【読書メモ】今週読んだ5冊
『オーバーロード1 不死者の王』丸山くがね
・俗に言うなろう系の、いわゆるMMO物。
・アニメ化されているので知っている人も多いと思うけれど、主人公はガイコツ。魔王城の玉座に偉そうに座っていそうな仰々しい格好のガイコツです。ダークヒーローというかアンチヒーローというか、主人公が「悪」の側という設定の作品。なので好みは分かれそうだけど、少なくとも1巻の時点では普通に人助けをしている。主人公も根っからの悪人というわけではなく、その正体は普通の会社員男性。趣味のMMORPGの世界に閉じ込められてしまい、アバターであるガイコツとして振る舞わざるを得なくなった、という設定です。
・初っ端から世界観や設定の説明が続く。いまの展開には関係ない設定をここで書かれても、読者は1分後には忘れちゃうよ。ちょっとした短編ならとっくに読み終えているであろう量のページを読み終えてもまだ説明が続くのはさすがにビックリするよ!
・流れるような流れで女性キャラの胸を揉むシーンがある。表紙からしてけっこう硬派な作品かと思って読んだんだけども。
・Audible(オーディオブック)で聴いてるんだけど、小説家になろう名物「ステータス画面」もぜんぶ読み上げます。普段なら1秒で読み飛ばすページを数分かけてじっくり朗読されるので、ぶっちゃけつらいです。
・「ゲームにログインしていた主人公が、何故かログアウトできない事態に見舞われる」「NPCたちの様子がおかしい」「どうやらギルドごと異世界に飛ばされたらしい」という状況を説明するために1巻の半分くらいの分量を割いている。そこは、初っ端から何か事件を起こして盛り上げるべきでは。しかも、最初からキャラがいっぱい出てくるので覚えるのが大変。もっとこう、出だしで読者の心を掴むようなツカミが欲しい。
・主人公の目的がなかなか提示されないのは読んでいてつらい。1巻の終わりあたりでようやく「この世界にいるかもしれない、かつての仲間に自分の存在を知らせる」という目的ができるけど、目的の提示がだいぶ遅いように感じた。本作の物語の性質上、最初から目的を提示することは難しいのは分かる。けれど、主人公が何をすべきか分からないままサブキャラとの会話がひたすら続くのは読んでいてちょっと疲れた。目的地を知らされないままガイドに連れ回されてひたすら歩かされるツアーがしんどいのと同じで、主人公の目的が分からないままひたすら読まされる小説もけっこうつらいものがある。
・いわゆる「異世界物」の一種であり主人公は例によってメチャクチャ強いという設定だけど、チートではなくゲーム世界でコツコツ努力してレベルを上げてきた結果である。なんの努力も無しに主人公が最強なチート物が苦手な人も本作なら読めるかも。
・主人公の周りにいるヒロインやサブキャラたちは、主人公に仕える従者なので最初から好感度MAX。これもお約束。
・女性キャラふたりが胸のサイズで張り合うシーンがきたときは「で、出たーwwwwww」と草生やしましたよ、はい。なんで胸で張り合うと思うんだろう。
・こちらをあざ笑うような敵キャラの態度に対して「嘲笑気味の感情を向けてくる」という描写がされるシーンがある。「嘲笑気味」って、ちょっと引っかかる表現だなと思った。間違ってはいないんだけど、なんと言うか「執筆中は適切な表現が浮かばなかったので、とりあえず書いておいた」部分がそのまま載ったような違和感がある。「あざ笑うような感情」ではダメだったのだろうか。このように、全体的に文章表現の語彙が少ない印象を受ける。
・なんか、思った感想をそのまま並べたら批判ばかりになってしまった。ファンの方すみません。
『おまえじゃなきゃだめなんだ』角田光代
・大人の(異性愛)恋愛が詰まった短編集。全体の分量はちょっと短めの長編小説くらいだけど、そこに24篇が詰まった盛りだくさんの短編集。
・最初は掌編並みの短い話が続く。どれも恋愛とジュエリーという共通点を持っており、明確なヤマやオチは無い。けれど何故か心に残る、そんなお話。こういう短いけれど印象的な小説を書いてみたいな~
・後半からは普通の短編並みのボリュームの話が収録される。恋愛の話もあれば、恋愛以外の人間関係の話だったり。掌編で始まって短編で〆る。面白い構成の本だな~と。
・前半はライトに読めるハッピーな話だけど、後半はわりとヘビーな話が多い。
『ルポ 死刑 法務省がひた隠す極刑のリアル』佐藤 大介
・死刑執行の判断に至るプロセスは完全にブラックボックスとなっている。法務省の官僚のあいだでどのような執行判断のプロセスがあり、刑の執行に至ったのか。その経緯がまったく公表されていない。執行判断の可視化が求められる。
・死刑囚が刑務所ではなく拘置所に入れられる理由は、死刑は死をもって刑罰とする点にある。刑務所では服役して労働に従事することが刑罰となるので、そこに死刑囚を入れたら死刑以外の刑罰を与えることになる。そのため、裁判中の被告などと同じように拘置所に入れられる。
・拘置所には教誨室(きょうかいしつ)という部屋があり、宗教的な祈りを捧げることができる。仏教とキリスト教のふたつの宗教に対応しており、教誨師と呼ばれる宗教者との交流が多くの死刑囚の心の拠り所となっている。死刑囚は刑の確定と同時に社会から隔絶されるため、教誨師は言葉を通わすことのできる数少ない相手となる。
・死刑制度は拘置所の刑務官にとっても大きな負担となっている。死刑執行のボタンは3つあり、うち本物は1つ。これを3人が同時に押すことで誰が本当に刑を執行したか分からなくなり、刑務官の心理的負担を減らす試みをしていることは有名だ。しかし、結局のところは負担を負う者を3人に増やしているだけだ、という意見もある。
刑の執行に携わった刑務官の負担は当然ながら底知れない。執行後は号泣する者もいるほどだ。また、出産を控えた身内がいる刑務官は刑の執行の役からは外されるという。その身内に何かあった際に、刑務官が刑の執行に関わったことが原因だと思われることを避けるためである。刑の執行はそれほどまでに重い。
・死刑制度賛成論では「遺族感情」が頻繁に使われる。「死刑を廃止すれば、家族を奪われた遺族の気持ちはどうなるのだ」と。しかし、遺族の中にも様々な思いを抱えた人がいる。被告を到底許すことが出来ない怒りを抱えた人がいれば、長い時間を経て寛容になった人もいる。本書では名古屋アベック殺人事件で娘を奪われた男性が、30年以上の時を経て主犯の元少年の更生を願うようになったことが綴られる。
元少年は当初、犯行への反省の態度を見せなかった。しかし無期懲役での服役中に被害者の父へ手紙を書くようになり、そこには命を奪ったことへの真摯な反省が見えた。被害者の父は当初こそその手紙を読むことはなかったが、繰り返し送られてくる手紙をふと思い立って読み始めたことで、元少年の反省の思いを知る。決して許したわけではない。ただ、彼には更生してほしいと。人は変わることができる。しかし、死刑制度はその変わる機会を奪うものではないか。
・「遺族感情」は単一化して捉えられる。遺族は加害者の死刑を望む生き方しか許されないのか、遺族感情は「加害者の死を望みます」の一種類しか無いのか、と本書は説く。「遺族は厳罰を望んでいるはず」と周囲が決めつけるのは、遺族にとっても大きな負担となる。彼ら彼女らにも生活がある。いつまでも周囲から「怒りながら極刑を望む人」として見られるのは、生きていくうえで支障をきたす。
・日本の死刑制度が絞首刑を採用している根拠は1928年の論文である。なんと、100年近く前の論文を根拠にした執行方法が未だに使われているのだ。
死刑囚に無用な苦しみを与える恐れのある絞首刑は憲法36条の「残虐な刑罰の禁止」に反するのではないか、という違憲性の指摘がされてきた。しかし裁判においては過去に2回、合憲判断が下されている。その理由はざっくり言うと「釜茹で、はりつけ、銃殺刑と比べたらそこまで非人道的じゃないよね」というもの。いやいや、比較対象がおかしいって。
「縊死は頸動脈が締まって意識を失ってから死ぬので苦痛が少ない」という理論だが、いかんせん100年前の論文なので現代では多くの誤りが指摘されている。ロープが頸動脈を締めるように上手く首にかかるとは限らず、落下の際に位置がズレる可能性がある。その場合は数分間「死ぬに死ねない」状態が続くことも考えられ、死刑囚に大きな苦痛を与えることになり「残虐な刑罰」に当たる恐れがある。また、頸動脈を締める以外にも落下の際の衝撃で首の骨が折れたり、神経の損傷により心停止する可能性もある。不確実性の高い執行法と言える。
・絞首刑の根拠とされる法律は明治初期の太政官布告に基づいている。なんと、日本の内閣が発足する以前のシロモノなのであった。前近代的なわけである。
・日本において死刑制度の廃止を問う議論は亀井静香氏を始めとして行なわれていたが、2012年の衆議院選挙で議論に携わる多くの議員が落選したことをきっかけに立ち消えとなった。
・政府は死刑制度を存続させる根拠として「国民の多くが賛成している」ことを挙げる。政府が過去に行なってきた世論調査では「死刑制度に賛成」が多数派であることが理由だ。しかし、その設問内容には疑問の余地があった。
2009年に行なわれたアンケート調査の内容は以下の通り。
死刑制度に「反対」の選択肢である①の「どんな場合でも」「すべき」といった文言は、積極的な死刑制度廃止論者に回答者を絞ってしまう。一方、「賛成」の②は「場合によっては」「やむを得ない」と、消極的な死刑賛成論者をも内包できる設問になっている。これは正確な調査を妨げる内容である。単純に「死刑制度に賛成・反対」ではないところに、この調査における政府の意図を感じずにはいられない。
・こうした批判を受けて、その後は設問内容が見直された。2019年の調査でも死刑制度に「賛成」が8割となっているが、それでも回答の中に国民の迷いが見て取れる。
死刑制度に「賛成」と答えた人には更に追加で質問がされるようになり、その中で「状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよい」と回答した人は39.9%だった。さらに「もし仮釈放の無い終身刑が導入されるならば死刑を廃止すべきか」には52.0%の人が「死刑を廃止しない方がよい」と回答した。実質的に半数近くが将来的には死刑の廃止を視野に入れていることになるため、この調査をもって「8割の国民が死刑制度に賛成している」と言うことはできないはずだ。
私的な所感。政府はこういう時だけ「国民の声」を持ち出すんだな、と思った。国民の過半数が同性婚の法制化に賛成していることは見て見ぬフリしてるクセに~
・日本以外の先進国のほとんどは死刑制度を廃止・停止している。未だに死刑が行なわれ、しかも絞首刑という前近代な方法を取っていることは国際的にも日本の立場を悪くすることになる。
『ホテル・ピーベリー』近藤 史恵
・暗い過去を持つ主人公の男性は、友人にハワイ島のリゾートホテルを勧められる。そこで出会ったのは優しい人々と、美しい火山の風景。てっきりハートフルな傷心バカンスが始まるのかと思いきや、人が死んだ件。
・主人公は元小学校教諭
理由があって退職した
何故か回想シーンで当時の女子生徒が出てくる
『夏への扉』が大好き
・・・これだけで読者に何かを察せられるの、すごい。
・主人公がクズ。過去はもちろん、人妻にも手を出し、心象描写にも身勝手なところが見え隠れする。そういうキャラなんだろうけど、おかげで感情移入はできなかった。
・南国バカンス×サスペンスという異色の組み合わせ。だけど人が連続して死んでも探偵みたいに捜査に乗り出すことはなく、「まあ事故だろう」とこれまでの日常を続ける。事故現場を調査して証拠を見つけることも、関係者に聞きこみして証言を得ることもない。いや、警察でもないのに勝手に捜査を始める世のミステリ主人公の方がおかしいと言われれば、それはそうなのだけれど。
・ここからはネタバレ込みの感想。未読の人は注意。
・物語の要素があまり活かされていないように感じた。傷心の主人公が南国で癒しを得る話かと思いきや、人が死ぬ。ミステリが始まるのかと思いきや、捜査もしない。
・主人公が過去に10歳の女性生徒に恋心を抱いていた、という設定がある。正直いってこの設定は必要か? と思った。主人公は自身がロリコン(作中では小児性愛者であることは否定されるが、10歳に恋心を抱いたことは事実なので便宜上こう呼ぶ)であることを否定するためにある中年女性キャラとセックスをして、それが物語を動かす大きな歯車となる。なので設定の必然性はあることはあるのだけど、それよりもキモさが勝ってしまう。
・ホテルで起こった事件の真相は、終盤で主人公が日本で調査してきたという情報を元に暴かれる。土壇場になって新事実が次々と提示されて犯人が指摘される。ぶっちゃけ後出しジャンケンという印象を受ける。読者に推理を要求する本格ミステリではないにしても、ちょっと興ざめしてしまった。
・人が死んだのに展開に緊張感が無い。死へのショックなどは描かれるけれど、なんか弱い。ホテルを舞台とした殺人と聞いて個人的に期待したクローズドサークル的な展開も一切なし。ホテルで殺人といえば外部との連絡を断たれたり、「この中に犯人がいる!」と疑心暗鬼になるのがエチケットでしょうがー!
・「南国に来たのに昼はホテルの部屋にこもり、夜になるとプールでひとり泳いでいる、ドラキュラにたとえられるほどの色白で、星空の写真を撮るのが趣味の、ミステリアスでちょっとワイルドなお兄さん」という、乙女ゲームなら間違いなく攻略対象のキャラがいる。のだけれど、特に見せ場もなく死ぬ。いや、なんてことするの先生。あまりにも勿体ないって。
『リカバリー・カバヒコ』青山 美智子
・大切なものを失った人、日常が苦しい人、現実から逃げたい人。みんな、色んな「治したいもの」がある。本作はそんな彼ら彼女らが「治したいところに触れたら回復する」と言われるカバの遊具に出会うことで、人生のレールがほんの少しだけ変わっていくお話。
・ハートフルな感じの連作短編集。「治したいところに触れたら回復する」といっても超常現象が起きて問題が全部まるっと解決するわけではもちろんなく、問題との向き合い方や自分の考え方が変わることで、人間関係や目の前の問題が少しずつ良い方に傾いていく感じ。よくある、と言ったら聞こえが悪いけれど、そういう「気の持ちよう」の変化を描いた作品です。
・名言が多い。
「誰かに勝ちたかったんじゃなくて、私が、頑張りたかったんだ」
「カッコ悪いところを見せまいとしたら、新しい世界を見れない」
「僕が、僕を決めていく」
「不安、っていうのも、立派な想像力だと、あたしは思うね」
心に染みこむセリフが上手く、それでいて「良いこと書いてやったぜ感」があまりない。世界が変わる言葉っていうのがあると思っていて、本作はそんなセリフが詰まった一冊。
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