父の話はまさに正論で、反論の余地など全くなかったのだけれど、でも無性に悔しくて、 “お父さんは今のアート事情なんか知らないのだから、変に口出しなんかしないでよ!”と私は感情的に突っぱねた。
今になってとても後悔していることの一つなのだけれど、それ以来私は父に私たちのギャラリーの様子について一度も話をしなかったし、そんな頑なな私に父もまた面と向かって尋ねることはなかったのである。
確かに私は今なお商売に関して無知かもしれないけれど、商売とはただそれだけじゃないことをこの11年で学んだような気がする。
何より大事なのは、その店独自の矜持を示すことではないかと私は思っている。
もちろんのこと私たちのギャラリーがこの荒波の中で生き延びるためには確かな売上をコンスタンスに上げる必要がある。でも知名度の高い人気作品だけを無作為に集めて収益を追うのではなく、私たちが心底から顧客に勧めることのできる作品を厳選する必要があると思うのだ。
それがギャラリーの個性であり、それが私たちの良心ではないだろうか。
そしてその良心こそがギャラリーの暖簾を守ってくれるのだと私は信じている。
父が在命ならば、二人で日本酒を酌み交わしながらそんな話をしたかったな、と今思う。父はきっと私の話に喜んで耳を傾け、そしてギャラリーの良き理解者になってくれていただろうな、そんな気がするのである。
今日紹介するのは木下裕美子さんの作品である。
彼女はとても真っ直ぐで、小柄な体の中に人としての優しさが誰よりもたくさん詰め込まれている人である。
彼女の作品を見るたびに彼女の印象がまるで手にとるように浮かび上がってくる。
そう、彼女の作品に中には彼女の良心そのものが込められているのである。
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