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【読書メモ】今週読んだ5冊



『海辺の病院で彼女と話した幾つかのこと』石川 博品


・このタイトルと表紙で異能バトルが始まるなんて思わないじゃないですかー!
・奥多摩あたりを舞台にした異能者サバイバル、異性愛要素を添えて。
・異能者同士が戦うPvPではなく、異能者同士で力を合わせて怪物に立ち向かうPvE形式の異能バトル。
・ぶっとんだ設定、急展開ともに良い意味でB級な感じ。いっそ潔いぐらい。でもお色気要素はちょっとクドかった。ラッキースケベ的なやつも多いし。
・主人公の日常がだんだんと異変に侵食されていく過程が丁寧に描かれる。主人公が奇病に侵されて、親が同じ病気で死んで、町ごとパンデミックに陥り、無人になった町内を怪物が練り歩くようになる。死体の描写がホラー的なので苦手な人は注意。
・男性の生理現象の描写が生々しくてなんかちょっとイヤ
・特に夢や目標もなく漠然とした日々を送っていた高校生が、異能力を得て怪物と戦うなかで「夢」を見出す、というストーリー。「主人公が叶えたい夢を見つける作品」は青春モノを中心に星の数ほどあるけど、その夢が怪物との殺し合いの中で見つかるのはまことに斬新である。その夢とはズバリ、怪物たちをブッ倒すこと。それだけ。変化球どころか大暴投レベルの青春モノでした。
・とあるキャラクターが植物人間状態になるのだけど、そうなった理由がマジで「え、そんなことで?」みたいな感じだった。実にアッサリというか、必然性のない理由。主人公やヒロインを守るために異能力を使いすぎた代償とか、そういう感じのほうが説得力があったと思う。物語の結末に繋がる大切な要素なんだし、そのあたりの展開はもっと作りこんでもよかった。


『体育館の殺人』青崎 有吾


・アニオタ探偵の本格ミステリ。
・探偵が他のキャラと普通に会話してる中でとらドラとか絶望先生とかFateの話を唐突にしだす。「社会性の無い探偵キャラ」という意味ではシャーロック・ホームズと同じなのに、なんだ、このいたたまれなさは。
・「オタクを探偵役にすればオタクの読者が感情移入しやすいだろう」という狙いなのかどうかは分からないけど、そうだとしたらむしろ感情移入より共感性羞恥のほうが勝ると思う。
・探偵が関係者を集めて推理を始める解決編の前に「読者への挑戦状」が入るタイプのミステリ。ただし推理難易度は高め。犯人をダイレクトに示す決定的な証拠は無く、消去法で犯行可能な人物を絞り込んでいくスタイルなので、推理に挑戦するなら紙とペンは必須です。
・体育館という舞台が日常的に身近でイメージしやすい、学生さんにオススメのミステリ。
・雨とミステリの相性って良いな・・・、とあらためて思った。地面に足跡が付いたり服が濡れたりして、犯人の経路を示したり限定するのに何かと役に立つ。

『リアデイルの大地にて』1巻 Ceez


・「小説家になろう」発、MMORPGの世界に転生するやつ。あとがきによると本作が書かれた当時はゲーム世界へ転生する作品はまだ流行る前だったらしいので、そうした意味では先駆者といえる。
・難病で衰弱状態にあった主人公の少女が生命維持装置の停止によって死亡、魂だけがゲームの世界に残された。という激重設定なのに語り口やストーリーはいたって軽い。めちゃくちゃ軽い。人が死んでんだぞ! とツッコミたくなるぐらい軽い。
・4000個あるスキルを活かして、適度に「私、またなんかやっちゃいましたか?」をやっていくストーリー構成。あからさまに力を見せつける系ではなく、力を適切に使うことのできる主人公なのでチート感は薄い。「小説家になろう」名物の”ステータス画面”は無かったので、アレが苦手な人も安心して読んでね。
・主人公のサポート役となるAIが序盤から登場するのだけど、ちょっと空気というか存在意義があまり無いように感じる。2巻以降で活躍するのかしら。
・「回復薬アイテムを調合して作る時、回復薬が入っているビンはどこから出てくるのか問題」が取り上げられる。確かに。たとえばモンハンでも薬草から回復薬を作れるけど、ビンはどこから出てくるんじゃろ。
・ストーリー展開は起承転結の「転」が無くて、ずっと「承」が続くような起伏の乏しさが否めない。アッと驚くどんでん返しや、手に汗握るピンチが無い。「小説家になろう」作品の宿命なのか。というわけで、感情を揺さぶらないスローな旅を楽しみたい人にはオススメです。


『線は、僕を描く』砥上 裕將


・両親を失い、心がカラッポになった主人公が水墨画と出会うことで自分自身と向き合えるようになる話。
・おそらく読者が感情移入しやすくするためだと思うけど、絵の経験すら無いド素人の主人公が1年そこらの特訓でプロ水準の腕前になる設定、フィクションとはいえ「ねえなあ・・・」と思っちゃう。
・登場人物がみんな良い人で「嫌な奴」がいないのが嬉しい。
・「必ずしも、 拙さが巧みさにに劣るわけではないんだよ」という一文、メチャクチャ良い。小説書きの駆け出しをやっていると、とてつもなく上手い作品に出くわして心が折れそうになる時があるんよ。そういう時に思い出したい台詞だと思った。


『ヒイラギエイク』海津 ゆたか


・爽やかなのになんか重めな異性愛青春ラノベ~オカルトタイムリープを添えて~
・長野県北部にある設定の集落に八王子からの中学生が夏休みのあいだやってくる、という物語。「主人公くんは東京から来たんだな」「八王子です」「八王子なら都会だな」「都会かどうかは・・・」というやり取りがあり、八王子に住んだことがある身としてジワる。
・男主人公ひとりに女性キャラが4人の一見ハーレム構成だけど、ハーレム物ではなく本命は一人だけ。
・ストーリー構成は前半と後半で大きく異なる。前半は田舎で暮らす牧歌的なひと夏を描き、後半で前半ののどかさが全部ひっくり返される衝撃的な展開が続く。いわゆる異性愛ラノベだけど、ラブコメみたいなイチャコラは無し。むしろそういうのを期待して読むと痛い目を見る。
・3章までは助走、4章からが本番。ハーレムラノベみたいだったそれまでの流れを4章で完全に断ち切る。前半と後半で毛色がまったく違うギャップは唯一無二レベル。

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