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【読書メモ】2023年に読んだ128冊をザックリ紹介!



『羊と鋼の森』宮下 奈都


・特に才能もないけれどピアノ調律師になった人の話。
・「焦ってはいけません。こつこつ、こつこつです」
 「こつこつ、どうすればいいんでしょう。どうこつこつするのが正しいんでしょう」
 すごく印象に残ったセリフ。「こつこつやれば夢は叶う」ってよく言うけれど、「こつこつやる方法」が分からない人は多い。

『すべて真夜中の恋人たち』川上 未映子


・社会性のない30代女性の恋の話。
・「大人の恋愛」と呼ぶには落ち着きのない、甘酸っぱい恋。
・年上の年代の「しっかりしていない」登場人物を見ると、なんか安心してしまう。自分より下を見て安心するとかそういうやつではなく。「しっかりやらなくていいんだ」みたいな。

『明け方の若者たち』カツセ マサヒコ


・何者にもなれなかった人たちの話。就活に成功したと思ったのに、実際の仕事は思っていたのと違ってストレスフルな日々を送る若者の話。
・「人間、収まるところに収まるもんだ」と聞いたことがある。人によっては窮屈だったりブカブカだったりするだろうけれど。

『スマホ時代の哲学』谷川 嘉浩

・スマホと向き合う前に自分と向き合え、という本。
・「孤独」と「寂しさ」は違う。孤独は自分と向き合うこと、寂しさは他人を求めること。
・私たちに寂しさを植えつけて、通知などで注意力を奪ってくるネットに抗え。孤独を持て。

『人間失格』太宰 治


・顔だけは良いダメ人間の転落の話。
・むしろ、なまじ顔が良かったから色恋沙汰を呼び寄せて更に不幸になったのかも。
・分量はそんなに長くないし、展開も分かりやすくて読みやすい。古典と尻込みせずに読んでみるのもオススメ。

『正欲』朝井 リョウ


・水に興奮する特殊性欲の持ち主たちが、「多様性」の世の中でひがみ根性を燻らせる話。
・「特殊性欲もセクマイとして認めるべき」と解釈する読者が多そうで不安になる作品。
・「マジョリティにとって得となるセクシャリティだけが社会に認められているのではないか」というメッセージには共感する。だけど、そこで「社会に認められていない存在」として出てくるのが「水に興奮する人」ってなんだよ。「ユーモアが無いゲイ」や「綺麗じゃないレズビアン」など、マジョリティの「得」にならないセクマイは大勢いるのに、彼ら彼女らにスポットライトを当てる発想は無かったのか。着眼点は良いのに、着地点が非常に惜しい。

『春のこわいもの』川上 未映子


・2020年春、コロナ禍を舞台にした短編集。
・3年半ぐらいしか経ってないのに「懐かしさ」を覚えるのが不思議である。激動の時期だったね。

『マイクロスパイ・アンサンブル』伊坂 幸太郎


・小さなスパイと大きな人間の、すこし不思議でちょっとおかしな話。
・人間の何気ない行動が小人たちに大きな影響を与える。短いスパンで伏線が張られては回収されるのでテンポが良い。
・伊坂作品は長らく追ってきてるけど、初期と比べたら伏線回収のキレが落ちた気がする。面白くはあるけれど。

☆おすすめ!『この本を盗む者は』深緑 野分



・女子が女子と不思議な世界を冒険する話。
・劇場アニメにしたら映像映えしそうな、鮮やかな情景描写は一読の価値あり。
・百合です。勝気な主人公女子とおっとり不思議系美少女ヒロインの冒険がアツい!ジャンルとしては友情百合で、異性愛要素は無し。

☆おすすめ!『此の世の果ての殺人』荒木 あかね



・2ヶ月後に人類が滅亡する世界で殺人事件が起きる話。
・終末世界なので警察組織が壊滅していたり、目撃証人がほとんどいなかったりと舞台を活かした展開が面白い。
・百合です。大人しめ女子の主人公と相棒の元刑事イケ女子の関係性がめちゃくちゃ良い。相棒は夢女子を量産する系の女性ですね。ジャンルとしてはバディ百合で、異性愛要素は無し。

『AX』伊坂 幸太郎


・恐妻家の最強殺し屋の話。
・殺し屋小説といえばクールなハードボイルドをイメージすると思うけれど、本作は家族持ちの殺し屋の牧歌的な日常も描かれる。むしろそっちのシーンの方が面白かったりする。「殺し屋の日常を描く」という発想は、作者も愛読を公言している「殺し屋ケラーシリーズ」(ローレンス・ブロック)の影響かな。
・伊坂作品初見の人は「伏線回収が見事だった!」と評価するかもしれないけれど、古株のファンからは「伏線のキレが落ちたな」と言われそう。この話、さっきもしたな。

『キリンに雷が落ちてどうする 少し考える日々』ダ・ヴィンチ・恐山


・非常にどうでもいいことを丹念に綴ったエッセイ集。表題の「キリンに雷が落ちてどうする」はとても短い作品だけど、中身がギュッと詰まっていた。

『スモールワールズ』一穂 ミチ


・子どもが出来ないけど子どもが欲しい女性が下した、ある狂気じみた決断、恐ろしき姉に振り回される弟の話(癒し回)、娘だと思っていた自分の子供がトランス男性だと知らされた父親の戸惑いと理解。「家族」にまつわる物語が詰まった短編集。

『プロだけが知っている小説の書き方』森沢 明夫


・物語の「謎」を提示して読者を引き込め。ミステリ以外でも謎は物語を引っ張るうえで有効だ。
・他人の不幸はネタになる。はてな匿名ダイアリーとかでイイ感じのネタになる話を収集しよう。(私としては、あまりマネしたくない手法である)
・ネタ出しの時点で結末まで閃いたらラッキーと考えよう。カーナビと同じで、結末という目的地を設定できたらそこまでのルート(エピソード)も決まる。でも書き続けている過程で「こっちの結末の方がいいな」となるのもザラなので、そこは臨機応変に。
・主人公の設定はスタート時はちょっと落ちこぼれか、中の上ぐらいがいい。あまりに不幸すぎたり恵まれすぎていると、読者は「こいつは自分とは無縁の存在だな」と思ってしまう。
・人物像を説明するには、地の文だけじゃなくてエピソードや物語に絡めて表現する。だらしない人間だと説明するには「俺はだらしのない人間だ」というのではなく、そいつの自堕落な生活の描写ややり取りを描く。第三者にそいつの有り様を言わせてもいい。テキストだけで説明しないこと。

『七つの魔剣が支配する』1~10巻 宇野 朴人


・アニメ化もされたらしいラノベ。ハリーポッターみたいな魔法学校モノに「魔法剣」と呼ばれる剣による剣術要素をプラスして、目新しさを出した設定の作品。
・1巻ラストで引き込まれたので継続して読んでるけど、いまのところあのラストを超える展開はないな。
・ラノベ感が薄いので気に入ってたんだけど、2巻から男友達が女体化したり唐突なお色気要素が入ったりと、なかなかどうしてラノベ感を出してきおった。

『エンタテインメントの作り方』貴志 祐介


・小説の書き方ハウツー本。
・小説は重要な部分だけを書けばよい。
・最初に結末を書け。「書いているうちにキャラクターが勝手に動き出す」とよく言われるが、それは物語の土台がしっかり出来ているからこそ。土台がロクにできていないのにそれをやったら途中で空中分解する。
・楽しんで書け。作者が楽しんで書かないと読者もノッてくれない。
『コンビニ人間』村田 沙耶香
・社会性のない女性がクズ男と付き合うことになる話。
・18歳からコンビニで18年間働いてきたので、人間としての行動がコンビニ店員として最適化されてしまった。ここからは私の意見だけど、でもコンビニ店員って割とつぶしの効く仕事だしコンビニという職場はこれからも社会から必要とされると思うので、生きていくうえでは案外困らないのでは。
・クズ男が本当にクズ。すがすがしいほどのクズ。同情の余地とか、「なんだかんだで良い奴なんですよ」みたいな描写が一切ない。

 『15歳のテロリスト』松村 涼哉


・少年法を正面から問う話。
・15歳の少年が新宿駅の爆破予告をネット上にアップ、そして予告通りに爆発が発生。社会は騒然。少年だからといって、このテロリストを許すべきなのかと世論は紛糾。果たして少年の目的とは。少年を追う記者の視点から、事件の真相を追う。
・「少年法に守られる犯罪者を許すな!」みたいな感情的な結論ではなく、納得のできる論理的な落としどころに落ち着いたのが好印象な社会派小説だった。

『本好きの下剋上』香月 美夜


・異世界に生きていた住民の体をジャックするタイプの異世界転生モノ。
・もしも無類の本好きが本のない世界に転生したら、どうなるか。答えは、自分で本を作り出す。
・大長編シリーズの始めの部分なので、主人公はまだ子供。出来ることも非常に限られていて、本の材料を集めるのも一苦労。最近の巻の表紙を見るに、どうやら主人公は立派な大人になるみたいですね。なんか物語も壮大になってるっぽい。

『模倣犯』全5巻 宮部 みゆき


・連続女性誘拐殺人事件を追う話。被害女性の祖父、一家殺人の生き残りの少年、事件を追うライター、事件担当の刑事、そして犯人。複数の視点から物語が重厚に編み込まれていって、非常に読み応えのある全5巻の大長編ミステリ。
・フェミサイドがテーマの一つだと思う。女性が「殺されるほうの性別」とされているのはどうしてなのか。社会がそうさせているのなら、誰が、それをやめさせてくれるというのか。

『硝子のハンマー』貴志 祐介


・幾重のセキュリティに守られた社長室で密室殺人が起こる話。
・密室トリックが最初に浮かんで、それから物語を書きはじめたらしい。私はそのトリックに対して「そんなん分かるか!」と「言われてみれば、その手があったな・・・!」という二つの感情が同時に浮かんだ。

『ティアムーン帝国物語~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー』1巻 餅月 望


・革命で処刑されたお姫様が子供時代にタイムスリップして、処刑ENDを回避するために奔走する話。タイトルに「転生」とあるけど、同じ人間が時を遡っただけだから転生ではなくない!?
・主人公の行動原理が「処刑ENDを回避する」で一貫しているので、主人公の行動が分かりやすく物語も読みやすい。
・悲劇を回避するために主人公が取ったあくまで利己的な理由による行動を、周囲の人間が勝手に良い方向に解釈して、主人公の株が上がって結果的に処刑ENDが遠ざかる。こういう「そのつもりがないのに周囲のキャラクターが勝手に良い方向に解釈する」というのは異世界モノでよくある物語パターンみたいですね。

『深夜特急』1巻,2巻 沢木 耕太郎


・インドのデリーからイギリスのロンドンまで陸路でひたすら目指す話。てっきりひたむきに目的地を目指す冒険記かと思ったら、香港でウダウダ過ごしたりマカオでカジノに入り浸ったりと現地生活を満喫している、スローテンポで進む放浪記。1970年代の東南アジアの雰囲気が肌感覚で伝わってくる文章が読み応えある。現地に行った気分になる本。

『謎解きはディナーのあとで』東川 篤哉


・短編集ミステリ。文体は非常にライトで読みやすく、ギャグも多めなので殺人ミステリの重い雰囲気が苦手な人にもオススメ。「人が死んでるんだぞ!」とツッコミを入れたくなるぐらいノリが軽い。
・様式美を重んじる作品。事件が起こる、主人公が概要を執事に話す、執事が主人公に暴言を吐く(有名な「お嬢様の目は節穴でございますか?」というアレ。コレに匹敵するセリフが毎回飛び出す)、執事が安楽椅子探偵スタイルで事件の真相を暴く。よく言えば安定感のあって安心して読める構成。悪く言えばマンネリ感がある。
・しっかり本格ミステリなので、執事が暴言を吐いたタイミングで一度ページをめくる手を止めて推理してみるのも一興。

『サイレント・ブレス 看取りのカルテ』南 杏子


・訪問診療の医者が主人公という、今まで読んだことのないタイプの医療小説。患者は終末期の人が多く、人生の最期を看取ることについて考えさせられる一冊。
・看取りがテーマだけど雰囲気は重すぎず、希望を感じさせる展開で物語が進む。
・しかし、患者を看取る主人公の名前が水戸倫子(みと りんこ)はちょっと安易ではないかな。

『凍える牙』乃南 アサ


・バツイチの女性刑事がミソジニーおじさん刑事と組まされる話。正直言ってイヤすぎる。結局ミソジニーおじさんは自分の女性蔑視に関しては最後まで反省しないし。

『鍵のない夢を見る』辻村 深月


・短編集。盗癖のある友人を持つ少女、役場の気持ち悪い男につきまとわれている女性、育児ノイローゼの女性、DV彼氏と逃避行している女。どれもハッピーエンドとはいえず、といってもバッドエンドでもない。なのに「この物語ならこの終わり方しかないな」と納得できるラストを提供してくれるのがすごい。直木賞を取るわけだよ。

『ダークゾーン』貴志 祐介


・人間で将棋をするデスゲームの話。
・将棋の駒みたいに登場人物ごとに特技や必殺技を持っており、上手く活用することでゲームに勝利していく。将棋と同じく七番勝負、負けたら魂ごと完全消滅。さあゲームのはじまりはじまり。
・最初は駒の特技の説明が続くので多少ダレるが、中盤以降は駒の役割を活かした意外な戦法や手に汗握る駆け引きが続いてメチャクチャ楽しい。七番勝負のどの回も似たような展開が無く、毎回まったく違った局面を見せてくれるのがすごいな~と。

『スロウハイツの神様』辻村 深月


・クリエイターが集うアパートの話。
・恋愛関係ではない男女の巨大感情がお好きな人にはぜったい刺さる。

☆おすすめ!『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』5,6巻 みかみてれん




・ガルコメ(ガールズラブ×ラブコメ)のトップランナー。今年は2冊刊行されました。
・陰キャ女子の主人公が百合ハーレムを築いていく話。文章はすごく読みやすく、かといって軽すぎもしない丁度いい塩梅のテキストです。
・5巻からは新章開幕。新キャラの美少女がいっぱい出てくるよ。
・スパダリ女子と黒髪美人と癒し系女子と妹系女子に囲まれる陰キャ女子。これぞ百合ハーレムの極致。もちろん主人公は八方美人ではなく、一人ひとりと真摯に向き合おうとしているので好感度が高いです。
・「百合小説に興味があるけど、なにから読んでいいかわからない」という人におすすめの一冊。

『氷菓』米澤 穂信


・アニメにもなった人の死なないミステリー。いちおう論理立てて推理されて納得のいく結論が出されるのだけれど、私の頭がよくないのかいまいちピンとこなかった。

『愚者のエンドロール』米澤 穂信


・「ミステリー素人が書いた自主制作ミステリー映画の結末を推理する」という、なんとも斬新なミステリー。ミステリー玄人と素人の発想の違いなど、本作ならではのナゾが実に新鮮。

『ボクたちはみんな大人になれなかった』燃え殻


・スマホ時代と90年代を行き来する、大人の青春小説。ノストラダムスの大予言の時代だよ、40代以上の人たちにはたぶんブッ刺さるよ。
・おじさんサラリーマンが青春時代を回想する構成だが、展開はいたって冗長。アッと驚く展開やどんでん返しは一切なし。静かに人生を編んでいくタイプの作品。じっくりしっとり読みたい人向け。

『嘘つきジェンガ』辻村 深月


・「嘘」がテーマの短編集。嘘って一律に悪いこととは言えなくて、グラデーションがあるよね。絶対に許せないような嘘から、まあ許容範囲の嘘。中には誰かを守るための嘘だってある。

『祝祭のハングマン』中山 七里


・刑事物かと思ったら、途中からトンデモ展開になって度肝を抜かれた。
・女性刑事の主人公が殺人事件の捜査をオーソドックスに始めた時は、まさか途中から登場するスーパーハッカーが盗聴などの違法捜査をして証拠を持ってくるなんて思わないじゃん・・・

『ヘルドッグス 地獄の犬たち』深町 秋生


・暴力団に潜入捜査している刑事の話。正義感の強い主人公がヤクザの汚れ仕事、殺人と死体遺棄をやらされて、ホテルの部屋に帰るなり罪悪感に押しつぶされて嘔吐するシーンが個人的にはメチャクチャ良いと思いました。良い人がストレスに押しつぶされてるの、良いよね。あくまでフィクションに限った話だけど。
・主人公の相棒の戦闘系サイコパスヤクザ男がめっちゃ良いキャラしている。生まれが最悪なピュアなサイコパス。素で暴力を楽しめる純粋な子。子供っぽい面と暴力性が同居している。

『罪と罰』フョードル・ドストエフスキー


・昔の小説だからなのか、「いま、誰が何のシーンをしてるの?」と見失うことが多々ある。最近の小説がいかに読者が置いてけぼりを食らわないよう気を遣ってくれているかが分かる。5W1Hを描写するって大事なんだな・・・
・ロジオン・ロマーヌイチ・ラスコーリニコフ。本作の主人公の名前です、長いでしょう。でも読み終わるころにはすっかり覚えますよ。長い長い本作の中で幾度となく呼ばれるので。

『サンドイッチクラブ』長江 優子


・女子小学生ふたりの「砂」にまつわるひと夏の話。
・砂で作った像、砂像を作るお話。地盤が弱く、すぐに崩れてしまう砂像。小学生の未発達なアイデンティティの脆弱さのメタファーになっていると感じた。
・Youtuberキッズがいるのが今風である。

『六人の赤ずきんは今夜食べられる』氷桃 甘雪


・か弱い少女がバケモノみたいな狼に文字通り食べられちゃうぞ!助けよう!「子供を守るのは大人の使命」という原始的欲求に訴えかけるシチュエーション。
・いわゆる「家の中のモンスター」のパターン。廃墟の塔に立てこもり、狼の侵入を防ぐべくあらゆる手を尽くす。それでも防御をコジ開けて入ってくるのがモンスターなんだけどね。
・か弱いけど異能力を持った6人の少女の力を駆使して狼に立ち向かう。異能力は「紅茶をかけた物体を透明にする」「物の匂いを消す」など、いたって地味なものばかり。果たしてこれでバケモノに勝てるのか!?

『夏へのトンネル、さよならの憧憬』八目 迷


・SF(すこしふしぎ)な青春異性愛ラノベ。
・「中で1秒過ごすごとに外の世界では20分が過ぎている」という、「精神と時の部屋」の逆バージョンみたいなトンネルを偶然見つけたことから物語が始まる。
・メインテーマは主人公とヒロインの男女恋愛だけど、ふたりが持っている同性の親友との関係性もしっかり練られていてよかった。

『狼と香辛料』1~4巻 支倉 凍砂


・往年の男女ラノベ。
・商人の主人公と、めちゃくちゃ強い獣人のヒロインのコンビ。商人なのでバトル物のラノベみたいにヒロインのパワーで物事を解決するわけにはいかず、毎回知恵を絞って問題の解決にあたる。
・硬派なストーリーだけど、定期的に差し込まれるヒロイン萌えシーンでオタクの心をガッチリ掴んでくる感じ。

『贖罪』湊 かなえ


・呪いの言葉の話。言ったほうはその場の勢いで感情的に言っただけでも、言われたほうはいつまでも覚えている言葉ってあるよね。
・幼い頃に友人を殺された女性たち。その友人の母親からぶつけられたとある言葉が彼女たちの心に残り続けて、大人になってから次々と悲劇を呼ぶ。

『ミステリーの書き方』日本推理作家協会 編著


・ミステリー小説を書くうえでの心掛け、役立つテクニック、気を付けるべき点を現役作家の皆さんが分かりやすくまとめてくれる名著。ミステリーのみならず、小説全般を書くうえでも大いに役立つ一冊。
・「エネルギーは創作に吐き出せ、ネットに使うな、限りあるエネルギーを無駄遣いするな。」というくだりが特に印象に残った。
・「小説家に必要なものは?」という問いに対して複数の作家が「うぬぼれ」と答えていたのも心に残った。「私は未来の文豪」ぐらいの心持ちでいくべきかもしれない。

『島はぼくらと』辻村 深月


・瀬戸内海の島が舞台の、地方コミュニティの良いところが詰まった作品。最近の小説では田舎が出てくると閉鎖的コミュニティの問題点が多く取り上げられることが多いので、良いところがクローズアップされるのはいまどき逆に新鮮である。
・島の男性たちは「兄弟」として絆を結ぶ。一方、女性たちは「夫の”兄弟”の妻同士」として繋がる。ホモソーシャルの付随物としてしか繋がれない女性同士の絆の問題点は作中でもしっかり指摘される。こうした男性中心のコミュニティは果たして変わることができるのか。

『みんな知ってる、みんな知らない』チョン・ミジン(著),カン・バンファ (翻訳)


・誘拐事件の被害者のその後のお話。
・誘拐事件の被害者女性にデジタルタトゥーが刻まれて就職などでデメリットを負う展開は小説においてよくある。しかし本作はむしろ、時間が経ったことでみんなが事件のことを忘れてしまうことがテーマとして挙げられる。どれだけ大きな事件でも、20年も経てば忘れちゃうよね。名前が出されれば「ああ、そんなことがあったね」ぐらいの存在感になる。当事者にとってはどれだけ時が経っても忘れられないことであっても。

『路地裏に怪物はもういない』今慈 ムジナ


・『化物語』『空の境界』など、平成のオタクコンテンツで見たことのある要素をオマージュとして詰め込んだゼイタクな作品。「平成最後の夏」が舞台なのも、平成ノスタルジーをやるうえでうってつけ。

☆おすすめ!『裏世界ピクニック』宮澤 伊織



・女子大生が「くねくね」と戦う話。すでに読んでいたけどAudibleで再読。
・ネットロア(インターネット上で語り継がれる怪談)に登場する怪異をテーマにした、人気百合小説です。女同士の関係性が作りこまれていて非常に熱く、先の読めない展開も魅力的。身の毛もよだつような怪異の描写が凄まじいのも特徴のひとつ。どうやったらこんなハイレベルな文章力を身に着けられるんだろう。
・ネタバレですが、主人公とヒロインは最新刊で恋人同士になって百合セックスします。

『キミとは致命的なズレがある』赤月 カケヤ


・学園物ラノベと見せかけたサイコサスペンス。男女物。
・「ッス」語尾のヒロインが可愛い。
・本物の狂気とは何かを教えてくれる一作。奇をてらったフリをしたり、意図的におかしな言動を取るのはファッション狂気であると。
・人畜無害かと思っていたキャラが実はマジでヤバイ奴だった、という設定が好きな人にマジオススメ。
・ホモフォビックな描写があるのは残念。

『本を守ろうとする猫の話』夏川 草介


・本の消費のされ方を問う作品。
・難しい本をたくさん読んでいると自慢できる、読書量をステータスとする価値観。タイパ至上主義で「とにかく時間を掛けずに本の内容を知りたい!」という風潮。拝金主義に染まった出版社。本好きなら少なからず身につまされる問題が、本好きの主人公の前に立ちはだかる。
・読書量自慢の男、本を切り刻んで文章を短縮した、言うなれば「ファスト本」を作る男、本を金儲けの道具としか考えていない男。一介の本好きの主人公が、彼らと対峙する話。
・面白いのは、これら読書をとりまく問題について「前フリ」が一切ないこと。たとえばファスト本の話をする前には「最近は厚い本は売れないんだよなあ、短い本の本が求められてるのかなあ」と通りがかりの書店員に愚痴をこぼさせるなどして、読者に本のタイパ問題を共通認識として植えつける必要があるはず。本来は。でも本作にはそのような前フリパートは一切なく、いきなり本題に入る。これは読者がある程度の本好きであり、本をとりまく諸問題を共通認識としてすでに持っていることを前提にしているのだと思う。読者を信頼していないとできない荒業である。こういう「読者がすでに知っている説明は省略する」は作品をスリムにするうえで有効だと思う。

『ハンチバック』市川 沙央


・重度障害者が見る性の世界。
・背骨が先天的に曲がっており、背骨で肺が潰されているため人工呼吸器を必要とする重度の身体障害者が主人公の芥川賞受賞作。作者自身も重度の身体障害者です。
・「私は紙の本を憎んでいた。目が見えること、本が持てること、ページがめくれること、読書姿勢が保てること、書店へ自由に買いに行けること、――5つの健常性を満たすことを要求する読書文化のマチズモを憎んでいた。その特権性に気づかない『本好き』たちの無知な傲慢さを憎んでいた」
 「紙の匂いが、ページをめくる感触が、左手の中で減っていく残ページの緊張感が、などと文化的な香りのする言い回しを燻らせていれば済む健常者は呑気でいい」
 本文より抜粋。無邪気に紙の本を持ち上げて電子書籍を下に見ている人は、5分でいいから自分の特権性と向き合ってみてほしい。
・主人公は障害により出産が出来ない体だが、妊娠までならできる。妊娠→堕胎という「世の中の女性たちがよくやっていること」をすれば、自分も性の世界に参加できるのではないか。そう思い、施設の男性職員に声を掛ける・・・、というあらすじ。あこがれがあるけど身体的理由から参加できない性の世界への憧れが主人公を動かす動機となっている。こわ。

『あなたはあなたが使っている言葉でできている』ゲイリー・ジョンビショップ


・自己啓発本。
・成功する人は、待たない。やる気が出るのを待たない。ふさわしい時が来るのを待たない。神なんて降りてこない、インスピレーションが湧いて出るのを待ってなんかいられない。とにかく行動あるべし。
・やらない理由より、やる理由を見つけろ。本気で夢を望み、必要な行動を取りさえすれば、もう誰もあなたを止められない。先が見えない状況を楽しめ。確実なことなんて何一つないから。一歩を踏み出して、白い目で見られようじゃないか。
・がむしゃらになれ。ただしそれはレンガの壁を素手で叩くような無謀なものじゃなくて、ハンマーとノミで慎重に崩していく。ちゃんと方法を選んだ上で、ひたすらに前へ進む。
 ・・・といった風に、やる気を奮い立たせる感じの文章が詰まった一冊。

『推し、燃ゆ』宇佐見 りん


・生活のリソースを注ぎ込んでいた推しの男性アイドルが、ファンを殴って炎上した。そうした絶望的な事件を発端に生活が崩れ落ちていく少女の話。
・推しに金と時間を注ぎ込むことによる自己陶酔でアイデンティティを確立する。それはひどく不健全で、推しがいなくなったらあえなく瓦解する砂上の楼閣。本作を「推し活の本」と評する人が多いけれど、むしろ推し活を批判的に捉える作品だと思う。

『むらさきスカートの女』今村 夏子


・ある意味、ヒロイン観察系の作品。
・主人公がむらさきスカートの女を観察する形で終始物語が進む。最初は近所を散歩するだけの毎日だったむらさきスカートの女が就職して、男を作って、そのあともいろいろあって。それらの様子を第三者の目線からつぶさに描写する異色の作品。もし主人公が男だったら気持ち悪すぎて読めなかったぞ。いや、同性でもストーカーはダメだけど。
・主人公の存在感がほとんど無いことも特徴のひとつ。終盤までは主人公に関する描写がほぼ皆無。透明人間かと思うほどに。むらさきスカートの女を観察するために気配を消している様子を表現しているんだと思う。

『シュレディンガーの猫探し』小林 一星


・「事件を迷宮入りさせる」ことが目的の、異色のミステリラノベ。
・いわゆるアンチ・ミステリ。ミステリの文脈に意図的に逆らう作品を指す。アンチ・ミステリは最低限ミステリとしての土台が整っていないと大事故になりかねないジャンルだけど、本作はそのあたりはしっかりしている。事件解決まであと一歩というところで証拠を捏造するなどして探偵の捜査を妨害。事件は晴れて迷宮入り。
・事件が解決しないとエンタテインメントとして欠陥品になりかねないが、本作はオチもしっかり用意しているので読後の消化不良感は無い。

『鹿の王』1巻,2巻 上橋 菜穂子


・ファンタジー世界で疫病と戦う、第4回日本医療小説大賞作。
・治癒魔法などの便利なシロモノは一切なく、ワクチンなどの近代医療を用いる。舞台となる国では迷信が根強いため医療を広めるのも一苦労。「貴人は疫病に感染しない」「獣の乳を飲んでいる身分だけが罹る病だ」「なぜ毒素(ワクチン)をわざわざ体に入れるのか」など、ガッチガチの固定観念をイチから崩していかなければならない。その過程が面白い。
・免疫という概念が無い人にワクチンを教える時に「あなたの体の中に外敵と戦う兵士がいる。そいつらに敵の顔を覚えさせて、いざ本当に敵が来た時にすぐ戦えるよう訓練をする」と説明していたのがめちゃくちゃ分かりやすかった・・・。

『砂糖の世界史』川北 稔


・新書。砂糖という存在が歴史的にどのような位置づけをされていたかを、ものすごく分かりやすく解説してくれる一冊です。
・砂糖はかつては富と権力の象徴とされた。白く清らかで、そのうえ甘く、そして高い。単なる調味料を超えた神聖さが人々のあいだで見いだされてきた。
・イギリスにおける「アフタヌーンティー」と「ティーブレイク」。「紅茶を飲む」という行為は同じだが、その意味はまったく異なる。「アフタヌーンティー」は紳士淑女の社交の場だが、「ティーブレイク」は労働者が仕事の合間に砂糖を入れた紅茶で糖分とカフェインを補給して、もうひと仕事がんばるための気合いを入れる風習である、と本書では論じられる。今でいうところのエナジードリンクに近いと思った。
・砂糖は二つのシンボル的側面を持つ。上流階級のたしなみであると同時に、労働者の生活必需品でもあった。
・砂糖あるところに奴隷あり。アフリカで奴隷狩りをしてカリブ海に売り、そこでサトウキビプランテーションをさせる。そうして作った砂糖をヨーロッパに売る。悪名高き三角貿易。
・「東の果て」のアジアの紅茶葉と、「西の果て」のカリブの砂糖。これらを合わせた砂糖入り紅茶を、イギリス人は安価に飲める。これこそが大英帝国の力の証である、とされた。

『真夜中の底で君を待つ』汐見 夏衛


・しっとりとした男女物小説。
・自己肯定感よわよわだけど周囲からの評価は高い主人公ちゃん。見てくれている人はしっかり見てくれているんだよな・・・
・会話中に難しい言葉が出てくると「現代文の授業で聞いた」と思うのが本を読まない高校生っぽい。
・母に捨てられた主人公ちゃんと、小説を書けない小説家くずれの男。欠けた者同士が出会う、優しさに満ちたお話。

『爆弾犯と殺人犯の物語』久保 りこ


・異性愛恋愛×ミステリ。
・社会性のあるサイコパスが主人公。自分を出す衝動を抑えることで社会に埋没できている。
・文章の途中に散りばめられた伏線を物語の後半で丁寧に拾い集めて、真実という一枚の絵を編み上げる。読んでいて少しでも気になったことは覚えておくと、のちのちオドロキに変わる。

『さよならの向う側』清水 晴木


・亡くなった人が条件付きで蘇る系の作品。死人が蘇ったり死人ともう一度会えたりする作品は多いけど、どれも条件が付けられていてしかも厳しい。まあ、そう簡単に死人が蘇っても困るし。
・ルールは「亡くなった人が現世に蘇って、最後にもう一度会いたい人に会える。ただしその相手は『自分が死んだことをまだ知らない人』だけ。自分が死んでいることを知っている人に会ったら自分は即座に消滅する。制限時間は24時間」。さあ、あなたなら誰に会う?
・夫と幼い息子を遺した女性、老親を遺した放蕩息子、相棒を遺したシンガー。そして、妻を遺した男。彼ら彼女らが最後に会いたい人に会いに行く話。
・作中で何度もマックスコーヒーが出てくる。千葉が舞台なのでさもありなん。現実にあるアイテムを一つだけ登場させると、そのアイテムを見た時に作品を思い出してもらえて印象付けに一役買うかも。本作みたいに実際の土地が舞台ならご当地アイテムでも良し。

『コーヒーが冷めないうちに』川口 俊和


・「コーヒーが冷めるまでの時間、会いたい人に逢える」という特殊設定の感動系。会いたい人に会うのっていろいろ条件があって大変ですね。
・正確には「コーヒーが冷めるまでのあいだ、過去でも未来でも好きな時間にタイムスリップできる。ただし舞台となる喫茶店の席から動いてはならず、会いたい人がその時間に喫茶店に訪れていなければならない」と、条件がやや複雑。それでも、本作には誰かに会いたい人がいる。
・心臓に疾患を抱えている妊娠中の女性が「出産すれば心臓への負担で自分は死ぬ」という事実を知った時、躊躇ったり迷う描写が一切ないまま出産を選んだのはマジで「なんで?」と思った。死ぬんだよ?自分の命だよ?もうちょっとこう大切にしない?迷わず出産を選ぶのがなんというか、「子供を残すのは女性の使命」みたいな価値観が透けて見えてしまう。

『営繕かるかや怪異譚』小野 不由美


・解決型ホラー。
・家に”なにか”がいる。親戚から引き継いだ古い民家の開かずの間。その闇の中に、なにかがいる。夜な夜な何かを引っかくような異音がして、主人公は次第に精神を追い詰められていく。そしてついにある日、闇の中からこちらを覗きこむ青白い顔を見て————
 ホラーならここで終わってイヤな後味を残すところだけれど、本作はここからが本番。怪異専門のリフォーム業者の男が現れ、なぜ怪異が暴れているのかを調査する。そうして原因が家の構造にあることを突き止め、怪異が過ごしやすいように手を加える。そうして怪異は住民への攻撃をやめて、住人も怪異と共存する同居生活を選ぶ。なんということでしょう。匠の手により、ホラーがほっこり話になってしまったではありませんか。

『蜘蛛ですが、なにか?』1巻,2巻 馬場 翁


・「小説家になろう」発のラノベ。女子高生だった主人公はファンタジー世界で最弱ザコキャラの小さな蜘蛛に転生して、敵と戦ったり逃げたりしながらレベルアップを重ね、徐々に成長していく。読んでいてRPGのゲーム実況動画を見ているような気分になる。
・小説家になろう名物「ステータス画面」がある。Audibleで聴いているので、普段なら0.5秒で読み飛ばすような延々たる数値の羅列を4,5分掛けて丁寧に朗読されます。
・異世界転生モノだけどいわゆるチート無双とは対極に位置する、最弱の状態から徐々に成長していく大器晩成型の構成となっている。「どうでもいいから最強主人公がとっととムカつく奴をブッ飛ばしてくれねぇかな~」という人には向いていません。
・2巻からは「神言教(しんごんきょう)」という宗教組織が登場する。フィクション作品で宗教に「しんごん」と名付けるのは、わりとギリギリではないかな。似たような名前の宗派が無いか調べたりしなかったのかしら。

『犬がいた季節』伊吹 有喜


・犬が死ぬ予感しかしないタイトル。ネタバレするけど、死にます。ただし悪い最期ではない。
・恋愛、友情、家族。さまざまな関係性と向き合う18歳の少年少女たちを、学校で飼われている犬が見守る話。
・三重県四日市が舞台。ご当地ネタが豊富なので住民にとっては親しみ深く感じるでしょう。自転車で隣の鈴鹿サーキットまで行く話とか、いろいろあり。

『帝都地下迷宮』中山 七里


・廃駅オタクの主人公が東京の地下で謎の集団と出会う話。
・物語の中で主人公は集団と打ち解け、やがて協力して共闘するアツい展開となる。本来なら縁もゆかりもない謎の集団に協力する義理は無いはずなのだが、主人公が「上司の水際作戦圧力に抗いながら、なんとか申請者に生活保護が下りるよう尽力する区役所の生活保護担当職員」なので説得力がある。要するに、誰かのために本気で頑張れる人なんです。
・生活保護、廃駅オタク、原子力事故。よくこの三つを繋げようと思ったな。お題メーカーでもこんな組み合わせは出ないぞ。
・「やらない善よりやる偽善」がテーマ。でも、一番いいのは「やる善」だと思います。

『川のほとりに立つ者は』寺地 はるな


・ADHD、ディスレクシア(読み書き困難の障害)など「他人からは分かりづらいハンデ」がテーマの作品。
・字が汚い、落ち着きが無い。そういう人を「ちゃんとしていない」と思うのは簡単だ。でも、本人はものすごくがんばって書いているかもしれない。ものすごくがんばって、自分の体の動きを抑えているのかもしれない。そうした想像力を私たちにそっと持たせてくれる名作です。
・発達障害者の人などは「努力しろ」とよく言われる。だけど、ふつう目が悪くなったら眼鏡を掛ける。「努力して視力を上げろ」とは言われない。どうして努力しないといけないのか。他の人はしなくてもいい努力を。
・いや、ほんと、発達障害者の端くれとして言うけれど「なんでこのくらいのことができないの」が、できないんですよ。

『恋する寄生虫』三秋 縋


・ふしぎな寄生虫に囚われた異性愛恋愛小説。
・作中でツッコミが入るものの、27歳男性と女子高生の恋愛は正直言ってキモいぞ(ストレート)
・中盤は寄生虫に関する説明が多くてダレるが、後半は二転三転する展開に振り回されて心地良い。ラストシーンの情景描写が本当に美しくて、これを描くために本作を書いたんじゃないかとすら思う。

『死にたくなったら電話して』李 龍徳


・生にくたびれ、死に惹かれた男と女の話。
・あるキャラクターが無性愛者であることを別のキャラが主人公にバラすシーンがある。それはいわゆるアウティングというやつでは。しかもアウティング行為に対する作中での批判は一切なし。いや、それはアカンでしょ。
・「心中」という概念に対して「落ち着く感じ、頼もしさ」を感じるという主人公。まったく共感できないのは、私が希死念慮とは無縁であるという特権の持ち主だからだと思う。
・おそらく、「死は救済である」という話。闇属性に全振りした小説が読みたいならオススメ。

『ガラスの海を渡る舟』寺地 はるな


・ガラス吹き職人の兄妹の話。
・発達障害者の兄と定型発達の妹。妹は発達障害にあまり理解がなく、しょっちゅう兄にイライラしたりする。主人公が障害などに理解が無いのはむしろ新鮮かもしれない。なんか、主人公はそういうのに理解のある人が多いので。
・発達障害者で職人だけど、天才ではなく技術力は普通に作品を作れる程度。発達障害者で職人のキャラクターなら安易に「天才」として描きそうなものなので、むしろ新鮮である。
・「発達障害者には才能がある」という風潮に異を唱える作品。「障害があるなら必ず才能もあるはず。それこそが差別と違うんか」(本文より)。いわゆる「褒める差別」というやつ。「黒人は足が速くて凄いね」みたいな感じ。他の人種と同じように黒人の中には足の遅い人もいるし、これといった才能のない発達障害者もいる。いまこれを書いている発達障害者の私自身もそうであるように。
・発達障害者をフィクション作品に登場させる場合、「天才」として画一的に描くのも一つの差別と言える。かといって「家を出る→忘れ物に気付く→一旦帰ってまた出る→また忘れ物に気付く→エンドレス」みたいな発達障害あるあるを余すことなく描いたらコントとして笑い者にされてしまう。難しいね。本作みたいな塩梅が丁度いいと思う。

『けいどろ』荒木 源


・男性同士の恋愛感情を伴わない強い繋がりの作品。いわゆるブロマンスというやつ。
・よくある警察小説かと思って読んだら、男→男の激重感情を食らって心地いい。
・ムショ帰りで元泥棒のおじさんが、自分を逮捕した元刑事のじいさんに「自分が年老いてみっともなくなる前に殺してくれ」と言われる。そこから、おじさんとじいさんの不思議な絆が始まる。
・「そこまでする!?」という展開の連続。元泥棒のスキルを活かしてじいさんの家に忍び込んだり、他にも就職先を変えてまでじいさんの近くにいようとする。クソデカ感情が無いとできないやつだよ。
・老人介護の現場~ブロマンスを添えて~

『夏の終わりとリセット彼女』境田 吉孝


・「いちおう付き合ってる」状態だった彼女が記憶喪失になって、イチからヨリを戻す異性愛ラノベ。
・「正義の人」というかぐわしきワードが当然のように出てきて「おおぅ・・・」となったけれど、正義を腐すような論調の作品ではなかったのでひとまず安心した。むしろ「正しさの行使することで救われる人は確かにいる」というくだりもあった。
・「一人でいることは悲しいことだから」という台詞があるように、人は独りでは幸せになれない、という価値観に基づく作品。でも孤独もいいものだよ。ラブコメラノベに言っても無駄だろうけど。

『嘘と正典』小川 哲


・奇術、競馬、ショートショート風、架空民俗学、歴史、歴史IF。バラエティに富んだ短編集。
・表題作『嘘と正典』がシュタゲ×反共といった仕上がりで新鮮の極み。なお作品の方向性自体は反共ではなく、主人公のCIA職員が「共産主義さえなかったら世界はもっと平和だった」という考えの持ち主なだけ。時代は冷戦。ソ連との諜報合戦に明け暮れるCIA職員が、とあるきっかけから過去に電信を飛ばす方法を発見する。彼はこれを利用して、マルクスとエンゲルスの接触の阻止を試みて共産主義の消滅を目論む。歴史の改ざんの先に待つ未来とは、果たして・・・?

☆おすすめ!『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』3巻




・人気百合SFの最新刊が出ました。1万年後の遠い未来なのに、宇宙のド田舎が舞台なおかげでジェンダー観がむしろ逆行して「女は男とくっついて子供を作るのがアタリマエ」になってしまった。そんな社会ではガス惑星を遊泳する宇宙の魚を取る漁がさかんに行なわれいる。そして漁は必ず男女のペアでなくてはならない。なぜか。漁は「お見合い」の意味を兼ねており、社会の円滑な発展のために必要だから。主人公の女性もそんな社会でお見合い漁を続けているが、お相手の男性は未だ見つからず。そんなある日、一人の少女が主人公の前に現れて、こう要求する。女同士でペアになって、一緒に漁をしてほしいと。女性カップルが家父長制社会に殴り込みをかける爽快な作品です。
・「未来が舞台なのに作者が不勉強なおかげで作中のジェンダー観が進歩していない」というSFあるあるを逆手に取ったような、意図的にジェンダー観が遅れているよう描いた世界観が皮肉たっぷりで痛快である。
・最新刊の3巻はそんな宇宙のド田舎から離れて、広い宇宙の各所を日雇いの宇宙船のドライバーとして転々とする。百合カップル宇宙日雇い駆け落ち記。そんな作品は後にも先にも本作だけでしょうね。
・家父長制社会から抜け出しても安心はできず、主人公たちは宇宙のド田舎出身というマイノリティ属性として生きることになる。故郷でもマイノリティ、抜け出してもマイノリティ。なんとなく、同性愛差別が根強い母国から抜け出した同性愛者の非白人が欧米に移住したら、今度は人種的マイノリティとして不条理を負わされるような、現代にも重なる構図だなと。

『プリズンホテル 1 夏』浅田 次郎


・ヤクザだらけのホテルに泊まる話。
・女連れで泊まるクズ作家、何も知らずに泊まった老夫婦、一家心中するつもりで山奥を彷徨って迷い込んだ一家。多種多様な登場人物が物騒な夜を彩る。
・クズ作家が本当に笑えないほどクズ。息をするように女性を殴る。それもガラス製の灰皿で。人によってはフラバに注意するレベルです。
・老夫婦のほうも、夫が亭主関白の極みで横柄なのがイライラしたな~。妻はそんな夫に愛想を尽かしていたけれど、結果的になんだかんだで惚れ直すというオチ。男に都合の良い物語だなと思ってしまう。男性作家の作品だから無理もないのかもしれないけれど。ホテルのヤクザたちのほうがよっぽど紳士的に見える。

『ふあゆ』今慈 ムジナ


・怪異が渋滞している男女ラノベ。
・主人公は「相貌誤認症」という架空の病を患っている。症状は、他人の顔がヒト以外のモノに見えること。主人公の祖父は犬、同じ学校の女子は貝殻、といったふうに。
・その一方で、町ではハシビロコウの頭をした怪異が殺人を繰り返していた。主人公の病気だけでも十分すぎるほど奇々怪々なのに、さらに怪異を足したおかげでカオスさが増している。一つの作品につき怪異は一種類までにしてほしいぜ。
・ヒトが動物やモノに見える病気、人々の噂を媒介して広まる怪異、怪異に対処する警視庁の対策係、そして観測者なる存在。設定が多すぎて読者たる私の頭が追いつかなかった。設定の足し算ばかりで掛け算と引き算ができていない。設定同士の相乗効果で面白さが倍増することもなければ、余分な設定をそぎ落としてもいない。端的に言うと、盛りすぎ。

『方舟』夕木 春央


・死んでもいい人を決める話。
・ある地下施設に閉じ込められた主人公たち。脱出するには誰か一人が犠牲にならなければならない。そんな時に殺人事件が発生。犯人を犠牲にして俺たちは助かろう。さあ、犯人捜しのはじまりはじまり。
・クローズドサークルのミステリ。息が詰まるような閉塞感と、最悪の後味を噛みしめたい人にオススメ。

『爆弾』呉 勝浩


・VS「無敵の人」in 取調室。
・50手前で金無し職無し肥満体型の男性キャラが「無敵の人」と表現される。最近の小説はネット用語が当然のように使われるのね。00年代まではネット用語を現実で使ったら白い目で見られただろうけど、だんだんネットと現実の境界が曖昧になってる気がする。
・主人公は警察関係者。爆弾テロを予言する謎の男と取調室で対峙するシーンを中心に物語が進む。会話シーンはテンポが良く、刻一刻と迫りくる爆破予告の時間を前に、目の前の男から情報を引きずり出さなければならない緊張感と相まって手に汗握る読書体験を味わえる。

『何者』朝井 リョウ


・就活を舞台にした、青春の終わりの青春小説。
・「就活意識高い系」をバカにする風潮を批判的に捉える作品。何者かになろうとしている人を見下している、そういうお前はいったいぜんたい何者なのだ。

『告白』湊 かなえ


・デビュー作がコレってマジですか、バケモンの新人が現れたって選考委員は思ったでしょ。というレベルの完成度が高い作品。私はデビュー作ということを知らないで読んだので、てっきり何作も書いてベテランになってからの作品かと思った。
・中学教師の女性の娘が不幸な「事故」で死亡した。その年の最後のホームルーム、教師が真実を独白し、物語が始まる。
・真実が次々と連鎖していく構成が完成度高い。連作短編となっており、前の話で登場した謎の真実が次の話で明かされていく。だけどその真実も次の話で引っくり返されたりするので、何が本当の真実なのか読み終えるまで分からないハラハラ感がすごい。

『教場』長岡 弘樹


・警察学校を舞台とした短編集。
・警察学校の日常を細やかに描いているので勉強になる。そして日常だけじゃなく事件もしっかり起きるのでしっかりエンタメしている。
・体罰が当然のように行われていて「警察学校だから仕方ないか」みたいな感じで片付けられている。いや、体罰を正当化できる教育機関なんて無いからね!?

『最後の証人』柚月 裕子


・復讐劇を弁護する弁護士の裁判小説。
・起承転結ならぬ、起転承転転転結ぐらいのエキセントリックな構成。前半は事件の概要や裁判の進行がオーソドックスに進むけど、後半になって怒涛の展開を畳みかけてくる。そうそう、こういうのがいいのよ。
・「人間関係でいちばん強い絆は”同志”」という台詞が印象的。同じ目的を持った者の繋がりは強い。

『花束は毒』織守 きょうや


・結婚を間近に控えたカップルのもとに「結婚するな」という脅迫の手紙が届く。その目的は、真意はいかに。
・起承承承承承承承承承承転結ぐらいの構成。どんでん返しが起こるまでが長い。長編小説はたくさんの小さなエピソードの集合体と言われるけど、本作は長い長い一つのエピソードが続く感じ。小説でダレやすい人にはオススメできないかも。
・誰かに話を聞きに行く時に、その人がいる建物を訪れるシーンから始めるので前フリが長く感じる。その人と向かい合って「聞きたいことがあるのですが」と本題に入るシーンからいきなり始めてもいいと思うよ。

☆おすすめ!『勇者になりたい少女(ボク)と、勇者になるべき彼女(キミ)』いのり。



・アニメ化された『私の推しは悪役令嬢。』作者さんの新作GLラノベ!
・主人公の女の子(ボクっ子)がナチュラルに女の子が好きなのがいいですね。ヒロインに事あるごとにアタックして、そのたびに断られるけれど断り方にホモフォビックな感じはほとんど無いのが嬉しい。そしてヒロインのほうも、だんだんと主人公を意識しはじめて・・・?
・勇者に「なりたい」主人公と、勇者に「なるべき」ヒロイン。主人公は勇者に憧れていて心からなりたいと思っている。一方、ヒロインは伝説の勇者の娘なので自分も勇者にならなくてはならないプレッシャーを抱えている。目指していて楽しい「なりたい」、目指すのが辛い「なるべき」。この対比が彼女たちの関係性にも大きく関わってきて、非常にエモいのよ。
・百合キスもあるよ!安定のガールズラブ活劇、末永く続いてほしい。

『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』小野寺 拓也/田野 大輔 


・ネットで佃煮にするほど目にする「ナチスは良いこともした」論。曰く、ナチスは高速道路を作るなど画期的な政策をした。優れた社会保障を行なった。ヒトラーは山荘で近くに住む少女と交流するなど優しい心があった。でも、それってホントかな?
・ナチスの政策はほとんどが前政権からの引継ぎであり、ナチスのオリジナルではない。社会保障からはユダヤ人や障害者が除外されており、それが優れた社会保障などと言えるはずがない。ヒトラーと少女の写真はナチ党のプロパガンダとして有名なものであり、これに引っかかっている人は約90年前の喧伝に騙されていることになる。
・そしてナチスが「良いこと」をしたからといって、戦争やホロコーストが無謬化されるはずがない。

『屍人荘の殺人』今村 昌弘


・ゾンビパニックの真っ最中に密室殺人が起こる話。外にはゾンビ、中には殺人犯。さあどうする、探偵。
・ミステリあるあるで登場人物が多い。だけど人物名の簡単な覚え方を作中で教えてくれるのがありがたい。「名張 純江=ナーバスな性格の子」「七宮 兼光=親の七光りのボンボン」など。
・ゾンビ×密室殺人というキャッチーな謳い文句に頼らず、内容もしっかりミステリしている。ゾンビという特性を活かしたトリックが新鮮の極み。

『ヘヴン』川上 未映子


・いじめ描写が陰湿でそのうえ長いので、読んでいてあまり気持ちのいい作品ではなかった。
・いじめっ子をこらしめるカタルシスも無く、ただ主人公がいじめっ子たちから距離を取る形で物語が終わる。リアルと言えばリアルだけど、フィクション作品なんだからやっぱりスカッとしたいぜ。

『精霊の守り人』1巻 上橋 菜穂子


・ファンタジー小説。ヨーロッパではなくアジア風の土地が舞台のファンタジーってあまり読んだことが無いから新鮮に感じる。
・凄腕傭兵の中年女性が主人公なのは嬉しい。活劇系の作品で中年以上の女性が主人公ってほとんど無いよね。
・ファンタジー小説は土地や概念の固有名詞がいっぱい出てくるので、いかに読者に覚えさせるかが大変そう。何回も名前を出すと説明っぽくなってクドくなるし、かといってあまり出さないと「いま主人公がいる町の名前ってなんだっけ?」「そもそも主人公の名前ってなんだっけ?」となる。本作はそのあたりの調節が絶妙である。

『君はヒト、僕は死者。世界はときどきひっくり返る』零真似


・死者の世界と生者の世界、ふたつの世界を舞台に駆け巡る異性愛ラノベ。
・開幕早々ラッキースケベがあって早くも置いてけぼりを食らった。女の子が本気で嫌がってるのをコメディチックに描いている。そういうのはちょっと。
・地上に広がる死者の国「地国(じこく)」と空に浮かぶ生者の国「天獄(てんごく)」。パックリ二つに分かれて対比の関係にある世界観が分かりやすい。
・地国で暮らす死者の主人公のもとに、天獄から生者の女の子が降ってくる。地国と天獄の重力はときどき逆転して、こういうふうに人が落ちてくることがある。地国の死者は生者が近くにいるとゾンビと化して襲いかかり、ヒロインは何度も食われそうになったり。次の重力逆転までの日々を、主人公はヒロインを守りながら過ごすことになったとさ。

『アンデッドガール・マーダーファルス』青崎 有吾


・特殊設定ミステリというやつでしょうか。殺人事件に吸血鬼やフランケンシュタインの怪物が当事者として絡んでくる、世にも不思議な謎解き捕物帳。ノックスの十戒に抵触しそうな設定だけど、怪異の存在がスーパーパワーで殺人を起こすような超展開ではなく、むしろ吸血鬼の「銀にさわれない」などの怪異ならではの制約を活かした展開となっている。
・物語の基本的な進行は一般的なミステリと同じく、事件が起こった現場に探偵役が駆けつけ、関係者から事情とアリバイを聞き出し、証拠を集めて真実に近づいていく。ただ二点、他のミステリと一線を画す要素がある。事件の根幹に怪異が絡んでいることと、事件のクライマックスにバトルシーンがあること。この二つが本作のエンタテインメント性をより高めている。それが功を奏してか、アニメ化もされた。

『ずっとお城で暮らしてる』シャーリイ・ジャクスン (著) 市田 泉 (翻訳)


・社会性の無い女が社会性が無いまま幸せに生きていくお話。
・主人公は18歳の女性。「月に行けたら」「ペガサスにのって飛んでいけたら」などの空想に毎日耽る、18歳の女性。18でそれは痛いって? いいじゃないの。
・主人公の姉は、そんな主人公を肯定してくれていた。夢みる少女のままでいいと。でもそれも束の間、主人公が暮らしている邸宅に従兄がやってきてから、主人公の姉は「まとも」になってしまった。主人公に「ボーイフレンドでも作ったら」と、世間に染まってしまったことを言うようになる。
・だけどその姉も、物語終盤で起きるある事件をきっかけに再び主人公のことを肯定してくれるようになる。従兄は無様に逃げ帰りましたとさ。
・社会性の無い女性キャラが好きな人にマジオススメの一作。

『一等星の恋』中澤 日菜子


・「恋と天体」をテーマにした異性愛短編集。どの話にも「星」が登場する。天体撮影が趣味の青年の話から、星球という舞台照明を使う劇団の脚本家というややこじつけ感のある星まで、いろんな恋と星を楽しめる一冊。

☆おすすめ!『性悪天才幼馴染との勝負に負けて初体験を全部奪われる話』犬甘 あんず



・百合キスがこれでもかとある百合ラノベ。
・天才で顔が良くて本性が最悪な幼馴染(女)に幾度となく勝負を挑んでは負けて尊厳を奪われて受け受けしい様を晒すことになる主人公(女)。そんなふたりの苦くて甘い日常が繊細なタッチで描かれる。
・絶対に負けたくない女に絶対に負ける女の話。巨大感情と執着、そういった女性同士の関係性が好きな人にはぜひ読んでほしい。
・まっすぐ歪んでいる、と言うべき二人の関係性はどこへ向かうのか。続巻も楽しみです。

『震える牛』相場 英雄


・外食チェーンの闇を暴露する社会派小説。
・外食チェーンのやっすいハンバーグを「ぞうきん」と表すくだりがマジでエグい。もう外でハンバーグ食えない。万世とかの味相応の値段のやつしか食えない。これほど食欲を無くす言葉選びもないと思う。老廃牛のクズ肉、内臓、血液などを混ぜ合わせて大量の添加物を入れて作ったからそう呼ばれているらしい。これはあくまでフィクションの話だけど、食肉加工の現場は程度の差はあれ似たようなものかも。

『魔女と猟犬』1巻 カミツキレイニー


・魔法大国と戦うために魔女を集める話。
・主人公のアサシンの青年が母国のために大陸各地に散らばる魔女と接触して仲間を増やしていく話、らしいです。1巻しか読んでないのでまだ1人だけど。
・この世界において圧倒的な力を持つ魔法。それを使える魔術師を大国が独占しており、主人公たちの小国を脅かしている世界情勢を打開するために、魔女を集めはじめる。
・軽快にテンポ良く進むストーリーと濃いキャラクターでラノベ感高めだけど、1巻を読んだところ無駄なお色気要素やラッキースケベといった「ラノベの悪いところ」は出ていないので、ラノベは好きだけどそういうのは苦手な人にはオススメ。ただし女性キャラへのレイプ未遂シーンがあるので注意。

『たとえば、葡萄』大島 真寿美


・2020年に無職になった女性の話。
・コロナ禍でなかなか再就職できないけれど、なんとかなるさとユルく構える日常に癒される。母の友人の50代女性の家に転がり込んで、人生の先輩から色んなことを学んだり。
・中年に差し掛かる年代の女性が無職になって、「これからどうしよう」となった時に結婚という選択肢がカケラも俎上に上がらないのが本当に好き。

『ドグラ・マグラ』夢野 久作


・日本三大奇書の一冊にチャレンジ。
・昔の小説なうえに精神病院が舞台なので「キチガイ」という単語がこれでもかと出てくる。青空文庫でページ内検索したら全部で127回も言ってた。そんなに言わなくてもいいじゃん。
・途中で異様に長いお歌が始まったり、エセ科学チックな論文が披露されたり。やりたい放題な構成である。
・長いうえに文章にクセがあるので、読み進めるだけでドッと疲れそう。私はAudibleで聴いたのでドッと疲れようが物語が勝手に進んでくれるので、その点はラクでよかったです。
・名伏しがたい不気味なナニカを延々と見せられる、そういう読書体験が延々と続く。奇書だけど完全に理解不能ではなく、話としての筋はしっかり通ってるので興味のある人は怖がらずに読んでね。文庫版の表紙がセンシティブなのでレジに出しづらいけど。

『朝イチの「ひとり時間」が人生を変える』キム・ユジン (著) 小笠原 藤子 (訳)


・いわゆる朝活のススメ。
・先人の言葉。スマホは朝のルーチンが終わってから触れ。
・他人が自分より優れているように見える時がある。あの人は才能があるとか、物事を始めるのが私よりも早かったとか。そういう時は自分の道だけを見つめていけ。
・というノウハウが詰まっている本だけど、一方で著者の個人的なエピソードに紙幅が割かれすぎな気もする。朝活のやり方を知りたくて買った読者は、「著者はアメリカの司法試験を二度受けてようやく合格した」という情報は求めていないだろう。

『読書脳』樺沢 紫苑


・ChatGPTなどAIが文章を書いてくれる時代に文章力は必要ない、と言われる時がある。だけど適切な入力をしなければ適切な出力もされない。AIが文章を書いてくれるからこそ、私たちには文章力が必要だ。
・何かに集中してやる時は15分を一区切りにするといい。人間の集中力が高まるのは最初の5分と最後の5分と言われる。最初に「さあやるぞ」とやる気が出て、最後は「あと少し」と集中力がラストスパートをかける。60分ぶっ続けでやった場合、最初と最後の合わせて10分しか集中できない。だけど15分の集中を4回やれば、合わせて60分のうち40分も集中できる。おすすめライフハックだぜ。
・読書などでインプットした知識のアウトプットは週3回やるのがオススメ。私の場合は「本を読んだ日の夜」「読んだ日の翌朝」「読んだ週の週末」に分けてやっている。週に3回も思い出せばその記憶が側頭葉という脳の中にある記憶の金庫に保存されて忘れにくくなるから。
・あとでアウトプットすることを前提にインプットすると、読書にも力が入って良い。ちゃんと内容を理解して読む気になるからオススメ。

☆おすすめ!『死神と聖女~最強の魔術師は生贄の聖女の騎士となる~』子子子子 子子子



・暗殺者と標的の百合。
・「死神」として数多の標的を屠ってきた主人公。次の標的は世界に十人いる聖女の一人とされる、自分の命と引き換えに誰かの命を救う能力を持った少女だった。教皇が危篤になった際に命を捧げて猊下を救う任務のもと、離島の学園に隔離されている。そんな宿命を背負わせられた聖女の抹殺が今回の任務。
・女子が女子と仲良くなる過程が余すことなく描かれているのが百合的に大変おいしい。最初は好感度マイナスからスタートしていたのが、だんだんと距離を縮めていく。たいへん読みがいがあります。
・天然タラシの主人公がヒロインをどぎまぎさせるシーンがそこかしこにあって、たいへんよろしい。
・命を奪うべきターゲットに情が移る。暗殺者としてやってはならない禁じ手ラインを軽々と踏み越える主人公。任務と女の板挟み、その先に待つものとは。
・1巻は壮大な物語の第1章といった感じ。もちろんこれだけでも読み応え十分だけど、早くも続きが気になります。今のところ主人公とヒロインの関係性は「親友」と表現されているけれど、私としては”それ以上”を目指してほしいぜ。願わくばガールズラブ。

『夢をかなえるゾウ』水野 敬也


・書店でしょっちゅう平積みされている自己啓発本。気になったので読んでみた。
・「募金をする」「靴をみがく」「トイレ掃除をする」など、過去に偉人がやっていた習慣を読者もやるように強いる本。マジで「紹介された習慣は必ず実行してください」と本文で言われます。釘を刺されます。
・一般男性の主人公とインドの神・ガネーシャ(口調はただのおっさん)のコントみたいな日常で進行する構成を取っている。なので自己啓発本だけど肩の力を抜いて読める。意識高くない自己啓発本、なるほど大衆のニーズに合致して売れるわけだ。

『はしゃぎながら夢をかなえる世界一簡単な法』本田 晃一


・「より、はしゃいだ気分になれる人生を選べ」「ポジティブに生きていれば幸運や良い話が舞い込んでくる」など、現代日本の労働者の大半にとってはなかなか実現性に乏しいことを言う自己啓発本。
・「セルフイメージは高いほうが夢の実現性が高い」とも書かれている、これには同意。以前読んだ『ミステリーの書き方』でも、「作家に必要なものはなんですか?」という作家陣への問いに対して「うぬぼれ」という回答が複数あったし。夢を叶えるためには、多少うぬぼれてるぐらいが丁度いいのかもしれない。

『いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学』センディル ムッライナタン (著)エルダー シャフィール (著)大田 直子 (翻訳)


・「時間がないあなたのための、とっておきの時間の作り方!」みたいな本かと思ったら違った。もうちょっと複雑だった。
・時間やお金などの欠乏は、私たちから心の余裕を奪う。心に余裕が無くなるとどうなるか? 長期的な利益をもたらす合理的な判断ができなくなる。たとえば低金利のローン会社と近所の高利貸しなら、前者から金を借りたほうが得である。だけど何かが欠乏している人はギリギリになるまで金が無いことに気が回らないので、財布がカラッポになってから焦って高利貸しのドアを叩く。ローン会社の窓口は平日の昼間しか開いてないけど、高利貸しは家に行けばいつでも貸してくれるから。そうして借金をして金がなくなり、また欠乏を起こして心に余裕が無くなる。負のスパイラルに陥る。
・心に余裕がある人と無い人では、脳の処理能力への負荷が異なる。旅行バッグにたとえよう。サイズに余裕があるバッグなら頭を使わずに次から次へと荷物を詰め込んでもすべて入れることができる。しかしサイズに余裕が無いバッグはどの荷物をどのように入れるか逐一頭を使って詰め込まなければならない。脳の処理能力に余分な負荷が掛かっているわけだ。
・欠乏により余裕が無くなり、処理能力に負荷が掛かっている状態を本書では「トンネリング」と呼ぶ。名前の通り、トンネルの中みたいに視野が狭くなっている状態を指す。
・トンネリングに陥った場合への対策としては、「本当にすべきこと」を目に見える形で残しておくことが有効だ。たとえば忘れてはならない予定や課題をポストイットなどに書いて見えるところに貼っておく。パソコンで作業している時によくTwitterやYouTubeを見てしまう人は、「作業」と書いて画面の横に貼っておくとよいと思う。スマホならリマインダーでもいい。トンネリングになった時に自分がやるべきことを思い出させてくれるツールを事前に整えておくこと。

『天国の修羅たち』深町 秋生


・映画化された『ヘルドックス』の完結編。3作目にして女性主人公。主人公がしょっちゅうヒドい目に遭うシリーズだけど、今回は主人公に対する過度な暴力や性暴力などは無くて安心した。なお他の男性キャラたちは相変わらずヒドい目に遭う。
・刑事が主人公だけど、ジャンルは刑事物というよりはバイオレンス物である。映画がPG-12なのが以外に感じるほど暴力シーンが多い。良くてR-15だと思うよ。もちろん振るわれる暴力にはすべて必然性があり、読者の目を引くための不必要なバイオレンスは感じなかった。
・女性主人公だけど異性愛要素はほぼ無かったのが好印象。今までの男性主人公ではそういうのは無かったのに、女性主人公になった途端に恋愛要素を入れてくるパターンが多いので。カッコいい女性主人公が警察組織の腐敗と戦う姿を余すことなく楽しめる。
・完結編なので、当たり前だけど1作目から読むことをオススメする。

『サンタクロースを殺した。そして、キスをした。』犬君 雀


・クリスマスを消滅させる異性愛ラノベ。だけど非モテ界隈の「クリスマス粉砕」みたいなノリではなく、そういうたぐいの人が読んだらむしろ恋愛要素で傷を負うかもしれないので注意。
・「書いたことが現実になる。ただし自分が望んでいないことに限る」という不思議なノートが物語のカギを握っており、この設定が面白い。この発想を起点にして物語を膨らませたんじゃないかとすら思う。

『禁じられた遊び』清水 カルマ


・真綿で首を締めるようなジャパニーズホラー。恐るべき怪異は山奥の孤立した山荘などのクローズドサークルではなく、町なかの寺やテレビ局や車の中などで場所を選ばず襲ってくる。そのため閉鎖空間特有の閉塞感は無いが、いつ怪異がやってくるか分からない緊張感が常にある。

『いまさら翼といわれても』米澤 穂信


・アニメ化された『氷菓』シリーズ第6巻。短編集でお届けする日常の謎。
・日常の謎ミステリって、ぶっちゃけ殺人事件より推理が難しいと思う。殺人事件は「犯人」「トリック」「動機」など推理すべき要素がある程度あらかじめ分かっているが、日常の謎は動機らしい動機やトリックが無かったり、ともすれば犯人と呼べる人がいなかったりする。何をどう推理すれば分からないのが難しい。推理力に自信のある人は挑んでみよう。

☆おすすめ!『ウは宇宙ヤバイのウ!〔新版〕』宮澤 伊織



・元は男性主人公の男女ラノベだったけど、新版に際して主人公を女性に変更して百合として再構築した最高の百合SF。作者はアニメ化された『裏世界ピクニック』の人です。
・いわゆる「女体化」ではなく設定レベルで根本的に女性になっている。あとがきに「当時は『女性主人公は売れない』というラノベ界の風潮があったため、百合にするという発想自体が無かった」とあることに時の流れを感じた。そんな迷信は今やまったく根拠がないことは数字が証明している。他にも「女性主人公は売れない」という迷信の圧力によって奪われた百合があると思うし、今後は本作みたいな百合リメイク作品が増えてくれるといいな。
・内容はドタバタSFコメディ、ときどきシリアスを添えて。「恋人を救うためにしょっちゅう時間を遡って時の流れを歪ませる連中」を取り締まるために創設された「時間遡行恋人救出防止係官」など、ハイレベルなギャグで笑い転げたい人にオススメの一冊です。


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