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【読書メモ】今週読んだ3冊


『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』デヴィッド グレーバー (著) 酒井 隆史 (翻訳) 芳賀 達彦 (翻訳) 森田 和樹 (翻訳)


ブルシット・ジョブとは、被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、完全に無意味で、不必要で、有害でもある有償の雇用の形態である。とはいえ、その雇用条件の一環として、本人は、そうではないと取り繕わなければならないように感じている。

ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論

・本書によると、世の中では「クソどうでもいい仕事」、ブルシット・ジョブが増えているらしい。私はエッセンシャルワーカーと呼ばれる仕事にしか就いたことがないので体感としては実感はないけど、仕事が退屈だったり意義を感じられないことで苦しんでいる人たちがいるようです。
・ほとんど鳴らない電話を取る係、どうでもいいメールの簡単なチェック仕事、やることのないマンションの受付。これらが「ブルシット・ジョブ」として挙げられるけれど、クソ忙しい介護職を経験した身としては「退屈してるだけで金を貰えるのをありがたいと思え」と思ってしまう。中でもスゴいのは「仕事内容は1日1時間電話応対をするだけで、残りの7時間はパソコンでパズルゲームやYouTubeをしてるだけで給料が貰える」というやつ。日本のTwitterで「はやくこれになりたい」ってネタにされるやつじゃん。
・市場原理を追求する資本主義社会なら、無益な仕事は「見えざる手」によって淘汰されるはず。なのになぜ「クソどうでもいい仕事」が減らないのか。その理由の一つとして、本書では「仕事が減ることで時間的・精神的余裕を得る人が増えて、政治的なアクティビズムが活性化する恐れがある。それを防ぐための社会的な要求として、無理やりにでも仕事を増やしている」が挙げられる。確かに。仕事に追われていると社会とか政治のことを考える余裕がなくなるし、挙句の果てには「政治をやってる奴らはヒマ人ばかり。言うことを聞く必要はない」と言う人まで出る始末だし。
・私としては「ブルシット・ジョブ」に就職してヒマを持て余してるだけで給料がもらえる身分になりたいところだけど、社会的な有害性を考えるとノンキにそうも言ってられないな。
・自分の仕事といま一度向き合いたい人は、いっぺん読んでみるとよいです。自分の存在意義とか理由とかついつい考えちゃう人は特に。高い本だけどAudibleなら聴き放題サブスクに入っているのでオススメ。コレ1冊で1ヵ月分のサブスク代の元が取れるよ。再生時間18時間40分と、分厚さにたがわずクソ長いけど。


『夜は短し歩けよ乙女』森見 登美彦


・読書家の妹が「文体がキモくて無理(失礼)」と言っていた作家の作品。せっかくなので読んでみた。
・確かに、持って回った言い回しが目立つ。シンプルに描写できるところをわざわざ遠回りしているような。そういう文章が鼻につく人には向いていない。「ちっちゃな頃だけ悪ガキでした」「古池や、俺の飛び込む、水の音」など、上手い言い回しを考えたぞ感もそこはかとなくハナにつく。
・第1話からセクハラシーンがあり、しかも犯人がほとんど罰せられずに終わる。女性の胸を勝手に触ったおっさんが、なんだかんだで良い人でした、みたいな感じでまとめられる。この時点で無理な人はだいぶ無理だと思う。私もけっこう無理でした。
・その一方で、現実から非現実へシームレスに移行する物語運びは上手いと感じた。夜の先斗町(京都市内のオシャレな町)を彷徨い歩いていたら、豪華絢爛な「三階建て電車」が通りの奥からやってくる。別の話では、ある事情から真夏にコタツに入らされて激辛火鍋を食わされていたら、鍋の中から生きたカエルが出てきて火を噴き始め、そいつを同じく鍋から唐辛子まみれになって出てきたニシキヘビが食らう。現実の出来事がだんだんとエスカレートしてきて非現実みを帯びはじめたところでファンタジーな描写が挿入されるので、「まあ、それくらいのことが起こってもおかしくないか・・・」と思ってしまう妙な説得力がある。

『いなくなれ、群青』河野 裕

※ややネタバレありの感想



・地図に無い島、「階段島」を舞台にした男女物。ここの住人はみんな「捨てられた人」。島から出る方法はひとつ、失くしたものを見つけること。階段島で暮らしていた主人公はある日、誰よりもまっすぐな少女と再会する。なぜ、主人公たちは捨てられたのか。失くしたものは何なのか。この島はいったい何のためにあるのか。湿度高めの青春物語がはじまる。
・人が成長するには欠点を切り落とす必要がある。たとえば悪いクセ、人格の欠点、融通の利かないところ。それらを克服することで一歩前進して生きやすくなる。だけど、切り落とされた部分も確かに「自分」だったのではないか。その「自分」はどうなる? 本作は、そんな「いらなくなった自分」の物語。
・「世の中に不満があるなら自分を変えろ」という、オタクが伝家の宝刀のごとく貼る『攻殻機動隊』の台詞があるけれど、変えられた「自分」がどこに行くのか考えたことある? と、本書を読んであらためて思いました。
・灯台に住まう「遺失物係」。島の名前の由来でもある、魔女の家に繋がる長い階段。島に一台だけあるタクシー。学生が集う「ありくい食堂」。どこか寂しげだけど味のある温かいコミュニティが魅力的に映る。
・主人公のキャラは良く言えば引っ込み思案、悪く言えば陰気。ヒロインは正義感が強くて自分の思ったことをビシバシ言えるタイプ。なにもかも正反対の二人のやり取りと関係性がエモい。シリーズ1作目なので今後の展開でどうなるかは分からないけど、本作の時点では主人公とヒロインは恋愛関係ではない。主人公自身がヒロインへの恋愛感情を否定している。いわゆる「異性愛とかじゃなくてもっと崇高なナニカ」というところでしょうか。


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