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【短編小説】回顧

 生活の中で、一切外に出ないということはそうそうないと思う。学校に行く、職場に行く、買い物、遊びなどなど。その道すがらにある建物、お店は見慣れた物だろう。
 環境が変わることによってその見慣れた景色を手放すこともある。あるいはもっと良い道を発見したのかもしれない。そうやってなかなか通らなくなった道を改めて通ってみると思わぬ発見があって面白い。
「あ、ここの建物なくなったんだ。」
「知らないお店ができてる……。」
「逆にこの寂れたお店はまだあるんだ。」
なんてひとり言を言いながら歩く。

「何これ……?」
 そんなことをしながら偶然見つけたのは道路沿いにポツンと一個だけ置かれた、石でできたように見える球体だった。もし持ち上げられるなら、抱きかかえられるぐらいのサイズがある。変なものを見つけるのは普段通る道であろうがそうでなかろうが、たまにあることではある。片足だけのサンダルや何かの部品のようなものとか。それにしてもこれは異質だろう。
 おしゃれな公園内の道を示す飾りとしていくつも並べて置いてあるならまだわかる。それっぽいし。でもここは普通の市街地の道路で、その上これは一個しか置かれてない。
 運搬中の落とし物かなぁなんて考えていたら隣の友人が話しかけてきた。
「それ『■■■■■■■』だよ。覚えてないの?」
「え?」
「■■■■■■■。触っちゃだめってよく言われてたじゃん。」
二回聞いても友人がこれを何と呼んだかはっきりと聞き取れない。
前から私も知っているもの?
そもそもこの道をよく使っていた頃にこんなものあったか?
疑問は尽きなかったが友人がさも当たり前のような顔をしているので、質問もしづらくそのまま話は流れてしまった。

 帰宅後聞こえたままのワードを検索してみたがやっぱり見つからない。少し安心した。私がおかしい訳ではないらしい。また今度あの道を通ることがあればじっくり見てみよう。何か思い出せるかもしれない。

 数日後、出かけたついでにまたあの道を通ってみる。変わらないお店、建物、そして球体。当たり前のようにそれはそこにあった。
 まじまじと見てみるが、ただの石の球体にしか見えない。何度思い出そうとしても過去にここを通っていた頃にこの球体はなかった。その上、友人は触ってはいけないという話をしていたが、こんなただの石に触ってはいけない理由とは何だろう。
 考えれば考えるほどわからなくなる。仕方なくこれを知っていた友人に連絡して教えてもらおうとスマホを取り出す。
「あいつの連絡先は……名前は……」
 あいつは誰だ?そもそもあの日は一人での帰り道だったはずだ。なんであの人物を友人だと思い込んでいたんだ?
 困惑で頭が痛くなり始めたその時、後ろを通った人が私にぶつかった。よろけて手をついた先はあの球体だった。耳元で彼の声が聞こえる。
「それ『リセットボタン』だよ。覚えてないの?」
「触っちゃダメって言ったのに」
聞こえた彼の声は心なしか笑っているように聞こえた。

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