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【読書メモ】今週読んだ5冊



『死刑にいたる病』櫛木 理宇


鬱屈した日々を送る大学生・筧井雅也の元に、稀代の殺人鬼・榛村大和から手紙が届く。「罪は認めるが、最後の一件は冤罪だ。それを証明してくれないか?」人気パン屋の元店主にして、自分のよき理解者であった大和に頼まれ、雅也は事件の再調査をはじめたが…….

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・刑事や探偵として事件を追うのではなく、一般人の大学生が死刑囚と協力して事件の調査に挑む、ちょっと変わり種のサスペンス。ハラハラドキドキというよりは、真綿で首を締めるようなイヤな汗がにじみ出てくる作品です。
・24人を殺して死刑となった死刑囚から「最後の一件だけは冤罪だ。無実を立証してくれ」と依頼される話。主人公は法学部だけど一介の大学生であり、いくらなんでも荷が重すぎると思われたが、けっきょく受けることにする。その理由は「死刑囚が自分の自己肯定感を上げてくれる人だから」。主人公は昔は成績優秀の優等生だったが現在はいわゆる「Fラン大学」に通い、日陰者なのでいわゆる「ウェイ系」の学生たちからバカにされる毎日を送っている。プライドも自己肯定感もズタボロ。そんななかで死刑囚は主人公が優等生と呼ばれていた頃に出会った人であり、自分を全肯定してくれるため自己肯定感をアゲアゲにしてくれる存在だった。だから冤罪を晴らす調査に協力する、という理由。なるほど、死刑囚の頼みを引き受ける理由としては説得力があるような、そうでないような。
・主人公が「バカ大学生どもを生まれる前に処分するためにも優生保護法が必要だ」と思うような人間なので、感情移入はできなかったな。妙なコンテクストでその悪法の名前を出してほしくない。物語が進むにつれて主人公は精神的に成長するんだけど、その考えは反省して改められることはないし。
・シリアルキラーの心理について実例を挙げて紹介している。アメリカの大量殺人犯が多い。本作の死刑囚は「秩序型」と呼ばれる犯人であり、一定のルールや期間に沿って犯行を行なう。問題となっている最後の殺人はその秩序から大きく外れていることから、死刑囚の犯行ではないと主人公は結論付ける。さて、では真犯人は誰なのか。
・出番は少ないながらヒロイン的な立ち位置の女性キャラがいるんだけど、主人公をおだてるだけの存在になっているのがなんだかな~と。
・作品の雰囲気はタイトルの通り暗い。シリアルキラーが重要なテーマになっているのはもちろん、登場人物の多くが虐待された過去を持つので当事者の人は注意が必要かもしれない。死刑囚に心を委ねるなかで主人公の心理が徐々にシリアルキラーに侵食されていく過程は手に汗を握る。


『終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?』1巻 枯野 瑛


ヒトは規格外の《獣》に蹂躙され、滅びた。たったひとり、数百年の眠りから覚めた青年ヴィレムを除いて。ヒトに変わって《獣》と戦うのは、死にゆく定めの少女妖精たち。青年教官と少女兵の、儚くも輝ける日々。

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・ファンタジー世界でポストアポカリプスをやる男女物ラノベ。
・勇者と魔王の世界が滅びて人間族が絶滅した数百年後の世界で、獣人や亜人の種族が空に浮かぶ島々で暮している、という設定。
・人間が「かつて全ての種族を敵に回した世界の破壊者」とされて忌むべき存在とされているのが面白いな~と。それゆえ、ツノが無かったりケモノじゃなかったりする「人間的特徴」を持つ者は差別の対象となる。こういう「架空の差別」が最近のファンタジー物のエンタメでよく出てくる気がする(ほかの例:『86-エイティシックス-』『ファイアーエムブレム 風花雪月』)。
・「戦い」がテーマの一つだけど、今のところ主人公は戦わない。戦いに行くのはもっぱらヒロインたち。その理由は、ヒロインたち妖精はかつての勇者たちが用いた武器を扱うことができるため。戦う相手は人間族が世界の終わりに放った「獣」と呼ばれるモンスターである。
・だけど、肝心の「獣」の恐ろしさがいまいち伝わってこなかった。人間族が「獣」を放ったことで地上に住めなくなり、今でも空で暮らす人々の脅威となっている、という設定は提示される。けれども、肝心の「獣」が直接登場するシーンは1巻の時点では無いので、強さや恐ろしさにいまいちリアリティが無い。序盤のうちに「獣」が猛威を振るうシーンを入れればよかったのでは、と思った。
・主人公は「兵器管理者」として、「兵器」であるヒロインたちと交流する。これが1巻の主な展開となる。使い捨て兵器系女子が出てくる作品。なんというか、悲惨な運命の女の子たちが出てくる男女物ラノベが読みたい人にはオススメだと思う。そこに主人公である男(いいやつ)がやってきて、少女たちの心の支えになるという、まあそういう感じのお話です。


『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』三宅 香帆


【人類の永遠の悩みに挑む!】
「大人になってから、読書を楽しめなくなった」「仕事に追われて、趣味が楽しめない」「疲れていると、スマホを見て時間をつぶしてしまう」……そのような悩みを抱えている人は少なくないのではないか。
「仕事と趣味が両立できない」という苦しみは、いかにして生まれたのか。
自らも兼業での執筆活動をおこなってきた著者が、労働と読書の歴史をひもとき、日本人の「仕事と読書」のあり方の変遷を辿る。
そこから明らかになる、日本の労働の問題点とは?
すべての本好き・趣味人に向けた渾身の作。

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・本書に共感できる人ほど読むヒマが無い、というジレンマを抱えた新書。
・日本人と労働、そして読書との関係性を明治期以降の歴史から紐解き、なぜ働いていると本が読めなくなったかを論じる。語り口はいたって軽いので、新書にお堅い印象を持っている人にもオススメ。逆に、くだけすぎた文章が苦手な人は読みにくいかも。
・日本人は昔から労働に追われており、時間が無いのは今に始まったことではない。ではなぜ、いま「働いていると本が読めなくなる」としきりに言われているのか。
・その理由として、いまの日本人は「ノイズ」を受け入れられなくなっている、と本書は説く。読書などで得られる知識には自分が求めている情報の他に、自分には関係ないと思われる情報=ノイズが含まれる。ノイズは未知の分野であり、自分がいま生きている文脈とは遠く離れた「他者の文脈」である。すなわち、いまの日本人は他者の文脈を受け入れられなくなっている。他者の文脈は自分ではuncontrollable(制御不能)なものだからだ。
・2021年の映画『花束みたいな恋をした』では、主役の一人の男性が就職してから『ゴールデンカムイ』や『宝石の国』を読めなくなってスマホで『パズドラ』ばかりしていると吐露するシーンがあり、人々の大きな共感を呼んだ。『パズドラ』のようなシンプルなスマホゲームは既知の体験の集合であるためcontrollable(制御可能)であり、未知の分野を受け入れられなくなった心理状態でも遊ぶことができる。
(私的な余談。私は少し前まではクリア済みのゲームの実況動画を6時間ぐらいぶっ続けで観ることで休日を潰していた。たぶん、私も未知の刺激が無い娯楽しか受け入れられなくなってたんだと思う)
・『電車男』がヒットした要因の一つに、恋愛に不得手な男性が社会的カーストが上と思われる女性と付き合ううえで、インターネットの情報を利用した点にある。ネット情報は即戦力的であり、かつ歴史や知識的文脈を無視して取得することができる(Twitterで漫画の一コマを作品の前後の文脈を無視して切り取って画像リプしてる人がいるけれど、これもネットにおける文脈無視の一例だと私は思う)。それは文脈を重んじてきた従来の知的権威を転覆できる(少なくともネット的情報を褒めたたえている人たちはそう思っている)ものであり、リベラル知識人などにマウントを取れるものとして旧2ちゃんねる文化を中心に広まった。ネット的情報は知識における社会的階級を無効化するものとして、西村博之的な「論破」メソッドと共に定着している。
・本が読めなくてもネットは出来る、という人は多い。その理由の一つに、ネットでは自分がいま必要な情報以外は出てこない点にある。書店で本を探している時に同じ本棚の別の本が気になったり、読書中に自分が想像もしなかった世界のことを図らずも知れる、といった偶然が起こる余地がネットには少ない。ネットはcontrollableである。
 読書で得られるものは「知識+ノイズ」である。ノイズとは他者・歴史・社会的文脈などのこと。ネット的情報にはこのノイズが無い。ネットでは自分用にカスタマイズされた情報だけが流れてきて、自分に関係があると思われる知識だけを都合よくつまみ食いできる。SNSの発達によってこの傾向はより顕著になった。
・00年代に「ゆとり教育」が行なわれたが、個々人の能力を伸ばして資本市場で戦える力を身につけるという意味では、これはむしろ新自由主義的な教育方針だったと指摘されている。
 新自由主義は「誰でも挑戦できる」という耳ざわりの良いフレーズを掲げているが、それは「失敗しても自己責任」という自己責任論と表裏一体である。
・新自由主義の台頭により過酷さを増した労働市場で生き残るためにはノイズは邪魔なのである。労働者は読書から得られる「教養」ではなく、より即戦力的な「情報」を求めるようになった。
・しかし、ビジネスの場では時としてノイズ込みの教養が必要となる場面もある。本書ではその例として、面接中に昔のロックバンドの話題で面接官と盛り上がった学生が内定をもらったエピソードを挙げる。自分が幼い頃、もしくは生まれる前のバンドなんてものは、自分からは遠く離れた文脈の存在である。だけど、人生の中で自分から遠いものが役立つ時は少なくないのである。
・最近は「推し」文化が台頭している。特定の誰かを猛烈に好きになる「推し活」という、一見して自分の文脈の延長にあるような行為においても、他者の文脈に触れるチャンスとなる。推しが好きなもの、たとえば小説や映画、バンドなどにファンが興味を持つことは多い。ノイズを忌避してはならない。それが他の文化に触れる、しいては読書をするきっかけになるから。
・現代人は自分に関係無いと思っていること、つまりノイズを受け入れられず、他者の文脈に触れる機会が無い。その理由として長時間労働に追われているがゆえの精神的・時間的な余裕の無さが挙げられる。だから働いていると本が読めなくなる。仕事で必要な文脈以外を取り入れる余裕が無くなるから。
・余裕が無いなら、まず休もう。と本書は説く。本も読まなくていいから、とにかく休んで心と体を休めよう。
・働いていても、仕事以外の文脈を取り入れられる余裕を持てる社会をこれから作っていくことが必要である。
 そのためには「半身」で働ける社会が必要だ。いまの社会は長時間労働で仕事に全身どっぷり浸かることを要求される。そうではなく、自分の体の半分を仕事に、もう半分は仕事とは別の文脈、つまり読書などに浸かることが理想である。非効率的な長時間労働では自分から遠い文脈を取り入れる余裕が無い。
・では、会社が長時間労働の強要を見直せばいいのだろうか。それも理想の一つだが、問題はそう単純ではない。哲学者のビョンチョル・ハンの著書『疲労社会』では、新自由主義社会においてはたとえ会社が強制しなくとも個人が必要以上に頑張りすぎてしまうことが指摘されている。「もっとやれる」「自分はこんなんじゃないはずだ」と。自分で自分を搾取するのである。こと近年においてはSNSの発達により「自分の上位互換がいっぱいいる」と言われるようになったため、自分への追い込みが加速している。
・その結果が燃え尽き症候群だが、これに陥った人は密かな自画自賛の念も持つことがある。曰く「自分は働きすぎて燃え尽き症候群になったけれど、まあ働かない奴らよりはマシだよね」と。この「もっとやれる」という空気が先に挙げた燃え尽き症候群や、しいてはうつ病の原因となる。全身ドップリ仕事に浸かって仕事で自己実現しようとすると、しばしばこうしたメンタルヘルスのリスクに直面する。いまの労働環境は全身でのコミットメントを労働者に要求してくる。半身で関わることを赦さない。
・どいつもこいつも全身でのコミットメントを求めてくる。しまいにはソシャゲまでログインボーナスやデイリーミッション、イベント周回報酬などで「このゲーム以外は遊ぶな、このゲームだけしていろ」と要求してくるではないか。
・全身全霊でコミットメントするのを称揚する社会は、もうやめよう。半身で働ける社会を目指そう。それこそが働きながら本が読める社会である。
・本書はここで働き方の見直しについて提案をする。たとえば、週3勤務の正社員がいたっていい。小人数で残業ありきではなく、多人数で残業無しの勤務体制だっていい。働きながら本が読める社会を目指すために、日本人の働き方の見直しを提案して本書は締めくくられる。


『リンダを殺した犯人は』伊兼 源太郎


警視庁捜査一課に所属する女性刑事・志々目春香と後輩の男性刑事・藤堂遥の〈ハルカ〉コンビ。新宿・大久保の古いマンションで若いベトナム人女性「リンダ」の死体が発見された。彼女が来日してからの足取りを追うため、二人のハルカは四国にある水産加工場へ向かうが、そこで見えてきたのは、外国人労働者を搾取する国の制度と、そこに巣食う闇の世界だった。彼女を殺した真犯人は一体誰なのか、たどり着いた驚きの真相とは……!? ドラマ化『密告はうたう』の俊英が放つ、一気読み警察バディ小説!

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・オーディオファースト作品。Audibleのための書き下ろし小説であり、文字の本は今のところ存在しない。
・男女バディの刑事物で、恋愛要素は無し。主人公は女性であり、バディの主体でもある。男女バディで女性の方が主体なのは良い。
・相棒の男が活躍する場面が少なく、作中でセルフツッコミすらしているレベルである。でも、男性主人公物でも女性ヒロインが主人公のお膳立てしかしてない作品はいっぱいあるし、これくらいはね?

・ここからはややネタバレありの感想。犯人の名前を直接出したりはしないけれど、物語のオチの方向性が分かるので未読の人は注意。

・本作は元技能実習生のベトナム人女性が被害者となった殺人事件を捜査する刑事物である。技能実習制度は外国人への労働搾取や現場でのいじめ・セクハラ、職業選択の自由が無い状態などいくつもの人権問題を抱えており、小説のテーマとして取り上げるには相応の覚悟が必要だと読む前に思った。技能実習生が殺害される内容なら、なおさら。
・しかし蓋を開けてみると、元技能実習生の被害者が殺害された理由は技能実習制度の劣悪な現状とは直接は関係なく、一人の悪人による犯行だったというオチ。技能実習生をテーマとする作品のオチとしてはヌルい。
・技能実習制度が抱える問題点を作中で紙幅を割いて説明しているし、しっかり批判もしている。だけど、メインの殺人事件でそれらの問題が発生理由に直接関わっているわけではなく、技能実習制度の問題をキャッチーなテーマとして都合よく利用した感じは否めない。技能実習生を殺人事件の被害者として物語の中で殺すのなら、技能実習生制度が殺人事件の誘因となった、という展開にするレベルの痛烈な批判が必要となるのではないか、と私は思う。
 殺人事件ではないが、じっさい技能実習生の労災発生率は労働者全体の1.6倍であり、命が軽視されている現状は確かにある(https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/e0452811e5d8c48b0dd06e955e2072fdfabe82f1)。作中における技能実習制度批判も「このままだと外国人労働者が来なくなり、日本はますます衰退するだろう」という国益の問題として捉える印象が強く、人権問題としてはあまり意識していないように感じた。人権、大事なことなのに・・・。
 全体的に「残酷な世界に殺された」「悪人に食い物にされた」というなんとも一般論的なふわっとした結論に落ち着いている。キレがない。キレが足りない。
・ただ、不法滞在者の命を軽く見るような発言をした刑事をベテラン刑事がきつく戒めるシーンがあり、それは良いと思った。レイシャル・プロファイリング(外国人だからという理由で職務質問をする傾向)という言葉が出来るほど、外国人に対する警察の偏見は強い。だからこそ、外国人の命を軽く見ることを許さないシーンが警察物で描かれたことは素直に良い。
・話は変わる。
 初っ端から「最近は『男らしい』『女らしい』があれこれうるさく言われるけどさー」みたいなジェンダー論腐しが始まる。なんだこれ、と思ったよね正直。その後も事あるごとに「ジェンダー表現でいちいち批判するとか、どっちが排他的なんだよ」みたいな台詞が挟まれる。男性作者が女性キャラに「これだから最近のジェンダー言葉原理主義者は」的な台詞を言わせるのは、ハッキリ言って恥ずかしいと思う。
・だけどその一方で、主人公の刑事は女性として警察組織で生きていく上での男社会への不満を抱えており、そのことが作中でハッキリ表現される。いわゆる「フェミ」的なものは敬遠するけれど、女として生きてきた上での男性優位主義への不満も確かにある。これはある意味リアルな、いわゆる「自称ノンポリ」の女性の描き方なのかもしれない。狙ってやってるのかは分からんけど。
・しかし、技能実習制度への批判はするのにフェミニズム的なジェンダーバイアス批判を腐すとか、よく分からん思想の本である。
 ・・・いや、ごめん。嘘ついた。ホントは分かってるよ。リベラル的な価値観を持っているのにフェミニズムは忌避する男性がウンザリするほど多いことは。作者もそうなのかは人となりを知らないので分からないけど。彼の作品を読むのも本作が初めてだし。


『失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック』新聞労連ジェンダー表現ガイドブック編集チーム 


悪気はなかったでは済まされない時代です
現役新聞記者たちが自省の念を込めて贈る「気づきの書」。
「美しすぎる○○」がダメな理由がわからない。女医、女子アナと無意識に言ってしまう。「女性ならではの気配り」はほめ言葉のつもりだった?「薄着の季節だから痴漢に注意」のどこが問題!?女児の出産祝いになんとなくピンクを選んでしまう・・・。ひとつでも当てはまる人、アウトです。ぜひ本書を一読することをおすすめします。
ジェンダー平等を日本で早く実現したい。それにはまず、メディアが発信する記事から見直さなければならないーーー。この本は、現役の新聞記者たちの強い危機感から生まれたものです。今やSNSや広告、宣伝で誰もが発信者になる時代、ジェンダー表現のリテラシーを高めることは必須。その手引き書的な一冊です。
無意識の偏見と男尊女卑、性別役割分業のすりこみなどジェンダーの視点で改めて見直すとたくさんの問題点がみえてくる。ウエブ記事もしかり。スマホアドバイザー・モバイルプリンスさん、ジャーナリスト浜田敬子さん、弁護士の太田啓子さん、武井由起子さんに聞くインターネットとジェンダー論。性暴力の報道や表現の問題、メディアの現状と取組まで徹底的に追求。

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・やらかさないための、転ばぬ先の杖の一冊。
・「やらかす」のは記者や広報、ライターなどの文章を書く仕事の人だけではない。SNSの発達により、今は誰もが発信者になれる時代。やらかして炎上したくない人、そしてもちろん、適切な表現方法を身につけてなるべく誰も傷つけたくない人に読んでほしい一冊です。
・「モヤッ」とすることが多いけれど、その正体が掴めずに言語化できない人にもオススメ。なぜモヤッとするのか、モヤッとしないためにはどんな表現が望ましいのか。各章の最後にその章で取り上げた内容に関する「モヤッとする表現」の実例が何個か挙げられて、なぜ問題なのかを考える力を試されるテストを収録。ジェンダー表現へのモヤッの言語化ヂカラがグングン上がるよ。
・ここで、本書で挙げられる実例の一部を紹介。

 夫婦で飲食店を営む、田中太郎さんと、妻の花子さん
 女性でも安心、新車特集
 本日入籍しました
 女性社長、過程と両立の秘訣とは
 女性ならではの繊細な視点を生かした新商品
 ノーベル賞受賞を支えた妻の「内助の功」
 なるばく妻の家事を手伝うようにしている
 女子高生がお手柄! 迷子助ける
 〇〇選手、初優勝で男泣き
 「山ガール」増加中、「畜産女子」奮闘中

 モヤッとした人は本書を読んでその正体を探ろう。モヤッとしなかった人は、なおさら本書を読んでモヤッとできるようになってほしい。モヤッとすることって不快かもしれないけど、大事なことだから。おかしいことを検知するレーダーみたいなものだから、ぜひ本書でレーダーの感度を上げてほしい。
・セクシャルマイノリティに関する表現についても取り上げているのはありがたい。「”LGBT女性”ってなんぞ?」って、ずっと思ってたクチなので。
・「夫が家事を”手伝う”」という表現について「家事は本来女性がするものだ」という価値観を広めるものである、という指摘をした際に「もちろん、家庭の事情で妻が家事・育児を主に担い、夫が助ける立場、という家庭は多いでしょうし、そのこと自体は当然ながら全く否定されるものではありません」とフォローを入れるのも忘れない。「女に家事を押しつけるなと言うが、専業主婦を否定するのか」という斜め下のやっかみをしている人を見かけるけど、筋違いもいいところでして。
・ハッシュタグkutoo運動に携わった人が巻き込まれた裁判を担当した弁護士の女性へのインタビューも掲載されており、ネット空間が女性に向ける敵意と言うべきものをヒシヒシと感じられる。「モノ言う女性」が気に入らない人はウンザリするほど多く、オンラインハラスメントは後を絶たない。もし、そういったものを受けた際はとりあえずスクショを撮っておくこと。起訴するには情報開示請求などいくつものハードルがあるけれど、証拠を残しておくに越したことはない。
 以前、女性政治家や女性弁護士に商品が着払いや代引きで次々と送られたことがあった。言わずもがな、「モノ言う女性」への嫌がらせである。彼女たちはこの件について共同で記者会見を行ない、それから嫌がらせはピタリと止んだという。「私たちは黙らない」というメッセージを発することは効果的である。
・オンラインハラスメントなど負の側面が目立つが、ネットは悪いことばかりではない。森元総理の「女性がいる会議は時間が掛かる」は批判の的となり、彼は東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の会長を辞任した。これはTwitter上で「わきまえない女」として声をあげ続けた女性たちの影響が大きい。2020年の安倍政権の検察庁への人事介入問題においても、Twitterでハッシュタグ運動が行なわれて法案の成立は見送られた。こうしたネットの善意の側面にメディアは甘んじてはならない。
・メディアはジェンダーバイアスを批判するにあたって、自分たちが書く文章のジェンダー表現を改善しなければならない。そうでないと「おまいう」になるからだ。
・ソクラテスじゃないけれど、本書は「知らない」を知ることが出来る一冊。自分がこれまで気づかなかったバイアスを知ることって大事だから。男性にも読んでほしいし、女性も気付かないうちにジェンダーバイアスを内面化していることがあるから、本書を読んでぜひ知って、当たり前のように使っていた表現を見直すきっかけにしてほしい。
・ジェンダー言葉関連では『女ことばってなんなのかしら?: 「性別の美学」の日本語』という本の感想も書いているので、そちらもどうぞ。→https://note.com/7tsubaki3/n/n7eaaf9d0909c?magazine_key=md2add25e0d80


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