんの代か、それより前から。何人か、うちに来ていた家政婦さんたちが亡くなってて。みんな首吊り自殺で。

ちゃんと調べたことないけど、ある日突然、家政婦さんが父さんを恐れだすんだ。自殺しちゃう理由が父さんにあるんだろうなと思って。父さんが母さんにしてるみたいに、家政婦さんにも暴力振るったり暴言吐いたりしてるのかなって。

恥ずかしい話だけど、父さん気に入らないことがあるとすぐ誰かを陥れようとするから。家政婦さんたちにも何かやってるんじゃないかって思って、こっそり父さんの書斎に入ったり後をつけたりしてみたけど、ちゃんとした証拠は出てこなくて。

でもこれ、ここに写ってる人って、鹿島組の組長さんだよね?」

 そう言って、晶は菖蒲に自分のデバイスに保存してある写真を見せた。
 櫻太も覗き込んで確認する。

「だな。横にいるの、鹿島組の頭のキレる顧問弁護士だな。この写真どこで手に入れた?」
 櫻太はデバイスを覗き込んだ態勢のまま晶に問うと、晶は後ろにのけ反り櫻太にびびりながらも答える。

「ぼ、僕が撮った。」
 まさかの撮影者に二人は驚く。そしてずっと自分にびくびくしてる晶にイラつき、櫻太はついにらみつける。晶はヒィと声を出して菖蒲の陰に隠れようとする。

「つーか、なんでこんなもんが撮れる度胸持っておきながら俺にずっとビビってんだよ?」

「だって、これ取った時にあんたに似てる人がいたから、その、見ちゃいけないもの見たのがバレて、僕を殺しに来たのかなって。」

 助けにきてやったのにさすがの見当違いに櫻太は怒りを通り越して呆れた。会話を聞いていた葉月はマイクをオフにしてアジトで爆笑し、盃都に至っては「いい目してるな。」と一言。

 どちらかというと、晶ではなくメンバーに怒りを覚える櫻太。

 菖蒲は晶の櫻太に対する誤解を解くために、笑いをこらえて話始める。
「まあ、たしかに、この人は人相悪いから一見反社に見えるけど、実はとても強い正義の味方なんだ。その写真、俺に送ってくれる?俺の優秀な仲間がその画像を解析してみるから。」

 菖蒲にはずいぶんなついたようで、すんなり指示に従う晶は画像を送信する。

「そろそろお父さんが来ちゃうから、その前にここを脱出しようか?」
そう言って菖蒲は自分と晶にホロコスをかけて櫻太を先頭にして部屋を出る。

 駐車場までを警戒しながら歩き、無事に車に乗り込むことができた。
 普通なら車に何か仕掛けられてるかもしれないが、鹿島組とつながってる議員とはいえ、さすがに自分の息子ごと車を爆破させるようなことはしないだろう。車に乗り込んで櫻太は車体全体をスキャンして盗聴器やGPSが仕掛けられていないかをチェックする。

 菖蒲は晶と後部座席に乗り込んで、衣装のチェンジを始めた。ホロコスは雨や水に弱く、それらがかかって万が一素顔が出たときにある程度ごまかせるように衣服やマスクなど装着しておく。

 櫻太は車を発進させ、インカムで晶を輸送中と伝えた。
 そのインカムに対して盃都からも身内の不幸を装い議員の保護も完了しアジトに帰還中だと連絡が入る。

 先ほど晶からもらった画像を解析した結果が葉月から各メンバーに送信され、その内容に盃都が驚いている。

「まじかよ議員、立派なヤクザじゃねーか。」

 葉月お手製の顔認証でこの写真に写っている人間のIDとこの人達が他のエリアの監視カメラに少しでも移っているときの写真や動画が流れている。

 監視カメラを意識してなるべく映らないうようにしても、さすがに東京都の監視システムからは完全に逃れられないようだ。

「議員と鹿島組の弁護士、よく会ってるみたいだよ。ちなみに、警視庁の組対5課も一応紫水議員をマークしてた時期があったみたい。でも、なんだろう、課長が変わってから捜査対象から外れてる。この課長がもしかしたら内通者かも。課長を推薦したのは…まじか、警視総監だよ。」
 葉月が解析したデータをもとに考察を話しているととんでもない事実が出てくる。

 櫻太が思わずつぶやく。
「警察トップが黒かよ。」
 本来、メンバー以外の人間がいる場所では安易に情報を開示しないうようにしているが、今回は晶が子供ということもあり、少し警戒が緩んでしまった。口に出してから櫻太はヤバいと気付くが後の祭り。

 その言葉を晶も聞いていて、思い出したかのようにある情報を提供してくれる。
「あの、警察トップって、今の霜月警視総監のことですか?霜月さんを警視総監にしてやったのは俺だって、よく父さんが酒に酔うと自慢して話してました。」

 どんどん黒になっていく紫水議員。
 警察内部に関係者がいれば、自分の家政婦たちを殺してもいくらでも証拠隠滅できることにインカムを通して晶の証言を聞いていた全員が思った。

 これで確定したのは、議員を母親と秘書から遠ざけなければならない。晶も何らかの保護・隔離下に置く必要がある。

 母親や秘書に関してはいくらでも雲隠れさせられるが、晶は未成年であり、議員が黙っているはずがない。そしてあと数分で晶の行方が不明になっていることに気づいた議員がどんな手段に出るのか。それによってこちらの出方も変わる。

 警察に行方不明届を出すのか、出さずに独自ルート(鹿島組)に頼って探すのか。どちらにせよ、晶がもういままでの家に帰ることができなくなった。そのことを菖蒲が晶に伝えると、むしろ喜んでいるあたりからして、この議員が今まで家族にどんな仕打ちをしてきたのか察することができる。




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