琥珀色の熟女
日曜日に、映画「マザーウォーター」を観ました。恋人のアマプラ加入の恩恵を受け、一緒に観ていた。カモメ食堂シリーズと呼ばれる、パセリ商会の作品。起承転結がほとんどなく、淡々と過ぎる日常をそのまま切り取ったような作品で、好き嫌いは分かれるだろうけれど私は結構こういうタイプの物語は好きです。
ほんの少しネタバレになるかもしれないが、この物語にはサントリーのウイスキーである山崎が出てくる。この1年半ほどの間に、現実であれ作品であれ、何かお酒、特にウイスキーが出てくると少し見入ってしまうようになりました。
だいたいこういう変な癖を植え付けるのは彼の影響が原因。彼は元バーテンダー、そして数あるお酒の中でもウイスキーをいっとう愛している。そんな人の近くにいたら自然とウイスキーに興味を持つ。
ウイスキー特集を組んだ録画番組を見返していると、ウイスキーを「熟女」に例える表現が流れてきた。
「芳醇で美しいウイスキーのことを熟女に例える表現があるけれど、僕は本当にそうだと思ってる。最初は透明なウイスキーを樽の中でじっくり熟成させて育てて、というのは、年齢を重ねて女性が美しくなる様子と重ねられるし、本当にウイスキーが好きな人にとってはすごくたまらないことなんだよ。人間でも熟女の良さ、というのも僕は肯定するし」
恋人は少しいつもより熱のこもった声でそう語った。
「だから僕は別にロリコンなわけではない」
ああ、ひとこと余計だ…。18歳差があろうと私は既に成人済みなのだから、あなたは別に幼女が好きなわけではないんだと何回言ったらわかるんだ。確かに私は童顔だけど。
その時、ふと脳裏に浮かんだのは「若紫」だった。源氏物語の中で、光源氏はある時身寄りのない子ども、若紫にひとめ惚れし、身柄を引き取り自分の家で生活させる。彼は彼女に教育を受けさせ、自分の理想の女性として育てあげた後に、「紫の上」として妻にする。
何だかそれがウイスキー作りと似ているように思えた。紫の上は熟女という年齢ではないけれど、深くて美しい女性という意味ではウイスキーに通じるものがある。
みたいなことを彼に話してみると、確かにな、ロマンがあるなと納得してくれたご様子。あれ、我々ももしかして似たような関係?歳の差もあるし構図的には若紫的立場なんだが。
「これから私も樽の中で育っていけるかな」
「君はまだ本格的に社会に出てないし、まだ麦の段階でしょ」
「む、むぎか……」
「内定決まったらようやく麦芽になれるくらいじゃない?社会に出たらギリ樽詰めとか」
「麦芽にも満たないか…」
ウイスキーの原料のひとつは麦芽で、収穫された麦に芽を出させてから使うのだけど、私はまだ麦のままらしい。いろんな経験を積んできた彼に言われるとぐうの音も出ない。いつになったらウイスキーまでたどり着けるのか。
ウイスキーは寝かせている間に量が格段に減ってしまう。減っている量は「天使の分け前」になり、それを貰った天使がウイスキーをより良く熟成させるのだという話がある。
もし人間なら、天使の分け前は若さか。若さと引き換えに、時間を掛けてしか得られない良いものを持つようになるのだろう。
いつかウイスキーみたいな人間になって、彼をあっと言わせてやりたいものだ。まあ、歳の差は縮まらないので、熟成中はなんとか長生きしてほしい。
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