3.社会不適合者でも生きていけるから新社会人のみなさん安心してください(素人小説)
誘拐か逃亡か
菖蒲の抱いた疑問にアンサーは見つかるのか。現情報だけでは考えるにも犯人=母親の一択になってしまっているメンバー。
この社会不適合者達の直感は意外と当たることもあってか、千鶴は彼らの好きに議論させてる模様。
だがこういう時に、一度フラットにものを見れるのがこのメンバーのいいところ。
「とりあえずこの誘拐事件、考えられる結論から考えよう。」
盃都がそう言ってホワイトボードを引っ張ってきて書き始める。
ホログラムがある時代にわざわざ手書きとは、なんとも古の手法という感じだがこの場にいる全員が何も言わない。
なぜなら、インフェースが変わると脳の思考も切り替わるからだ。
この事件はそれなりに頭を使うようだ。
だったら最初からそうやって古い手法でブレーンストーミングしてればいいものを、最初はあえてフリートークで個人的な見解を述べていく。
そうして取れた情報を元に結論を導いていく。
一種の証明みたいなものだ。
盃都はホワイトボードに小人的に考えられる結論を書いていく。
ワードセンスがなんとも盃都らしい。含みしか感じない。
誰が考えても結論はこの4つ。
現状がわからなければ考えられる結論から辿っていけばいい。
盃都は自分で書いたホワイトボードを見つめてメンバーを背にしながら聞く。
「自由に意見を出せ。生きてるか死んでるかはこの際考えるな。まずは葉月。」
先生が生徒を名指しするかにように当てられた葉月は嫌な顔することなく調べたてホヤホヤの情報を追加していく。
「積極的行方不明、になりそうな条件はまあ、SNSかな。これ、紫水晶本人のXのアカウント。更新が行方不明の時で断たれてる。でもこれDMで誰かと頻繁にやり取りしてたみたい。ていうか、何回か会ってるねコレ。」
「じゃあそいつに聴いたらわかるんじゃない?最近の紫水晶の様子。」
櫻太がすぐ応答するが、菖蒲も続いて意見する。
「SNSよりも頻繁に顔を合わせてる学校の友達とか、そっちに先に聞くべきでしょ。」
オンラインよりもリアルに重きを置く菖蒲らしい発言だ。
「どうかな、学校ってみんなが好きで友達になってるわけじゃないし。たまたま一緒の時期に同じ場所に居たってだけで親友になるには類似点が少なすぎる。SNSの方が趣味嗜好が似てる人と繋がりやすいから友達作りやすいよ。それにほら、社交用のアカウントでDMやら投稿はほぼ無し。稼働率が高いのは圧倒的にこの裏垢。」
現代っ子らしいネット漬けの葉月の意見。これも一理ある。
「学校のリア友達は可能性から消えるな。」
盃都はそう言って「学友」を線で消し候補から外していく。
「この裏垢で会話してたやつ、父親の秘書だ。」
葉月がまた妙な情報を出してきた。
みんな興味津々に葉月の言葉に耳を傾ける。
「この会話、きっかけはアイドルの話をしてるんだけど、途中から両親の相談になってる。離婚で両親が揉めていること、その原因が自分にあること。父親が紫水晶を議員にさせようと帝王学やら古びた教育を家でやってたみたい。成績もB判定で振るわず父親に叱責されるのを恐れていたようね。それを母親が庇って毎回喧嘩になっていたと。」
可哀想な話ではあるが、何処にでもあるような亭主関白な家のリアリティ番組のような話だ。とメンバーは思っているようだ。誰一人可哀想だと眉を下げる者はいない。
なぜならここにいるメンバーたちは親からのそうした過度な管理や軋轢に抗い脱出して今を勝ち取ってきた人たちであるからだ。
葉月は続けてSNSから読み取れる情報をみんなに提示していく。
「実際にこの秘書と3回は会ってる。LINEは交換してないみたい。親にバレたら大変だからって。確かに親の年齢ならXのDM機能とかあまりよくわかってないだろうしね。
で、実際に会ったのは全部アイドルのライブ。日付的に一緒に観に行ってその日に解散してる。
さらにさらに、行方不明になったのが、そのライブ当日。」
「もうこれ秘書確定でよくね?」
櫻太がソファにもたれて天井を仰ぎながら呟く。
盃都は次の可能性についての議論にテーマを移す。
「じゃあ櫻太、他の可能性を否定してみろ。」
櫻太は面倒臭そうに視線をホログラムに向けてしばらく考えてから答える。
「母親、紫水晶を庇って父親から離すために離婚したところで親権は自分に来ないことわかってなこれ。この議員裏工作大好きじゃん。コイツが提出した法案ほぼ通ってる。家裁を買収することくらい普通にわかる。だから母親が紫水晶を逃すなら紫水晶を父親にわからないように直接または間接的に誘き出すか拉致に見せかけて奪還する必要がある。」
「そうだな、状況から見る限り母親なら保護の目的で誘拐してるな。お前ならどう誘き出す?」
盃都は櫻太に尋ねる。深い意味はない。ここにいるメンバーみんながそうだ。自分ならどうするか、そう仮説を立てて物事を見ている。
「それこそSNSで誘き出すかな。学校に直接会いに行くと職員から父親に通報が行きそう。教師も買収してるだろこの父親。だからほら、学校の成績はS。だが全国一斉共通テストはB。SとAでも差があるのにSからBってどっちかが不正だろ。
となると、学校の成績さえ良ければエスカレーター組の紫水晶なら学校成績の方を方弄ってるはず。成績をいじれるってことは教師陣を誰か買収してるだろ。学校に直接会いにいくのはないだろ。
SNSじゃなかったら登下校途中で拉致るか。だが自分がやれば目立つから信頼した人間にしかやらせない。が、中学生男子ともなるとそれなりに体力も筋力もついてきてる。紫水晶の身長172cm。中2でこれは結構でかい方だろ。
一人二人でできるものじゃない。最低でも3人は必要だ。そんなことができる仲間が母親にいるとは到底思えない。ましてや大事な息子を第三者に拉致らせるなんてさせないだろ。
だから母親がやるとしたらSNSで接触して誘き出す。」
櫻太が推理したことが合っているか葉月は母親のSNSや紫水晶のSNSを探す。
「母親のSNSらしきものがXであるよ。そのアカウントとDMでやり取りしてる。でも秘書に比べると数は圧倒的に少ない。
まって、秘書のこと、母親に話してる。」
葉月の意外な発見に全員が食い入るようにホログラムを見つめる。
DMが時系列で流れ、全員の目が止まる場所があった。そこに書かれていたのは。
「母親と秘書がグルか?」
櫻太がボソッと呟く。QBとは秘書のアカウントだったからだ。
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